非核化へ米朝プロセス後押し RCEP早期署名目指す―日中韓首脳©️時事通信社
2019年12月24日、第八回日中韓サミットが中国の成都で開催された。
安倍晋三首相はサミット終了後の総理記者会見で次のように切り出した。
「北朝鮮による度重なる弾道ミサイルの発射が続いている。私たち三ヶ国はこの状況に強い懸念を有している。日中韓サミットにはこの認識で一致した。北朝鮮の非核化には米朝プロセスが重要だ。国連安保理決議にも則った米朝プロセスのモメンタムこそが重要。拉致問題の解決に向け、両国首脳から合意を取り付けた。」
「軍事情報包括保護協定(GSOMIA)」。日本―韓国との国防上の北朝鮮の脅威情報などを共有する協定が失効期限まで迫った。その瀬戸際の11月22日、ご破算を食い止められて以来、安倍晋三首相と韓国の文在寅大統領の日韓首脳会談は1年3ヶ月ぶりの席となった。
今年6月28日に日本が主催したG20大阪サミットでも両首脳は8秒間の握手を交わしただけで韓国側からの首脳会談要請には応じなかった。
そもそもの発端は昨年10月韓国最高裁(大法院)の元徴用工判決日本企業側敗訴。G20大阪サミット後の8月2日、韓国企業半導体を巡る輸出規制からも関係悪化が史上最悪となる。韓国からの観光客の激減、不買運動などの突き上げを喰らい、日韓関係の悪化を米国のドナルド・トランプ大統領からも問題視されていた。11月4日、タイのバンコクで開催されたASEAN諸国首脳会議で約10分間文氏と対話した安倍氏。
それ故、今回の日中韓サミットで文氏が元徴用工問題で「この問題解決の重要性を認識し、早期に問題解決を図りたい」と発言し、朝鮮半島の非核化では「日本の立場を理解し、韓国として北朝鮮に拉致問題を取り上げ、伝えていく」と安倍氏に直接進言したことで、日韓関係がようやく改善したとの主流報道が目立っている。
アジア通貨危機から二十周年 RCEPの早期署名を目指す
一方、日中韓はアジア通貨危機から二十周年を迎えている。
議長国の中国の李克強首相は記者会見の冒頭「将来の発展に向けて約10年、中日韓のガイドラインをまとめることができた。中日韓の協力だけではなく、アジア太平洋協力、東アジアに対して自由貿易を守り、経済の統合を進めるなど、多国間の平和を守ることにもつながる。東アジア地域包括的経済連携(RCEP)協力協定締結を目指し、中日韓のWTO改革を進める」とした。その上で「中国の製造業を開放し、次いでサービス業をも開放していきたい。14億の市場であり非常に多くの有益を生むはずだ。ヘルスケア、市場という強みはより多くの選択肢になり得る。実力を高めることができる。科学技術、人的交流、2020年を科学技術の改革の年としたい。フィンテック、モバイル支払いでもイニシアチブを握る目標が中国にはある」と胸を張った。
安倍氏としても「RCEPは(離脱表明をしているインドも加えた)16か国で早期署名を目指す。日中韓自由貿易協定(FTA)についても十分な交渉をしていく」と記者団の前で語った。
今回はあえてこの第八回日中韓サミットの表の上澄みだけをすくい取ったかのような「日韓関係改善主流報道」を裏読みして中国も含めた核軍縮問題をクローズアップする。さらに2019年から2020年に向けた「核なき世界」への展望を長崎大学核廃絶研究センター(RECNA)鈴木達治郎副センター長に独占インタビューした。
長崎大学核廃絶研究センター(RECNA)鈴木達治郎副センター長に聞く!核軍縮問題と2020年に向けた「核なき世界」への展望
―米国のトランプ大統領は短距離、中距離の核ミサイル(開発)を止めようとはしていない。東アジアで短距離、中距離の核ミサイルが配備されることは起きてもいいのではないかという兆候がある。それはいずれ東アジアが欧米を抜いて頂点に立つ時がくるからであるという専門家の見方もある。トランプ氏は、はっきりと「小型核ミサイル、短距離、中距離ミサイルを研究せよ」と明言している。
日本が弾道の種類を問わず、米軍による新ミサイル日本配備に反対できるだけの理論武装をした、日本側の役割拡大を含む現実的代替案の提示こそを議論していかなければならないのではないか?ということこそを議論すべきだと思うが?
長崎大学核廃絶研究センター(RECNA) 鈴木達治郎 副センター長
「核でなくとも、中距離弾道ミサイルを日本に配備するとしたら、中国にしてみれば既に核兵器のターゲットとなっている自国のミサイル防衛を突破すべくミサイル数を増量させている段階にある。日本や韓国に対しては「先制不使用」を掲げ、あくまで米国に対する核抑止政策だ。もし撃たれた場合、中距離ミサイルの外観からだけでは核か通常かの差別化が難しい。つまり報復核攻撃のリスクが高まるということだ。中国に在日米軍基地を攻撃する口実を与えてしまう」。
―米政府直系の軍事シンクタンク「ランド研究所」から米国の概念上国防戦略において、インド・太平洋地域で2番目のプライオリティーになっている「台湾」を防衛するため、「Minami Ryukyu」の表記で沖縄の小島嶼群と宮古島にも在日米軍はミサイル基地を建築し始めた。
鈴木氏「まさに今、緊張が高まっている。米国の核戦略としては、米露が中距核戦力(INF)全廃条約から脱退して今後、中国も含めた三カ国の軍縮の枠組みを作っていく方向に転換できるか模索しているが、核でなくとも通常であろうと、中国に対する脅威が増していく方向に動向して行けば、中国としても「軍拡」の方向へと進む。そして中国の脅威に対抗する形でも結果的には「軍拡」へと突き進むだろう」
―日本のプライオリティーが日本を撃つミサイルを防ぐべきことにあるのか?
北朝鮮の弾道ミサイルが最大の脅威とは言えない。中露こそが日本にとっての国家安全保障上の最大の脅威である。とは言え、愚かしい北朝鮮の金正恩政権と違い、中露は短距離弾道ミサイル実験を連発して日本の排他的経済水域(EEZ)にミサイルを着水させることは平時からはしない。1980年代遅きに経済的な問題で旧ソ連が崩壊した。キューバは財政的な困難さを抱えていたが、カストロは今だ建在だ。だが、冷戦期はキューバ危機から始まった。
当時の冷戦期とはイデオロギー戦争を指すという。それが瓦解したのが「今」という時代だと国際地政学研究所の柳澤協二所長は、RECNAの発刊する軍縮の国際学術誌に寄稿された「柳澤論文」の中で指摘する。だが、別の中国覇権にも詳しい米国の論客であるジャーナリストのロバート・D・カプラン氏は「対米中国イデオロギー生存論」を主張する。「米中間の貿易取引がもっと盛んになれば、中国はもっと民主的になるとは私は信じたことがない。もしリベラルデモクラシーを中国にそのまま当てはめれば、中国では異民族同士が血を流す事態が起き得るだろうし、国内は新たに分断され、秩序が失われる恐れもある」。カプラン氏は米中の経済的結びつきの弱まりや現在、一定の合意をみた貿易戦争は「新冷戦」と呼ぶのに「合理的」であると語る。
鈴木氏「中国が安定していることが重要だ。いきなり民主主義に移行すると返って不安定になるということもあり得ると思う。安定した形で資本主義を取り入れた市場経済に移っていく方向で動いているはずだ。米中の経済依存度が高まれば、基本的には戦争のリスクはどんどん減っていく。戦争が全く起きなくなるという保証は出来かねるが、経済関係の依存度が高まれば高まるほど、戦争のリスクは低くなると思っている。だからと言って、すぐに民主主義に移行すればいいかというと、そうとは言い難い」。
―米国防総省(ペンタゴン)が、核兵器以前に通常弾道搭載型の中距離ミサイルを対中国国防政策として掲げてきた。この対中政策により欧州の安全保障が犠牲になったとの批判も紛糾する中、ロシアを強く意識した米国による欧州核兵器配備受け入れ反対運動をロシア自身と中国が裏で支援する可能性も捨てきれない由々しき事態。
他方、日本政府はINF条約について米国の「問題意識は理解する」としてきた。実はこの「理解する」とは、外交政策において「支持する」とは言いたくない際の
①日米同盟の重要性に鑑み、米国のドナルド・トランプ政権の判断を真っ向から批判することを避けたい
②ロシアのウラジミール・プーチン政権との平和条約締結を控えロシア政府を刺激することを避けたい
という二つの打算からくるものだった。日本としては巻き添えになることを避ける万策。
同様の文脈で「一帯一路イニシアチブ(BRI)」という経済パワー外交を展開する中国にとって、「開かれたインド太平洋構想(FOIP)」とは米中関係を超えてアジアに米国を関与させ続け、同時に日本としても米中競合に巻き込まれないように牽制する外交政策でもある。
米中の軍縮について伺ってきたが、ロシアについても軍縮の動向を伺わせていただきたい。
鈴木氏「米中の軍縮にロシアを参加させるのは難しい。まずは米露二国間の信頼醸成を取り戻すのが最優先だ。2021年2月に失効期限を迎える新START条約を延期させるため、何よりも早く米露の信頼関係を回復させる。これがないと、全ての核軍縮は失敗する。米露関係は非常に重要。」
―2019年から2020年へ向けた「核なき世界」への展望について
鈴木氏「今、米露の対話が途絶えている。ミサイルについて米露が互いに不信感を抱いている状況を迅速に解消することが第一に求められている。そのためにも信頼醸成を図っておかないと、2020年のNPT再検討会議も失敗してしまう。中国もますます軍拡に走るだろう。するとインド、パキスタンも相次いで軍拡を加速するだろう。世界全体が軍拡の趨勢へと動く前に是が非でも米露が対話をし、新START条約を続けると同時に新しい軍縮のメカニズムを作って欲しい。その時にサイバーやA.I.という新しい先端技術の軍縮問題も議論すべきだ」。