住宅ローンを組んで、夢のマイホームを建てる!これで一国一城の主!
夢を手に入れるのであれば35年間家賃より高い金額を払うことは大丈夫。銀行に実印を握り締めて金融消費賃貸契約書に烙印するかたはいまも多くいます。
これほどまでに建築のあり方が変わっているのに1960年代に始まった1国1城という夢のあり方は正しいのでしょうか?
1964年の東京オリンピックでは周りにも多くの建設現場が立ち並び、前衛的な建築物が次々と作られていきました。丹下健三の代々木体育館などは現代でも最高の建築物といわれている名建築です。
しかし2020年の東京オリンピックを見てください。ザハ・ハディドが国際コンペで1等を取った前衛的な競技場は予算が3000億とかかりすぎるからと言う理由でまったく違ったものとなる予定です。
パワービルダー・ハウスメーカーで多くの建売住宅を設計という立場で手がけてきて疑問に思っていました。1960年代のマイホームブームは通用するのでしょうか?
パワービルダー・ハウスメーカーと協同して住宅を設計していたので、空き家問題に対して傍観していました。しかし決定的な出来事が起こりました。多摩市の小平の敷地で開発行為を行った時です。事前調査でハウスメーカーやパワービルダーの空き家が多くあるのに新築の建売分譲住宅を作ろうとした時でした。
ここで郊外の夢は現在も果たして通用するだろうかと真剣に考えました。
全国の住宅の棟数は2015年で6063万戸と言われています。
空き家は全国で820万戸、13.5%が空き家といわれています。
日本では「高齢化」と「空き家」が大きな問題となっている。これらはわが国で深刻な問題となっています。特に2035年には5棟に1棟が空き家になるといわれています。
「なぜ空き家は増え続けるのでしょうか?」
一般には「高齢化社会」と「人口減少」が理由だと言われています。1960年~1970年代に高度経済成長とともに多くのサラリーマンが夢を持って千葉や横浜南部の郊外に住宅を購入した。その夢のマイホームは30年、40年のときを経て子供はより便利な都心部に住むことで人口が減少し、高齢化して多くの空き家が増えるという現象が起きています。
しかし実際はこの現象というよりはもっとも大きな要因は新築住宅着工数にあると思います。昭和50年のピーク時の160万戸から2010年は80万戸ほどに減ったといっても相変わらず空き家率は増加しているのに新築は作られ続けています。
2013年には既存住宅だけでも空き家率は13.5%となっているのに、年間新築住宅着工数は80万戸となっています。これはどう考えてもおかしいとは思いませんか?毎年80万戸以上の空き家が必然的に生み出されているということですから10年、20年はゴーストタウンだらけになります。
しかしアパート建築、建売住宅、注文住宅市場、開発地域でのマンション開発はいまだに行われ続け、パワービルダー、ハウスメーカー、ゼネコンでは多くの新築を作り続けています。
そのうえ国策として景気対応策としてあまりに多くの新築がカンフル剤として利用されてきました。これは1000戸作ると500億の経済効果を生み、3000人の雇用を生み出すからです。1967年には住宅は十分に確保されていたのにそれでも国が新築作りを奨励してきたのも拍車をかけています。
このままいくと2030年には30.2%。3軒に1件が空き家になるといわれています。空き家問題はNHKの「アパート建築が止まらない~人口減少社会でなぜ~」などでもたびたび特集を組まれており、行政でも取り上げられるほどの問題となっています。リノベーションスクールなど地方都市の未使用の空き家の利用について考える活動は多くの建築家や地方自治体が連携を組んで行っています。
ところが新築住宅市場の多く手がけるハウスメーカーやパワービルダーにはほとんど彼らの声が届いていない。一番大きな問題は建築行為をするときにその企業や組織で考え方がまったく異なっている。統一していないということです。これには多くの溝があると感じています。
「需要」と「利益」
新築住宅市場を担っているのはハウスメーカーやパワービルダーです。今回はそちら側に立って話そうと思います。私たちの周りにある建築は「空室」というものと常日頃闘っています。これは新築の住宅でも同じである。建売住宅は建ったあとに1年以上たつと購入者がいなくても新築という扱いにならなくなるがこれも未入居住宅となる可能性を持っているからです。なら不動産事業者はこのような住宅をリスクを冒してまで作るのでしょうか?
結論から言うと「需要」と「利益」のために新築は作られ続ける
資本主義社会に行き続けている限り、利益をあげることで会社は存続します。
「顧客に安全で心地よい住まいを提供する。」これも企業理念ではなくてはならないものです。ただし、営業の観点から言うと違う目的が優先されている現状があります。それはハウスメーカーやパワービルダーが新築住宅を手がけるのは利益を確実に確保できるからです。
主に空き家の生成の要因となるのは10つの要因からです。
住宅の購入を考えている方は
建築作りをする前に知っておくことをおすすめします。
1.新築分譲住宅
新築住宅分譲住宅の仕組み
ここでいう新築分譲住宅とは建売住宅と呼ばれるものです。新築住宅着工数は年間80万戸ほどですがこの20万戸。4分の1を占めるのがこのタイプの住宅です。
新築分譲住宅の多くは人口が密集する地域で多く作られます。関東圏では都心部の立地のいい場所に作るのが多く存在します。千葉や多摩などの比較的勤務地に近い郊外にもたくさん作られています。基本的には建売住宅の概念は中野などの勤務地に近い場所に作られます。200㎡、300㎡の土地を不動産屋がまとめて仕入れて、100㎡ほどに区割りして販売するのが建築の手法です。
基本的には
1.土地+建築条件付 2.土地+建売住宅 3.土地のみ
で販売されます。建売住宅の需要はまさに交通の便と売買価格にあると言っても過言ではありません。基本的には駅から徒歩圏10分、4000万~5000万が都心部の基本的な価格帯です。
特に関東圏の都心で立地のいい場所で注文住宅を作る場合は
土地 4000万以上
建設費 2000万以上
合計 6000万以上(消費税込)
最低でも6000万以上はすると言われています。
6000万は当然ながら住宅ローンという借り入れをするわけなので
年収800万の世帯が7倍の借り入れをして自己資金600万でまかなう値段です。建売住宅はマンションと注文住宅の間をうまく取っており、注文住宅よりも500万~1000万ほど安く手に入ります。サラリーマン世帯にとっては家作りを建築家と行い、注文住宅のように何度も打ち合わせに行くのが面倒なのであらかじめ住むための空間を揃えた住宅は購入しやすいものです。
30年後の分譲住宅はどうなるか?
ただし、これらの建売住宅は千葉や多摩などの郊外にも庭付一戸建てとして販売されていますがほとんどの場合は住宅の世代交代が起こっており、息子世帯は都心のマンションなどに移り住み、高齢化が進むので必然的に年を経つごとに空き家率の増加が増えています。これはあらかじめ新築の戸建て住宅が100年、200年の時を経て流通する概念が日本には無いということがあります。
30年後の分譲住宅は世帯の分離が始まっており、子供世帯と親世帯は分かれて暮らします。そこで親世帯の住宅を相続することになった場合、都心部や勤務先に近い利便性の土地であればリノベーションして、転貸、売却することができますが郊外では建物の値段はなくなり、買い手はいないという状況が生まれます。これが空き家予備軍となるのです。
スムストック(中古再生販売)などの対応策
最近の中古再生住宅ではスムストックなどの中古再生販売事業などが注目を集めています。スムストックは大手ハウスメーカーが協定を結び、自社の製品の中古住宅がある基準をクリアしていれば、さほど売却価格を下げることなく売ることができるというシステムです。
このシステムは既製品を用いた標準化住宅には最適とも言えるシステムです。日本では新築が一番高値で販売されていますが、イギリスなどでは100年、200年経ったコンドミニウムのほうが高値で取引されています。長期優良住宅のような認定制度を業界全体ですすめていけば20年、30年経過しても価格帯をほとんど下げずに売却できる世の中になる可能性があります。
2.新築分譲アパート
新築分譲アパートの仕組み
新築分譲アパートはNHKのサブリース問題でも特集されたように大きな社会問題になっている建築のひとつです。新築分譲アパートはハウスメーカーやパワービルダーにとってはとても利益率が高い商品です。例えば建売住宅・注文住宅と比較すると2000万、3000万ほどの利益を手に入れることができます。住宅との利益率の差は5倍、6倍ほどになります。
企業はほとんどの場合は利益を獲得するのが重要となるのでこの新築分譲アパートを営業マンは積極的に薦めます。
ハウスメーカーやパワービルダーの利益は施主から振り込まれるのではなく、施主と賃貸借契約を行う融資先から一括で振り込まれます。施主はローンや土地建物の担保等を行うので長期にわたって支払い続けますが、企業の利益で考えると契約を締結することが第一に重要なことになってくるため、郊外の田畑など本当に必要なのかと思える場所にもアパートを作りませんかと営業を仕掛けるのです。そうしてサブリース問題に出てくる空室だらけの新築分譲アパートが形成されるのです。
これは負のスパイラルといっても過言ではありません。営業マンにとっては契約や利益を獲得できないと会社にいづらくなることがほとんどです。本人がやりたくないと思っていても契約のために営業をしないといけないのが現状です。
30年後の分譲アパートはどうなるか?
30年後のアパートはどうなるのでしょうか?アパートも住宅と同様に耐用年数が存在します。新築時は設備の劣化などはほとんど賃料なども下がることはないですが、10年ほど経つと水周りの配管設備の劣化が見られます。アパートの設備や外装などの改修時期は一般には10年~15年ほどといわれています。
分譲アパートは勤務地や学校に近いなどの立地が非常に重要になってきます。大学や勤務地から徒歩10分以内、価格帯も相場以下であれば10年、20年を経ても清掃や補修などを行えば空室になることはほとんどありません。
しかし固定資産税や相続税などの節税のために郊外に分譲アパートを建設したときが非常に怖い。しっかりとした周辺調査をしておかないと新築したときから空き家になるという現象がうまれます。これが非常に問題になっています。
埼玉県北部、人口5万の羽生市では本来は都市の中心部だけに住宅を作ることが可能でしたが、若い世代の流入に繋がるように緩和を行いました。平成15年から全域で新築住宅を作れるようにしたのです。これによりサブリースの分譲アパートが150棟ほどできました。それにより空き部屋率は35.8%となり町の空洞化につながりました。
サブリースへの認識・郊外の不動産投資開発などの対応策
分譲アパートで問題になるのはサブリースの長期の賃貸保障です。これは30年間に渡って空室が出た場合も仲介会社が保障して家賃を払い続けるというものです。
分譲アパートは1億円から2億円ほどする高額商品ですが、「長期保証により老後は賃貸収入で安定経営が可能になる」と営業マンにいわれ、老後の安定を手に入れるために施主は契約を結びます。
サブリースの認識の甘さはここにあり、この家賃保障の金額は管理会社が定期的に改変できるものとなっています。そこで空室率が多いアパートは年々家賃価格が下がっていくという現象が生まれます。そもそも20年経つと建築の価値は0になるといわれているのに、30年も長期保障するというのは無理があるのです。ましてや郊外の畑に作ったアパートが満室になるはずがありません。
また新築アパートは節税対策にもなると言われます。不動産投資開発の世界では相続税や固定資産税の節税対策についての説明会などを多く開催しています。ほとんどの場合が新築アパートを作ることで利益を得られるハウスメーカー・パワービルダー・不動産会社主催で行うわけですがここで営業マンに言われるのが「アパートを作ると節税対策になる」です。
これは固定資産税や相続税が多くの場合は分譲アパートを作ることで節税になるからです。一般には固定資産税は更地よりも建物があると1/6になるので建築したほうが節税になります。相続税も建築すると土地の評価額が下がるので節税になるのです。これらは確かな情報ですが基本的にアパートの収入は空室率が低く、賃料価格のバランスが取れて初めてなりたつものです。なので本当にその場所に作ることで事業としてうまくいくのかどうかを下調べしてからハウスメーカーや不動産屋に相談することを薦めます。
終わりに
需要と利益
ピーター・ドラッカーは「企業は顧客が創造する」という言葉を残しているが新築住宅を求める若い夫婦などはまだまだたくさん存在する。新築にすむという行為は決して悪いことではないです。一方でなぜ空き家が増え続けるのかを新築行為を作ることから知ってほしい。
ようするに需要があるから新築住宅が作られるのです。
ただし利益のあり方を変えることはできるのではないでしょうか?
本来であるならば住宅の供給量を国が率先して調整するべきでした。
しかし、経済活動が優先されるあまりないがしろにされてきました。
新しい敷地に建築を作ることを考えたときに既存のものをリノベーションするのと、新築を作るのではどちらの事業計画書の方が利益率が高いのかを見るはずです。日本の建築のサイクルで見るとほとんどの場合は新築の事業計画書しか作られないというのが現状としてあります。
このときに改修の事業計画書で新築以上に利益を上げることができるのであればハウスメーカーやパワービルダーもまた中古再生住宅事業により乗り出すのではないでしょうか?すぐにとは言いません。少しずつその考え方を変えることによってなんでも新築住宅を作ることに対して疑問を持ってほしいのです。
認識すること
私たちがこれから取り組むべきことは空き家問題に対して正確な認識をすることだと思います。2030年には3分の1が空き家になると野村総研の調べでは言われていますがこれは大げさな話ではありません。すでに7軒に1軒が空き家の時代となっています。まずは住宅作り、夢のマイホームを手に入れるときにこうした情報を認識することが大事になってくると思います。
実践すること
やはり行動なくして実践はありえません。空き家対策を行うには小さな部分でもいいから空いている場所を見つけたらその場所の有効活用を見つけ、再生する手立てを実行するという行為が必要になってきます。
空き家問題を考えるときに重要なのは実践に移すということです。今でも人口減少は進んでおり、新築住宅着工数はこれから減るといっても60万~80万以上は毎年増え続けています。
新築を考える方はまずは30年後、40年後どうなるのかを真剣に考えながら建築作りに取り組むべきです。建築設計という立場なので新築自体には大きく反対はしません。自分の子供のことも考えて長期的な視野で新築作りを行うことをおすすめします。
空き家は郊外ならゲストハウスやサテライトオフィスに転用したり、都心部なら新しいデザインの付加価値を付けて貸したり、転売することも可能です。お金がかかるのを躊躇する方はまずはAIRBNB・UBERなどのシェアリング・エコノミーを利用して空いたスペースを貸し出すというのも方法の1つです。
シェアリング・エコノミーの規制緩和は今後進んでいくと考えられますが1人1人が持ち家だけでなく、1つの空き家を複数世帯がSNSやウェブを通してコワーキングスペースやゲストハウスとしてシェアする「ソーシャル・シェア」という概念を通して共有する時代が近い将来くると信じています。