[筆者コラージュ作成]
2023年5月3日、アフリカ北東部スーダンで起きている武力衝突の停戦合意に向けたデッドラインを迎える。日本は自衛隊機をジブチに派遣して邦人の救出に当たり、退避した約50人が無事帰国した。
事実上のスーダン大統領であるスーダン国軍最高司令官のアブドゥル・ファッターハ・ブルハーン(Abdel Fattah al-Burhan)氏。「スーダン共和国統治評議会」議長も兼ねるブルハーン氏と好敵手関係にある「即応支援部隊(RSF: Rapid Support Forces)」指導者のモハメド・ハムダン・ダガロ・へメッティ(Mohamed Hamdan Dagalo Hemetti)氏は内戦状態にある。
南スーダンのサルバ・キール(Salva Kiir)大統領は2人のスーダン指導者に「国際的な原油市場を輸送する石油パイプラインを保護するよう」急がせた。南スーダンは石油輸入をスーダンに依存しておりスーダンの首都ハルツームから紅海に抜けるパイプラインは同国の生命線になっている。石油相のプオト・カング・チョル(Puot Kang Chol)氏は「スーダンの両翼は道徳的責任と重要なインフラの提供の保護という国際法に基づく義務を守るべきだ」とし、南スーダンのキール大統領は内戦を争うスーダンの2人の指導者、ブルハーン氏とへメッティ氏に「停戦合意の延期とジュバでの対話を受け入れるように」呼びかけ、「南スーダンは和平のために動く準備がある」ことを示したと「Sudan Tribune」紙(2023年4月20日/2023年4月27日)が報じた。
4月29日のスーダン保健省が公表した統計によると、この軍事衝突で既に528人が死亡、4599人が負傷していることが明らかになった。
翌30日には「スーダン国軍(SAF: Sudan Armed Forces)」と準軍事組織の「即応支援部隊(RSF: Rapid Support Forces)」が停戦を再び72時間延長することに合意したと表明。これにより停戦は5月3日まで延長されることになったが、同紙など地元メディアによれば、停戦中もスーダン首都ハルツームなどで戦闘状態が散発していると伝えている。
軍事衝突に至る直接的なきっかけとは、正規軍とRSFを統合する示談に対して両者が「最終的な合意」を結べなかったことにある。
双方が民主化に向けた移管の譲歩に値する条件を各自、RSFが正規軍に統合されるまでの期間と、軍が正式に文民統治下に置かれる時期の2点とした対話の中で、国軍から2年、RSFからは10年という期間が提示された溝を埋めることができなかったことが、4月13日にスーダン北部のメロウェ空軍基地で両者が急速に緊迫した結果、15日に首都ハルツームでの銃撃戦に発展した。
1989年にはスーダン共和国のオマル・アル=バシール大統領が軍事クーデター(救国革命)を起こし、イスラーム主義者とスーダン国軍に特権を与えた。国を上げて立ち上がった市民社会の「民衆の蜂起(インティファーダ)」に対し、「石油」利権でパンやガス、電気などの料金補助金などで民衆の懐柔を図り、弱体化させた。
他方、バシール氏は軍の危険性も熟知していた。スーダン政府が「ダルフール紛争」において反政府勢力との戦闘のために用いた「ジャンジャウィード民兵」をルーツに持つRSF。2013年4月に起きた南北コルドファンにおける前身の「スーダン革命戦線(SRF: Sudan Revolution Front)」との共同攻撃を受け、ダルフール地方と南コルドファン州、青ナイル州の反政府勢力と戦うために、「ジャンジャウィード民兵組織」を再編して2013年に結成された。国軍と準軍事組織、秘密警察として暗躍していた「国家情報治安局(National Intelligence and Security Service)」を戦闘部隊として正規化し、軍の力の分散を図って政権延命を工作した。
2019年に倒れたバシール政権以降、「スーダン専門職協会(SPA: Sudan Professionals Association)」や「自由と変革勢力(FFC: Forces of Freedom Change)」、「抵抗委員会」などの要請を受けたアッブドゥラ・ハムドゥーク氏がスーダン首相となり政権を握った。だが、2021年10月25日未明、ハムドゥーク氏は軍の襲撃を受け、自宅軟禁に置かれたことをスーダン情報省のFacebookが報じる。軍事クーデターに対し、国際社会は一斉に非難。「アフリカ統一機構(AU:African Union)」は文民政権回復までスーダンのAU参加を拒否。「欧州連合(EU: European Union)」、トロイカ、スイスはハムドゥーク氏を支援した。国連安保理は文民主導政府を取り戻すことと、拘束された人々の解放、地域、国際社会による軍事政権への圧力をかけた。英国、米国、UAE、サウジアラビアは共同声明を出した。クーデターは軍が主導し、サウジ、UAE、エジプト、南スーダン、ロシアなどと協議の場を積極的に設けた。だが、UAEとサウジは軍事クーデターを非難したものの「スーダン国軍(SAF)」や準軍事組織の「即応支援部隊(RSF)」と特に資金面での強いつながりを持つ。
長年スーダン共和国の医療支援に従事してきた国際NGO法人「ロシナンテス」川原尚行 理事長は2023年4月29日に日本政府チャーター機で帰国し、5月2日に記者会見した。
「かつてイエメン内戦においてもシーア派とスンニ派による長期的な戦いに、サウジとUAEがイランと共に裏金を渡してスーダン軍の兵隊を使っていた。また中国でも介在して和平を結ぶ方向に事態を持っていこうとした。昨今のロシアのウクライナ侵攻時にもスーダンの準軍事組織であるRSFの民兵が金採掘権の裏取引などの使いでモスクワに派遣されている。様々な他国が自分たちの思惑のために、代理戦争でスーダンを利用してきた史実があるので、スーダンとしても民主化されると困ると思っている複雑な国内事情の節があるのではないか。」とした上で、「今の膠着した内戦状態が治ったとしたら、何が必要か?スーダンは脆弱な国であり、爆撃を受けた病院などの医療支援や水の供給などが疲弊している。教育支援も含めて首都ハルツームでもできることはないか?日本人が無事帰還できたというだけで終わりではない。一人一人に声を上げてほしい。『広島G7サミット』を控え議長国である日本政府にも国際協調を持ってスーダンの停戦合意に向けた働きかけをやっていただきたい」と日本と国際社会に向けて更なる支援を呼びかけた。