『スーパーマリオ』シリーズや『ゼルダの伝説』シリーズ、『どうぶつの森』シリーズなど、ポップで明るい作風が多い任天堂のタイトルでも、ダークな雰囲気を持つのが特徴の『メトロイド』シリーズ。その最新作にして完全新作、『メトロイド ドレッド』がNintendo Switch向けに発売された。
任天堂作品の中で異色な世界観を持つということもあってか、他シリーズと比べ『メトロイド』シリーズはリリース数が少なめ。だからこそファンの『メトロイド』への愛は深く、熱烈といっていいはず。なのでファンの多くは、今回の『メトロイド ドレッド』の発表を聞き、「絶対買う!」と固く誓ったことだろう。
もちろん、筆者もそんな一人だ。
メトロイドヴァニアを作り出した『メトロイド』シリーズ最新作
シリーズとしては、欧米で2002年、日本で2003年に発売された『メトロイドフュージョン』以来、約19年ぶりのリリースとなる寡作タイトルなだけに、「『大乱闘スマッシュブラザーズ』ではサムスを使うけど、『メトロイド』自体はプレイしたことがない」という人も少なくないだろう。その点を踏まえて、この記事は『メトロイド』未経験という人にも伝わるように書いていく。
『メトロイド』を知る人からすると、クドく感じるかもしれないが、正直『メトロイド』のファンで、まだ本作を買っていないのなら、意を決して買ってしまおう。いきなり結論から書いてしまうと、今回の『メトロイド ドレッド』はとてもおもしろい。筆者は本作のエンディングまでプレイした上で言い切れる。
欠点がないわけではないが、後悔することは絶対にない。初代キャッチコピーである「メトロイド、オモロイド」は、本作にも有効だ!
本作、『メトロイド ドレッド』はファミコンのディスクシステムとして発売された、横スクロールアクションゲームの『メトロイド』シリーズ最新作。ゲームキューブから続くアクションFPS『メトロイドプライム』シリーズではない。横スクロールアクションゲームとしての『メトロイド』は、傑作中の傑作。
どのくらい傑作と言うと、「メトロイドヴァニア」という形で、ジャンル名になっているほど。すなわち、この先もゲーム史に名が残っていくレベルの傑作だ。
メトロイドヴァニアとは、アクションゲームの中でも、探索要素を強く取り入れた作品のこと。敵を倒しながらマップを移動する……という点は他のアクションゲームと変わらないのだが、アイテムを獲得することで今まで行けなかった場所へ行けるようになっていくという点に特徴がある。
探索すればするほど、探索場所が広がると同時に、キャラクターも強くなっていく。これがメトロイドヴァニアの魅力だ。
自分の過去を少しだけ振り返ってみてほしい。幼稚園や保育園、小学校、中学校、高校……と、成長していくにつれ、行動範囲が拡大しなかったろうか。最初は自転車で行ける範囲に限られていたけど、やがて一人でもバスや電車に乗れるように。そして、車やバイクの免許を取ると、さらに行動範囲は拡大していく。
今から振り返ると、自転車を使えることもバス・電車を使えることも、なんてことはない。当たり前の日常だ。でも、はじめて使えるようになったときは、世界が広がるとともに、自分の能力がアップしたような感覚を抱かなかっただろうか。メトロイドヴァニアの魅力は、こうした感覚に近い。
追われる恐怖! 執拗に迫る「E.M.M.I.」との戦い
本作は、メトロイドヴァニアの原点としての魅力を引き継いだ上で、さらに新たな要素を追加している。それは、「追われる恐怖」!
本作では、プレイヤーが操る主人公・サムスを追跡する存在、「E.M.M.I.」が登場する。E.M.M.I.はサムスのいる惑星ZDRへ調査ロボットとして送り込まれた存在。つまり、サムスにとっては本来味方といえるのだが、何らかの理由によってサムスを敵とみなしており、執拗に襲ってくる。
終われるだけでも相当怖いのだが、接触するとほぼ即死ということで、さらに緊張感が高まっている。「即死」ではなく「ほぼ即死」というのは、一応、緊急回避が用意されているから。E.M.M.I.の攻撃タイミングに合わせてボタンを押すことで逃げることが可能。しかし、タイミングが非常にシビアなので、捕まったらまず間違いなく即死と思っていい。
ホラーゲームに詳しい人であれば、E.M.M.I.から『バイオハザード』の「追跡者(ネメシス)」や、『Dead by Daylight』といった鬼ごっこ要素を思い浮かべるかもしれない。確かに、「追跡されるというのが怖い」という点で、E.M.M.I.とホラーゲームの追跡要素は似ている。しかし、ホラーゲームの追跡要素と異なる点が、『メトロイド』シリーズが持つ強烈な魅力……「発見」だ。
突き抜ける快感! 一回だけのお楽しみ“発見”
“発見”というのは、とても気持ちイイ。快感と言っていい行為だ。日常で、何か“発見”したことを思い出してみてほしい。そんな大きな発見でなくていい。たとえば、「ご飯にチョイ足ししたら超美味しくなる素材を見つけた」だとか、「なんとなく入ったラーメン屋がめちゃくちゃ美味かった」なんてものでOK。
こうした“発見”をしたとき、「凄いものを見つけちゃったぜ!」という感動と、「発見したオレすげえ!」という達成感や優越感のようなものを感じないだろうか。これこそ、“発見”の気持ちよさ。そんな気持ちのいい“発見”を、効率よく味わうことができるゲーム……それが、『メトロイド』シリーズなのだ。
そもそも任天堂は『メトロイド』に限らず、ゲームに“発見”要素を盛り込むのが巧い。
たとえば『スーパーマリオ』シリーズでは、「こんな場所に隠しステージが!」という“発見”が、『F-ZERO』や『マリオカート』シリーズでは、「このルートで時間短縮できるぞ!」という発見が、『ゼルダの伝説』シリーズでは、「このアイテムはこんな使い方もできるんだ!」という発見が、それぞれ盛り込まれている。
そんな中で、とりわけ強く“発見”を味わえるのが『メトロイド』シリーズ。ゲームを通して、「ルートの発見」→「アイテムの発見」という流れを繰り返す構成になっている。
『メトロイド』をプレイすると、マップ中、その時点ではどうしても進むことができないルートというのが出てくる。その時点ではアイテムを取得していないため、移動能力的に到達できなかったり、障害物が排除できなかったりするためだ。
こうした進行不能ルートの存在はプレイヤーの記憶の隅に残るが、当面は別ルートを進むことになるため、徐々に薄れていく。そして、記憶から薄れてきたタイミングで、新たなアイテムをゲット。このとき、「あれ……前に進めないルートがあったよな、あそこ、このアイテムで……」とうっすらと思い出し、ルートを開拓できるかどうか試したくなる。
試して実際に正しければ、新たなルートを“発見”! その先にはまた進行不能ルートや新アイテムが待っている。『メトロイド』はこうした繰り返しによって構成されているゲームだ。
言葉にしてしまえば、「ルートの発見」→「アイテムの発見」という単純な構造だが、この構造で「楽しい」と思えるものを作るのは難しい。肝は、プレイヤーが進行不能ルートの存在をちょうどいい具合に忘れたところで新アイテムを出すこと。
進行不能ルートの存在をはっきり覚えている状態だと“発見”の感動が味わえないし、完全に忘れ去った状態だと、“発見”の機会が失われてしまう。任天堂の巧みな部分と、『メトロイド』が傑作な点はここ。『メトロイド』のゲームシステムをマネることはできても、“発見”のタイミングの調整をマネすることは難しいだろう。
「ルートの発見」という点で本作で特に舌を巻いたのは、「モーフボール」が必要なルート。モーフボールとは、サムスの体をボール状に変化させるアイテム。このアイテムを使うことでサムスはしゃがみ状態でも入れないような細い道を進行可能になる。
サムスの基本能力のひとつといってもいいくらいで、歴代シリーズでもゲームの早い段階で獲得できるアイテムだ。
しかし本作ではそんなモーフボールが、ゲーム序盤を過ぎるころまで登場しない。この結果何が起きるかというと、シリーズ経験者であれば、探索中「ここ、モーフボールであれば入れそうなのに」……という思いを数多く味わうのだ。そして、モーフボールが手に入った瞬間、「これで、あそこやここが確認できるぞ!」と行動範囲が一気に広がっていく。この気持ちよさと言ったら!
なお、『メトロイド』における発見は「ルートの発見」→「アイテムの発見」だけではない。ボス戦にも“発見”が用意されている。『メトロイド』のボスは行動パターンとそれに対する攻略法が明確。基本的には、ボスのパターンに応じたアクションを取れば、倒すことができる。
つまり、ボスの行動に対する正解アクションが“発見”できれば、攻略できるということ。
「ボスのパターンに応じたアクションを取る」というバトル設計は、『メトロイド』だけのものではない。多くのアクションゲームで採用されている設計だ。ただ、『メトロイド』……とりわけ本作『メトロイド ドレッド』は、正解アクションを発見させるやり方が巧い。ボスの行動パターンへの対処法を、様々な形で提示してくれる。
たとえば、ボスの行動パターン1への対処法、ボスの行動パターン2への対処法というのを提示した上で、ボスが2つの行動パターンをランダムに織り交ぜるようになる……という形。
ボスが行動パターンを突然変えたので、一瞬「どうすればいいんだ!?」と思うが、実はそれは既に行動パターン1で経験しているので、「あ、これ、最初のパターンと同じやり方で対応できるじゃん!」と“発見”できるわけだ。
ルートの“発見”に、ボス攻略法の“発見”といった要素は、これまでの『メトロイド』シリーズでも持ち合わせていた。では本作ならではの“発見”はないのか? ……もちろん、そんなわけはない。
本作で初登場となった追跡者E.M.M.I.との戦いも、“発見”に満ちている。そのひとつは、E.M.M.I.からどう逃げるのか? という逃げ方の“発見”。本作のE.M.M.I.との追跡劇がホラーゲームの追跡要素と決定的に違う点が、主人公・サムスの運動能力の高さにある。
壁を使った三角飛びジャンプ、スピーディーなスライディング、いざ捕まってもメレー攻撃による緊急脱出……と、ゲームスタート時点においてもサムスの能力は高い。さらにゲームが進むことで、天井に捕まったり、「ファントムクローク」によって透明&音の出ない状態になったり……と、運動能力がアップしていく。
その上、ドアなどのマップギミックを使うことができるので、さまざまな逃走ルートが考えられる。E.M.M.I.は狡猾で追跡能力が高いので、簡単に振り切れるわけもなく非常にスリリング。だが、このスリルがあるからこそ、自分の“発見”したルートでE.M.M.I.を撒いたときの気持ちよさは格別。
このように、本作では先に進むためのルートを発見したときとはまた別の“発見”の快感を味わうことができるのだ。
また、E.M.M.I.から逃げるだけでなく、倒す際にも“発見”が存在している。そう、実はE.M.M.I.は倒すことができる。といっても、いつでも倒せるわけではない。ゲームが進むとE.M.M.I.とのバトルが用意されており、このバトルのタイミングでのみ倒すことが可能。
倒すためにはまず「オメガストリーム」という攻撃でE.M.M.I.頭部の装甲を破壊し、コアを露出させる。その後、チャージが必要な「オメガブラスター」を当てなければならない。
つまり、E.M.M.I.を倒すには、「頭部装甲の破壊」、「オメガブラスターチャージ」という二段階の工程が必要。もちろん、その間、E.M.M.I.はにじり寄ってくる。このため、E.M.M.I.との距離を確保できる場所で戦わなければならない。その場所はどこにあるのか?……そう、ここに用意されているのも“発見”だ。
本作『メトロイド ドレッド』は、これまでのシリーズが持っていた「ルートの発見」→「アイテムの発見」、「ボス対処法の発見」という発見サイクルに、「E.M.M.I.からの逃走ルートの発見」「E.M.M.I.を倒すための場所の発見」という“発見”要素を追加。これによって本作は、シリーズの中でも特に「発見の楽しさ」に満ちた作品となっている。
ところで、“発見”が楽しさとなっているだけに、攻略サイトなどを見ながらプレイすると楽しさが軽減してしまうことには注意が必要だろう。サイトに書かれた攻略法どおりプレイすればスムーズに進めるだろうが、当然そこに「自分が発見した!」という喜びはない。
ただ、行き詰まってしまってどうすればいいのかわからないという状況はとてもつらいので、どうしてもわからない、行き詰ってしまった状況だけ攻略法を参照する……といったプレイ方法はオススメできる。
なお、攻略サイトなどを見ながらのプレイは楽しさを「軽減」すると書いたが、損なわれるとは書かなかった。これは“発見”の楽しさがなくとも、本作はアクションゲームとして十分楽しいからだ。本作は過去作よりもアクションがスピーディーになっており、アクションゲームとしての楽しさが味わえる。
特に、敵の攻撃直前でメレーアタックを繰り出すことで可能な「メレーカウンター」が気持ちイイ。「メレーカウンター」で敵を倒すと回復アイテムやミサイル弾が大量出現するため、アクションとしての爽快感だけでなく、ゲーム進行上の快適性も獲得できる。
気になる欠点は「ロード時間の長さ」
この記事の最初に書いた通り、本作はおもしろい。しかし、欠点も持っている。それは、ロード時間の長さだ。本作は、エリアをまたぐマップ移動時にロードが発生する。これが、興奮がリセットされる程度に長い。アクションがスピードアップしているため、ゲーム自体のテンポは速く感じるだけに、このロード時間の長さはどうしても気になってしまう。
ロード時間の問題が特に顕在化するのが、進行に行き詰まったとき。本作において行き詰まったときというのは、「どこかでアイテムを取り逃している」「アイテムは揃っているが、その使い方や使い場所を発見できていない」という2パターン存在する。
ただ当然ながら、行き詰まっている本人には、この内どちらが原因なのかがわからない。このため、あれこれ行動を試すことになる。もちろん、前のエリアに戻って取り逃したアイテムがないか探すという行為もある。このとき、「あれこれ試したい」にもかかわらず、ロードの待ち時間が発生するので、エリア間移動が億劫になってしまう。
「発見」がテーマの作品だけに、「試行錯誤」が苦痛に感じられるような仕様は、やはり残念だ。
メトロイドファンもアクションゲーム好きも「買い」な一作
そんなロードの点は欠点だと思うものの、本作に他に目立った欠点はなく、むしろとても素晴らしい作品。傑作シリーズの新作は、やはり傑作だったと思える作品だ。アクションゲーム好きや、「スマブラ」でサムスの名前だけ知っているという人も含めて、「買い」な一作といっていいだろう。
そして何より、『メトロイド』シリーズのファンは絶対買い。なぜなら、本作において『メトロイド』の物語に一区切りがつくからだ。主人公であるサムスの身に起きる出来事も見逃せないし、ストーリー的にこれまでの伏線を回収するような形になっているため、ぜひともプレイすることをオススメしたい。
筆者も、このレビュー用のソフトを自腹で購入している。それも「スペシャルエディション」で購入したが、満足度は高い。2021年オススメの作品のひとつだ。
文/田中一広