戸塚純貴「誰もが“ケアニン”になれると思う作品に」 撮影中毎日監督と“反省会”をした主演作を語る

  by ときたたかし  Tags :  

2017年の劇場公開後、今なお各地の劇場で公開、上映会は国内外で1,300回を超えて開催され続けている映画『ケアニン〜あなたでよかった〜』。その新作となる『ケアニン〜こころに咲く花〜』が現在、東京シネ・リーブル池袋など全国の映画館で順次公開中です。

今回の舞台は特別養護老人ホームという大規模な施設で、主演の戸塚純貴さん演じる大森圭は慣れぬルールのなか、認知症の老婦人・美重子(島かおり)とその夫・達郎(綿引勝彦)の50年間の夫婦の深い愛情の中で、本当の介護の在り方に苦悩します。前半では作品のこと、後半では福田雄一監督とのエピソードなど、主演の戸塚さんに話を聞きました。

※このインタビューは2020年3月に行われたものです。

●どのように役作りをしましたか?

老人ホームを実際にお借りして撮影をしていたのですが、その地域にいて撮影期間中は集中したいと思ったので、近くのホテルの部屋を借りてそこから通いました。ロケ地と近くのホテルを往復する日々で、それがキャラクターを演じる上でヒントになる大切な時間でした。

●続編となる今作では、前作とは違うタイプの施設が舞台ですね。

第2弾は特別養護介護老人ホームが舞台なので、いわゆる特養です。これが全国で一番多い形態なんです。何が違うかというと、利用者さんの人数が非常に多いんです。要介護レベルの利用者さんがたくさんいらっしゃるので、ひとりひとりに向き合わないといけないけれど、現実的な問題もあり、必ずしも理想的な状態で回っているわけではないんです。第2弾では、そこを皆さんに伝えたい、知ってほしいことがたくさんあります。

●ケアニンという言葉も含め、映画を観てイメージが変わりました。

僕自身もそうでした。介護に対しての知識もまったくなかったですし、もっと閉鎖的なイメージだったのですが、実際の現場はまるで違っていて、驚くことばかりでした。そもそもケアニンって介護資格を持っている人という意味ではないので、誰もがケアニンになれると思うんです。映画を通じてケアニンの輪がどんどんと広まっていってくれればと思うので、ぜひ観ていろいろと意見を交わしていただけたらありがたいです。

●今作ではナチュラルな表情などが印象的でしたが、何を意識して演じていましたか?

誰もがケアニンになり得るという、そういう言葉の意味は常に意識していたと思います。いままでの作品のイメージでわりと表情が大げさな芝居をする人というイメージもあるのかもしれないけれど、この作品では監督とも毎日反省会をして、丁寧に演じたつもりです。

与えられたキャラクターを、なんでもかんでも喜劇風に演じてしまいがちなんです。

●どうしてまた(笑)?

コメディー、喜劇が好きなんですよ。意識として、核心を理解しないままやり続けていた時もあったと思います。でもある時、福田雄一監督と出会って、いままでよしとされていなかった表現を、すごく面白がってくれました。福田監督と出会って、俳優の意識が変わりましたね。

●福田監督の演出で光り輝く俳優さんは、何人もいますからね。

自分でもコメディーを目指したいと言いながら、その深み、難しいところなど、全然理解していなかったんですよね。表面的なことではなくて、内面的なところから出していかないと伝わらないこととか。その時点で、俳優としての演じ方などについて考えるようになりましたね。

●どういうコメディーを目指していたのですか?

海外の作品ですね。ジム・キャリーの大ファンなんです。

●世代ではないですよね?

そうですね。小学校の時、彼の『マスク』という映画が「金曜ロードショー」で流れ、その時はなんだかわからないけれど魅力にハマり、VHSで録画してテープが擦り切れるほど繰り返し観ました。それで今の仕事を始めてからジム・キャリーと『マスク』の存在が自分の中で大きくなり、すごい人なんだと。それからいろいろな作品を観るようになりましたね。

●ケアニンは自然な演技ですよね。

大げさな芝居をよくしていたんですよね。しかも自分では大げさだとわかっていなかったのですが、それも福田さんに指摘していただいた。おかげで、そういう表現が武器に変えられることもあるのかと気づいたり、そこから考えながら芝居を作ることもできるなと、一歩引いて自分を見ているというか、考え方が変わりました。

●ジム・キャリーもシリアスな演技のほうも光りますからね。

そうなんですよね。彼のスゴさはそこにあるなと思っていて、悲しみのわかる喜劇俳優じゃないですか。実は彼が面白いことをすればするほど、どうにも哀しい存在にも見えてくる時がある。そう思わせる喜劇俳優ってすごいと思うんですよ。道化師から俳優になった経緯も含め、喜劇俳優の権化みたいな人。そこは、そう簡単には追いつけないと思っていますが、俳優としてはこれからも目指していきたいところではありますね。

■取材後期

戸塚さん自身が“おおげさ”と言われていた表現は、ジム・キャリーの影響によるものだったとは!言われてみれば、なところもありますよね。福田雄一監督との運命的な出会いの裏話も感動的で、見ている人は見ているものです。なお、映画「ケアニン」シリーズ製作委員会は、2020年6月9日より、オンライン研修やオンライン授業向け上映の受付を開始したそうです。対象作品は、介護・医療をテーマとした映画「ケアニン~あなたでよかった~」「ピア~まちをつなぐもの~」「僕とケアニンとおばあちゃんたちと。」の3作品。新型コロナウイルスの影響によりオンライン上映を希望する声が多く寄せられ、今回は法人や施設、学校が実施するオンライン研修・授業を対象に試験的に運用を開始することになったそうです。

ときたたかし

映画とディズニー・パークスが専門のフリーライター。「映画生活(現:ぴあ映画生活)」の初代編集長を経て、現在は年間延べ250人ほどの俳優・監督へのインタビューと、世界のディズニーリゾートを追いかける日々。主な出演作として故・水野晴郎氏がライフワークとしていた反戦娯楽作『シベリア超特急5』(05)(本人役、“大滝功”名義でクレジット)、『トランスフォーマー/リベンジ』(09)(特典映像「ベイさんとの1日」)など。instagram→@takashi.tokita_tokyo