©️「Newsweek」「朝日新聞」「Foresight」
2020年11月3日(火)。世紀の決戦の幕が切って落とされる。下馬評や期日前投票だけでは、どちらの候補に軍配が上がるか、まだ読み切れない。2020年米大統領選。ドナルド・トランプ現大統領候補VSジョー・バイデン元米副大統領候補の一騎打ちだ。
米国憲政が最重要とする「抑制と均衡」こそが選挙
「米国政治は変わってしまった。かつては共和党と民主党、各党派の対立軸が(成長重視)の右か(分配重視)の左かという経済政策による判断基軸だった。ところが21世紀はアイデンティティー(帰属意識)にとって代わったのだ。自身の尊厳や価値観を認められたいという欲求の受け皿になるかどうかが重要視される時代だ。」
政治学者のフランシス・フクヤマ氏はこう指摘する。
言わば、共和党は社会で徐々に存在感が薄れゆく白人層の政党。逆に民主党は女性、人種などを巡る様々なマイノリティー、高度専門職に従事する白人が支持層に混じる政党になった。
選挙戦後半で、突如「新型コロナウイルス」の検査で「陽性」だと判明し、一時は戦線から離脱したトランプ氏だったが、驚異的な回復力ですぐに復帰した。その口には既に覆うものはなく対立するトランプ氏不支持層を徹底的に罵倒する「トランプ政治」を表すものとして、もはやマスクはウイルス感染予防用品ではなく、「政治的なアイデンティティーの表象」になってしまった。
「人種差別を禁じる公民権運動が民主党政権期1964年代に公民権法として成立したのを機に、南部の多くの白人有権者が民主党から共和党に支持を変えた。60年代の公民権運動は、黒人が平等に扱われる上での法的障壁の解消に比重が置かれた。しかし教育、住宅、雇用、警察での扱いといった実際の差別は温存されたままだった。近年携帯電話やSNSが発展し、理不尽な暴力を可視化して踏みにじられてきた尊厳を取り戻す要求だと見なされるアイデンティティーの台頭だと言える」
「ブラック・ライブズ・マター(BLM)」運動
©️「毎日新聞」
今年3月には米ケンタッキー州ルイビル市で自宅にいた救急救命士の黒人女性ブレオナ・テイラーさん(当時26)が3人の警官に射殺された。事件後、大陪審がテイラーさんの死について警察の刑事責任を問わない判断をした。これを受けて憤った市民らは「ブラック・ライブズ・マター(BLM)」運動=「黒人の命も、黒人の命こそ大切だ」を全米で展開。アメリカ育ちの日本人
プロテニスプレイヤー大阪なおみさんも試合中、犠牲になったテイラーさんの名前を書いたマスクを着用してプレーに臨んだ。
スポーツに政治的なメッセージを介入させることに非を唱える世論の分断は確かにあった。だが米国では5月にも黒人のジョージ・フロイドさんが警官に首を圧迫死させられた事件が起きており、「BLM」運動の火付けとなった。
こうした背景からバラク・オバマ前米大統領のファーストレディーだったミシェル・オバマ夫人も大阪なおみ選手を称賛した。
「BLM」抗議デモには黒人だけでなく、多くの白人の若者たちも含まれている。
「女性、障害者、先住民の権利向上を求める運動は90年代までに成果を上げ、特に女性の進出は目覚ましかった。それから20年間、社会運動は推移する。いい仕事に就くこと、家族を持つこと。個人としての成功と安定に関心が移っていった」。
政治要職トップにつけない女性の有能者
なぜカマラ・ハリスやクリスティア・フリーランドのような女性の指導者が今まさに非常に重要なのか?
米国で前カリフォルニア州検事総長で上院議員のカマラ・ハリス氏が2020年8月11日に77歳の民主党ジョー・バイデン大統領候補の伴走者として選ばれし受諾権を受け入れた。
ハリス氏はそのような地位に選ばれし第3の女性だ。
そしてインド人とジャマイカ人の両親の下に生まれた娘として、彼女は第1の人種差別を受けてきた女性でもある。
7日後、クリスティア・フリーランド氏はカナダで初の女性財務相として指名された。
私が公式にカナダの新民主党に対する野党側財政批評家だった時に、私は夢をみていた。あの特別、目に見えない人種差別を私が何とか打開できる1人の指導者になれないのかと。
それは思い描いていたものにはならなかったが、著者はフリーランドの飛躍に歓喜に沸いた。そこにはカナダの州の中でも財政運営に手腕を発揮する女性であることに違いなく、しかし連邦政府としては決してこれまでになかったものなのである。これらの変化は至るところにいる少女や若い女性に希望を申し出て来るようになったのだから。
しかしながらその変化は、そのような女性に好まれて長期間、続いている。
我々が世界を見渡せば見渡すほど、そこには唯一16人の選ばれた女性だけが世界の首脳-約10%に過ぎない。
カナダも米国でさえもかつてただの1人も女性を政治的元首のトップ人事に選出したことがない。
法人役員室はさらにより不公平性が目立つ。女性の最高経営責任者(CEOs)の割合より、はるかに男性のCEOsの方が比率・割合を重要視されている。
ではなぜ、ハリス氏とフリーランド氏がこの問題が山積した中盤に白羽の矢が当たったのか?
それは近年トランプ政権が「新型コロナウイルス」のパンデミックに対する、その対策を誤用してきたことに起因する。たとえ大統領選後半に自身がコロナに感染してしまい、スピード回復で「強い大統領」をイメージ付けたとしても、いかなる他国よりもより多くの事件や死をもたらすという結果に至った。
中でも「BLM」運動を闘ってきた黒人の生存権の問題だと主張しているデモ抗議者たちは警察治安維持の人種差別の影響や、政治的、法人的、経済的、社会的生活における白人の特権階級扱いによる支配が続けられていることに対する挑戦だった。
人種の坩堝の米国でこうした差別を蔓延するタネを撒いて育てた張本人こそ、「トランプ氏」その人である、
ハリス氏は生活、世代間変化、資源を熱狂的に民主党選挙運動に息を吹きかけ、芽吹かせようと「ポリティカル・コレクトネス」を米大統領選で勝利を取り戻すために断行しようというのだ。
しかし彼女は躍進的な若者に見えない人種差別を受けたことのあるという生育歴にも、また近年の大統領では、女性投票者は排斥されたり、議席を奪われたりされてきたことにも動機を持つべきだ。
もしハリス氏が新副大統領に就任することになったら、彼女は次のステージに上がることになり、ハリスならば、米国をこれまでの不機嫌で不安定なゲームから回復させるよき助けとなるはずだ。
今年9月18日、リベラル派の米連邦最高裁判事ルイス・ベイダー・ギンズバーグ氏の死を受けて、トランプ氏は後任に「女性判事を選ぶ」と明言していた予告通り、同26日には保守派のエイミー・バレット連邦高裁判事(48)を指名した。
バレット氏が就任すれば、米最高裁の保守派が9人中6人と圧倒的多数となる。数の面では野党、民主党が劣勢となる選挙選にも響く。
バレット氏は保守派の重鎮だったスカリア元最高裁判事の調査官を務めた経歴を持つ。2002年からノートルダム大ロースクールでも教鞭を取る。人工妊娠中絶やオバマケアに反対の立場を明示している。米最高裁は人種差別や同性婚、妊娠中絶など過去に世論を分断する重要判決を下してきた。司法判断を党派の人事が担うため、上院の承認を要する。民主党のバイデン次期米大統領候補は「数週間後に迫ってきた米大統領選の後に次期最高裁判事への支持か否かの立場を明確にすべきだ」と記者団の前で繰り返し明らかにしてきた。
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従順か敵対か?の二択
「New York Times(NYT)」のニーナ・バーリー記者は、ペーパーバック「The Trump Women Part of the Deal」を著書として今年9月22日に刊行した。
著者のバーレイ記者によれば、本書はトランプ氏の女性遍歴と大統領就任後の女性蔑視発言のルーツを探るもの。
本書の第一章に登場するのは、トランプ氏の祖母エリザベス・クライスト・トランプ氏。馬車馬のようにがむしゃらに働いた祖母は、彼女の故郷から孤立していた子供たちには周囲と比べられても劣らないようにヒエラルキーの中より上だと啓発されて育てられた「ドイツ系移民」だったという。
父のフレッドは社会的体裁を気に病む性分で、バーレイ記者が第一章の取材後に「『子供たちの手伝いがあって暮らせる生活だった』という件はこの半生記から消して欲しい。フレッドに全権を置いている信頼に汚点がつく」とエリザベス氏は注文をつけつきた。
また次のトランプ氏を取り巻く女性として、メアリー・アン・マクラウド・トランプが登場する。漁師の娘としてスコットランドの漁村で生まれる。またカーネギー・マンションの64号室でメイドとして勤務していた時もあった。
ショービジネス業界に飛び込んだトランプ氏はサービス精神をマリーから学びた経緯もあって1987年には自身の回顧録を書いていた。
そこには、父のフレッドと祖母のエリザベス(=義母)に嘲られるメアリーが社会的地位執着強迫性障害を患うことになってしまった様子も綴られている。
エリザベス氏は自分の名前の綴りをエリザベスとアメリカナイズし、夫の相続を利用してトランプオーガナイゼーションとして知られるようになる不動産会社を組み入れた。
3人目の妻メラニア・トランプ氏はファーストレディーとして表舞台に立つ場面が多い。だが一方で長女イヴァンカ・トランプ氏の方がファッション、モデル、不動産を始めとする業界で名を馳せ実業家としても次代を担う世界の指導者として雑誌に選ばれたほど。娘婿のジャレッド・クシュナー氏と共に米大統領補佐官という政治力まで掌握している。
米大統領史上、ドナルド・トランプ氏以上に女性との関係を深めている人物はいるか?
彼は3人の妻全員を酷く騙し、性的暴行の複数の告発を払い退け、長女イヴァンカを公然と口説き、ポルノスターとプレイメイトの沈黙を買収し、今では悪名高い誘惑のテクニックをプッシーと喧伝してさえいるのだ。
バーレイ記者の暴露したトランプ氏の女性遍歴と蔑視を垣間見るルーツが、これまで女性票の獲得を鈍らせてきたといえよう。
だからこそ、これまでのトランプ氏の言動に真偽眼の肥えた米有権者には、米上院(定数100)が26日の本会議で、連邦最高裁判事に保守派のエイミー・コニー・バレット連邦控訴裁(高裁)判事(48)を賛成多数で可決、ホワイトハウスでの宣誓式で就任したわけだが、その駆け込み指名に託けたバレット氏がただ女性票への宣伝塔に利用するだけの人事票を衒うものではないかとトランプ氏の魂胆を見抜く警戒を解いてはならない。
ジェンダー・イクオリティーを阻む既存政治を突破せよ
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カマラ・ハリス氏だけではない、米国史上、抜きん出た黒人女性らがこの国の人種差別を始めとする差別問題を打開してきた。
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コンドリーザ・ライス氏。元米大統領首席補佐官。2001年にジョージ・W・ブッシュ米大統領補佐官(国際安全保障問題担当)、2005年、同第二期政権下、米国務長官に任命された初の黒人女性。
ロレッタ・リンチ氏。2015年、バラク・オバマ前大統領から米国司法長官に任命された初の黒人女性。
パトリシア・ロバーツ・ハリス氏。1977年のジミー・カーター大統領時代(当時)にハリス氏は、アメリカ合衆国の政治家。ジミー・カーター政権で住宅都市開発長官、保健教育福祉長官、保健福祉長官を歴任した。またアフリカ系アメリカ人女性としては米史上初めて大使に就任した黒人女性となる。さらに1965年のリンドン・ジョンソン政権では駐ルクセンブルク大使を務めた。
「私は黒人女性で、食堂車労働者の娘です。私は8年前にコロンビア特別区の一部で家を買うことが出来なかった黒人女性です。私は一流の法律事務所の一員としてではなく、学校に行くために奨学金を必要とする女性として始めました。」
パトリシア・ロバーツ・ハリス氏はエリートなどではない。叩きあげだ。
米国史を紐解けば、まだまだ黒人女性の先駆者たちが開拓してきた政治要職を担うフロントランナーの苦心と確かに身を結んできた道のりに学ぶべきものが見えてくる。盲点かもしれない今回の大統領選本番にも選択基準の一つとして、有権者には見落としては欲しくない。