「職場のハラスメント被害性差を取り巻く偏見「セカンドレイプ」と性犯罪から子どもを守れ!」

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[出典:筆者スクリーンショット「日本記者クラブ『国連人権とビジネス』作業部会」記者会見(2023年8月4日)]

 2023年8月4日、日本記者クラブで国連「人権とビジネス」作業部会訪日メンバーによる記者会見が開かれた。
 ダミロラ・オラウーイ(Damilola Olawuyi)議長(画像右)とピチャモン・イエプァントン(Pichamon Yeophantong)アジア太平洋地域メンバー(画像左)の両名は「TITP制度」のもとで働く外国人労働者とその雇用主、さらにバリューチェーンで技能実習生が使われている大企業と面会。そのほとんどの出身国がベトナム、中国、フィリピン、ミャンマーというアジア諸国籍で2022年の技能実習生は2番目に大きい範疇に分類される。「TITP制度」とは発展途上国の外国人が日本の企業で働き、技能、技術、知識を実体験として習得できる「技能実習制度」のことを指す。
 一方、職場で事故に遭った外国人労働者が解雇された事例もあり、十分な治療も受けさせてもらえず劣悪な生活状況に置かれていたり、出身国の仲介業者への法外な手数料の支払いを負わされている課題も浮かんだ。従業員に返還するよう求めている事例についても把握した。中小企業が責任ある採用慣行と経営を奨励するための活動や数社の大企業がサプライヤー行動規範を遵守した際には「苦情処理メカニズム」として機能しているという好例もあった。「TITP制度」の目的は、本来「人材育成」にある。外国人労働者は日本の人手不足を補う上で重要な役割を果たしている。にも拘わらず、日本の外国人労働者はリスクの高い状況に置かれ、情報アクセス権が困難なだけでなく煩雑なプロセスにも苦労しているという本音が聞かれた。同じ仕事をしていても外国人労働者の方が賃金が低いケースも見られた。故に出身国政府との連携で仲介手数料を廃止し、申請制度を簡素化したり技能実習生の定職に柔軟性を認めることなどを提言したい。作業部会は「TITP制度」にまつわる人権問題を数多く把握しており、現在は専門家パネルがこれについて検討を加えている。日本の法が要求する「同一労働同一賃金」の執行を確保したり明示的な人権保護規定を盛り込むことを期待する。
 他方、日本で働く多くの韓国人、中国人労働者の差別の事例について聞き取り調査をした結果、雇用主がヘイトスピーチを繰り返すなど一部の被害者が行なっている訴訟について。日本の司法制度下の裁判では何年も時を要するだけではなく、得られた証言によると原告が勝訴した場合でも金銭的補償は無きに等しく救済への道は閉ざされている。
 
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<リード>
【1】元ジャニーズJr.などの「子どもタレント」の人権は保護できるか?
【2】裁く側でなく「性被害者原告」の法廷闘争にこそ プロの「心理的寄り添いケア」を
【3】精神科医による「治療」を要する性加害者
【4】米国式「GPS付きマイクロチップ」埋め込みで再性犯罪防止策
<結び>
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【1】元ジャニーズJr.などの「子どもタレント」の人権は保護できるか?

 国連「人権とビジネス」作業部会はジャニーズ事務所の故ジャニー喜田川氏から「性的被害」を受けたという青少年タレントが数百人に及ぶ性的搾取と性被害や虐待に巻き込まれる深く憂慮すべき事態の揉み消しを阻止すべく聞き取りを行った。国連としては20年にわたり「子どもの権利条約」と「性的虐待防止」につき、いくつかの措置を講じてきた点に留意する。ジャニーズ事務所の代表者と共に児童「性的加害者・被害者」双方の当事者に面会した。聞き取り調査段階でも日本政府やこの件で出会ってきた被害者らと関係した企業が一切の対策を講じる気配がなかったことは、政府が主な義務を担う主体として実行犯に対する透明な調査の履行を確保し、謝罪や金銭的補償、被害者の実行的救済を同時に確保する必要性を物語っている。証言によればジャニーズ事務所特別チームまたは独立チームによる調査の透明性と正当性について疑念が残る。
 ジャニーズ事務所自体の「メンタルケア相談室」と精神衛生相談を希望する被害者への対応は不十分だとする報告もある。ビジネスと人権に関する「UNGP指導原則(UN Guiding Principles on Business and Human Rights)」のコンプライアンスを図るためにはあらゆるメディア、エンターテインメント企業が救済へのアクセスに便利な便宜を図り、正当で透明なメカニズムを確保すると共に調査について明快かつ予測可能な時間軸を設けなければならない。この業界の企業を始めとして、日本の全企業に対し、積極的に人権デュー・ディリジェンスを実施し、虐待に対処するよう強く求める。
 企業が法令を遵守し「人権デュー・ディリジェンス」を行うことで自らの企業からどのようなリスクがあるのか理解し「子どもの権利」を守ることが重要だ。「救済メカニズム」を創ることが非常に肝要で、過去の苦情や将来発生し得る苦情を処理できる「苦情処理メカニズム」も整備すべきで、その設計には全ステイクホルダーが関与して「子どもの権利」を遵守することだとした。「人権デュー・ディリジェンス」とは企業がサプライチェーン上を含めた事業における人権リスク(例えば…強制労働など)を突き止めその防止や軽減策を図り、取組みの実効性や対処方法についても説明や情報開示する一連の流れを指す。

[出典:法務省調査性犯罪前科の推移「小児わいせつ」] 

 法務省の調査によれば「小児わいせつ」の再犯率は84.6%にも上る。国連「人権とビジネス」作業部会は「子どもの権利条約」に言及したが、日本政府は「こども家庭庁」と「こども基本法」を2023年4月に入ってから新たに設置し整備した。
 
 保育事業者のNPO法人「フローレンス」前田晃平代表は、英国内務省が管轄する「Disclosure and Barring Service(ディスクロージャー・アンド・バーリング・サービス)」(前歴開示および前歴者就業制限機構)すなわち「無犯罪証明書制度(DBS)」の日本版導入を政策提言してきた。仕組みとしては、個人の犯罪履歴などのデータベースを管理、さまざまな職業に就く際に必要な証明書を発行する、ものだという。前田氏は「日本版DBS」導入に向けた特に重要視すべき5項目をロビイング活動の中で訴えてきた。

1:守るべきは、「すべての」子どもたち
2:行政の縦割りを打破し、横串を刺す
3:性犯罪者の情報は、最低でも40年データベースに残す
4:安定した制度運営のための「無犯罪証明書」
5:行政が責任を持って運営する

 第204回国会議員立法として「教育職員等による児童生徒性暴力等の防止等に関する法律」が衆参両院の全会一致により成立し、令和3年6月4日に公布された。所謂「わいせつ教員対策新法」だ。令和4年4月1日から施行された(令和5年7月13日一部改正)。日本版DBS導入に先立ち、現行制度も厳格化されたのだ。具体的には、わいせつ行為で懲戒処分となった教員が免許を失効した場合、3年たてば再取得できた仕組みを改める。審査制を導入し再取得を認めないことも可能になる。また第208回の通常国会で児童福祉法が改正された。子どもにわいせつ行為をした保育士は刑事罰の有無にかかわらず保育士登録を取り消され、禁錮刑以上の場合は登録禁止が無期限となった。 
 2022年6月に岸田政権が閣議決定した「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)2022」に、「教育・保育施設等において働く際に性犯罪歴等についての証明を求める仕組み(日本版DBS)の導入」(骨太p. 13)が明記される。さらに2022年8月には令和5年度(2023年度)こども家庭庁の予算概算要求に「こども関連業務従事者の性犯罪歴等確認の仕組み(日本版DBS)の導入に向けた検討【新規】」が加わるに至り、同年4月に新設された「こども家庭庁」が導入したことによって「日本版DBS」は「小児性被害」などの「性犯罪」から子どもたちを保護する意義も含めた重要な施策であることが位置づけられたのである。
[出典:NPO法人Florence「2023年4月こども家庭庁発足! 子どもたちを性犯罪にあわせない社会を「制度」でつくる! 「日本版DBS」制度化を進めるための5つのポイントとは?」]

 ご承知の方もおられるだろうが、海外でも品格ある神の使いともいうべき聖職者が「幼児性的虐待」を行った事例は決して少なくない。
 
 2021年10月、フランスで発表された報告書。フランスの司教団体などが立ち上げた独立委員会が取りまとめたものだった世界各地でカトリック教会の聖職者による未成年者への性的虐待が明らかになっていたことを受けてのことだったという。それはフランスのカトリック教会で、1950年から2020年にかけて、少なくとも2900人から3200人の聖職者が、未成年者に対して性的虐待を行ったと推計していた。被害者の数は21万6000人に上り、その8割近くが男子で、被害を受けた当時の年齢は、10歳から13歳に集中していた。現在18歳以上のフランスの男性、約100人に1人(1.3%)が、未成年のころ、なんらかの性被害を受けたという推計になる。
[出典:NHK国際ニュースナビ特集「地獄に行くのが怖いから…男の子たちが受けた性的虐待」(2022年8月30日)]
 
 筆者が中高生時代に愛読していた吉田秋生著の「BANANA FISH」でも、主人公のストリートギャング(キッズ)のボス、アッシュがIQ200で端正な顔立ちと麗しい容姿が狙われてコルシカ・マフィアのディノ・ゴルツィネに男娼とされ、高等な教育を受けさせて学問だけでなくあらゆる殺し屋の技術や軍事的戦術、格闘技、参謀に必要な戦術を叩き込まれてエリートに育てられた。だがその反面、ゴルツィネがアッシュを「性的愛玩具」として「所有」し、ベッドに括られたり、プライベートゾーンに触れられるだけで「心理的外傷後ストレス(PTSD)」と性被害のフラッシュバックに苦しみ続けたアッシュは体の震えが止まらなかった。つい近年になって本作はアニメ化にリメイクしているようだ。本作は単に性被害だけを主体とした物語ではなく、IQ200のアッシュがエリート教育を受けさせられた経緯からそれぞれのストリートギャングのボスを取りまとめてコルシカ・マフィアやチャイニーズ・マフィアとの抗争を互角にやり合い日本人のカメラマンアシスタント「奥村英二」と友情を育んでいく。戦闘力は心細いが、トラウマに苦しむアッシュの精神的な支えとなる。現代でいう「LGBTQI+」などとは全く無縁の男同士の親友が本流に温かみを加えている。
[出典:吉田秋生著「BANANA FISH」より筆者まとめ]

【2】裁く側でなく「性被害者原告」の法廷闘争にこそ プロの「心理的寄り添いケア」を

[出典:【聞きたい】”とにかく同意が必要“ イエス以外はすべてNO! 性犯罪をめぐる法律が改正「不同意性交罪」が施行【関西テレビ・newsランナー】]

[出典:北國新聞「元自衛官五ノ井さん柔道指導者に『自分が生きる姿、誰かに勇気』(2023年1月13日)]
 元女性自衛官の五ノ井里奈さんが訓練中に男性隊員から集団で性暴力を受けた問題で2022年6月にSNS上で実名を明かして被害を告発。同年8月末に10万人を超過した署名が集まり、防衛相の浜田靖一氏に第三者機関の設置と公平な調査を要求した。9月、浜田氏は特別防衛観察を行いセクハラやパワハラの実態を調べると発表。同月29日、防衛省は訴えを認め、五ノ井さんに対し直接的な謝罪会見を行った。

 これを機に刑法及び刑事訴訟法の一部を改正する法律案「不同意性交罪」が可決された。従前には「強制性交罪」(暴行・脅迫を伴う)と「準強制性交罪」(心神喪失・抵抗不能状態)など、アルコールや薬物使用などの証拠の明示が不可欠だった。
 しかし、可決後からは「不同意性交罪」規定には「同意しない意思の形成や表明の全うが困難な状態」と定義された。
 中でも「経済的・社会的地位の利用が明文化された点が大きい」と心理カウンセラーの柳谷和美氏は指摘する。「『家族や夫婦』または『会社・学校』など関係性が深いほど声を上げにくいという実態。または学校の部活などで担当する教員が『レギュラーに指名してあげるから』などと生徒に話を持ちかけて二人きりになった時に猥褻な被害に遭わされたなどのケースも散見される」と自身も幼少期に性被害に遭った経験を踏まえて解説する。またもう一つ挙げられたのは「時効の見直し」だ。「『不同意性交罪』では10年から15年に効力期間が延長される。被害者が18歳になるまで事実上、時効は適用されない。このことから子どもの性被害は認識しているが言い出せないという事案が少なくない」。
 そして柳谷氏は「性犯罪は100%加害者が悪い」とキッパリ断言する。「セカンドレイプ」などで被害者を責めたて、何年経っても傷口をほじくり返されることで、せっかくできたばかりの心の傷口の瘡蓋が剥がれ再び血が流れるような思いをしている性被害者のトラウマを集団で攻撃して騒ぎ立てるなど、例え煽動者が社会的地位が高かろうがなんだろうが、「人」として最低である。

 また2023年7月31日には「元自衛官・五ノ井さんが“性被害”事件の裁判中に倒れ、救急搬送された」という報道があった。
 陸上自衛隊郡山駐屯地に所属していた元自衛官3人が五ノ井さんへの強制わいせつの罪で起訴されているもので、31日の裁判で2回目。
 裁判は午後1時半から始まり1時間ほど経ったころ、五ノ井さんは呼吸が荒くなり座っていた椅子から転げ落ちるように倒れて救急搬送された。
裁判では、五ノ井さんや被告らと事件当時同じ部屋にいた2等陸曹に弁護側からの証人尋問中だったという。
[出典:ANN News「元自衛官・五ノ井さんが“性被害”事件の裁判中に倒れ、救急搬送された」(2023年7月31日)]
 
 実名を明かして法廷闘争に挑んだ五ノ井さんの強い覚悟と共に、それと同じくらい「心理的フラッシュバックのリスク」を伴う「セカンドレイプ」に近似した法廷という場で具体的な被害について話さなければならなかった痛みが切々と伝わってくる。被害経験を自ら話すことで何度も傷口をほじくり返されなければならない性被害当事者の法廷での心理カウンセラーや臨床心理士などによる心の寄り添いは現状で果たして充足していると言えるのだろうか?法廷における心理カウンセラーや臨床心理士の果たす役割は主に原告ではなく「裁判官」や「裁判員」、「犯罪心理鑑定」など裁く側の資格として活用されているだけのようだ。心理的被害を話して傷つかなければならない原告の心のケアの急務こそが命題ではないだろうか。

 「TED×LONDON」に登壇した、犯罪心理学記憶科学者のジュリア・ショー氏は職場や社会で受けるモラハラやセクハラなどの経験から発症するトラウマに対し「認知行動インタビュー(a cognitive interview)」とブラウザのオンラインツール「TalkToSpot.com」を使った総論的なハラスメントに対する匿名でもできる告発ツールを推奨している。

1)何が起きたのか?2)誰がそこにいたのか?3)時間と日付は?4)場所は?5)誰に話したのか?6)あなたはどんな風に感じたのか?7)証拠はあるか?

 何か起きた時のために克明に記録しておくことを科学的に証拠収集ログとして残し、摘発することも可能にしたという。
[出典:TED TALK London: Julia Shaw “A memory scientist’s advice on reporting harassment and discrimination”]

【3】精神科医による「治療」を要する性加害者

 今、取り沙汰されているジャニーズ事務所の性被害問題で世間の注目がセクハラやレイプに集まっているが、2015年4月7日時点でもう既に「性障害専門医療センター(SOMEC)」福井裕輝医師をインタビューした「性犯罪者を刑務所に入れても解決しない 精神科医が語る、私たちが加害者の実態を知るべき理由」<wotopi(ウートピ)>記事が公開されていた。
 改めてインタビューを抜粋して見ていこう。

◆加害者治療を刑務所では行えない理由

――性犯罪加害者への誤解があるからこそ治療への理解が進まない、ということはありますか?

福井裕耀医師(以下、福井氏):加害者を刑務所に入れて罰すればそれでいいかというと、決してそういうことではないんです。強姦を1件やったとしても、数年で仮釈放で出てきてしまう。3年や5年刑務所で過ごすことは、彼らにとってはなんの抑止力にもなりません。
法務省が社会内で適切に治療を行えればいいのですが、高い壁があります。「なんで国民の税金を加害者の治療に使うんだ」と思う人もいるでしょう。私も講演で話したり、政治家の方と意見交換をしたりしていますが、なかなか実現には至りません。政治家が「加害者治療を」と言っても、選挙では恐らく通らないからでしょうね。だから日本では加害者が治療を受けないまま放置され続けています。また、被害者団体から「被害者感情を考えろ」「被害者ケアが十分でないのに加害者へのカウンセリングを行うなんて」という声もあります。

◆「隔離すればいい」では性犯罪はなくならない

――加害者治療の他に、子どもに対して性教育を行うことが性犯罪抑止につながらないでしょうか?

福井氏:どうでしょうね……。R指定のものを見せないというのは、まあそういうことですよね。ただ性教育というのは性を直接扱って、子どもに教えることですよね。これは単純な議論ではいかない。たとえば、ネットが普及したことで「覗き」という性犯罪は激減したと言われています。わざわざリスクを冒さなくてもネットで見られるので。ただ、一部にはネットでそういう映像を見たから「実際にやってみたい」と助長される人もいる。逆効果になる一群も必ず存在するのです。風俗も同じで、性犯罪抑止になっている一面もあるけれど、風俗で繰り返しているうちに性犯罪を犯したいという気持ちになる人もいる。これと同じで、子どもに性教育をしたら全員が真っ当に育つわけではなくて、一部には早期に教育することで逆効果となる人がいる、という可能性があります。

――ということは、防犯教育の方がやりやすいのでしょうか?

福井氏:私はそう思いますね。その意味でも加害者の実態を知ることは重要です。私はよく、「性犯罪者との共生」という言葉を使います。性犯罪者を許すわけではもちろんありません。ただ、性犯罪者を「普通ではない人だから隔離してしまえばいい」という考え方では性犯罪者はいなくならないし、性犯罪を防げない。「すれ違う人が性犯罪者だという可能性は毎日ある」「そうではない人と見分けがつかない姿かたちで隣に性犯罪者が住んでいる」、男性も女性もそういう意識でいた方がいいですし、その方が加害者治療への理解も広がるのではないかと思います。

――たとえば家族に性嗜好障害の傾向があると気付いたとき、福井さんの元に相談する人もいると思いますが、できない人もいると思います。でも「アルコール依存と同じで性的嗜好障害に陥る可能性は誰にでもあるもので、治すことができる」という知識があれば、相談する人も増えるかもしれませんね。

福井氏:そうですね。表に出てきていない家庭内の性的虐待は数えきれないほどあると思います。これも性犯罪ですが、家庭内で闇に葬られている。また、セクシャルマイノリティーの人たちの被害も現状では放置されているので、これからの課題ですね。

◆見過ごされがちな男性被害者と女性加害者

――女性の性犯罪加害者からの相談もあるのでしょうか?
福井氏:多くはないですがあります。女性の場合は事件化することがほとんどないので、本人が「治療しよう」という意識になりづらいのではないかと思います。たとえば性犯罪加害者の中には、幼児期に性的な行為を受けたことがトラウマとなっている人もいて、その性的な行為が女性から受けたものである、ということはありますね。女の子が性的被害にあうと大事ですが、男の子の場合は笑われたり、「そのぐらい何でもない」とすまされてしまうこともあるのが問題です。

――性犯罪の被害を語ろうとする被害者は増えてきたかもしれませんが、再発防止の観点から自ら語る加害者はほとんどいません。被害実態を知ることと同時に加害者の実態を知ることが、性犯罪をなくすことにつながるかもしれないと思いました。ありがとうございました。
[出典:「性犯罪者を刑務所に入れても解決しない 精神科医が語る、私たちが加害者の実態を知るべき理由」<wotopi(ウートピ)>(2014年7月4日)抜粋]

 ◆「ウートピ」編集部のインタビュアーは結語として「再発防止の観点」から自ら語る加害者はほとんどいないと問題提起している。
 だがその課題に対し、世界は先駆けて「性加害者の再発防止」に果敢に取り組んできた。米国に視座を移そう。

【4】米国式「GPS付きマイクロチップ」埋め込みで再性犯罪防止策

 米国カロライナ州の法令では性犯罪の前歴がある加害者の手首に「衛星に基づく監視(SBM:A Satellite Based Monitoring)」と称する「GPS付きマイクロチップ」を埋め込むという再犯防止や、無垢な子どもたちを守るための「法的監視措置」を取っている。
 この措置は合衆国憲法修正第4条に合憲となるか、違法性に抵触するかという法的な討論を生み物議を醸してきた。具体的には…
 「合衆国憲法」修正第4条「不合理な捜索及び逮捕押収に対し、身体、住居、書類及び所有物の安全を保障される人民の権利は、これを侵害してはならない。 令状はすべて、宣誓又は確約によって支持される相当な根拠に基づいていない限り、また捜索する場所及び逮捕押収する人又は物が明示されていない限り、これを発してはならない」という規定だ。
 性加害を犯した被告に再犯防止を義務付けた前述の「SBM」装置のマイクロチップの埋め込みがあった方が「不法侵入」などの「違法行為」を被告が思い立ったとしても行動に移しづらくなることが分かり、結果的に前歴者の再犯を防ぐことに繋がっていた。「修正第4条」の意味する中での調査継続はし続けることは困難な傾向にあり、プライバシーの侵害のレベルを十全に減らすことにも移植したGPSが示す前歴者の居場所を監視することが治安に影響を及ぼしていた。特に子どもに対しては性犯罪加害者に最高レベルの監視網を引いていた。
 ノースカロライナ州では性暴力加害者にマイクロチップを埋め込む「性的暴力加害者登録プログラム(Sexually Violent Predator Registration Program)」の下に置き、彼らが寄り付くべきではない学校などの子どもの往来が見られる地区には不法侵入させないように特に強く見張ることは合憲性があるとされた。
同様に「無線周波数識別(RFID: Radio Frequently Identification)」チップにより、例え誰かが支払いをしないで出口で通行人とすれ違って歩き始めたら、警報を切ることで店から商品を持ち去ることを許可しないで盗難を防ぐという政策も取っている。

[出典:”Tracking Predators: Microchip Implants, a Constitutional Alternative to GPS Tracking for North Carolina?” Author: Alex Rutgers(December 1st 2018, ) ]

結び

 冒頭、多様な人権に関する事案の現地聞き取り調査を行なって記者会見した国連「人権とビジネス」作業部会メンバーの報告をお伝えした。両名は日本の人権分野で懸念するアジェンダが未だ網羅的にあると指摘。「女性」、「障害者」、「先住民族」、「部落」、「技能実習生」、「移民労働者」、「LGBTQI+」など「リスク」に晒された集団に対する不平等と差別の構造を完全に解体することが急務である。ハラスメントを永続化させている問題の多い社会規範とジェンダー差別には全面的に取り組むべきだ。政府はあらゆる業界で、ビジネス関連の人権侵害の被害者に透明な調査と実行的な救済とを確保するべきである。実行的な救済と企業のアカウンタビリティーへのアクセスをより良く促すべく日本独立の「国内人権機関(NHRIs:National Human Rights Institutions)」の設置を求めた。全政府的、企業、その他のステイクホルダーが人権の保護と尊重を強化するための取り組みを支援するための具体的な提言を最終報告書にまとめて2024年6月の人権理事会に提出するという。「人権後進国」日本が世界のリーダーシップを発揮できる国へと変貌できるか否か?次世代へのバトンが渡された。

tomokihidachi

2003年、日芸文芸学科卒業。マガジンハウス「ダ・カーポ」編集部フリー契約ライター。編プロで書籍の編集職にも関わり、Devex.Japan、「国際開発ジャーナル」で記事を発表。本に関するWEBニュースサイト「ビーカイブ」から本格的にジャーナリズムの実績を積む。この他、TBS報道局CGルーム提携企業や(株)共同テレビジョン映像取材部に勤務した。個人で新潟中越大震災取材や3.11の2週間後にボランティアとして福島に現地入り。現在は市民ライター(種々雑多な副業と兼業)として執筆しながら21年目の闘病中。(株)「ログミー」編集部やクラウドソーシング系のフリー単発案件、NPO地域精神保健機構COMHBOで「コンボライター」の実績もある。(財)日本国際問題研究所「軍縮・科学技術センター」令和元年「軍縮・不拡散」合宿講座認定証取得。目下プログラミングの研修を控え体調調整しながら多くの案件にアプライ中。時代を鋭く抉る社会派作家志望!無数の不採用通知に負けず職業を選ばず様々な仕事をこなしながら書き続け、35年かけプロの作家になったノリーンエアズを敬愛。

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