どうも、特殊犯罪アナリストの丸野裕行です。
刑法246条には詐欺罪の条文があります。【人を欺き財物を交付させた者、10年以下の懲役に処す】。この方法によって、財産上不法利益を得て、又、他人に得させた者に関しても同罪とする。
第1項に関しては物品を交付させた詐欺行為、第2項目は代金の支払いを逃れる他者の財産上の利益を奪い取る詐欺に当たる行為です。この刑罰には罰金ではなく懲役刑だけ。詐欺罪の罪状には罰金刑はないのです。
ですから、詐欺というのは犯罪の中でもかなり重い犯罪になるということがわかっていただけると思います。しかしその反面、詐欺で立件することは非常に難しいといいます。
そこで今回は、元検事のWさん(仮名/69歳)に「詐欺を立件する難しさ」をお聞きしに行ってみました。
詐欺行為の定義ってなに?
丸野(以下、丸)「詐欺行為の定義って何なんですか?」
Wさん「詐欺というのは、虚偽を語って人を欺いて金品を奪うことです。しかし、これは被害者から財産を奪えるような嘘でないといけない。たとえば窃盗罪ですが、ロレックスの時計店に行って《あそこのお客さん買う気みたいですよ。呼んでたから……》と虚偽のことを言って、店員が向こうに気を取られているうちに価値のあるロレックスを持って帰った……。これは詐欺ではなく、窃盗です」
丸「なるほど」
Wさん「さらに、《人にケガをさせてしまったから50万円貸してほしい。すぐに返すから》という事案。相手は50万円をしっかり返してくれるのかが大切なので、こんな事案では本当にすぐに返す意思があったのかについてが、捜査のキモになります。さらに、本当に人にケガをさせたのかというポイントも重要です。要するに裏付け捜査ですね。しかし、立証というのは難しいわけですね」
詐欺の故意を立証することが難しい
丸「ではどのように立証するんですか?」
Wさん「詐欺事件の故意を立証するのには、被疑者を取り調べすることです。犯行後の供述で、詐欺罪の故意があったと被疑者がて自白をしなければ故意の立証は困難です。知人から金を騙し取ると考えていても、被疑者が金はちゃんと返すつもりだ、と言ってしまえば、故意がなかったとなる可能性が高いわけです。ですから、捜査の段階で被疑者の弁解があるときは、警察は被害者の言葉や証拠などを並べて、被疑者の自白を取ろうとします」
丸「ははぁ~」
Wさん「詐欺罪を認めていたとしても《騙したことがバレたらどうやり過ごすつもりだったんだ》と質問をし、《金は返せないから、逃げるつもりだった》などという供述を調書に起こして犯意を徹底的に固めます」
詐欺事案に問える要件は4つ
丸「では詐欺事件に当たるのはどんな要件が」
Wさん「詐欺罪が成立する要件は、騙すために嘘をつく《欺罔》、完全に相手の心を掴んでしまう《錯誤》、さらに上は相手を支配して自ら金品を差し出させる《交付行為》、被害者からの金品を別の相手に引き渡すのが《財産移転》、この4つの要件が、全部そろった状態で詐欺罪になります」
丸「そんなにあるんですか?」
Wさん「この4つの要件が詐欺罪は立件できません、はたまた未遂になってしまいます。オレオレ詐欺が成立するのはすべてが揃っているからですね」
詐欺事件の罰則とは?
丸「詐欺事件の刑罰というのは?」
Wさん「《懲役10年以下》になります。最長10年間、刑務所で過ごすことになります。もちろん詐欺事件は罰金では済まされません。さらに詐欺未遂でも刑罰の対象になります。刑法第250条第37章で決まっている《詐欺及び恐喝の罪》に当たります。詐欺罪以外にも《背任》《電子計算機使用詐欺》《恐喝》《準詐欺》未遂でも処罰対象になります」
丸「未遂でも?」
Wさん「ただ詐欺未遂は、刑法第43条で自分の意志で途中でやめた場合は《処罰を軽くできる》という規定があって、ひょっとすると軽減されるかもしれません」
Wさんの話では、被害者が重い罪を与えてくれと願い出た場合は、罪の減軽が叶わない恐れがあるそうです。さらに詐欺で騙し取った金品はすべて没収。その金品は被害者の元へと戻ってくるのかと思いきや、《国庫》に入るようです。
Wさんは最後にこう締めくくりました。
「詐欺を犯す連中なんてロクなもんじゃない。全員ぶち込んでやりたいけど、それはなかなか叶わなかった。結婚詐欺や寸借詐欺、オレオレ詐欺、振り込め詐欺……。被害者は泣き寝入りするしかないし、とんでもない犯罪行為。こんな事件が報道されるたびに、現役時代を思い出して、胸が痛くなる」
Wさんはその正義感で検事になることを選び、血のにじむような努力をしてきたことは、その顔に刻まれた深い皴が語っていました。
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