日本酒発祥の地 奈良でつくる日本一新鮮なお酒(1) 蔵元インタビュー

  by 中将タカノリ  Tags :  

「日本酒発祥の地はどこ?」と聞かれてすぐに答えられる人がどれだけいるだろうか? 新潟? 灘? 伏見? いろんな酒どころの名前が浮かぶだろうが、すべて否。答えは奈良である。15世紀、室町時代なかばに正暦寺で開発された、全量に白米を使う“諸白(もろはく)”、酒母に蒸し米などを3回に分け加える“三段仕込み”、酒質を安定させ腐敗を防ぐための“火入れ”などの技術革新は、それ以前のどぶろくとなどとは異なる高品質な“清酒”を生み出した。

現在の奈良県は生産量こそ多くないが、酒造技術や酒どころとしての風土が綿々と受け継がれており、一口では言いあらわせないほど個性的なお酒が多数そろっている。その中でも全国的に有名なのは『春鹿』だろうか。その『春鹿』が2月4日の立春にあわせ、『立春朝搾り』と銘打ったお酒を発売する。日も昇っていないような早朝に搾り、瓶詰、さらには祈祷の工程を全て終え、その日のうちに飲み手のもとに届くよう出荷するという、ボジョレーヌーボー真っ青の新鮮企画だ。『春鹿』の運営元、今西清兵衛商店の今西敏郎さんにインタビューした。

筆者:今回はありがとうございます。奈良出身者として『春鹿』さんにインタビューさせていただけて嬉しいです。非常に人気のある『立春朝搾り』ですが、いつから始まった企画なんでしょうか?

今西:2002年からになりますね。これはもともと日本酒名門会という組織が始めた企画なんですが、それに参加させていただいております。奈良では『春鹿』だけですが、全国で39の蔵元が参加しています。

筆者:朝のうちに搾ったお酒を出荷するとなると大変なご苦労だと思いますが、蔵の皆さんの反応はいかがでしたか?

今西:はじめは経験がないので段取りに苦労しましたが、みんなよく主旨を理解してとりくんでくれているので、少しずつ結果にあらわれてきているかなと思います。

筆者:『春鹿』は関東などでも人気があるとうかがっていますが、立春朝搾りに関しては主にどんなエリアに出荷されているのでしょうか?

今西:企画の趣旨として「地元のお酒をいち早く地元で飲む」というものがありますので、奈良、大阪、和歌山の3府県にしか出荷しておりません。数量も限定されてますし、販売業者も日本酒名門会に属する約50店舗に限られております。

筆者:別の地域の方が飲みたい場合はどうのような手段があるのでしょうか?

今西:あらかじめ早急な郵送の段取りも込みで販売店に予約される方も多いと聞いています。実際に聞いた話ですと、東京の『澤乃井』(小澤酒造)さんの『立春朝搾り』と『春鹿』の『立春朝搾り』を両方取り寄せて飲みくらべされる方がいたり、みなさんそれぞれに楽しんでいただいているようです。

筆者:この時期だからこそできる贅沢な楽しみ方ですね。同じ朝搾りでも蔵ごとの味はかなり異なりそうです。『春鹿』さんの立春朝搾りはどのようなスペックになっているのでしょうか?

今西:山田錦を使用し、精米歩合は55%、火入れや加水をしない純米吟醸生原酒となっております。原酒ではありますが純米吟醸として作ればアルコール度数は17度に落ち着きますので、飲みやすいと思います(※市販の加水された日本酒は約15度、原酒は18度~20度くらいのものが多い)。

筆者:『春鹿』さんのお酒で読者の方がもっとも目にする機会が多いのは『春鹿 超辛口』だと思いますが、味わいを比較するとどのような違いがあるでしょうか?

今西:『春鹿超辛口』は飲み口が軽くふくらみもありますが、非常にドライで余韻の短いお酒ですね。それに比べると『立春朝搾り』は香りが華やかでお米の甘み、うまみもしっかり出した濃厚でフルーティーなお酒だと思っております。なにより搾りたてですのでフレッシュな味わいですね。

筆者:日本一の歴史をもつ奈良から日本一新鮮な日本酒が生まれているわけですね。近年、奈良県内で“日本酒発祥の地”としての奈良をアピールしていこうという動きがありますが、春鹿さんとしては反響は感じられていますでしょうか?

今西:はい。『春鹿』も、また県内の蔵元さんも一致団結して取り組んでおります。どうしても他の酒どころに較べると奈良は地味な印象がありますので……。まず地元からとりくんで、全国の酒飲みの方にじわじわと奈良のお酒の伝統を知っていただけたらと思っています。じわじわとですが、国内、国外ともに反響は確実にありますね。この『立春朝搾り』も、より多くの方に興味をもっていただく機会になればと思っております。

筆者:ありがとうございます。あと、春鹿の『立春朝搾り』は今宮戎(えべっさんで有名)の宮司さんをお招きして祈祷してから出荷すると聞いております。『春鹿』さんと今宮戎さんのご縁はどういうものだったのでしょうか?

今西:親戚なんです(笑)。それで、いつも出張してきて祭壇で祈祷していただいております。

酒造家として長い伝統を持つ今西家ならではの意気込みやエピソードを数々聞かせていただくことができた。また今西さんのご厚意で、2月4日早朝に『春鹿』で『立春朝搾り』を製造・出荷する模様を取材させていただけることになった。第2弾の記事を楽しみにしていただきたい。

ちなみに奈良県内で『春鹿』の『立春朝搾り』を購入できる店舗は桶谷 奈良本店、近鉄百貨店 奈良店(奈良市)、八尾源 ドラゴン郡山店(大和郡山市)、登酒店(天理市)、近鉄百貨店 橿原店(橿原市)の計5店舗。残念ながら今年分の予約はもう締め切ってしまったとのことだが、今からでも来年分の予約をしてみてはいかがだろうか。

『春鹿』ホームページ
http://www.harushika.com/

※画像は日本酒名門会ホームページ、春鹿ホームページから引用しました

中将タカノリ

■シンガーソングライター、音楽・芸能評論家 ■奈良県奈良市出身 ■1984年3月8日生まれ ■関西学院大学文学部日本文学科中退 2005年、加賀テツヤ(ザ・リンド&リンダース)の薦めで芸能活動をスタート。 歌謡曲をフィーチャーした音楽性が注目され数々の楽曲提供、音楽プロデュースを手がける。代表曲に「雨にうたれて」、「女ごころ」(小林真に提供)など。 2012年からは音楽評論家としても活動。さまざまなメディアを通じて音楽、芸能について紹介、解説している。

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