米露英仏中の「核戦争回避 共同声明」だけでは不十分 広島出身の岸田首相の軍縮外交への本気度は?

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©️Reiter”U.S.and Russia,China,Britain,France say no one can win nuclear war”(2022年1月4日)

 2022年1月4日に予定されていた「NPT核拡散防止条約」再検討会議が今年8月まで4度目の延期となった。
 これを受けて核保有国の米露英仏中、五カ国は3日に先駆けて共同声明を出した。
「国連安保理常任理事国は、核保有国間で戦争を避けるべき責務があり、戦略的リスクの削減や安全保障の土壌を生み出す全ての諸国と共に働きかける目的を持ち続ける」。
 「我々は核戦争がいかなる勝者ももたらさないことや決して戦ってはならないことを確認した」。
 「核兵器を長期におよび保持し続けることは、我々にとって防衛、そして侵略を防ぐ目的で、戦争を抑止するべきことになる」。
 
 中国の馬朝旭外交副次官は共同声明で相互信頼と「大国の力を競争から調整と協調に置き換える」と中国が「核の先制不使用」政策を追記している。
 フランスもまた同声明を発表し、五大国が繰り返す核兵器の抑止と軍縮のための決意を強調した。五大国は二国間かつ複合的なアプローチを核兵器の抑止にしていくとも述べた。

 いわゆるP5と呼ばれる五大国は米国とロシア間で二カ国関係が冷戦終焉期以来、最低レベルまで落ち込み、そしてその間、米国と中国がまた非合意の範疇以上に最低な関係に陥った。

©️ピースボート「勝手にNPT再検討会議!2022」

報道の翌日、2022年1月4日夜、核兵器廃絶運動に長きに尽力されてきた(特活)「ピースボート」共同代表の川崎哲氏と司会の畠山澄子氏がYouTube Live配信「勝手にNPT再検討会議!2022」を主催し200余名の視聴者が参加した。

 川崎哲氏は報道を受けて「今回の五大核保有国共同声明はこの段階で出せたこと自体は意義がある。日本のメディアも称賛する取り上げ方の報道が多かった。それでも1995年(「NPT無期限延長))〜2000年(「核廃絶達成への明確な約束)など)までのNPT再検討会議における経過の実績に触れていない。また2020年6月16日にジュネーブで米国のジョー・バイデン大統領とロシアのウラジミール・プーチン大統領が初の米露首脳会談を行った。その席で『核軍縮・核管理で戦略的対話』を行うと発表した「米露共同声明」の流れも踏まえる。そこへ今回の共同声明の中身を改めて見ると『責務を果たす』とは言っているが、NPT条約第6条についてコミットしているから、それに備えて環境を整える。準備ができれば軍縮もしていく。というなんとも曖昧なものだ。第6条に『法的義務』を付与するという明確なメッセージだとはこの共同声明からは窺えない」旨を指摘した。

©️ピースボート「勝手にNPT再検討会議!2022」

唯一の被爆国である日本と米国の動向も振り返ろう。2021年4 月15日「菅(義偉)・バイデン共同声明」が公表された。
1)「自由、民主主義、人権、法の支配、国際法、多国間主義、自由で公正な経済秩序を含む普遍的価値及び共通の原則」
 2)「米国は核を含むあらゆる種類の米国の能力を用いた日米安全保障条約の下での日本の防衛に対する揺るぎない支持を改めて表明」
 3)「抑止力・対処力を強化」「防衛協力を深化」「拡大抑止を強化」
 4)「日米両国は、台湾海峡の平和と安定の重要性を強調すると共に、両岸問題の平和的解決を目指す」
 
上記4項目を日本の菅義偉前首相(当時)がバイデン米大統領に迫ったのは、米国が既に水面下で進めていた「核態勢の見直し(NPR)」と「核の先制不使用」問題の懸念を日本側が米国に主導権を任せ、バイデン米大統領の核軍縮政策に期待していたとも考察できるという。

 また、2021年10月にバイデン米政権は「米国、英国、オーストラリア」三カ国が同年9月に創設した新軍事同盟「オーカス(AUKUS)」を打ち出し、経済安保中心の「日米豪印」四カ国の「クアッド(QUAD)」と並び、広域的で重層的な対中同盟の再編構築を狙いとしたものだとする「海峡両岸論」の見方もあった。
「オーカス」に参画する非核保有国のオーストラリアが原子力潜水艦を保有すれば、核の軍事転用にもなりかねない懸念が払拭できない。

2022年1月年頭の首相記者会見で、岸田文雄首相は「新時代リアリズム外交」を掲げ、「唯一の被爆国である広島県に生まれた人間として、被爆者の方に耳を傾け、核保有国と日核保有国との橋渡しをしていきたい」と演説した。
 
―この「新時代リアリズム外交」というネーミングセンスにふさわしい外交を軍縮でも展開していけるのか。どれだけ岸田氏は被爆者への本気度を有言実行できる手腕があるのか?

 川崎氏は「(NPT再検討会議が延期されたことにより)3月にウィーンで別の軍縮会合(核物質防護条約レビュー会議)が開かれる予定だ。そのオブザーバー参加を(岸田氏が)するか、しないか?にまずかかってくる。これまでの核兵器禁止条約には日本は批准していないが、ぎりぎり『出口のところで核軍縮の最終的な評価』をしているところが、世界的に見ても日本の首相としてこれまでにやってきたことのない稀な首相であるかもしれない」と前向きな見方を示した。

 「核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)事務局のセリーヌ・ナオリ氏は「たとえ五大核保有国が共同声明を出したと言っても、最近もずっと中国と英国は軍拡で兵器増強を続けている。核の拡散や事故のリスクが高まり続けている。声明や対話の継続は歓迎できますが問題の核心は変わらず、全ての核兵器を廃絶しない限りリスクは高いままです」と警鐘を鳴らす。
©️「報道ステーション」(2022年1月4日放送)

©️ピースボート「勝手にNPT再検討会議!2022」

 上記は、「NGO共同声明」の要旨だが、より具体的に詳細を見ていくとまだまだアドボカシーが必要な項目もある。
 2022年1月に「核兵器禁止条約」が発効してから約1年。「日本はこの条約に批准していない。声明にも触れない。日本が真っ先に先頭を切って他国を引っ張ってゆくのが本来の役割ではないか」。長崎の被爆者の言葉が重く響く。

 

 
©️ピースボート「勝手にNPT再検討会議!2022」

 川崎氏の著書「核兵器禁止から廃絶へ」(岩波ブックレット)に軍縮問題がわかりやすく解説されている。さらに詳細な理解を求める人に勧めたい良書である。

tomokihidachi

2003年、日芸文芸学科卒業。マガジンハウス「ダ・カーポ」編集部フリー契約ライター。編プロで書籍の編集職にも関わり、Devex.Japan、「国際開発ジャーナル」で記事を発表。本に関するWEBニュースサイト「ビーカイブ」から本格的にジャーナリズムの実績を積む。この他、TBS報道局CGルーム提携企業や(株)共同テレビジョン映像取材部に勤務した。個人で新潟中越大震災取材や3.11の2週間後にボランティアとして福島に現地入り。現在は市民ライターとして執筆しながら16年目の闘病中。(株)「ログミー」編集部やクラウドソーシング系のフリー単発案件、NPO地域精神保健機構COMHBOで「コンボライター」の実績もある。(財)日本国際問題研究所「軍縮・科学技術センター」令和元年「軍縮・不拡散」合宿講座認定証取得。目下プログラミングの研修を控え体調調整しながら多くの案件にアプライ中。時代を鋭く抉る社会派作家志望!無数の不採用通知に負けず職業を選ばず様々な仕事をこなしながら書き続け、35年かけプロの作家になったノリーンエアズを敬愛。

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