「宇宙外交」時代へ 軍事費をコロナ医療費に

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 第二次安倍晋三政権終盤まで国会で紛糾した「陸上イージス・アショア導入」代替議論。
 政府は国家安全保障会議(NSC)で、陸上自衛隊のむつみ演習場(山口県)と再調査していた新屋演習場(秋田県)を含む東北20カ所について配備することを断念。代替地を新たに見つけることも難しいと確認した。
河野太郎前防衛相は「イージス艦をミサイル防衛のみに当てるのは得策ではない」とした上で「弾道ミサイルの新たな技術も生み出され、その対応も検討する必要がある」と述べた。
自民党は党是として、かねてから「敵基地攻撃能力」の保有を議論してきた。「専守防衛」を主張すると必ずセットでついてくる「移動式の洋上プラットフォーム」に搭載する三案で、その対価コストが莫大なため与党からも危惧する声が上がっていた。
 

「70周年参戦」軍事強国化を突き進む中国

 中国はその経済力を背景に軍事強国化をこれまで以上に強めている。「70周年(朝鮮戦争)参戦」などでも中国人民解放軍に激を飛ばした。
 米国にとっては中国との対立問題の核とは台湾だ。1995年〜1996年の台湾危機で米軍との力を思い知った中国は、「A2/AD(接近阻止・領域拒否)」能力開発からINF全廃条約執行に続くミサイル開発を急いだ。四半世紀を経て、中国の習近平国家主席は度々「中台統一」の夢、具現化を目指す。その際、危惧されるのは、日米共同作戦だ。中国は日本の役割に神経を尖らす。
2014年から集団的自衛権、安保法制、存立危機事態、。いずれも自衛隊に後方支援を実行可能なミッションとして、無理矢理「合法化された戦争」への道を開いた。あの第四次米朝核危機の際、危機が去って後、当時を振り返った河野克俊 元自衛隊幕僚長は、同上の無理矢理合法化された戦争3点セットで現場の後方支援指揮を取る目前までいったことを打ち明けていた。

「敵基地攻撃能力」は北朝鮮を挑発し戦争に向かわせるだけだ

ではその敵性国家当事国の北朝鮮は対日安全保障をいかに位置付けてきたのか?
安倍政権が「敵基地攻撃能力」保有論を明言すると、2017年、第四次米朝核危機の際、日本列島の地図に日本作戦地帯と書いたものを労働新聞で公開した。日米韓の専門家らは「北朝鮮の中短距離ミサイルは、釜山や岩国の在韓・在日米軍基地を先制攻撃するためにある」と見做してきたのだ。

日米韓は、なぜ北朝鮮のミサイル開発を止められなかったのか?
米国が自国の利益や本土防衛を優先してきた過去があり、日米韓の三カ国同盟にズレが生じているからではないか。
今6月には韓国と合意した開城工業団地連絡事務所も北朝鮮は爆破した。自衛隊幹部は「日米韓の協力がうまくいかないと、地政学的に日本海に力の空白が生まれ、北朝鮮に隙を与えてしまう」との懸念があった。

「核のボタン 新たな核開発競争とトルーマンからトランプまでの大統領権力」ウィリアム・ペリー元国務長官、トム・コリーナ氏共著書からも知見を得た。

「(目前に迫った)米大統領選は新型コロナとそれがもたらした経済危機により、次期大統領は国防予算を削減するか、天文学的な額の負債を拡大させ続けるかという明確な選択をしなければならない。なかでも核兵器は削減対象であることは自明の理だ」ウィリアム・ペリー氏に次いでトム・コリーナ氏も次のように分析した。

「オバマ政権期の副大統領を務めていたバイデン氏は当時、先制不使用政策を支持する演説もしていた。米露間で唯一の核軍縮の枠組みになっている新戦略兵器削減条約(新START)も来年2月の失効期限を延長するだろう」

その予見通り、ロシアは新戦略兵器削減条約(新START)の来年2月失効から一年延期する意向を示した。ただし、米国は既存の条約でロシア側が多数保有する短中距離戦術核弾道を制限し、中国の参加を延長の前提条件とした。

©️「防衛省・自衛隊」プレスリリース

「宇宙軍拡」ではなく「宇宙外交」による平和を」

「宇宙基本計画」改定により日米同盟の強化を狙う「安全保障」が40回以上明記された。
意図としては「宇宙を戦闘領域/作戦領域」
への位置付け。平時も有事も網羅的にあらゆる段階で宇宙利用を優位にするというものだ。
中国やロシアが衛星の破壊や追跡などの軍事開発を進めている。
米軍に新設された宇宙軍トップ ジョン・レイモンド宇宙作戦部長が、こうした中露などの兵器や宇宙ごみから自国の軍事・商業衛星の安全を確保するための宇宙監視の役割を強調するのは「宇宙空間はもはや平和空間ではなくなった。戦闘空間になりつつある」からだ。
中露は対衛星ミサイルなどの実験や開発を進めており、米宇宙軍はロシアによる対衛星ミサイルの発射実験を追尾した。
2019年12月には米宇宙軍、2020年5月には日本の自衛隊に「宇宙作戦隊」が創設された。
それに続き、2023年には宇宙航空研究開発機構(JAXA)が米航空宇宙局(NASA)とレーダーを共同で保有し宇宙監視の情報共有している日米協力体制を防衛省中心にシフトする。さらに打ち上げ予定の日本版GPS(全地球測位システム)準天頂衛星「みちびき」に米軍のセンサーが搭載される目処がたっている。日米の宇宙監視は新たなステージに上がる。

極超音速兵器は中露も開発段階にあり、米国のマッハ25がたとえ世界最速で断トツだとしても、ロシアの搭載艦「ブラモス」や「アバンガルド」には、マッハ5で発射される極超音速兵器が実射開発実験段階に既にある。
既存の早期警戒衛星では探知し難い。
そこで米国は幾つもの小型衛星を配備し探知する計画を進行中だ。日本も米国の手習いでこれに続く。
だがこれでは宇宙軍拡競争への道を突き進むようで、米NGO「憂慮する科学者同盟」は「制約のない兵器開発は宇宙をより危険にする競争に繋がる。外交こそが今すぐ求められている」と声明を出した。
「宇宙外交」とは人類は着手し始めたばかりの新聖域だ。
宇宙空間の規則作りも2008年に欧州連合(EU)が「行動規範」を提案した。日米の支持は得られたが、中露は支持しなかった。
代わりに同年、「宇宙空間への兵器配備を制限する条約」をジュネーヴ軍縮会議に提案したが、欧米が逆に強硬に反対した。
日米同盟に宇宙という新領域が加わると第一歩となる「宇宙状況監視(SSA)」による米国の空の上で起きている領域は米国が見るがアジア方面は日本が見ると領域役割負担するという日米の連携強化を志向している。

ゴルバチョフ氏 兵器開発は医療や教育、自然保護分野に充てるべき

©️「シネマトゥデイ」

だが、そんな短絡的な宇宙軍拡を吹き飛ばしてしまうような時の賢者の論稿が朝日新聞に寄稿された。「ペレストロイカ」改革を始めとする非核化「試練としてのパンデミックと21世紀の新思考」だ。冷戦終結宣言などで知られる平和貢献のミハイル・ゴルバチョフ元ソ連大統領が執筆した。(89)。

「軍拡と政策や思考の軍事化こそ、現代人にとって最も深刻な脅威であり、その自由を制限し、常にその生命を脅かしている」という考え方だ。開発や実験という新型兵器の生産に投じられる資金は、何よりも医療や教育、自然保護分野の発展に向けられるべきだろう」

©️「朝日新聞」核軍備費を新型コロナ対策の医療費に使うと?(NGO ICAN 川崎哲氏 試算)

コロナで貧困は途上国だけの問題ではなくなった。「相対的貧困率」は世界の国別に見ると、経済協力開発機構(OECD、37カ国)の加盟国では、平均で11.7%(2016年)の人々が「相対的貧困」に該当する。厚労省によると、日本は平均よりも高い15.8%(18年)。シングルマザーなど一人親世代では48.2%に上る。雇用形態が不安定にある人や女性など立場の脆弱な人ほど経済格差が生まれやすい。

国際労働機関(ILO)ガイ・ライダー事務局長は「新型コロナウイルスで貧困層が増大し、非常に危険な水域に入っている」
とコロナ危機早々から警告していた。

国連世界食糧計画(WFP)焼屋直絵 日本事務所代表
「コロナによる『飢餓パンデミック(世界的流行)』干魃や洪水、武力衝突、バッタの大量発生による農産物被害も追い討ちをかける」

©️「時事通信」

今年9月、ケニヤを始めとするアフリカ諸国でサバクトビバッタが大発生した。農産物に多大な害が出ており、三か月で約20倍に増殖し、1キロ平方メートル(約四千万匹)の群れで1日あたり約3万5,000人分の食糧を食べ尽くしてしまう。
ケニヤ欧州対外行動庁のサイモン・モーデュー大使は「グローバルチーム欧州の一員として新型コロナウイルスについて答える。欧州連合の加盟諸国であるケニアにはパンデミックの間ずっと40シリング近く広範に渡り支援し続けてきた。この指導力が重要なのは反主流共同体と残りの社会との結びつきを強める
からだ。居住しているケニア市民も同様のことが言える」。

前出のゴルバチョフ氏もコロナ・パンデミックのみならず、異常食物連鎖による飢餓など2030年までに目指す、「世界共通の行動計画SDGs(持続可能な開発目標)」への導が危ぶまれていることまで俯瞰的に見えている。

「安全保障は軍事面だけではない。人々の健康の保持であり、環境と天然資源、水、食糧の保護であり、飢餓と貧困との闘いでもある」とし「コロナ危機は米中の二極対立をより深刻化させており、世界政治の展望にとって好ましくない」と指摘した。

東京大学グローバル・コモンズ・センター
石井菜穂子ダイレクター
「なぜコロナの感染が起きたのかを考えることが重要だ。それは無計画な森林伐採や土地の利用が野生動物の領域に食い込んだ結果だった。だから人間の経済活動が自然の体系を壊さずに済むようにしなければならない」
「人新世」の世を生きているという自覚が必要だ」。
「人新世」とは人類の活動が生態系や気候に与える影響が膨らんだ結果、地球の状態を人間が支配する新たな地質年代に入ったとする考え方。経済・社会活動による環境負荷により、地球の限界(プラネタリー・バウンダリー)を踏み越えているとする指摘もあるという。

前出のゴルバチョフ氏は「核兵器もコロナも人類への脅威である。1980年代後半、米ソが核軍縮で初となる合意に達した時、人類は呼吸が楽になった。コロナ後も、人類生存のための共通の責任を認識することで対立から協調への移行は可能になる」と提言した。

核兵器禁止条約が発効することが決まった今、
それぞれの分野の賢人たちの予見から学びつつ、核軍縮も、コロナという世界で約100万人の死者を出した脅威的な新型ウイルスも、私たちグラスルートは怖れず結束して乗り越えることができるはずだ。

tomokihidachi

2003年、日芸文芸学科卒業。マガジンハウス「ダ・カーポ」編集部フリー契約ライター。編プロで書籍の編集職にも関わり、Devex.Japan、「国際開発ジャーナル」で記事を発表。本に関するWEBニュースサイト「ビーカイブ」から本格的にジャーナリズムの実績を積む。この他、TBS報道局CGルーム提携企業や(株)共同テレビジョン映像取材部に勤務した。個人で新潟中越大震災取材や3.11の2週間後にボランティアとして福島に現地入り。現在は市民ライターとして執筆しながら16年目の闘病中。(株)「ログミー」編集部やクラウドソーシング系のフリー単発案件、NPO地域精神保健機構COMHBOで「コンボライター」の実績もある。(財)日本国際問題研究所「軍縮・科学技術センター」令和元年「軍縮・不拡散」合宿講座認定証取得。目下プログラミングの研修を控え体調調整しながら多くの案件にアプライ中。時代を鋭く抉る社会派作家志望!無数の不採用通知に負けず職業を選ばず様々な仕事をこなしながら書き続け、35年かけプロの作家になったノリーンエアズを敬愛。

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