「人魚Days」レビュー:伝説の少女漫画家・竹本泉氏の新作ゲームがアプリで登場(本人コメントあり)

6月10日にリリースされた、スマホゲーム「人魚Days」。漫画家・竹本泉氏と、「ゆみみみっくす」「だいなあいらん」を制作した元ゲームアーツ・岡部博明氏による新作ゲームである。

23年ぶりの“新作”ゲーム

ゲームは前出のゆみみみっくすのようなアドベンチャーゲームで、漫画を読んでいるかのように進む。メニューは「まえがき」「前編」「後編」「メイキング」「あとがき」が用意されており、前編までは無料で楽しめる。ゲームなのに、竹本氏の世界観溢れる“まえがき&あとがき”があったり、BGMやSEなどのサウンドが“諸般の事情により”なかったりするので、ゲームというよりは、どちらかというと、アニメより動きの激しくない“デジタルコミック”的である。ちなみに竹本氏曰く、BGMは“日常系の映画のサントラ”がおすすめとのこと。うじゃうじゃ。

BGMがないのは一見少々寂しくも思えるマイナス要素に感じるが、どこでも手軽にプレイできるという意外な利点がある。なぜなら誤操作などで周りにサウンドが響き渡ってしまうという“不慮の事故”が起こらないからだ。また、ボイスがないというのも、「キャラクターの声がイメージと違う……」と凹むこともなく、自分にぴったりのキャラクターボイスで脳内再生できるというメリットもある。

3人+1人のストーリー

主な登場人物は、主人公的存在のヒロイン「有葉・T(テイストタワー)・姫」、そして「徳幕・かおる」「小々雨・椿」。3人とも「聖林檎楽園学園」に通う生徒である。

基本的にはこの3人がメインなのだが、ナレーションがやたらとしゃべり、3人の会話に割り込んでくるという自己主張の強さを見せてくる。姿は見せないものの “4人目のメインキャラクター”といえるだろう。

ちなみにこの3人は、竹本氏の「シンリャクモノデ」3巻、「シンリャクソノ17 侵略の季節」にも登場するので、往年の竹本氏ファンなら間違いなくニヤリとするはず。ゲームの世界観も“アップルパラダイス物”をベースにしており、“あのキャラ”も登場する。変だぜ。

本編レビュー かーん・ゴーン・うじゃうじゃ……

ゲームの本編は前述の通り、前編と後編に分かれており、後編は490円の課金パートとなっている。ゲーム開始から、ゆるいけれど濃厚な“竹本ワールド”が炸裂している。「かーん」と照らす太陽から、「体育の授業が水泳なのは嬉しいけど水泳は嫌い」と、理不尽発言で登場する姫。ストーリーは、学園内の遺跡プールで生徒の足が尾ヒレになるという“怪事件”が発生し、その原因を突き止めるために……という流れで進む。学園内の遺跡には邪神像や、ノーム(?)像があるという、いかにも怪しい雰囲気なのだが、その中の“人魚像”が……?

登場キャラクターも豊富で、生徒や先生だけでなく、“人外”キャラも多数登場。ゆるくてほのぼのしたキャラ中心だが、思わず「なんだお前は」とツッコミを入れたくなるキャラも出てくる。

ゲームは話を読んで、時折出てくる2択の選択肢に答えていく。選んだ選択肢によって話の内容が大きく変わったりそんなに変わらなかったりするが、バッドエンドはないので、基本的に“どれも正解”である。なんとなく気になる選択肢を見つけたら「セーブ」するのも手だろう。なお、オートセーブではないので、端末やアプリがフリーズした場合、一度もセーブをしていなかったら、前編もしくは後編の最初からスタートとなるので、そこは注意されたし。また、少々ネタバレにはなってしまうのだが、なぜかあとがきにも選択肢は出現する(セーブもできる)。

課金? はじめたんならした方がいいよ!

買い切りアプリに490円は高いと感じる人も、もしかしたらいるかもしれない。しかし、筆者の個人的な感想としては、後編+メイキング+あとがきの内容で490円なら“買い”だと思った。このツッコミどころ満載のゆるい世界は、無料の前編だけで終わらせてしまうにはもったいない内容だった。

竹本泉氏&岡部博明氏インタビュー!

今回は特別に、竹本氏と岡部氏にインタビューすることができた。しかし、こんな“コロナ禍”の状況なので、直接会ってではなく、メールにてインタビューを行なったところ貴重なキャラクター初期設定をいただくことができたので、コメントとあわせてとくとご覧ください。

=== 竹本泉氏Q&A ===

メインキャラ3人は、途中に出てくる朝ヶ丘・会理子のように“アップルパラダイスもの”から抜擢されたとのことですが、なぜこの3人をメインキャラクターに決めたのですか?

竹本:
とりあえず、アップルパラダイス物の最新の主人公がこの3人だからです。
まだ、よみきり1本しか描いていなかったし、制服も可愛かったので、
つづきを描かなくてはと思っていました。

シナリオ制作期間はどのくらい?

竹本:
かなり長い時間? 基本プロット自体は思いついてから半日とか2日とかくらいなんですが、ネームと一緒で枝葉のエピソードで時間がかかりました。

選択肢の流れとかを頭の中でぐるぐるシミュレートしてるわけですが
仕事の合間にやっていたので、何回もそれがリセットされたりしてました。
毎月、何日か集中してがーっと描いては送っていました。
でもって、集中するまでにだんぶん時間がかかるという…すみません。

半年くらいだらだらつづけていましたが、コンテを描いていた期間だけで言えばたぶん2〜3週間くらい? 集中がつづけば1週間くらいで出来るくらいの分量だとは思うんですが年なので…。

まあ、時間に関してはけっこうあやふやです。

=== 岡部博明氏Q&A ===

BGMやCVなど、サウンドを実装しなかったのはなぜですか?

岡部:
サウンドを実装しなかったのは、基本的には制作費の問題です。
「人魚Days」アプリは、最低でも10年間は維持しようと考えていて、
10年分の維持費から考えると、CVはもちろん、BGMも難しいです。あと、これはこだわりですが、無料の音楽素材とかは使いたくなかったというのがあります。

やるからには、ちゃんと竹本先生の作品を理解している人に発注したいです。
もちろん、アプリの課金金額を高くすればBGMぐらいは入れられたと思うのですが、
金額を高くするとどうしても一般人には敷居が高くなってしまいますよね。
ですので色々考えて、今回はコミックだと割り切って、
多くの人に竹本泉先生を知って頂く方が良いと判断しました。
音が無いのはちょっとどうなんだろうと私も思います。すみません(でもたぶん、次回作を作るとしても、やっぱり音は入れられないかなーって思ってます)。

開発スタッフは岡部氏と竹本氏の2人だけですか?

岡部:
竹本先生からは、手書きのネームとしてシナリオを頂いたので、このネームのテキスト入力の一部を、知り合いに頼みました。でもそれは一部で、一番貢献してくれたのは、未来検索ブラジルの皆様ですね。感謝しております。

竹本氏と組むのは「だいなあいらん」以来だそうですが、なぜ今回竹本氏と組んでゲームを作ろうと思ったのですか?

岡部:
「ゆみみみっくす」も「だいなあいらん」も隠れた人気があって、「新作が作られるのをずっと待っています」と言ってくださるありがたいファンの方もいらっしゃいます。

過去に作品を作った者として、そういうファンにキチンと答えてあげたいという思いはありましたね。また、竹本泉先生は私の知っている人の中では最高に人柄の良い方なので、またいつか一緒に仕事が出来れば嬉しいという思いもありました。

前半と後半に分けた理由は?

岡部:
これはまあ、割と普通の対応だと思います。^o^;
アプリ自体を有料にしちゃうと、お金を払ってからで無いと内容が楽しめるかどうか分からない。だから最近のゲームはほとんど全て、ダウンロード自体は無料で、途中で課金するか、広告が入るかの方式ですね。

昔、ゲームがカートリッジとかCDだった時より、敷居は低くなっていて良いと思います。値段もぐっと下がっていて、それではゲーム会社はやっていけないので、多くの場合ガチャで煽る訳ですが……

まあ少なくとも、竹本先生の絵でガチャをやるつもりは私にはありません。
カジュアルゲームという奇特な方式を採用できたのは、私が生活費の安いタイに住んでいるからという理由が大きいです。

続編(?)の予定はありますか?

岡部:
実は、今回の「人魚Days」の話を決める前に、竹本先生からは3つの案を頂いたんですよね。その中から、前編後編に分けやすそうという理由で「人魚Days」を選びました。

だから、あと2つ、案が残ってます。続編じゃなくて、新作になりますけどね。
これがアプリになるかどうかは、「人魚Days」の売り上げによりますね。

竹本先生にはミニマムギャランティという、最低保障付きライセンス支払いで仕事をやって頂いたのですが、最低保障金額が申し訳ないくらい少なくて、この1.5倍くらいは売れないと、続編の打診はしにくいかなという感じです。

なんかお金の話ばかりしてしまいましたが、私自身は、愛と趣味でやっていますね。
そういう、趣味でアプリ制作ができる立場にいるのだから、やらないのは損って感じです。

2019年4月当初は漫研の恋愛シミュレーションで制作予定だったとメイキングにありましたが、どういう経緯で“人魚のお話”になったのでしょうか?

岡部:
最初は単に、私が恋愛シムのネタを思いついたところから開発スタートしたんですよね。ちょっと、これは誰もやっていないんじゃないか? みたいな仕掛けを思いついたので……。でも絵描きさんが見つからなくて、その中で竹本先生にも打診してみたら、快諾を頂いたのです。

でも仕事をやり始めてみたら、そういう「仕掛け」っぽいものって竹本先生の絵には合わないなって遅まきながら気が付いて…、私のシナリオは破棄して、すべて竹本先生の世界でやらせて頂くことに方針変更しました。やっぱり、この方が全然良かったです。ていうか、最初からそうしろよって感じですが。

エンディングは何種類くらい用意していますか?

岡部:
エンディングは、2つですね。
前編の一番最初の選択肢から行き着くエンドが1つ。後はどうやっても最後のエンディングまで辿り着きます。つまりこの作品は、選択肢を楽しむゲームじゃないということです。竹本泉先生の世界観を楽しんで頂く、フルカラーのコミックと思ってください。

ちなみに、このようなノベルゲームで頻繁に使われる「フラグ」は、1個しか使ってません。しかも使っているのは「あとがき」の中です。こういうストレスの無い、緩い世界を楽しむゲームがあってもいいじゃないですか。

姫の身長は143cmとのことですが、椿の身長はどのくらいなのでしょうか?

岡部:
特別に、竹本先生が描かれた人物設定をお目にかけましょう。「シンリャクモノデ(3巻)」やゲーム中には出てこない設定もいろいろ書かれてますよ。

「有葉・T(テイストタワー)・姫」

「小々雨椿」

「徳幕かおる」

スマホゲーム「人魚Days」公式サイト:
https://mermaiddays.com/[リンク]

人魚Days 公式 (@Days45355838) | Twitter:
https://twitter.com/Days45355838[リンク]

文/浦和武蔵

ガジェット通信ゲーム班

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