進化の発想は意外なところに転がっているようだ。マサチューセッツ工科大学(MIT)の研究者らは、ヤマアラシのトゲからインスピレーションを得て、よりよい医療器具の研究を進めている。トゲのメカニズムを精巧な装置で再現し、先端部分の特殊な性質を調べることで、「痛みを抑えられる注射針」や「より安全に組織を結合できる医療用粘着テープ」の実用化を目指す。
日本中の動物園で見かけるヤマアラシ。分かりやすい特徴は針状のトゲに覆われている点だ。ヤマアラシのトゲは、皮膚に突き刺さるほどの鋭さを持ち、しかも抜けにくい。3万本ともいわれるトゲの先端には極小の突起が備わっている。わずかな力で皮膚を破り、抜くのが困難なヤマアラシの“武器”は、顕微鏡でやっと確認できるほどの小さな突起に秘密があった。
MITの研究グループは、突起のあるトゲとないトゲを比較した実験を行なった。すると、突起のあるトゲは、ないトゲと比較し、およそ半分の力だけで皮膚を貫けることが判明した。突起がなければ、刺す時の力が分散して、皮膚貫通に必要な力が大きくなるということだ。実験結果から「痛みを抑えられる注射針」の開発につながる可能性がある。
一方、「より安全に組織を結合できる医療用粘着テープ」は、手術した組織をしっかり保護できる点で、胃や小腸の手術(胃バイパス手術など)患者への使用が期待できる。従来の縫合、ステープラー、強力瞬間接着剤が引き起こす可能性のある合併症や炎症を心配せずに済む。
研究グループによると、ヤマアラシのトゲを引き抜こうとすると、先端の突起がブレーキの役割を果たしているそうだ。突起のあるトゲとないトゲをそれぞれ用いて、引っこ抜く際に必要な力を比べたところ、あるトゲの方が4倍も強いという結果が出た。相当の力を加えないと剥がれない、片面が突起状の粘着テープについて、現場からは早期の実用化を期待する声が上がっている。
画像: MITの研究成果を伝えるニュースのキャプチャー
http://www.youtube.com/watch?v=bDfP2uVOOtk&feature=plcp