東京五輪パラ延期か?中止か? COVID-19 の特効薬開発戦線を追え!

  by tomokihidachi  Tags :  

[コラージュ筆者作成]©️朝日新聞、日経新聞、日経メディカル、東京新聞、NHKオンラインより筆者作成
 今年3月13日、世界保健機関(WHO)のテドロス・アダノム事務局長は新型肺炎コロナウイルス(COVID19)を「パンデミック」と認定する記者会見を開いた。「この2週間で新型コロナウイルスの中国外での感染者数は13倍に増え、感染者が出た国の数も3倍になった。現在114か国に11万8,000人の感染者がおり4291人が死亡した」と話す。その上でアダノム事務局長は「感染者数の90%以上は4カ国で占める。うち中国と韓国では感染は著しく収まっている」と公表した。この会見後も感染者数はイタリアなど欧州や米国、イランといった中東でも膨れ上がっている。

パンデミックでも東京五輪パラ続行に首相、意欲

 日本でも学校の休校要請や春の選抜高校野球が苦渋の判断で中止となった。
今月14日、安倍晋三首相は記者会見を開き卒業を目前にした子供たちに「最後の思い出を作る大切な時期に学校を休みにしたことは、大変申し訳なく思っている」と語りかけた。また、高校球児らには「連日厳しい練習に打ち込んできた学生の皆さんの悔しい気持ちは察するにあまりある」と遺憾の意を表して学生らの気持ちを理解しようとアピールした。
 一方、「東京五輪・パラリンピックは、現在も準備を進めている。来週には聖火を日本に迎え、私自身も福島を訪れて聖火リレーのスタートに立ち合いたい。今後とも国際五輪委員会(IOC)とよく連携しながら、感染拡大を乗り越えて五輪を無事予定通り開催したい」と続行の意欲を示している。

 だが、大会組織委員会の高橋治之理事は「予定通り開幕するのがベストだが、2年後の夏が1番可能性がある」とコメントした。
 インフルエンザ対策などでWHOにも協力してきた、ジュネーブ大学のアントワン・フラホールト教授(公衆衛生学)は「大会を称賛されるイベントにするためには、1、2年の延期がベターだ。多くの選手団が出場を取りやめ、感染者が出て競技者に死者が出れば、日本のイメージは悪化する」と語る。ワクチンや治療薬の開発の可能性を踏まえ「2年経てば通常は感染が下火になり、話題にならなくなる。落ち着いた環境で五輪が開けるだろう」と「朝日新聞」(2020年3月13日)の取材に応じた。

新型インフルエンザ(H1N1)で延期したバンクーバー冬季五輪パラ

 過去に戦争が原因で中止になったオリンピックは3度ある。第一次世界大戦を起因とする1916年の夏季五輪。そして第二次世界大戦で中止になった1940年の夏季五輪と1944年の冬季五輪だ。
 パンデミックと言えば2009年に新型インフルエンザ(H1N1)が流行し延期して開催された2010年のバンクーバー冬季五輪が過去にある。またリオ・デ・ジャネイロ夏季五輪の前にはジカ熱流行問題が浮上した。
 米国最高医務責任者のジョナサン・フィノフ氏は20数年以上もスポーツで負傷したアスリートを治療してきた。米国ミネソタ州ミネアポリス市のメイヨークリニックスポーツ医学センター所長。2014年以来ミネソタ州ティンバーウルフズ&リンクスの内科医を歴任している。
 フィノフ氏によれば「流行疫学は変わりやすいものではない。スポーツ人口の多くを占める若者というより、むしろ高齢者の方が著しい影響が及ぶ。スポーツで好敵手と試合後、伝統的に握手する慣しを禁じようとしている。自覚症状がない時に、接触感染するわけではないことが分かった。だから人々が無自覚にスポーツをしていて、その時に病気を広範に広げてしまう可能性は極めて低いと言える」と指摘する。
 さらにフィノフ氏は「何もリスクがないものなどない。かなりの確率で感染者が同じ場所にいるようなら、仮に小さな集団であったとしても、クラスター感染のリスクは極めて高くなる」としている。
 我々は「中東呼吸器症候群(MERS)」を経験したが、いまだ「ハッジ」として知られるサウジアラビアのメッカで大規模な毎年の巡礼を続けている。社会的隔絶について教育することでその感染症の広がりを抑え込もうとするのである。

「スタンダード・プリコーション」の域を出ないWHOガイドライン指針

 WHOは予防策として人が大勢集う催事場のガイドライン指針を取り纏めている。この指針は「パンデミック(H1N1)2009新型インフルエンザの状況における集団集会の『暫定計画』の考慮事項』」に基く。
 
1)リスクアセスメントとして、医療従事者が病気に罹患した人々が出席する場において、マスク装着の上、接触した際に手指洗浄した直後、マスクを廃棄すること。
 
2)最近のCOVID-19アウトブレイク(中間ガイダンス)の状況で集団の集会に推奨されている鍵を握る計画として、群衆が集まる催事の公衆衛生面の準備のためのオンライン課程

 指針では「WHOは安全と成功を叶えるために催事ホスト国を支持する。公衆衛生面で集会に密集する集団への対処として、感染症を防止する上で国際健康規則の可能性を強める諸国をもWHOは支持していく」。「旧H1N1を具体事例に新型インフルエンザを発症するようになる人(今ではCOVID-19 )の可能性を組織的に見込むべきだ。孤立した地域を医療サイトで治療行為にあたる。クリニックや施設が最初にアセスメントし、トリアージを行う呼吸液滴を含む一助となるマスクを提供できる。咳や鼻水からウイルスを撒き散らさないようブレス・エチケットを促すことが必須だ」としている。

 末文までWHOガイドライン指針の説明書きを読んでみても、あくまで「スタンダード・プリコーション(standard precaution)」すなわち、「予防医学」の領域を出ない指針しかWHOは発しておらず、感染症専門以外の日本の総合病院の医療従事者にもその「領域」しか義務付けられていないようだ。

日米の製薬会社による特効薬開発現場の第一線に迫る!

 現時点での治療の基本はあくまで「対症療法」だ。肺炎を認める症例などでは、必要に応じて輸液や酸素投与、昇圧剤等の全身管理を行う。
 細菌性肺炎の合併が考えられる場合は、細菌学的検査の実施とともに抗菌薬の投与が必要とされる。肺炎例や重症例に対して、副腎皮質ステロイドの投与については、有効性を示すデータは今のところ無く、推奨されない。

 重症呼吸不全に陥った症例では、体外式膜型人工肺(ECMO:extra-corporeal membrane oxygenation)の適応となる場合がある。ただし、ECMO を用いた治療には経験が豊富な医師の判断が必要とされる。それ故、日本集中治療医学会などの関連学会は医療現場からの相談を 24 時間体制で受け付ける責務を負う。
上述してきたように、未だ新型コロナウイルスのワクチンは実用化されているものは存在していない。

 だが新型コロナウイルス感染症をめぐっては、回復患者の血漿を重症患者に投与することで効果が得られたとの複数の症例報告が中国などからあがっている。
 
 新型肺炎コロナウイルス感染症(COVID-19)に対して、今のところ有効性が証明された治療法はない。ただし、抗 HIV 薬のロピナビル/リトナビル、抗インフルエンザ薬のアビガン、エボラ出血熱の治療薬として開発された レムデシビル、および吸入ステロイドの喘息治療薬であるシクレソニドなどが治療薬の候補に挙がっている。今後の検証によって効果が証明されれば治療薬として用いられる可能性があると予測されている。
 開発薬剤を一つ一つ見ていこう。

①抗HIV薬「カレトラ」(ロピナビル・リトナビル配合剤)

 またアッヴィ合同会社の抗HIV薬「カレトラ」(ロピナビル・リトナビル配合剤)。
 日本では2000年にHIV感染症に対する治療薬として承認された「カレトラ」。ウイルスの増殖を抑えるプロテアーゼ阻害薬のロピナビルと、その血中濃度を保ち、効果を増す効力を持つリトナビル。その配合剤である「カレトラ」は、ラットの治験などでMERSへの有効性が確認されている。COVID-19に対してもバーチャルスクリーニングで有効である可能性が浮上。COVID-19患者にロピナビル/リトナビルを投与する複数の臨床試験が既に中国で実施中だと言う。

②新型インフルエンザ治療薬「アビガン」

 富士フィルム富山化学の新型インフルエンザ治療薬「アビガン」(ファビピラビル)にも注目が集まっている。群馬大医学部附属病院(前橋市)前橋赤十字病院(同市)、高崎総合医療センター(高崎市)の県内3病院は12日までに、共同臨床研究を行うことを決めた。
ただし、「研究結果を取り纏めるまでは約3年程度かかる」とのこと。「アビガン」は、インフルエンザウイルスの遺伝子複製酵素であるRNAポリメラーゼを阻害することでウイルスの増殖を抑制する薬剤。新型肺炎コロナウイルスも総じて「RNAウイルス」を含有することから、その効力が期待されている。その備蓄量もアビガンは新型インフルエンザに備えて国が200万人分保有しているという。

③ 「エボラ出血熱」特効薬「レムデシビル」

新型コロナウイルス感染症の治療薬をめぐっては「ギリアド・サイエンシズ」が抗ウイルス薬「レムデシビル」について2本の国際臨床第3相試験を開始することを発表。「レムデシビル」はそもそも「エボラ出血熱」の治療薬として開発されていた核酸アナログだ。コロナウイルスが引き起こすMERS(中東呼吸器症候群)やSARS(重症急性呼吸器症候群)への効果が見込まれている。既に米国(国立アレルギー・感染症研究所〔NIAID〕主導)と中国(中日友好医院主導)で臨床試験を開始。ギリアドによる企業治験はこうした試験データを補完するとみられる。中国の臨床試験は4月に結果が得られる見通しだ。

④吸入ステロイド喘息治療薬「シクレソニド」

 帝人ファーマは3月10日、厚生労働省健康局結核感染症課からの要請で、新型肺炎コロナウイルス感染症の臨床研究実施に向けて、吸入ステロイド喘息治療薬「オルベスコ」(シクレソニド)を2万本確保すると発表した。オルベスコはMERS流行時に抗ウイルス効果が見られたことから、白羽の矢が立ったのではないか。ただ、即効型でアレルギー反応が起きる可能性も懸念されている。

注目集まる武田薬品開発薬品「TAK-888」

そんな中、武田薬品は3月4日、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)治療薬として、抗SARS-CoV-2ポリクローナル高免疫グロブリン(H-IG)の開発を開始すると発表した。すでに、日本を含むアジア、欧米など複数の規制当局と協議を進めており、早ければ年内の上梓を目指す。

 同社が開発に取り組むのは「TAK-888」。上梓には「9~18か月間」を見込む。武田薬品が2019年1月に買収したシャイアー社の強み「免疫グロブリン」をはじめとした血漿分画製剤のリーディングカンパニーとしてのノウハウやネットワークを同社ごと吸収して活用する。早期の実用化に向けて開発を急いでいる。

 製剤は、新型コロナウイルス感染症から回復した患者から採取した血漿から得た病原体特異的な抗体を濃縮して精製する。抗体を患者に投与することで、患者の免疫活性を高め、回復の可能性を高めることが期待できる。通常の免疫グロブリン製剤は健康な献血者の検体から作成されることが多いが、「通常の血漿ドナーから得ることが難しい」としており、今後各国の行政当局と血漿の収集を含めた協議を進める。同社はまず、米・ジョージア州の製造拠点の隔離されたエリアで製造を開始するとしている。
©️ミクスonline(2020年3月5日)

国内外のスポーツ試合を中止に追い込むCOVID-19の脅威に五輪パラは?

 これら医学薬剤業界の叡智を結集させた努力に果たして東京五輪パラリンピックに灯った黄信号は無事前進を促す青信号へと変わるのだろうか?

 プロ野球オープン戦無観客開幕。大相撲春場所無観客試合。競泳日本選手権無観客試合。
 FIFAワールドカップカタール2022アジア2次予選兼AFCアジアカップ中国2023予選中止。
 国際親善試合U-23日本代表対U-23南アフリカ代表戦中止。国際親善試合U-23日本代表対U-23コートジボワール代表戦中止。
 MS&ADカップ2020なでしこジャパン対ニュージーランド女子代表戦中止…

 COVID-19で国内主催事が枚挙に暇がなく中止に追い込まれる中、スポーツ界は海外の試合にも極めて深刻な影響が出ている。

 米大リーグ機構(MLB)は26日に予定されていた今季の開幕戦を少なくとも2週間延期すると発表。米メジャーリーグサッカー(MLS)は全試合の30日間中断を決定した。22日から開催予定だった野球の東京五輪米大陸予選も延期。米プロバスケットボール協会(NBA)はシーズン中断に。全米大学体育協会(NCAA)のバスケットボールトーナメント戦も中止に追い込まれた。
 男子プロテニス選手協会(ATP)は6週間のツアー大会中止を決定。米女子ゴルフは今季ツアー3大会が延期に。男子ゴルフは松山英樹が暫定首位に立ったプレーヤーズ選手権が中止に追い込まれた。メジャー初戦のマスターズ・トーナメントも延期された。
 イングランド・プレミアリーグは4月3日までリーグ戦を中断すると発表。欧州サッカー連盟(UEFA)は欧州チャンピオンズリーグ(CL)決勝トーナメント一回戦全試合を延期した。欧州リーグ全試合も延期となる。
 スペインリーグでも最低でも2週間、1部と2部の全試合を延期した。フランス1、2部リーグも当座は全試合を中止する。
 国際卓球連盟は4月末までの全ての活動を暫定的に中断すると発表。

 十分な実戦演習の機会が奪われるアスリート達。しかし安倍首相のみならず、東京都の小池百合子知事も「全く影響しないとは言えないが、中止という選択はない」と断言。橋本聖子五輪担当相も「しっかりと今まで通り準備していく」と強調する。
 それでもCOVID-19終息せずのシナリオを危惧する東京五輪パラリンピック組織委員会の高橋理事が最悪の場合「中止」を避けるために「今夏から1〜2年の延期」代替案を以って、今月30日の理事会前に同組織委の森喜朗会長と会談し、直談判する意向を示している。
 「中止」になった場合、SMBC日興証券は総額6700億円の損失と試算している。
 前向きに考えて歴史的なスポーツの祭典を観戦するのを心待ちにしたいところだが、コロナウイルスという人類共通の「敵」は想定以上に手強そうだ。

tomokihidachi

2003年、日芸文芸学科卒業。マガジンハウス「ダ・カーポ」編集部フリー契約ライター。編プロで書籍の編集職にも関わり、Devex.Japan、「国際開発ジャーナル」で記事を発表。本に関するWEBニュースサイト「ビーカイブ」から本格的にジャーナリズムの実績を積む。この他、TBS報道局CGルーム提携企業や(株)共同テレビジョン映像取材部に勤務した。個人で新潟中越大震災取材や3.11の2週間後にボランティアとして福島に現地入り。現在は市民ライター(種々雑多な副業と兼業)として執筆しながら21年目の闘病中。(株)「ログミー」編集部やクラウドソーシング系のフリー単発案件、NPO地域精神保健機構COMHBOで「コンボライター」の実績もある。(財)日本国際問題研究所「軍縮・科学技術センター」令和元年「軍縮・不拡散」合宿講座認定証取得。目下プログラミングの研修を控え体調調整しながら多くの案件にアプライ中。時代を鋭く抉る社会派作家志望!無数の不採用通知に負けず職業を選ばず様々な仕事をこなしながら書き続け、35年かけプロの作家になったノリーンエアズを敬愛。

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