「パンデミックワクチン」を巡る特許権とWHOが目指す「パンデミック条約」

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「©️ANN系列「全国新型コロナウイルス感染者数」」

「©️Yahoo!news「沖縄県 玉城デニー知事記者会見」」

「日を追う毎にオミクロン株の発症者が9割、20代から30代を主として急拡大している。沖縄県民の皆さんのワクチン接種が間に合わない尋常じゃないスピードで3.9倍から17.5倍へと普及している。在日米軍基地から出入りする米国の兵隊や軍属は命令指揮系統で20%を越えるとレベル2の感染危険度ランクに上がる。基地出入り業者だけでも19.9倍、21.7倍とワクチンを2回接種した後にもかかるブレイクスルー感染なども見られ、国にまん延防止及び重点措置をお願いしたところだ。」
 2022年1月仕事始めから新型コロナの急迫切迫した対応を求められた沖縄県の玉城デニー知事は定例記者会見でこう述べた。
 在日沖縄米軍基地でのクラスター感染を主因とするオミクロン株感染が市中感染に拡大したことを受け、感染症危機管理に不備があるとの玉城氏の批判から日本政府は、日米共同声明で今日、1月10日から14日間の米軍関係者の出入りを制限することで合意した。

「緊急事態宣言下の規制」とあまり差別化されていないが、同様に使われる「まん延防止等重点措置」とは何か、再確認する。
地域ごとの新型コロナウイルスの感染状況により、期間や区域などを限定した措置のことだ。感染者の急増および医療提供体制における大きな支障の発生を避けるための対応が必要な段階において、地域ごとに実施される。

「©️ANN「東京都小池百合子知事 記者会見」」

「©️JNN「Nスタ」オミクロン株急拡大 飲食店などに改めて規制」

 また東京都の小池百合子知事はオミクロン株の新規感染者が150人を越え、感染危険度ランクをレベル3まで引き上げた。東京都は病床の使用が6891床ある。入院個室医療、宿泊待機に11000コロナ対応全員個室確保としていたが、オミクロン株感染者の全員入院としていた原則を見直し、重症化リスクが高い場合を除いて宿泊療養とする緊急対応とする。」と、第三回追加ワクチンの接種を保険事業に依拠するケースでは「DX(デジタル・トランスフォーメーション)改革、チャットボットの配置、ウェアラブル(腕時計型の健康状態モニタリングシステム)を導入して逼迫したマンパワーを補填する」と周知した。
 その上で東京では922人が新たに感染者となり、1月11日から31日まで、まん延防止重点措置を実施し急浮上したコロナ「第六波」オミクロン株との新たな闘いが年明け早々、始まった。

「ワクチン信頼度」が世界最低ランクの日本

「©️ANN「東京都新規感染者1224人のワクチン接種状況」」

 日本政府は「コロナとの闘い」の決め手を「ワクチン接種」としたが、日本は「ワクチン不信・後進国」であり「ワクチンギャップ」が顕著な国だ。世界的医学誌「ランセット」は2020年9月、ロンドン大学により世界149カ国でのワクチン信頼度調査結果を掲載した。15〜19年に18歳以上の約28万人が回答。日本人で「安全だ」と答えたのは15年で8.92%(147位)、19年で17.13%(149位)、「有効だ」と答えたのは15年14.71%(147位)、19年で22.27%(148位)だった。データ上で見ると日本のワクチン信頼度は世界最低ランクである。
 実際、日本国内で使用できるワクチンは他国に比べて少ないという指数を表す「ワクチンギャップ」にあたる日本の新型コロナウイルスワクチンもほぼ全てが外国製だ。AZ(アストラゼネカ社)、メルク社の「ラゲブリオカプセル」、「モルヌピラビル」
など入院や感染リスクを30%下げる効力が確認されている薬剤もある。確かに国内の塩野義製薬が新型コロナに服用する飲み薬を開発している稀有な事例もある。しかし小児用肺炎球菌ワクチンなども欧米で定期接種になってから日本では10年以上遅れて承認された。

影落とす薬害の歴史と差別を背景とする日本

 

 新型コロナウイルス(COVID-19)の襲来以前は従来、「感染症とはアフリカ諸国など発展途上国などから主に発症し、蔓延しているものだという認識が通説だった。しかし今回COVID-19が特殊だったのは、いきなり先進国を直撃するという科学的経験値の不足した中で社会的介入にも失敗した。また一年近く経済活動を停止せざるを得なくなった状況を生み出した、『ワクチンナショナリズム』を隆盛させることになった」ことにあった。」さらに医学的には「不顕性感染者(細菌やウイルスなどの病原体の感染を受けたにも拘らず、感染症状を発症していない状態の患者)と診る。一般に感染しても「疑い」から「確定」まで%の割合にかなりの開きが出るが大部分はこれに該当する。
 また日本は「薬害の歴史」が陰を刺してきた。「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」(1999年)の前文に「我が国においては過去にハンセン病、後天性免疫不全症候群などの感染症患者などに対する謂れのない差別や偏見が存在した、という事実を重く受け止め、これを教訓として今後に活かすことが必要」だとしてハンセン病などの感染症の患者らに対する差別の歴史がある。ハンセン病は政府が隔離政策として「癩予防ニ関する件(1907年)「癩予防法(1931年)」「無らい県運動らい予防法(1953年)」という事実。治療薬が発見された世界では当時、既に「隔離政策廃止」に向かっていた。
 ところが日本は新法「らい予防法」制定から1996年まで隔離政策が存続した経緯に国連ハンセン病特別報告官も驚きを隠せなかったという。
 この他、薬害エイズやB型肝炎、アスベストなどの薬害国家としての歴史を持つ日本で、上述の日本人「ワクチン不信」数値がCOVID-19を以って跳ね上がったのは、既に伏線があったと言える。
 
 しかし「社会権規約A:経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約」は第12条「健康を享受する権利」1項「この規約の締約国は、全ての者が到達可能な最高水準の身体及び精神の健康を享受する権利を有することを認める」とし、同条2項(b)(c)(d)で「環境衛生及び産業衛生の改善」「伝染病、風土病、職業病その他の疾病の予防、治療及び抑圧」「病気の場合に全ての者に医療及び看護を確保する」とする法的義務。
 また「自由権規約B:市民的及び政治的権利に関する国際規約」第6条「生命に対する権利」1項「全ての人間は、生命に対する国有の権利を有する、この権利には法律によって保護される何人も恣意的にその生命を奪われない」という法的根拠。
 そして「欧州人権条約」第2条「生命に対する権利」1項「全ての者の生命に対する権利は、法律によって保護される。何人も故意にその声明を奪われない」とする国際法の条約に対し、国際法より上位の最高法規である日本国憲法第25条「生存権、国の社会的使命」では1項「すべての国民は健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」2項「国は、すべての生活面について社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない」という国内法との二重の法的整合性を根拠として感染症病者も含む「健康や生命に関する権利」を締約国は保障しなければならない。

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)と人類の闘いは、2019年12月31日に中国湖畔省・武漢市で原因不明の肺炎を集団感染した患者から始まった。世界保健機関(WHO)は日本を含む19カ国に実例が発覚したことを掴み、2020年1月30日にはCOVID-19が国際保健規則(International Health Regulations: IHR)の「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態(Public Health Emergency of International Concern: PHEIC)」に該当すると宣言した。
 2000年前後から「医薬品のアクセス」及びそれに付随する「知的財産権」との関係性がグローバルな課題としてMDGs(ミレニアム宣言)やSDGs(持続開発可能な目標)にも含められるようになった。その際2001年に「TRIPS協定(Trade Related Aspects of Intellectual Property Rights)(知的所有権の貿易関連の側面に関する協定)」と公衆衛生に関する特別宣言[ドーハ宣言]が取りまとめられた。

 さらにWHOは実務面でも「知的財産権、イノベーション及び公衆衛生に関する委員会(Commission on Intellectual Property Rights Innovation and Public Health: CIPIH)」を設置した。
 
COVID-19以前のこれまでのPHEICは以下、5ケースに適用された。
2009年4月「豚インフルエンザA(H1N1):新型インフルエンザ」、
     2014年5月「野生型ポリオウイルスの国際的拡大」
      2014年8月「エボラ出血熱の西アフリカ感染拡大」
      2016年2月「ジカ熱の国際的拡大」
      2018年8月「コンゴでエボラ出血熱」

しかしながら世界保健機関(WHO)は世界保健総会(WHA)なるWHO加盟国の代表が出席する「WHOの最高意思決定機関」の決議により、ワクチンという医療製品ではなく「広範な免疫の確立」が健康に関する「国際公共財(Global Public Good For Health)」としている。

「©️JNN「Nスタ」東京・練馬区 高齢者など第三回目ワクチン接種始まる」
 
コロナとの闘いで先進国の多くが「決め手」とする「ワクチン接種」。早くも第三回目の接種を始める国と自治体もあるが、日本も御他聞に洩れず、「ワクチン接種」を「決め手」に掲げてきた。

国際保健行政の「知的財産権」を巡る二つの姿勢

国際取引や契約法の歴史には「TRIPS協定」以前があった。1964年の私法統一国際協会(International Institute for the Unification of Private Law: UNIDROIT)によるいわば「ハーグ売買条約」と総称される2条約の成立を前例として、後に発展したものと思われる「国連国際商取引法委員会(United Nations Commission on International Trade Law: UNCITRAL)により1980年の「国際物品売買契約に関する国連条約(United Nations Convention on Contracts for the International Sale of Goods: CISG)」(「ウィーン売買条約」が1988年発効された。またCISG以降の「統一契約法」への途上と言える取り組みもある。1994年、2004年と改正を重ねてきた「ユニドロワ国際商事契約原則2010」は条約ではなくとも、国際商事仲裁における規範的な役割も果たしてきた。同原則は共同体が将来的に採択する可能性のある法原則を準拠法として選択することを認める一方で、明確性に欠ける「lex mercatoria(レックス・メルカトーリア)」や国際的に十分認知されていない国際私法の選択の対象外とされた。
「lex mercatoria」は「国際商習慣法:国際商取引の当事者が繰り返し反復する取引慣習から生み出された説得性の高いルールである。それらを再度呼称し直したものが『ユニドロワ国際商事契約原則』」という。
CISG第42条「知的財産権に基づく第三者の権利又は請求」が規定されている。日本は世界から大きく遅れて2008年に国会承認及び加入書寄託を経て、交付・告示(条約第8号及び外務省告示第394号)された後、翌2009年8月1日より国内で効力を生じるに至った。
しかし前述した「ドーハ宣言(2001年)」を根拠とする「TRIPS協定」は知的財産権保護の最低基準とし、その履行確保措置として設けられたという法的意義を持つ。

世界知的所有権機関(World Intellectual Property Organization: WIPO)は「世界知的所有権機関を設立する条約」(WIPO設立条約)によって1967年に設立され、1974年に国連の専門機関となり日本は1975年に加盟した。
「世界貿易機関を設立するマラケシュ協定」(WTO設立協定:1994年)の附属書1cとして「知的所有権の貿易関連の側面に関する協定:TRIPS」が策定された。WTOの紛争解決了解(Dispute Settlement Understanding)と並んで通商・貿易レベルでの国際知的財産のスキームが確定された。WTO協定を日本は1995年に国会承認、公布した。
また、日本は2005年12月6日の「WTO一般理事会」で採択された「TRIPS協定」第31条の2項を追加する改正を2007年6月19日に国会承認している。同改正は追加条文が第31条2項「医薬品についての他の使用」を掲げている。前条文第31条「特許権者の許諾を得ていない他の使用」(f)「他の使用は主として当該他の使用を許諾する加盟国の国内市場への供給のため許諾する」「同(f)に規定する輸出加盟国の義務は、この協定の付属書の2に定める「紛争解決に係る規則及び手続きに関する了解」の条件に従い、医薬品を生産し、及びそれを輸入する資格を有する加盟国に輸出するために必要な範囲において当該輸出加盟国が与える強制実施許諾については適用しない」としている。

コロナとの闘いで日本政府が「決め手」としてきた「ワクチン」の特許権者にはこれまで述べてきた「知的財産権」を巡る2つの姿勢に分類される。
1)医薬製品の国際的な分配、調達の機能を強化する。
2)1)を変えて医療製品の国際的な製造と分配を進める。

ワクチンを開発した製薬会社などが持つ「ワクチン特許権」を停止して、世界の至る所にワクチンを安く大量に製造できるようにすべきだ、との主張をめぐり、各国が割れている。アメリカ、フランスなど一部の先進国はコロナ対応に有益な医療製品
に関わる「知的財産権」の権利を保有している者が通常は「許可しない第三者による利用を「COVID-19への対応に限り認める」こととした。そのための「強制実施権」の付与や「特許法改正」、「特別法制定」を進めている。

「後発ワクチン外交」は日本の成長戦略の一つ

2020年9月10日に「ACT(Access to COVID-19 Tools)アクセラレーター ファシリテーション・カウンシル第一回会合」のブリーフィングが公表された。「ACTアクセラレータ」とは新型コロナウイルス、感染症のワクチン、治療薬、診断の開発、生産、公平なアクセスを加速化させるための国際的な枠組みをWHO他が提案したこと。2020年5月4日、EU主催の「新型コロナウイルス・グローバル対応サミット」にてEU(欧州連合)、フランス、ドイツ、西、イタリア、イギリス、ノルウェー、及び日本が共同提案国となって発足した。また、併せて「COVID-19 Technology Access Pool(C-TAP:COVID-19技術アクセスプール)」を活用することは補完的におかれることとした。
「国際的な政治リーダーシップ関与も得ながら、資金動員を行い進捗状況を踏まえて次なる方針に関する実務的な議論と助言を行う」ことを目指すとしている。
当時、日本からは小野地球規模課題審議官が出席した。小野氏は「人間の安全保障の危機と言える現状の中、世界的にユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(Universal Health Coverage: UHC)を推進する立場からACTアクセラレータを支持する」また「5月の EU主催『新型コロナウイルス・グローバル対応サミット』において、先駆けてプレッジを表明している。またワクチンへの公平なアクセスを目的としたグローバルな取り組みで、WHO、感染症流行対策としてのイノベーション連合などが主導する国際調達や分配の仕組みである『COVAXファシリティ』への参加や、その『途上国向け枠組み(AMC)』」、我が国提案の『医薬品特許プール(Medicines Patent Pool: MPP)』などを通じ、今後も協力を進める」と会合で発言した。

2010年にMPPができた背景には90年代の「HIV危機」があった。必要な医薬品への平等なアクセスを阻害する医薬品の高価な売値こそが「行きすぎた知的財産保護」の障壁だった。治療法が見つかっているにも拘らずアフリカを筆頭に開発途上国で膨大な生命が奪われた。このため「ドーハ宣言」効果が高く副作用の少ない新薬を安定的に可能な限りタイムラグを置かずに途上国の人々に手の届く製薬であること。それこそがMPPの理想だとしている。
2010年にMPPは、「UNITAID(ユニットエイド)」からの拠出金をベースとして設立された。「ユニットエイド」とは特に安定供給が困難な治療薬について定期的な大量購入を保証することによって製薬企業側のメリットを守りながら価格低下を実現し途上国における医薬品アクセスを実現するサブシステムとしての役割を果たしている。
MPPはこの「ユニットエイド」の延長線上にある。開発系製薬企業が開発した新薬について一定の支払いなどと引き換えに特許権を持つ企業とライセンス契約を結んで特許権をプールし、次にジェネリック医薬品メーカーにサブライセンスを付与して、途上国向けに新薬のジェネリック版を安価に製造できるようにし、これらのジェネリック薬が途上国で活用できるようにするというもの。

「ワクチンギャップ」に陥っている日本は国産ワクチンの開発強化を目の前の目標に掲げ、最先端の研究開発の拠点として、
「先進的研究開発戦略センター(SCAR-DA:仮称スカーダ)」の新設を決定している。新型コロナウイルスの国産ワクチンの開発には塩野義製薬、第一三共、アンジェス、KMバイオロジクスなどが開発に取り組んでいるが、実用化の見通しは未だ立っていない。
世界におけるCOVID-19ワクチン開発の現状に視座を向ければ、ファイザー、ビオンテック、アストラゼネカ(A Z)、オックスフォード大学、モデルナ、ジョンソン&ジョンソン、サノフィ、ノババックスなどの各社が凌ぎを削っている。
 

「©️JNN「Nスタ」英ジョンソン首相 ブースター接種呼びかけ」

「©️JNN「Nスタ」新規感染者ドイツ、フランス、イタリア」

「©️ドイツオミクロン株先手 飲食店規制」

 EUから離脱した英国。そしてドイツ、フランス、イタリア各国のオミクロン新規感染者の現状はどうなのか?
英国は新規感染者数18万3037人と過去最多を更新した(12月29日発表)。
英国のボリス・ジョンソン首相は「新規感染者となった人はワクチンの接種を受けていない方々だ」と述べた。
ドイツは5万6335人(1月7日発表:独仏伊、同)
フランスは32万8214人
イタリアは10万8304人
中でもドイツは飲食店規制に注力してオミクロン株に先手を打っている。「追加接種かワクチン接種と24時間以内の陰性証明の両方を飲食店利用の条件」としている。そして感染から回復した人も追加接種まで終えていなければ24時間以内の陰性証明を必要とする。オミクロン株感染者・濃厚接触者の隔離期間も14日間から当面は7日間に短縮とした。
 

中国が独占する医療資源で外交上プレゼンスの脅威

EU(欧州連合)では、加盟国におけるワクチンの公正な分配のために欧州委員会が一括契約したが、新型コロナの科学的知見の経験値が不足していたため、契約・分配ミスが相次いだ。ワクチン接種のスピードよりも変異株の感染スピードの方が速く「ロックダウン」を再再度行わなければ対応できない状況となった。
 しかしハンガリーは中国・ロシアからポーランドとチェコはロシアから各国、ワクチンを輸入し、EU加盟国内での足並みが乱れた。
コロナ危機当初、EUの加盟国が自国優先の態度を露骨に示し、感染症に関して機能のないEUはそれを限定する程度にとどまっていた。フランスは、マスクなどの医療防護用品を戦略物資に指定し、輸出を禁じた。スウェーデンのヘルスケア会社メンリッケは、イタリアとスペインの医療従事者へのマスク供給を図ったところ、経由地のフランスから輸出は禁じられマスクは押収されたという。さらにトルコ、インド、ベトナムからイタリアが購入するはずだったマスクもドイツとフランスに差し押されられた。
強かな中国は、コロナ危機に最初に陥った発症源でありながら、真っ先にイタリア、セルビアへの支援をおこなった。
独仏両国がイタリアのマスク供給に手を差し伸べる中、中国は約300人ほどの医師を派遣し、20万個のマスクを含む医療備品や器具をイタリアに無償供与するとした。EU加盟申請をしているセルビアのアナ・ブルナビッチ首相はEUが域外への医療器具・備品の輸出を禁じたことを受け、「ヨーロッパの連帯など存在しない」「我々を助けられるのは中国だけだ」と言い放ったという。
 中国やロシアの「ワクチン接種」は国内よりも輸出や国外への無償提供に回している。だが、公衆衛生的な観点から感染を防止するためというわけではなく、一部の富裕層にのみ行き渡ることで政策決定に影響を及ぼす意図が垣間見られる。
 少なくとも35カ国にワクチンを無償提供している。中国製ワクチンを調達する国が出てくることが推察される。しかし中国だけがワクチンを供給するという状況を作らなければ「ワクチン外交」上のプレゼンスを中国がさらに高めていくことになる。

WHO「パンデミック条約」の締結を提案

「©️Yahoo!News「WHOテドロス・アダノム・ゲブレイュソス事務総長 会見」」

2021年12月1日にWHOのテドロス・アダノム・ゲブレイュソス事務総長が25カ国の賛同を得て、国連憲章及びWHO憲章の精神に則った「国際パンデミック条約の締結」を提案した。「COVID-19の変異ウイルス及びその後の新興感染症の世界的流行を見越して、包括的で全分野に及ぶアプローチを採用し、IHRの執行強化、国際協調及び連帯の枠組み作りを目指す」というものだ。
「パンデミックワクチン」についての言及もある。予想される新型インフルエンザの大流行時に、感染源として新しく出現したウイルス株を用いて製造するワクチンのことだ。ウイルスが発生してからでないと製造できないため、発生前に新型インフルエンザに変異するのではないかと予測される鳥インフルエンザウイルスをもとに製造されるものは「プレパンデミック・ワクチン」という。

「コロナ禍対策の渦中にありながら、経済活動も止めない」
これが全世界的な共通アジェンダである。日本が出遅れた「ワクチン外交」を国際協調体制であるCOVAXやACTアクセラレータ、C-TAPの透明性を図っていくこと。そして国産ワクチンの開発強化を目の前の目標に掲げ、最先端の研究開発の拠点として、「先進的研究開発戦略センター(SCAR-DA:仮称スカーダ)」の新設を決定することが「ワクチン信用度」の世界最低レベルから脱する希望となるかもしれない。

他方で、「パンデミック条約」の未来への予見はいかなるものになるだろうか。政府間交渉機関(INB)が作業とタイムラインの工程途中で合意を目指す2022年3月1日に開かれる初会合と、草案取りまとめに関する議論の進捗段階の2022年8月1日に開かれる第2次会合。そしてその審議を知らせる公聴会をも開催する。第76回2023年度、世界保健総会(WHA)に報告書の進捗状況を伝える。その上で2024年度第77回WHAで考察の何らかの結果を出す、としている。

今日、WHO事務局長のテドロス氏により提案された暫定的な「パンデミック条約」のイニシアチブを発揮していくであろう上でINBだけでなく、国連制度機関、非国家アクター、その他の利害関係者をも巻き込んでいく見通しだという。

もしこの理想像が予定通り、実現することができたとしたら、「『新型コロナウイルス感染症(COVID-19)』との闘い」という、世界人類のグローバル・アジェンダは、人類の生命の危機を乗り越えることができるかもしれない。その時が来たら、私たち人間は地球温暖化や生物多様性の破壊のような地球環境を破壊し尽くしてきたプラネタリー・バウンダリーに対して傲慢そのものだったということに気づかなければならないだろう。

tomokihidachi

2003年、日芸文芸学科卒業。マガジンハウス「ダ・カーポ」編集部フリー契約ライター。編プロで書籍の編集職にも関わり、Devex.Japan、「国際開発ジャーナル」で記事を発表。本に関するWEBニュースサイト「ビーカイブ」から本格的にジャーナリズムの実績を積む。この他、TBS報道局CGルーム提携企業や(株)共同テレビジョン映像取材部に勤務した。個人で新潟中越大震災取材や3.11の2週間後にボランティアとして福島に現地入り。現在は市民ライター(種々雑多な副業と兼業)として執筆しながら21年目の闘病中。(株)「ログミー」編集部やクラウドソーシング系のフリー単発案件、NPO地域精神保健機構COMHBOで「コンボライター」の実績もある。(財)日本国際問題研究所「軍縮・科学技術センター」令和元年「軍縮・不拡散」合宿講座認定証取得。目下プログラミングの研修を控え体調調整しながら多くの案件にアプライ中。時代を鋭く抉る社会派作家志望!無数の不採用通知に負けず職業を選ばず様々な仕事をこなしながら書き続け、35年かけプロの作家になったノリーンエアズを敬愛。

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