[筆者作成コラージュ]
2022年6月早々、東京都は入梅した。昨5月末には沖縄県でも集中豪雨が観測され、土砂崩れや風水害が頻発している。
2015年9月は「関東・東北豪雨」で知られる台風17・18号が。また2018年7月には「平成30年7月豪雨」。そして2020年「令和2年7月豪雨」が、それぞれ線状降水帯からくる水災害に見舞われた。
「線状降水帯」とは、連続して発達する積乱雲が長さ50〜300km程度、幅20〜50km程度の規模で線状に組織化された降水帯をいう。梅雨期などの暖候期に、温かい黒潮や対馬海流上から温暖な下層の気流が流れ込む状況下で、その気候の上流側で積乱雲が次々に発生する「バックビルディング型」がその典型とされる。
この豪雨災害は「地球温暖化」による気候変動の影響を受けたものであり、日本各地でも水害被害が多発している。
水害被害は、海では津波、高潮により河川では外水や内水氾濫によって被災者は辛酸を舐めてきた。高潮被害は沿岸部で多発し外水や内水氾濫は低地部で多発。河川沿いの低地部では地震洪水や津波洪水などが突発的に発生する傾向にあり、喫緊の課題となってきた。
【©️「JNN系列:TBS NEWS DIG」「氾濫危険情報」の発表基準の今(2022年6月13日)】
中国、近畿、東海、北陸地方は平年より遅く、6月14日に一斉に梅雨入りした。日本では1時間に50mm以上の降雨が見込まれる2020年度までの10年間では年平均(約334回)を記録しているのに比較し、1985年までの10年間では年平均約226回と約1.5倍にも値する。これまでの降水量に基づき、設計されたダムや堤防を柱とする治水策は通用しない。2021年(令和3年)2月2日に岸田政権は「特定都市河川浸水被害対策法等の一部を改正する法律案(流域治水関連法案)」を閣議決定し、成立させた。従来の気象庁による豪雨・津波・洪水など河川の水災害に対する「氾濫危険情報」の発表基準は「河川の水位が氾濫のおそれのある『氾濫危険水位』に達した場合」だった。だが、これからは「3時間以内に河川の氾濫の可能性のある水位に達する見通しとなった場合も前倒しで発表(国管理の河川対象)」するとしている。例年より遅く入梅入りした4県も洪水予報の種類は「氾濫危険情報(警戒レベル4相当)」に達する「危険な場所からの避難」指示が発令された。「流域治水関連法」に基づき新たに流域の市区町村・企業・市民ら全員一丸となって河川周辺の貯水機能を高めることを掲げる。
1)浸水の危険性が高い場所に住宅や高齢者施設を建設する場合は、予め都道府県知事の許可をとる。
2)民間ビルの地下に貯水施設を設ければ、固定資産税を減免する
などのメリットがある。ひいては耕作放棄地を遊水池に活用して水辺の生態系も守る「グリーンインフラ」につながる可能性も念頭においている。
また、「津波防災地域づくりに関する法律」も制定されている。
第204回国会衆議院「国土交通委員会」第6号(令和3年3月24日)、自由民主党の小里泰弘議員が「最新の科学的知見に基づく最大クラスの地震、津波を想定した防災対策がまとめられた。『日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震に係る地震防災対策』の強化に関する改正決議案を、先に進められてきた南海トラフ地震に係るものと同程度に強化するため、地震防災対策推進協議会の組織、津波避難対策特別強化地域の指定、津波避難対策緊急事業計画の作成及びこれに基づく事業に係る財政上の特別の措置等について定めようとするものだ」と改正案の趣旨を説明し、可決された。
同年「南海トラフ地震防災対策推進基本計画」も改正された。主に第1節「初動体制の確立」第2段で「特定災害対策本部会の設置」が新設されている。
そして令和3年12月には、日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震について科学的に想定し得る最大規模の地震を対象とした被害想定が公表された。その結果、日本海・千島海溝周辺海溝型地震について南海トラフ地震特措法と同程度に対策を強化する必要があると判明した。
国が先駆け、追従する東京都は「首都直下地震」最大の被害指針を「東京湾北部」から「都心南部直下地震」へと移行
2012年(平成24年)に「東京都防災会議地震部会」において「首都直下地震対策特別措置法」成立に向け、本部会における座長を勤めてきた東京大学の平田直名誉教授が東京都の被害想定を推測した結果を報告した。
平田氏によると、「想定対象には首都直下地震として東京湾北部地震と多摩直下地震を選定し、いずれもM7.3で検証した結果、これら2つの地震は2006年(平成18年)の被害想定でも対象としたが、今回は、国の首都直下地震防災・減災特別プロジェクトの研究結果を導入し、フィリピン海プレート上面の震度が従来の想定より10km程度浅いという最新の知見に基づきモデル設定の上、再検証を行った。」という。
また「首都圏直下地震に加え、相模トラフに震源を有する大規模海溝型地震である元禄型関東地震についても想定地震とした。東日本大震災の教訓を踏まえ、発生頻度が低い場合でも、過去に発生した地震で一度発生すると甚大な災害に発展する恐れがあるものを対象外にせず含めた。同地震はM8.2と算出した。さらに活断層で発生する地震として立川断層帯地震を想定地震とした。平均活動間隔が1万年から1万5000年程度で、30年以内に発生する確率が0.5〜2%であるため、2006年(平成18年)被害想定対象外としていた。しかし国が東日本大震災による地殻変動を見据え、地震発生確率が高くなった可能性を見直した」と述べた。
また、第204回国会衆議院「国土交通委員会」第6号(令和3年3月24日)で、立憲民主党の青山大人(あおやま・やまと)議員は、「令和元年12月に茨城県議会の産業の育成・振興に関する調査特別委員会でも霞ヶ浦二橋の必要性が強調されており、また同橋は首都圏直下地震などの災害発生時における首都圏からの避難経路を補完するルートになり得ることから国として茨城と連携しながら具体的にどう取り組むか」について質疑した。
政府参考人として、国土交通省道路局長の吉岡幹夫氏は答弁に立ち「霞ヶ浦二橋は、地域高規格道路の千葉茨城道路を北へ延伸し、霞ヶ浦の二つの入り江に橋を架け、東関東自動車道水戸線に接続しようとする道路構想である」旨を認識しており、「当該地域においては、茨城県が県道竜ヶ崎阿見線バイパスや茨城空港アクセス整備を重点的に進めている長期的な視点に立ったものだと茨城県から聞いている」とした上で、吉岡氏は「この道路構想は、茨城県の県南地域から県中地域に至る広域交通ネットワークの充実強化を図るものであり、茨城県の発展を支えることが期待される重要な基盤インフラの一つであると国土交通省としても具体化に向け対処したい」と「首都直下地震」の具体的なインフラ防災に踏み込んだ回答を示した。
2021年(令和3年)5月に「災害対策基本法」が改正された。主な改正のポイントは1)避難勧告が廃止され避難指示に一本化されたこと、2)避難行動要支援者に対する個別避難計画の策定が自治体の努力義務とされたことであり、「避難行政」が大きく変わったこと、だ。東京大学大学院の片田敏孝 特任教授(情報学環)は「災害犠牲者を減らすためには、自分の命は自らの主体的な避難行動で守ることを原則して、それが叶わない要支援配慮者に対する支援を曖昧にせず、支援の分担を明確化することが必須であり、それが今回の『改正・災害基本法』によって規定されたと理解することができる」と指摘した。
【©️内閣府(防災担当)令和4年3月 令和3年度個別避難計画作成モデル事業報告書「制度的変遷とこれまでの議論」】
首都直下地震をめぐる国の防災と東京都の防災政策には違いがある。内閣府(防災担当)中央防災会議は「首都直下地震全体を最大のものとして防災管理体制を設定するが、東京都は『東京都が最も甚大な被害を出す』ものとして、その被害想定を計測する政策をとっている」
2013年(平成25年)内閣府中央防災会議「首都直下地震対策検討ワーキング・グループ」は東京大学生産技術研究所・都市基盤安全工学国際研究センター加藤孝明教授が試算した「首都直下地震の被害想定」報告書を有識者による参考資料として公表した。国としては防災対策の対象地震を「都心南部直下地震」の被害想定のM7.3、東京湾の内の津波は1m以下とし、以下…
【©️内閣府中央防災会議ワーキンググループ「首都直下地震の被害想定」】
【©️内閣府中央防災会議ワーキンググループ「首都直下地震の被害想定」】
これまで東京都の防災会議では「都心北部直下地震(東京湾北部地震)」の発生を見越した被害想定のモデルが示され、部会の中で検証が進められていた。ところが、国の内閣府(防災担当)が主催する「中央防災会議」防災対策実行会議「首都直下地震対策検討ワーキンググループ」(主査・野村総合研究所の増田寛也 顧問)が東京都より先に2005年(平成17年)に行った被害想定で「東京湾北部地震」が甚大な災害とされた予想を科学的知見に基づき「都心南部直下地震」の方が遥かに激甚災害になると先に国が試算し覆した。この結論に基づき、2013年(平成25年)の内閣府検討委員会が議論を重ねた結果、「都心南部直下地震」を激甚災害と定め従来の検証を見直す流れを生んだ。
これに従い、2022年(令和4年)5月25日、東京都は防災会議(会長・小池百合子知事)を開き、首都直下地震などによる被害想定を「東京都が最大の被災地になる」との国とは異なる指針で10年ぶりに見直し、公表した。しかし、前回との違いとして「東京湾北部地震」の想定よりも「都心南部直下地震」の方が被害甚大になるとの被害想定を大きく打ち出し国に追従する形で大幅に検証を見直した。この取りまとめでM7.3が発生すると、
都内の死者は最大で約6100人、揺れや火災による建物被害は約19万4400棟に上ると推計。それでも住宅の耐震化対策や不燃化対策が好転し、2012年の取りまとめよりも被害を3〜4割減災できるという。
小池知事は「新たな被害想定の結果を踏まえ、東京の総力を上げて防災に取り組む」「大切なことは、リスクを直視し、正しく恐れ、対策を進めていく。そのためにはまず、私たち一人ひとりが高い防災意識を日頃から持つことが重要だ」と強調した。
【©️東京都「防災会議」(2022年5月25日)】
【©️東京都防災会議(令和4年5月25日)「東京都の新たな被害想定~首都直下地震等による東京の被害想定~」】
【©️東京都防災会議(令和4年5月25日)「東京都の新たな被害想定~首都直下地震等による東京の被害想定~」】
【©️東京都防災会議(令和4年5月25日)「東京都の新たな被害想定~首都直下地震等による東京の被害想定~」】
【©️東京都防災会議(令和4年5月25日)「東京都の新たな被害想定~首都直下地震等による東京の被害想定~」】
【©️東京都防災会議(令和4年5月25日)「東京都の新たな被害想定~首都直下地震等による東京の被害想定~」】
【©️東京都防災会議(令和4年5月25日)「東京都の新たな被害想定~首都直下地震等による東京の被害想定~」】
日本では「地震」「津波」「豪雨」「火山噴火」など「地質災害」が主要だ。日本ほど災害への備えが他国より進んでいる国家はない。
しかしながら「縦割り省庁」という難点がある。政策の統合性や予算の効率的使用などが見られないことが課題だ。
環境省と内閣府(防災担当)の双方はかなり多くの共通した政策がある。例えば宅地の嵩上げや洪水対策の堤防強化などだ。
緩和策が不十分では、人類は気候変動によってもたらせる危機的な状況を乗り越えることはできない。今、まさに行うべき適応策への注目度は近年、増している。
現在のコロナ禍の社会的経済的影響力が霞んでしまうほどの事態に直面することは必至である。
環境面では「気候変動適応策」防災面では「災害リスク軽減策」という双方の政策目標を達成できる術とは?
小泉進次郎 環境相(当時)と武田良太 防災担当相(当時)が2020年(令和2年)6月30日に 内閣府「防災担当」と【気候変動×防災】に関する共同メッセージを交わした「気候変動と防災のシナジー」に関するシンポジウムを開催させたことは特筆に値する。「縦割り行政の壁」を乗り越えて実現させた上にSDGs達成にも一致する両大臣の強い決意が感じられた取り組みだった。
現在は山口 壯(やまぐち・つよし)環境相と、二之湯智(にのゆ・さとし)内閣府特命担当大臣(防災、海洋政策)、国家公安委員会委員長、国土強靱化担当、領土問題担当、国家公務員制度担当がそれぞれ防災、環境問題政策を担務している。だが、二之湯氏は夏の参院選には出馬せず、「政界引退」の声が囁かれている。山口現環境相は小泉前環境相の注力してきた方針を踏襲していくと定例記者会見で意気込みを語ったが、防災行政の行く末は二之湯氏の後任次第で定まってくる。
活用進む「防災×テクノロジー」プラットフォームとしてのアプリやVR
「省庁間の壁」の打破が画期的な取り組みとされた時代から変遷し、今、注目されているのは「防災×テクノロジー」ではないのか。
実は菅義偉政権時から、2021年(令和3年5月25日)に第40回中央防災会議で内閣特命担当大臣の(消費者及び食品安全、クールジャパン戦略、知的財産戦略、科学技術政策、宇宙政策)を担った井上信治氏が「災害対応業務のデジタル化の重要性が高まる中、SIP(戦略的イノベーション創造プログラム)の研究成果である、SIP40(情報共有システム)への防災情報の集約やISUT(災害情報支援チーム)での活用について、防災基本計画に位置付けた旨、また科学技術イノベーション担当として、引き続き先端ICTを活用した情報共有システムの高度化等に関する研究開発と社会実装に取り組み、防災・減災対策の向上に貢献して参りたい」との発言があった。
従来から国民に幅広く使われてきた気象庁と国土交通省が開発した「大規模水害のタイムライン」に加え、東京都が新たに開発したアプリの「東京アメッシュ」「防災マイ・タイムライン」など都が主導で「防災×デジタル」政策を旗振りし、既に普及しつつある。
【大規模水害のタイムライン】
【キーワード】
<タイムライン>災害が想定される数日前から、発生、その後の対応まで、さまざまな機関が災害時に何をするかを時間を追って整理した行動計画表。住民、自治体、国、自治会、消防団、鉄道会社、電力会社などの行動を表にまとめる。各組織の動きや連携関係が一覧でき、計画の不備を確認しやすい。台風や低気圧の接近、外国で起きた地震で日本を襲う津波など、あらかじめ発生が予測できる災害が対象で、前兆なく起きる地震やゲリラ豪雨での活用は断定的だ。想定する現象が順番通りに起きるとは限らず、起きても予想した時間が前後することもあり、タイムラインを踏まえた臨機応変な対応も必要だ。
「©️朝日新聞デジタル「水害の備え「見える化」」
1)【東京アメッシュ】
【©️「東京都」】
2)【アプリ版「東京マイ・タイムライン」紹介動画(メリット編) 45秒】
「防災×テクノロジー」の取組みは何も首都圏だけに留まるものではない。既に(自治体×企業)の地方自治体とのマッチング事例も進んでいる。
1)熊本県小国町×アステリア「被災状況報告アプリ」
2)福井県×スペクティ「路面状態の自動判定(冠水・積雪・凍結)」
3)新潟県「防災産業クラスター」プラットフォーム
4)「防テクPF」を活用
5)京都府福知山市×エクシオグループ「避難判断支援システム」の取組み
6)VR( or メタバース[仮想空間])避難訓練
特に水災害に対する世界の動向も押さえておきたい。ドイツ・ハンブルク・エルベ川では水位上昇に起因した浸水被害への対策として、浸水防止扉を建造物の一階に設置する方策や建物自体を浮かせる(FLOATING)ことで、浸水被害を回避する的策が導入されている。また英国・ロンドン・テムズ川では河畔にある建造物が洪水時に浮上することで浸水被害の減災が措置が取られ、米国のフォートワースでは、都市内を流下するトリニティ川の洪水氾濫に対する治水整備に合わせて、中洲の再開発計画が推進されている。この中で、ハウスボートによる住区形成が検討されてきた。また、SIDR(シドル)などサイクロンが多発するバングラデッシュでは、国土の大半が低地のため洪水が伴って頻発することで、生活や生業が脅かされると共に野生生物の生息環境にも変化を及ぼしている。このため生活に係る病院や学校などの公共的な施設機能を船上に搭載することで、水位上昇による洪水被害に善処してきた。韓国ソウルを流れる漢江は洪水や氾濫を度々起こす河川であり、河川敷に設置されている利便施設としての公衆便所やコンビニエンスストアでは浮函基礎を導入することで洪水浸水被害に対応を図っている。
【©️「天TEN」(2022.VOL.3)】
人間が破壊する「サンゴ礁の生態系保全」に真っ向から挑む日本の科学者
2021年に国連がまとめた「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」報告書では、大気中の温室効果ガスの濃度を上昇させ続けている原因として、「人間が温暖化させたことは疑う余地がない」と初めて断定した。
地球規模の課題である「異常気象」と対となる「気候変動対策」は、人類が原因でもたらされた地球温暖化によるものであり、その地球温暖化をもたらしているのは、「地球の限界(プラネタリー・バウンダリー)」を踏み越えた、人類の社会・経済活動の営みが野生動物の生態系や過剰な森林伐採、海洋汚染の領域を破壊してきた結果、新しい地質年代である「人新世」に突入したことを示している。
1992年に日本を含む世界190カ国と地域は「生物多様性条約」を採択し、2010年には「生物多様性条約第10回締約国会議(CBD-COP10)」で「名古屋議定書」が採択された。そして2014年には「名古屋議定書」が発効。日本は2017年に批准した。2019年に開催されたG20(主要20カ国・地域 首脳会談)では「海に流出するプラごみを2050年までにゼロにする」など「大阪ブルー・オーシャン・ビジョン」首脳宣言を採択した。その結果、国政では2022年(令和4年)4月1日になると「プラスチック資源循環促進法」が施行された。さらに2021年(令和3年)には「改正・地球温暖化対策推進法」が施行。また2021年(令和3年)G7(主要7カ国 首脳会談)では「自然保護区域拡大を目指す」という文書を採択した。
これまでにもケニヤの象牙密猟やサバクトビバッタの大量発生、特定外来種で新型コロナウイルス(COVID-19)の発症源ともなったセンザンコウやコウモリなどの密売ほか、国内でも鹿や猪などによる生態系、生活環境、農林水産業への被害の深刻化が国内外の環境生態系を打破することを急務としている。
2010年に生物多様性条約参加国が合意した「愛知目標」では、20の目標のうち、特に目標10で「サンゴ礁の生態系保全」が名指しで訴えられたが、『愛知目標』は未達のままだった。2021年には「国連海洋科学10年」が始まっており、「海の豊かさを守ろう」(SDG14)を中心としたSDGs目標の達成に向けた様々な取組が行われようとしている。
これまで、ヘドロや廃棄物の投げ入れ、プラごみゼロなどの「浄化」など、海洋に関する様々な環境問題が取り組まれてきているが、「サンゴ礁の生態系保全」については、沖縄におけるサンゴ礁をめぐる赤土問題と呼ばれる周辺陸域からの表層土壌流入や過剰な栄養塩の流入、そして後者に起因すると考えられている「海底のオニヒトデの大量発生」といった生態系へのローカルな様々な負荷の問題、さらには、グローバルな負荷としての地球温暖化によってサンゴ礁が白化する問題などについての研究が進んできている。
サンゴ白化については日本最大のサンゴ礁域である石西礁湖では、1998年、2007年、2016年に大規模なサンゴ白化・死亡現象が発生している。これに関して、「地球温暖化の傾向はしばらく持続し、白化をもたらす夏場の高海水温は今後も数年に1回程度の頻発で発生することが予測される。そこで重要になるのがサンゴ礁生態系の「回復力(レジリエンス)」である。レジリエンスを高めるには、常態化しているローカルな人為的環境負荷をできるだけ抑え、サンゴ礁生態系の健全性を高めておく必要性がある」と強く訴えている日本の科学者がいる。
【©️東京工業大学 研究ストーリー「灘岡和夫特任教授」】
日本の「科学技術外交」の強化の一貫として、「科学技術振興機構(JST)」と「国際協力機構(JICA)」の共同で、日本の誇る科学者が「地球規模課題対応国際科学技術協力プログラム(SATREPS)」を率いている。
東京工業大学の灘岡和夫(なだおか・かずお)特任教授(環境・社会理工学院)は「SATREPS」プログラムにおいて、「フィリピン国統合的沿岸生態系保全・適応管理プロジェクト(CECAM)」(2010年度から5年間)と、現在進行中の「コーラル・トライアングルにおけるブルーカーボン生態系とその多面的サービスの包括的評価と保全戦略(BlueCARES)」の二つのプロジェクトを率いている。後者では、沿岸生態系の蓄える炭素であるブルーカーボンに着目し沿岸生態系の保全や回復力の強化がブルーカーボンの増強につながり、ひいては地球環境改善にも貢献する「ブルーカーボン戦略」を開発・提言することを、目指している。「新プロジェクトでは、ブルーカーボンだけでなく、地域社会が享受するさまざまな生態系サービスを包括的に評価した上で、トータルの生態系サービスを最大化していくための計画を実現させる。主要課題の一つとしてこのテーマを見据え、幾つかの地域でパイロットモデルとして適用していく。それが成功モデルとして重ねれば、ひいては地球温暖化改善にも貢献する。それが狙いです」と語る。
【©️東京工業大学 研究ストーリー「灘岡和夫特任教授」】
また、「遺伝資源」の課題も山積している。生物を利用して開発された医薬品や食品から得た利益を、資源の提供国である発展途上国と利用国である先進国が医薬品の開発やバイオテクノロジー(科学技術)などの技術活用を途上国と先進国間で循環経済できていないことが課題となっている。
衆議院議員・自由民主党の梶山弘志幹事長代行は、「経済と環境の好循環として、2030年に46%削減を目指す中間地点とし、『2050年カーボンニュートラル』の目標実現に向けて粉骨砕身で取り組む中、岸田文雄首相が策定を急がせた「クリーンエネルギー戦略」では、既存の技術だけでなく、水素やアンモニアの活用、加えてSAFの導入支援、洋上風力発電をはじめとする『自然再生可能エネルギー』の徹底利用、その基盤となる抜本的な送電網の増強など、将来の技術革新・事業革新も見据えた、時間軸を据えた立体的な戦略を策定すべきだ。また、電力分野での再生可能エネルギー導入に伴う脱炭素化の促進には、気象条件に発電量が左右されないよう蓄電池との連携は必須である」と述べた。その上で『デジタル化×脱炭素化×経済安全保障』を支える半導体などの「キーテクノロジー」を重要視し、デジタル改革・社会を活用した「デジタル田園都市国家構想」を強力に推進して地方経済を活性化させる『デジタル基盤』を国が主導する」覚悟を岸田氏に確認した。
また、2021年(令和3年)10月5日の定例記者会見で、山口壮 環境相は「資本主義がどういうふうにみんなを幸せにしてきたか。一つは地球規模の環境問題です。環境無くして経済はない。どちらも両立させることが今後の我々の健全な資本主義のあり方だと思う」とした上で「気候変動問題に係る一連の国際会議に向け、関係大臣と協力して、気候変動問題に対応する諸施策に係る対応方針を準備する」ことも含めて取り組む姿勢を示した。その上でNHK記者の質疑に対しては「世界的にはグリーンリカバリーやグレートリセットという社会全体の構造変革で脱炭素型社会にしていく動きを主流にしている。小泉前環境相(当時)の路線は踏襲するのか?」と
質され、山口氏は「踏襲する」とした上で、「電力の配分の仕方あるいはスマートシティのようなものも含めてイノベーションの構想にも結びつくのではないか」と所感を述べた。
さらに環境新聞の記者から「G7国は「30 by 30」を愛知目標の次の世界目標の決定に先駆けて進めることで合意している。日本の現状は、2021年8月現在、陸域で20.5%、海域では僅かに13.3%だ。そして2020年12月にやっと、5〜6年前に中国の漁船群が大挙襲来して、海底のアカサンゴを根こそぎ乱獲していった小笠原諸島沖合海域を、やっと自然環境保全地域に設定して、13.3%だった。中国共産党は狙っている。日本最東端の南鳥島周辺海域、日本最南端の沖ノ島周辺海域の海底侵略だが?」と舌鋒鋭く質され、山口氏は「(回答には)色々相当考えなければ難しい局面だ。(日本の海産物資源を巡った)『米中覇権戦争』などの言い方がされているが、我々政治家の役目というのは、私はかつて外交官だったわけだが、外交官と政治家とは似ていて、外交官で処理できなきゃ、軍人の仕事になってしまうんだ。『絶対に戦争はしない』それが外交官、政治家の役割だ。軍人の仕事には絶対にしないことが最大の要点だ」と答弁した。奇しくもこの会見で山口氏が語ったような「政治家は絶対に戦争はしない」という政策方針が翌年の「ロシア ウクライナ侵攻」という現実に起きてしまった戦争を目の当たりにするとは思いも寄らなかった事実であろう。
異常気象…日本にも届いた「フンガ・トンガ=フンガ・ハアパイ海底火山噴火」による津波
【©️「ウェザーニュース」トンガ近くの火山島で大きな噴火 噴火の影響で津波発生か?】
2022年(令和4年)1月15日17時に起きた「フンガ・トンガ=フンガ・ハアパイ海底火山の大規模噴火」とそれに伴う津波。少なくとも700キロ北西まで離れたフィジー島まで振動が伝わってきた。かつて聞いたことがないような最大の低周波音で、シアトルにあるアメリカ地震学会(Seismological Society of America: SSA)の同年4月の会合でも核実験のモニタリングをする学術的研究に用いる精密道具によって、同様の振動が後に世界中で取り沙汰されることになった。「火山爆発指数(VEI)」は8ポイントを記録。1ポイントにつき、10倍増の動力(エネルギー)に代表されるものとなった。
歴史的に記録的最大だった1815年インドネシアの「タンボラ火山噴火」と1883年同国の「クラカトア火山噴火」は、それぞれ「VEI -7」と「VEI-6」をマークしていた。そして1991年フィリピンの「ピナツボ火山噴火」もまたVEI-6だ。1980年の米国「セント・ヘレンズ火山噴火」はVEI-5を記録した。
何処かで見たことのあるVEI-6の範疇はおそらく、「タンボラ火山噴火」以来の最大のものではないか、と科学者たちはその確実性について葛藤している。
幸運なことに「米国宇宙航空局(NASA)」の衛星画像を使って、58キロほどの高さにまで届くとほぼ断定できる計測が可能だ。
NASAは「2022年1月のフンガ・トンガ=フンガ・ハアパイ火山の噴火は世界だけでなく宇宙にも影響を及ぼした。ハリケーンの速度の風と異常な電流が電離層の中で形作られていた」とツイートしている。[@NASA Twitter(2022年5月11日)]
「『ピナツボ火山噴火』の際は唯一、35から40kmの高度までマントル内の上昇気流が上昇した。これは『フンガ・トンガ海底火山』の高さの約3分の2に値する。いわば成層圏の頂点だ」と「アメリカ地質調査所カスケード火山観測所(the US Geological Survey’s Cascade Volcanic Observatory)」のラリー・マスティン氏が報告している。
一度空気上に流れ出した「フンガ・トンガ海底火山」のマントル内の上昇気流は1時間以内に直径200キロの「傘雲」の中に向かって膨張していく。マスティン氏が言うには、「ピナツボ火山」からの傘雲の広がり以上に今回の火山の広がりの速度の方が速いという。また、「ピナツボ火山」より約3倍の火山灰が噴き出している。さらには、マスティン氏の計算によると、「高度の面でも乾気においても『ピナツボ火山』の爆発に始まり、『フンガ・トンガ海底火山』は海水下にあり、そこで溶岩により作られた蒸気がマントル内の上昇気流を押し上げる原動力の助力となっているかもしれない」とのこと。
アメリカの南フロリダ大学地質学者のスティーヴ・ナクナッツ氏は「フンガ・トンガ海底火山噴火」は1世紀に一度起きるか否かの例にあたり、少なくとも138年か、可能性があるとしたら207年の中で最大の噴火だといえることは間違いないだろう」としている。11500キロ離れたフロリダ州でも自分の研究チームに語ったところによれば、「包括的核実験禁止条約(CTBT)」からきたチームのように、超低周波で聞こえた、距離のあるところからの火山爆風を聞いたとSSAの会合で語り、「異常だ」と警鐘を鳴らした。
さらに尺度を延長するもう一つの要因として、「40万回の稲妻が走った」とナクナッツ氏は言い、「1時間のピーク時には20万回の稲妻が計測された」と述べた。
そして「1時間に秒速55に付き、20万回も瞬間的に記録した稲妻を考察してみると、『フンガ・トンガ海底火山』は世界中のすべての稲妻のうち、80%も生み出していた、と言うことになり、極めて信じ難い量だと言わざるをえない」と指摘した。
暫定的に、この爆発というものは文字通り世界を取り囲む津波の潮位にも変動をもたらした。津波警戒センターは、誰がを理解するためにハエという生物を研究に使うことに採用し、そして決して以前には見たことがないタイプの波形からくるリスクではなかったものは何なのかを調査した。アメリカ国立津波警戒センターアラスカのサマー・オフレンドーフ氏は「これは典型的なモデルを覆した事例だ」と述べる。津波の最悪な影響とは驚くべきことではない。トンガ島嶼の近くで感じられたそこでの波とは、報告によれば、15メートルの潮位まで超えた高潮に到達し、複数の人々が死亡した。ところが、究極的にはそこではアメリカのカリフォルニア州の港湾より遥か彼方であるにも拘らず、損害が及んだ。ペルーでさえ二人の死者が出たのだ。オフレンドーフ氏は「1000キロも離れた陸地へ火山活動の生んだ津波が届くことは稀だ」とSSA会合で指摘した。
しかし、先駆け的な事例にヒントがある。「このことは通常ではないが、北アメリカと南アメリカの海岸線に波が届く前、バヌアツ島は爆発から2000キロ離れたところから、1.4メートルもの大波に襲われたことがある。」とした上で、もう一つの要点として彼女のチームが、トンガ海溝近くの巨大地震から起きるかもしれなかった事態を見ていたことと一致させようと試みていた。それは火山爆発と同様のことではないが、彼らが少なくとも理解していた何かだった。オフレンドーフ氏は「我々は少なくともいかに波が広がっていくかもしれないのか着想を得ることができた」と言う。
アメリカのノースウェスターン大学の地質学者イーマイル・オーカル氏は、「なぜ津波の広がりが非常に広範囲だったか、その爆風が生んだ「大気中の空気振動」は広がる津波の速度について現れた有り様を喧伝されたのか、それを消散させると言うよりはむしろ力を与えることになる。我々は大気中の津波として、このことを考慮に入れることができた」とSSAで語った。
オーカル氏が指摘した空気振動というものは、非常に力強くその一部は西方へ飛び越えてアフリカを横切り、大西洋にまで到達する。またそれ以外の一部は東方へ飛び越えてアメリカ合衆国を横断する。大西洋ではかつて一度だけ2つの空気振動が全くもって収束した反対方向の津波を攪乱したことがあった。
「そこには東と西の喧伝された津波の波形があったのだ」と「太平洋津波警戒センター・ハワイ」副所長のスチュワート・ウェインスタイン氏がSSAの科学者たちに語った。
彼らは巨大なだけでなく、カリブ海のリーワード諸島でも60センチの波が襲ってきたことをも経験として知っている。ウェインスタイン氏は2つの大陸の半球ほどかけ離れた側面に起源をもっていた津波から劇的な影響を受けていた。
【©️ scientific article, “COSMOS” “The blast heard round the world” by Richard A. Lovett (13 May 2022)】
トンガから約8000km離れた日本付近に津波が到着するまで予想されていた噴火開始から約11時間後程度とは異なり、約7時間頃から日本各地で観測された。一般に1000kmを超えるような遠方から到達する津波は数十分から数時間程度の長い周期を持つ傾向にあるが、「フンガ・トンガ=フンガ・ハアパイ」火山の場合、観測された海面変動の周期は、10分程度もしくはそれ以下の観測点が多いのが、科学的根拠に基づく特殊なケースだ。
海面変動の周期以外にも、この噴火災害のもたらした特異な例がある。大気中を伝播した微気圧変動も世界中で観測された。日本付近では、噴火開始後7時間ほどから最大で約2hPaの微気圧変動が観測されはじめた。
最初に到達した幅振が大きな部分は、音速で伝播する大気Lamb波と呼ばれる波をいう。いわゆる音波の一種だ。だが、人間が耳で聴くことのできる周波数帯よりもはるかに小さい周波数であるため、「インフラサウンド」という別称がある。大気Lamb波は、鉛直成分を持たずに対流圏全体を水平方向に伝播する平面波の成分であり、その伝播速度も対流圏全体の平均的な音速に一致する。音速は温度によって変化する一方、大気の温度は上空ほど低くなるため、大気Lamb波の伝播速度は、地上付近での空気の音速より少し速い310m/s程度になることが知られている。大規模噴火によって引き起こされ、同心円状に広がる大気中の内部重力波の中に海洋の津波の速度と同程度のものがあるため「共鳴現象」を起こし海洋における波を増幅させるとの説がある。大気中を伝播する波によって津波が励起されるという現象に関しては、火山学のみならず、気象学、海洋学、の知見を併せて検証を進める必要性がある。
【©️「天TEN」2022.VOL.3】
2018年にインドネシアのアナク・クラカタウ火山の噴火に伴い津波が発生し、400人以上が犠牲となった事例がある。日本国内でも1792年に長崎県の雲仙火山の噴火に伴って津波が発生し、約1万5000人が犠牲になっている他、約1500人が犠牲になった北海道・渡島大島の1741年噴火、約700人が犠牲になった北海道駒ヶ岳の1640年噴火など、多数の犠牲者を発生させた火山災害には、火山性津波を伴ったものが数多ある。
大地震と津波の関連性に着目すると、
インドネシアでは2004年12月「スマトラ島沖巨大地震・大津波」が発生した翌2005年4月から複数の火山で噴火が始まっている。さらに1年5ヶ月後にはジャワ島ムラピ山から火砕流が噴出。その後も300人を超える犠牲者を出している。インドネシアにも活火山の総数は129個もあるという。
また、チリでは1960年チリ地震(M8・8)発生により、二日後にはコルドン・カウジェ火山が噴火した。2010年のチリ地震(M8・8)発生時にも前述同様、噴火した。
これらはM9クラスの巨大地震が噴火を誘発したものではないか、とみなされている。
海溝型の巨大地震が発生すると、地面にかかる力が変化した結果、地下で落ち着いているマグマの動きを刺激して噴火を誘発することがある。
日本海溝、千島海溝。日本海溝寄りの大津波をもたらすM8クラスの地震は発生確率が依然として高い。北海道の太平洋沖、西南日本の太平洋沖「南海トラフ」では3.11の東日本大震災クラスの巨大地震の発生する可能性は高い。2021年12月に国は日本海溝と千島海溝にまつわる被害想定を公表した。早期避難や津波避難タワー建設などの対策で、死者数は最悪のケースから8割減災できると強調。日本海溝地震の震源は三陸・日高沖、千島海溝は十勝・根室沖と想定された。これらは2020年にも別々に起きたプレート間地震の場合、最大30mの到達津波の高さも推計している。いずれも日本列島を乗せた北米プレートの下に海側の太平洋プレートが沈み込んだ場所だ。
【©️「日本経済新聞」巨大地震の被害想定 冬の夜なら被害最悪 日本海溝・千島海溝沿いの巨大地震(2022年12月21日)】
【©️日本経済新聞】
【©️日本経済新聞】
東日本大震災ののちに数十年間くらいのスパンで日本に111個ある、活火山の幾つもが噴火するのではないかと火山学者らは懸念している。
地震と噴火の関係性は、過去150年間ほどの間に起きた巨大地震の前後で活火山が噴火していることが調査研究の上、判明している。
【©️「FAST ALERT」】
地下の条件がインドネシアやチリに類似した日本でもあり得ないことではない。
3.11以降に地下で地震が増加した活火山がある。神奈川、静岡県境にある箱根山では、3.11巨大地震直後から小規模の地震が急増。関東・中部地震の日光白根山、乗鞍岳、焼岳、富士山。また伊豆諸島の伊豆大島、新島、神津島、九州の観見岳、伽藍岳、阿蘇山、九重山、南西諸島の中之島、諏訪之瀬島など。いずれも地震直後から地下で地震が急増している点を注目したい。
また、噴火は富士山も例外ではない。
3.11の4日後、3月15日には富士山頂のすぐ南の地下でM6・4の地震が発生した。最大震度6強という強い揺れ2万世帯が停電した。震源は深さ14kmで「全地球測位システム(GPS)」の測定結果は、3.11発生後に富士山の周辺地域が東西方向へと伸びていることを示す。地下約20kmにあるマグマだまり直上の15km付近ではマグマの動きに関連してユラユラ揺れる「低周波地震」が時々発生している。
このような地盤拡大はマグマの動きに2つの可能性をもたらすという。
1)地下深部のマグマが地表へ出やすくなる
2)拡張した地盤の中にマグマが止まるため、出にくくなる
南海トラフでの巨大地震発生予測の参考になると言われる一例を紹介しよう。
2021年3月5日に「ケルマデック諸島でM8・1」の遠地地震が発生した。ニューカレドニアでは1mの津波が観測されたが、気象庁は日本への津波に影響なしと発表した。ケルマデック諸島の震災発生から約2時間前、ほぼ同じ場所で(M7.4)の前震が発生している。
また、大地震の後に引き続く地震活動(余震)とは異なる「群発地震」が幾つか発生している。例えば、2021年10月7日に、千葉県北西部地震(M5.9)が発生時、もし地震規模がもう少し大きく、浅ければ想定「首都直下地震」のような甚大な被害になっていた可能性がある。
20世紀以降、M9以上の地震は以下、世界で5つだけである。
【©️「首都直下地震と南海トラフ」鎌田浩殻・著<MdN新書>】
場合によっては、100年間に5回くると言われる超巨大地震は、次の100年にも5回くるという仮説もある。
「仙台防災枠組み(Build Back Better: より良い復興)」×「パリ協定」×「Agenda2030」が急務
国連のアントニオ・グテーレス事務総長は2020年に「防災×気候変動」に向けたメッセージを公表した。
「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)」と防災で複数の国家が同時危機に晒されており、特に異常気象による災害はこの20年間で増加し、科学と事実に基づき気候変動と環境破壊に対する進捗は残念ながらほとんど見られていない。優れたリスクガバナンスを行うと同時に現在のCOVID-19が示すリスクが連鎖的、連結的に存在する。多様であることが明らかになった。「持続開発可能な目標(SDGs)」を達成する上で高い政治的コミットメント(誓約)が何よりも必要であり、貧困根絶・気候変動軽減のためにも公益を優先させる必要がある。より安全で「強靭な(Resilience)」世界の実現に向けた「災害リスクガバナンス(:統治)」を国連はテーマに掲げる。」
「国際通貨基金(International Monetary Fund :IMF)」指数に着目する。
世界経済の約3%が収縮するとしている。そしてこの数字をミクロでみると、膨大な「経済的損失」で言うと…
1)「貧困の増大」
2)「雇用の損失」
3)「教育機会の損失」
4)「コロナ以外の病気で亡くなる人々の損失」
5)「女性・子供に対する虐待の増大」
6)「自殺の増大」
という内訳が並ぶ。
「世界銀行(World Bank)」年統計(コロナ禍以前)を見ると…
コロナ被害者8,800万人〜1億1500万人最貧層に陥る。2021年には「1億5000万人に至る」とされた。
2600万人が災害で貧困に陥っている、と試算されている。
これらの数的なデータだけでは全容を把握しきれない、もう一つの緊急事態下「気候緊急事態変動」にあると「国連防災機関(UNDRR)」発表「Human Cost Of Disasters」報告書は示している。
【©️「日本記者クラブ」水鳥真美・国連事務総長特別代表(防災担当)兼国連防災機関長 会見(2020.10.13)】
「国連事務総長 特別代表(防災担当)兼 国連防災機関(UNDRR)長」の水鳥真美氏が講演で触れた。
「『三大気候変動関連災害(洪水・干魃・台風)』の影響を受ける人の数及び、経済的損失の頻度・強度、共に強くなっている。標準が尋常ならざる数値に至っている。
UNDRRが把握している2000年〜2019年までの約20年間に発生した災害の統計だけでは、気候変動関連災害の全容からは程遠い。
日本と欧州で深刻化する熱波などは先進国では計測可能だ。亡くなる方がいても病院で死亡し、死亡診断書の数があれば事態を正確に把握でき熱波の影響を計測できる。
しかし発展途上国では事情が全く異なる。より大きい計測不可能な闇が隠れている。」とした上で、水鳥氏は日本の「国連防災・環境外交」について
1)「仙台防災枠組み(Build Back Better: より良い復興)」…防災災害リスク軽減策
2)「パリ協定」…気候変動対応策
3)「Agenda2030」…持続開発可能な目標(SDGs含む)
以上を「三位一体」として達成することが急務であり、防災と環境問題には「防災災害リスク削減策」と「気候変動に強靭な世界の実現」の双方「統合性シナジー」を確保することが必然である。
「2019年9月にも国連のグテーレス事務総長は「国連気候行動サミット」で社会の強靭性(Resilience)を増すための適応策の必要性を強調し、最近でも世界銀行や「みどりの気候基金」により発展途上国の支援をしている」としながらも、コロナ禍ほどの対策が取られていないのが現状だ。過去20年に起きた災害の9割は気候変動と関連性がある。「パンデミック」とは違い、じわじわと時間をかけて迫ってくる。このまま対策が進まなければ、世界に未曾有の危機をもたらす「待ったなし」の状況だ。『気候変動リスク』から我々は自らを隔離することも、国境を閉ざすこともできない。世界はコロナから復興するため莫大な予算を出動させることになる。復興予算がいかにつけられていくか、経済開発に伴いリスクが生じるのは枚挙にいとまがない。ここでポストコロナ禍が決まる」と提言した。
「災害リスクガバナンス」における「仙台防災枠組み」には、7つのグローバル目標が掲げられている。
そのうち、現象面の目標として掲げられたのが以下の4つ。採択後、毎年一つずつの目標に当てて「国連防災デー」にキャンペーンを行ってきた。
1)災害死亡者
2)災害の影響を受ける被災者
3)経済的損失
4)基礎的インフラへの損傷
→今時点では5つ目が焦点とされていた。
5)2020年末までに「国・地方双方のレベルで『減災・防災戦略』を有する国を大幅に増やす」(コロナ前から既に決定していた)
良き統治(ガバナンス)には、しっかりとした戦略と計画を整えた礎の上に成り立つもの。政府全体とした課題として部門を作り、予算をつける。中央・地方のいずれにおいても行政機関の支部局のみではなく、民間部門、市民団体、メディア、NGOなど社会の全てのアクターの声が防災・減災政策に反映され、各自全てに役割がある。その中で「災害弱者」の声をしっかりと反映していく。これこそが「良き災害リスクガバナンス」である。
大災害に見舞われてきた災害列島の日本の世界的知名度はその強靭性の強化で世界に誇れる国である。
1)インフラや建築などのハード面
2)啓発・啓蒙・普及活動、防災教育
3)防災分野に特化した国際協力に尽力
4)毎年の「防災白書」の発行
5)包括的防災戦略の策定
【©️「ParsToday」世界におけるイランの位置付け(5)「生物の多様性」(2020年2月10日)】
国連環境計画(UNEP)のインガー・アンダーセン事務局長は「人口が増え、野生動物の搾取や森林伐採などの生態系の破壊が進み、人間の居住地域が拡大して人と野生界の接触が急激に増えている。このままでは今後、数年間で動物から人へと移る新たな感染症が絶え間なく発生することになる。これは科学的に明らかである」と警鐘を鳴らしてきた。
また前述の水鳥氏によれば「我々は災害について語る時、よく『自然災害』という言葉を語るが、近年増している頻度・強度の災害は自然に起きたものではない。コロナ禍に次ぐ第二・第三の世界的な感染症を食い止めるためには産業革命以前から発展と繁栄をもたらしてきた一方で、人間の社会・経済活動の営みが背景になっている。人類が地質や生態系に影響を与える新しい地質年代に入った『人新世(Anthropocent)』の世と呼称される」。
その上で、「戦後一貫して『グローバル・アジェンダ』を率いて『マルチテラリズム』を国連外交に据えてきた日本が『気候変動』『災害リスク軽減』『生態系の保存』の三本柱を核として『持続開発可能な目標(SDGs)』を国際社会で成し遂げる主導力を発揮することを望む」と希望を滲ませて水鳥氏は講演を締めくくった。
【(時系列年表)筆者作成】