安倍首相 イラン外相と中東情勢議論 核合意順守求める©️FNN PRIME
イラン核危機の収束を図るためフランスのエマニュエル・マクロン大統領に招かれG7にも駆けつけたイランのモハマド・ジャヴァッド・ザリフ外相が日本にも来日している。
ザリフ氏は、8月28日から30日まで主催される第7回アフリカ開発会議(TICADⅦ)の議長国を務める日本の安倍晋三首相と28日に会談した。
果たして日米同盟の忠犬に阿る安倍氏は、米国のドナルド・トランプ大統領相手に一歩も引かなかったマクロン氏と比していかなる軍縮外交成果をあげることができたのか?
Iran’s Zarif leaves G7 talks, unclear if progress made to ease tensions August 25 2019©️Reuter
トランプ氏相手に堂々たる外交手腕のマクロン氏
今年8月26日フランス南西部・ヴィアリッツで議長国としてフランスのエマニュエル・マクロン大統領が主催したG7が閉幕した。マクロン氏はイランのモハマド・ジャヴァッド・ザリフ外相をサプライズ招致し、イラン核危機を巡り関係の悪化する米国のドナルド・トランプ大統領と会談の契機を設ける目算だった。マクロン氏としてはザリフ外相と3時間半に及ぶ会談を行い、米国から受けた経済制裁に喘ぐイランに「経済補償メカニズム(economic compensation mechanism)」の提供を立法化することをドイツ、フランス、英国の実務者とも公式に詰めていきたい旨を示した。マクロン氏は初日の夕食会でG7に集った首脳らとイランの核危機について議論を交わした。
だが、トランプ氏はこのマクロン氏のイラン調停に向けた外交努力を無視したように見えた。
「イランとしては1日あたり最低限70万バレルの石油輸出を望み、150万バレルが理想であり、もし欧州の交渉次第では核合意の遵守もやぶさかではない」とあるイラン外交官は「ロイター通信」に明かした。
ザリフ氏は米当局によって8月早期に制裁下に置かれている。
「ザリフ氏はマクロン大統領の2015年『包括的共同作業計画(JCPOA)』時の義務遵守履行の提案を目的とするイランのリーダーシップに則った回答を伝えるだろう」(前出イラン外交官)
マクロン氏は現段階でイランと人道や食糧と引き換えに貿易のチャネルを開くことを提案したものの、その譲歩の見返りとして核合意に十分に期待し、この交渉に乗った方がイランのためだと自信を見せた。
マクロン氏はG7閉幕のトランプ氏との記者会見でも「トランプ氏の北朝鮮の非核化政策に対する強い外交手腕を称える。だが、我が国との仏米二国間関係における貿易ではそのやや利己的な保護主義の対応は容認できない」とトランプ氏を前に釘を刺す勇猛さも兼ね備える優れた外交手腕ぶりを海外プレスの前でも披露してみせた。
Javad Zarif Twitter 2019年8月26日©️@JZarif
フランスを発つ際、ザリフ氏は「前進することは困難だ。しかし価値ある試みだった」と自身の公式アカウントでツイートした。
THE RAND BLOG Japan’s Hormuz Dilemma by Jeffrey W. Hornung©️RAND CORPORATION
野党は日米同盟の忠犬安倍氏の日米物品役務相互提供協定(ACSA)の間隙を突け
昨年5月に米国が一方的に離脱し欧州も巻き込んだ火種を自ら撒いておきながら、トランプ氏は日米同盟の忠犬に阿る安倍氏にイラン行きを命じた。目的は無論「調停の仲介役」のためだ。1978年の福田赳夫元首相以来、初のイラン訪問を行った安倍氏はイランのハサン・ロウハニ大統領と最高指導者のアヤトラ・アリ・ハメネイ氏に相次ぎ会談を行った。しかし何の手土産も持たずに帰国したばかりか、トランプ氏に「なぜ米国ばかりが同盟国を守ってやらなければならないのか」と返って在日米軍の駐留費を5倍に引き上げるとの通告まで受ける羽目に陥った。
日米地位協定に代表される安倍政権の日米同盟への忠犬ぶりは同協定第17条「米国の法令による裁判権の行使」や同条7項(b)「合衆国の軍当局者から援助の要請があった時は、その要請に『好意的考慮』を払わなければならない」を根拠法とする司法権も行政権もない意味不明な条文が明文化されており、第18条「請求権の放棄」がこの地位協定をより米国側に有益なものへと強固にしていることからも明らかだ。
このように徹底的に属国とされてきたのに、75%もの基地負担費に増額されたのは、2014年の集団的自衛権閣議決定後から変わらず、時のオバマ政権のアジアへのリバランス政策、ヘッジと関与のアジア安全保障政策の際から米政権の歴史的な姿勢は不変なのである。そこへきて2013年の特定秘密保護法可決による秘密の横行。2015年の強行採決の末、安保法制という世紀の悪法が成立する。この上、たとえ気分で周辺国を振り回す大統領だと分かってはいても、「5倍の駐留費を搾り取る」とまでナメられておきながら、一国の首相たる者として安倍氏はマクロン氏のように是々非々の議論がトランプ氏に対してはできないのか?
トランプ氏は新任のマーク・エスパー米国防長官に命じ、商船警護連合「海洋安全保障イニシアチブ」について説明させ、協力を求めてきた。
今年6月13日にはホルムズ海峡において日本の海運会社である国華産業が運航するパナマ船籍のタンカー「コクカ・カレイジャス」が被弾した事件がおきた。安倍氏の初訪問でも何ら進展しないトランプ氏の出方に腹を立て、「欧米の出方次第ではイランとしてはウラン濃縮度を90%台の兵器級レベルまで高める用意がある」と神経を尖らせていた頃だ。
国民民主党の政調会長を務める後藤祐一衆議院議員は「ホルムズ海峡など公海又は他国領海における船舶攻撃に対する我が国の対応に関する質問主意書」(令和元年8月1日)を提出し、安倍氏から同月15日に答弁書を受理している。
このうち後藤氏は「存立危機事態」においては「同(ホルムズ海峡)を経由した(中略)石油供給途絶を理由とする存立危機事態」について武力行使如何で「国民生活に死活的な影響が生じる状況に至っていない限り」認定されることはないか否かについて問うている。
また、「国際平和支援法」についても同法第一条で規定した「国際平和共同対処事態」に際し、同法第二条に基づき「重要影響事態等に際して実施する船舶検査活動に関する法律」第2条による「船舶検査活動」が、「貿易その他の経済活動に係る規制措置であって我が国が参加するものの厳格な実施を確保する目的」でなければ行えないかを確認している。
後藤氏の質疑は安倍氏から前者については「武力攻撃が発生した場合において(中略)我が国に戦禍が及ぶ『蓋然性』、国民が被ることとなる犠牲の深刻性、重大性などから客観的、合理的に判断することとなる」との答弁を引き出すことに成功している。
「万が一事故や事件が起きてしまったら?」という「蓋然性」=「%」の問題は既に「コクカ・カレイジャス」が被弾した事件が起きている時点で、国家の責任である。尊い人命である生存権が幸運にも失われなかっただけで日本としては「国外犯規定」を規定する日本の形骸化した刑法のみがあるだけで日本を一歩外に出た際に適用される「国際法」に依拠した国内法整備がなされていないのである。
野党議員として、後藤氏はここで安保法制を根拠とする質疑を安倍氏に正している。
安保法制のうち、自衛隊の海外派遣に関する法案は三つある。一つは米軍支援のための「重要影響事態法」。残り二つは多国籍軍支援のための新法は「国際平和支援法」と国連平和維持活動のためのいわゆる「改正PKO法」である。このうち「国際平和支援法」こそ、従来の「恒久法」に位置付けられ、インド洋における給油や「イラク復興支援特措法」による多国籍軍輸送支援を行ってきたものに該当する。個別の「時限法」により行ってきた後方支援活動を、立法によらず、派遣の閣議決定および国会承認によって行えるものとするものである。法案は支援対象となる「諸外国の軍隊等」の定義において、国連安保理決議によるもの以外に、「国際平和支援法」では第3条第1項ロでも示されているように「当該事態が平和に対する脅威又は平和の破壊であるとの認識を示すとともに、加盟国の取組を求める」場合を挙げていることである。すなわち、刮目すべきは国連安保理が武力行使を明らかに容認していないケースでも、諸外国がこれに対処するための活動として武力行使を行う場合を除外していない点だ。
安保法制の審議中、安倍晋三首相は平成27年5月28日、「我が国は、政策判断として(中略)今後も軍事的作戦を行う有志連合に参加する考えはありません」と答弁している(第180回国会 我が国及び国際社会の平和安全法制に関する特別委員会)。
この首相の答弁によると、有志連合軍に対する支援はあくまで「政策判断」の問題であり、「法律上できないわけではない」ということだ。いくらでも法文上拡大解釈が可能なのである。
だが、これまでに日本が締結してきた日米豪英仏ACSAがなければ、いくら安保法制を施行させていても、自衛隊を実際に海外に派遣したり、米軍の兵站を効率的に行える実質的な法適用がなされるということは非現実的な了見となる。そのため、実際には安倍政権が米国主導の「海洋安全保障イニシアチブ」への日本参加に圧力をかけられているのは、安保法制というよりむしろ「日米物品役務相互提供協定(ACSA)」の方なのである。
米側の圧力のかけ方はこうだ。
「日本に戦闘員としてこの有志連合軍に参加しろと言っているわけではない。日本は『物品役務相互提供協定(ACSA)』を米国や他国とも結んでいるだろう。日本から有志連合軍基地のある地域まで外国船舶への再給油や弾薬を含む供給品の輸送までACSAを根拠法にできるようになっているはずだ。それは自衛隊の空自や海自をもってすれば有志連合軍船舶近くの海域も巡回することを助けるだけの能力を提供できるはずだ。また湾岸戦争の時のような耳障りな酷評に晒されたいのか」
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野党連合はトランプ政権がいかなる圧力を安倍氏にかけているかを見抜いて叩くべきだ。これまでの森友、加計学園からイラク、南スーダン日報隠蔽を始めとする一連の文書改竄問題を逃げ切り続けてきた安倍政権にこれ以上の暴政を許したまま、憲法改憲論議に移らせてはならない。
戦争が始まる前ぶれはいつの時代も「秘密」が横行する。国民は目も耳も口も塞がれ、文民情報統制(シヴィリアン・インフォメーション・コントロール)が成されることを忘れてはならない。
北朝鮮の“新型ミサイル”性能向上で日本の脅威に?(19/08/16)©️ANN News CH
GSOMIA破棄で揉める日韓を横目に 北朝鮮が韓国国防力を凌ぐ新兵器を開発?!
一方、日本国内で今、最大の焦点となっているのは「軍事情報包括保護協定(GSOMIA)」の韓国側が一方的に破棄を通告をしたことで緊迫する日韓関係だ。元徴用工訴訟、半導体ハイテク産業をめぐる輸出規制で対立する睨み合いの続く中、8月2日に安倍政権は韓国を「ホワイト国」から除外する閣議決定を行った。これを機に日韓の通商問題は外交安全保障問題へと飛び火。米韓合同軍事演習を前に北朝鮮側が短距離ミサイルを乱発することを繰り返す脅威環境にあって、トランプ政権はマイク・ポンペオ国務長官やジョン・ボルトン大統領補佐官(国家安全保障担当)を相次ぎ派遣。河野太郎外相と韓国の康京和外相の仲立ちを再三申し入れるも物別れに終わっていた。日韓関係が悪化してほくそ笑むのは北朝鮮と中国だけである。韓国の文在寅大統領はトランプ氏の逆鱗に触れたであろう。
「金正恩党委員長の指導の下、新開発の超大型ロケット砲の試射成功」©️「朝鮮労働新聞」
North Korea boasts test-firing of newly developed ‘super-large multiple rocket launcher’©️The Korea Herald
世界がG7を注視していた頃、8月25日の北朝鮮国営「労働新聞」は北朝鮮の金正恩党委員長が24日早朝、新たに研究開発した超巨大砲「チュチェ兵器」の発射実験に立会い指揮命令を下したと報じた。北朝鮮東部の咸鏡南道宣徳(ハムギョンナムドソンドク)付近から発射した2発の飛翔体とみられる。報道によれば、正恩氏は「試射を通じて超大型ロケット砲兵器システムの全ての戦術的・技術的特性が計画された指標に正確に到達したことを検証した」と語り「愛国心の血と汗を惜しみなく捧げているわが国防科学者たちの高潔な衷情の世界が凝縮されている」と誇った。
一部の韓国メディアでは「我が国の現在の国防力では防ぎようのない脅威である」と恐れ、米露中が目下軍拡競争を急ぐ世界最先端開発とみられているマッハ5で標的を捉える標準的な極超音速兵器(hypersonic weapon)の前提知識を持っていれば、「The Korea Herald」ではこの北朝鮮の最新兵器が最高時速マッハ6.5だと報じていることに驚きを隠しきれない。ただ米国開発最高速度は標準の約5倍のマッハ25であり、もはや肉眼では捕らえられず北朝鮮の遥か上を行くのだが。
だが、北朝鮮は先のアジア・太平洋戦争中の日本と同様、国民に北朝鮮の「富国強兵ぶり」を人民にアピールするプロパガンダの狙いがあることが多い。「The Korea Herald」の記者が疑うに真実か否かは国際社会に住む私たちが次に示す米国発の最先端核・非核兵器の双務性を持って開発されている標準速度マッハ5を誇る変則自在に飛行できる極超音速兵器の公開動画を視聴するだけでファクトチェックすることは可能だ。そして私たちは冷静かつ客観的にメディアリテラシーの判断を下すべきだろう。
Hypersonic Missile Nonproliferation©️The RAND Corporation
US officials expecting Iran to launch rocket in coming days 2019.August 16©️CNN
IRAN’s CURRENT MISSILE CAPABILITIES©️Brookings
Reducing the Risk of Iran Developing an ICBM By Michael Elleman ©️IISS
イランの長距離弾道ミサイル「シムルグ」がICBM級に?!トランプ氏北朝鮮とイランの対応でもレイシズムか
「CNN」(2019年8月17日)によれば、イランが「平和的利用」と称するミサイル発射実験は、4000kmから6000kmで飛来する「シムルグ」にさらに改良を加えた米本土に届く長距離弾道ミサイル(ICBM)と同等の技術を有するものになったのではないかと報じられている。
最近解放されたが、イランは英国のタンカーを「国連海洋法条約」第17条「無害通航権」違反で拿捕し、シリア問題で協力関係にあるロシアでさえもイスラエルを支援しているのではないかと疑い、弾道ミサイルの発射飛距離を伸ばす軍事技術向上演習を行うなどして乱発し始めた。
北朝鮮は昨年爆破したはずの東倉里のミサイル実験場を完全に再建していたことを筆者は既に衛星画像で確認済みだ。米諜報機関が新たに核燃料供給をしていると北朝鮮の情報筋から掴んでいるにも拘らず、ミドルベリー国際大学(ジェームズ・マーティン)核不拡散研究センター軍事アナリストのセドリック・レイトン大佐は「短距離弾道ミサイルを連発している北朝鮮は、たとえそれが実験用であろうと、処罰は免責されます」と指摘する。トランプ氏が金正恩氏と美しい書簡のやり取りをしているためにお咎めなしだからだ。ロシアのウラジミール・プーチン大統領は核ミサイル実験に失敗。ロシア周辺区域は放射能物質が霧散しており、包括的核実験禁止条約機関(CTBTO)のラッシーナ・ゼルボ事務局長でさえ未だ完全な測定を終えていないとして被爆の健康問題が懸念されている。欧州を巻き込み米国も混乱の渦中にある中に乗じ、中国はサイバースパイを投入。前出のレイトン氏は「我々は彼らの考えは全て分かっています。中国は米国のライバルですから」と語る。トランプ氏のマーク・ミレー私的軍事顧問が中国を警戒すべきだと危惧した。
CHINA’S BALLISTIC MISSILES©️CSIS MISSILE DEFENSE PROJECT
米国の概念上のグローバル戦力分割戦略©️Rand CORPORATION
安倍氏がトランプ氏を「盟友」と言おうとも、米国防戦略の「開かれたインド太平洋」構想地域第二トッププライオリティーは北朝鮮と「台湾」だけ
米国の国防戦略に関する特別報告書を2018年末に上梓した専門家らが描いた主要なリスクシナリオは4つ。
1.北朝鮮の核脅威の再燃
2.米中覇権争い
3.ロシアのサイバーハッキング
4.ロシアとの軍拡競争
中国の習近平国家主席が政権のスローガンの礎としている2010年刊行の「中国の夢」を書いた中国国防大学の劉明福(リウ・ミンフー)教授(上級大佐)は「台湾問題の解決が『中国の夢』の重要な戦略目標だ。『分裂国家』のままでは一流になれない。国家統一を実現するだろう。」と語る。「実は中米間で『新冷戦』は始まっている。オバマ政権の『リ・バランス(再均衡)』アジア重視政策が第一。第二がトランプ政権の『自由で開かれたインド太平洋構想』だ。今、『貿易戦争』『科学技術戦争』を仕掛けている。中国一の企業である華為技術(ファーウェイ)に圧力をかけるなど異常。最も危険なのは今後10年間だ」と「朝日新聞」(2019年5月15日)の独占インタビューに応じている。
劉氏の言葉からも明らかなように、中国は「台湾」を最重要課題と位置付けている。
これに対抗するように米国直系の軍事シンクタンク「ランド・コーポレーション」は特別報告書で
「米国の概念上のグローバル戦力分割戦略」としてトッププライオリティーは欧州のロシアとしながらも、第二プライオリティーの「開かれたインド・太平洋」構想地域では北朝鮮と「台湾」を最重視している。
無論、アジアの同盟国である日本の在日米軍基地駐留部隊数は最大であり、米側の予算も高額なものであることには変わりない。
だが…
台湾・中国ミサイルシステムの射程距離と適用範囲 ©️RAND CORPORATION
琉球南部を超える日本と中国のミサイルシステムの適用範囲©️RAND CORPORATION
上記見てきたように、いくら日本にPAC3や弾道ミサイル防衛システム(BMD)、イージス艦配備の迎撃ミサイルが配備されていようとも、常に米側の有事の際の戦力分割戦略は「台湾」を中国の弾道ミサイルから、いかに守るかにある。
カーネギー国際平和基金グローバル政策カーネギー新華センターのトン・チャオ核政策プログラムフェローは次のように分析する。
「米中露の三ヶ国は極超音速兵器グライダー(hypersonic boost-gliders)のような新戦略兵器システムを開発する軍拡競争の中で、消極的行動反応のサイクルに明白に突入したとも言えよう。通常戦力兵器に極超音速兵器(hypersonic weapons)が大量に配備され、このように核兵器システムを脅かすか否か?そして極超音速兵器が核能力あるいは核非核双方のシステムになるか否か?が深刻に三ヶ国の核の関係性に影響を及ぼし得るだろう」と指摘する。
INF条約が失効し、米国が中距離かそれ以上の地上配備型巡行ミサイルを開発し、アジア太平洋地域の中国近くに配備するという新しい軍拡の条件を生み出せば、たとえ米国のそれが核兵器ではなく、通常兵器でも、中国にとっては自国の核兵器システムの生き残りを賭けた抑止力を深く憂慮しその威力を増すことになるだろう。
チャオ氏はまた「ポスト新START条約時代というのは、米露間で核戦力が増していく新冷戦期であり、核戦力で圧倒的不利に立たされている中国の中で恐怖が育まれていく。すると中国共産党は情報統制を行い、その核政策の開発や配備などの軍備管理の透明性をベールに包んでしまうリスクが相当高いと想定される。
ポスト新START条約時代の世界におけるトッププライオリティーは、国際共同体が軍備管理体制に全労力を注ぎ、米中露の三ヶ国による新軍拡競争を回避させることが至上命題になるだろう」と語る。
殊に中国の場合、米国にこれほど対等なGDPや高度なハイテク、インフラ技術などで相対的には肉薄しながらも、核政策面では彼の習近平国家主席を持ってしても、圧倒的不利ではない脅威環境まで抑止力を高められるまでは大きな勝負には出てこないだろう。
そもそも真の国際義務違反はトランプ政権の方だ
話を元に戻そう。2015年に米国のバラク・オバマ大統領が主導した六者協議「P5+1」(米英仏中露+独)でイラン核合意「包括的共同作業計画(JCPOA)」を成し遂げてからは、国際社会の厳しい監視の下、この義務を遵守してきたイラン。
現在イランが核合意義務遵守時に保有していると判明している原子炉とウラン濃縮施設は、アラクIRー40型重水炉以外に、ナタンツ(ウラン)濃縮施設とフォルド(ウラン)濃縮施設だ。
個別のイラン核合意内容を見ていくと、
1)アラクはプルトニウムの生産量を最小限にするための改造により、重水炉の炉心は撤去され、コンクリで固められた。使用済み燃料はイラン国外に運び出され15年間再処理はされないよう国際社会の厳しい監視の下にあり北朝鮮ではまず、あり得ない段階にある。
2)ナタンツは核合意により、制限付きでウラン濃縮が続行される。この施設のほとんどが地下にあると見られている。
3)フォルドは核合意によって、山間にある広大なウラン濃縮施設として「核・物理・技術センター」となり、遠心分離機はウラン濃縮には使用されない義務を定められている。
としている。
これに対し2018年5月8日に米国のトランプ政権がJCPOAから離脱し、経済制裁を断行したことは、2005年にイランが「NPT(核兵器不拡散条約)」保障措置協定を遵守する義務に多数の履行不備及び違反をしていたことがIAEA憲章第12条C違反だった時代と大きく異なる。イランからすれば、米国JCPOA破棄は寝耳に水だったはずだ。
2018年内のその後の米国による二回の経済制裁で欧州側は「E3+2」(英仏独+中露)、11月にはBrexit手続きに入ったため「P4+1」(中仏独露+英)となり、特別目的事業体(Special Purpose Vehicle: SPV)措置を取るなどブロック圏経済を形成して救済措置を図ろうとしてきた。
イランとしては一方的に法益侵害を受け、米イランの二国間で国家責任が発生し、加害国と被害国となった。
国家責任条文(ILC)に照らし、国家責任の発生要件と認めた国家責任の追及に関しては第42条「被害国による責任の追及」(a)が違反された義務を個別的に当該国に対するものとして、認めている。
このILC第42条(a)に則り、同年10月3日、イランが1955年に米イラン間で締結した「友好経済関係領事権条約」の第4条、第7条、第8条、第9条および第10条に、違反しているとして米国を国際司法裁判所(ICJ)に提訴したと法的解釈できるのではないか。だがICJは「ICJ規定」第36条「同一の利害関係にある当事者」及び、「友好経済関係領事権条約」第21条「高等契約関係にある当事者」を適用し、2019年4月15日に「ICJ規定」第48条「各段階の終了期限」によりペンディングのまま結審した。
日本企業ももれなく撤退が加速する欧州企業の動向をめぐり、欧州は新たにINSTEX(貿易取引支援機関)による救済措置を取ったが奏功していない。だが、欧州は米国の非難する「ミサイル拡散」という国際法をイランが犯しているという認識の国際法違反を無視すべきだと反発を強めて現在に至る。
東京外国語大学の伊勢崎賢治教授(国際法学)はいかに見るか?
イランの交渉的立場は北朝鮮の立場に近しく似通っている。イランも北朝鮮も核不拡散条約(NPT)に署名し、批准したがこれを脱退した北朝鮮と、履行義務に違反したイランは両国とも違法な核兵器製造に野心を抱き続けてきた世界で二か国しかない国だということだ。
歴史的には原爆が初めて広島と長崎に投下された直後、世界法廷で核兵器のその非人道性と世代を経ても治癒しない惨禍というものを国際人道法であるジュネーブ諸条約と第一追加議定書、それよりも上位の権力を縛る憲法で裁いた史実が日本にはある。だが、核兵器使用が及ぼす科学・環境上の損害が戦争法規との違反で国際法廷にかけられた事案は従来存在しない。東京外国語大学の伊勢崎賢治教授も「核兵器禁止条約ができても、地球裁判所のようなものはまだこの世界には存在しない」と断じている。それを一個の「下部兵士」に聞き取りを行うことで、上意下達で意思を持たない「兵士」ではなく、国際刑事裁判所(ICC)で裁く試みをしてみるという意欲を示したのがアンソニー・J・コランジェロ氏とピーター・ヘイズ氏による「核兵器使用に関する国際法廷の提案」英文博士論文だった。
だが、訳に着手する前に「待てよ」と思案した。歴史的な事故や事件を裁くなら分かる。だが、国際法廷とは本来、事後的な事案を裁くものだ。原爆が投下されてからではもう遅い。
「新冷戦期」突入と言われる新たな時代を迎えた国際情勢の中で、今後核兵器が使われてから裁くという事態は考えにくい。新世代の軍縮として、A.I.が導入され機械的な判断で従来、人類のギリギリのせめぎ合いの中で核のボタンに手をかけずとも済んだと思われてきた状況から最悪、惑星存亡をかけたあの第4次米朝核危機までいきかけた時以上の事態に陥るとは考えたくもない。
そもそも日本が被爆者を裏切り続けて「核兵器禁止条約」に批准できないでいるのは、米国の「核の傘」政策である「拡大抑止」政策に依拠してきたことに起因する。2017年2月10日の安倍・トランプ「日米共同声明」に具体的に「核及び通常戦力の双方によるあらゆる種類の米国の軍事力を使った日本の防衛」を行うなどと明記してしまったが故にこの共同声明を根拠として、安倍政権は「核兵器禁止条約」に批准するどころか、「核保有国と非核保有国との橋渡し役」さえ上辺だけの言葉を並べることしかできないでいるのだ。
伊勢崎氏はそれはなぜなのかを分かりやすく説明するという。
「まず、日本の自衛隊の自衛権は憲法9条で否定しながら、憲法13条平和に生きる権利で復活させている」。このイデオロギーを持つ筆者のような立場を「修正的護憲派」と言う。
「しかし防衛省は「交戦権はない」と説明しており、これは国際法では通用しない。自衛隊が一歩国外へ出れば戦時国際法と国際人道法の遵守が戦争法規となる国際法が適用される。多国籍軍の一部になるからだ。しかし日本政府は『武力の行使と一体化しない』と説明してきた。だがこれは憲法9条に矛盾する。国内法に齟齬を来しているのだ。国外に出たら敵から識別できるように『交戦主体』として軍服と国連の紋章を着用する。この時点で既に自衛隊は国連の指揮下にある。国連が地位協定を結ぶからだ。何が起きても派遣現地司法権では裁けなくなる。何が起きても受け入れ国には司法権がない」と伊勢崎氏は指摘する。
それを念頭においても、与党vs野党・有識者・ジャーナリスト・市民運動と共闘し、筆者が恩師である伊勢崎氏に食らいついていき独学しては約2年間書き続けていた「安保法制」で頻繁に激論の俎上に挙がった「国際平和支援法」第6条「国会の承認」で内閣総理大臣の対応措置の事前承認が前提とされていることや、「重要影響事態法」第5条「国会の承認」では原則事前承認だが、「緊急時は事後承認可能」とする例外規定が設けられてきた。
「しかし1999年に国連PKOは『交戦主体』へと激変した。日本のPKO派遣5原則が国際基準に適合したPKO協力法では自衛隊の指揮権は『内閣総理大臣』ではなく、『国連の(大抵は)米軍の司令官』に従属する次元の話になるはずだ。にも拘らず日本政府は『東京に指揮権がある』と法的な根拠を説明してきた。その所属各国の軍法にある。すなわち国家の責任だ。軍事的な過失責任は国家の特定の職能集団(=日本では自衛隊)に殺傷能力の高い武器を持たせている。つまり特別な軍法で縛らなくてはならない。個人の兵士には意思がない。命令を聞くか、聞かないかだ」と伊勢崎氏は語る。
そこに忖度のようなものは働かない。命令を出した指揮系統である「国家」に責任がある。
「日本はこの法体系を整備していない。軍法会議もない。そのため業務上過失が起きた時、自衛隊個人の責任になり、日本の刑法の『国外犯規定』で刑法第37条と38条により裁かれてしまう。そのことが安保法制の条文にも明記されており、そこが何よりの欠陥法だ」と力説する。『個人の兵士』と見做される「自衛官の命にいかに安倍晋三首相が責任を持ち、もし罷り間違って事故や過失が起きたらどう責任を取るかを改憲論議で語れ」と説いている。
それこそ前出の後藤祐一衆議院議員が安倍首相から引き出した答弁である「蓋然性」=「万が一の事故が起きたら?」の責任追及を国会論戦で堂々と攻めて頂きたいものだ。
North Korea, Iran and the Challenge to International Order- A Comparative Perspective (Routledge Global Security Studies) (English Edition)©️Amazon.co.jp
パトリック・マッカーカーン共著の「北朝鮮、イランと国際的秩序への挑戦」を読む一考
米ウィルソン・センターに在籍する国務省核政策のPh.D.パトリック・マッカーカーン氏が共著で出版したペーパーバック”North Korea, Iran and the Challenge to International Order- A Comparative Perspective (Routledge Global Security Studies) (English Edition)”を一読した一考をここに示す。
北朝鮮もイランも多極的に海外への挑戦をすることを想定してきた。
顕著な異議というのは、人権侵害、通常兵器による挑発、テロリズム。そしてその全てのこれらの問題が解決するはずの議論とレガシー(政治的遺産)の問題だ。デタントと制裁なくしては西洋との持続可能な関係性には至れない。だが、両国は米国の企業や二国間の関係でビジネスや商業取引が未だ叶わずにいる。
国際共同体がイラン以上に北朝鮮の高い障壁に需要があるということだ。北朝鮮との外交努力とは、朝鮮半島の「最終的に完全で検証された非核化(Final, Fully Verified Denuclearization : FFVD)」の模索にある。しかるにイランとその他各国はイランの核開発計画が専ら平和的なものになることを確実視していた。
イランとの核合意交渉は双方で合意されたイランが現存するウラン濃縮施設を使うことができる手段を講じる。しかるに北朝鮮の合意とは、北朝鮮内部で受け入れられる核への振る舞いの範囲を確立することではなく、全ての核活動は停止すべきだと重く示唆されることにある。イランで「濃縮ゼロ」を呼びかけることを非現実的なものとして明白に放棄した。だが、北朝鮮の非核化合意はイランを凌駕するものだったことは当初、想定外だった。北朝鮮はその高い障壁に合意したのだから。
イランと北朝鮮の比較はまた、両国に非核化を迫る核合意交渉諸国との根本的な標的に関して学んだ教訓を示唆している。JCPOAの防衛側は「濃縮ゼロ」が核開発計画を再現できるイランの科学者の科学的知識を消し去ることを意味すると指摘していた。
核のノウハウは誰からも学ぶことはできない。イランは唯一、同じ道のりへ再び乗り出すために必要な供給を再度収集するしかなかった。その北朝鮮との外交では、科学的知識が未だ理論上の完全なる非核化の可能性を妨げるものとなり、核のインフラに関して狭義の意味でより焦点を当ててきた。
イランの核合意は核の起点国家としてのテヘランを凍結させたかのように見えた。
しかるに北朝鮮の核合意とは、核兵器の開発計画や核のインフラを濃縮ゼロを超えた基準で確立するのを諦めるように認識しようと試みることにある。北朝鮮の非核化をめぐる中心的な議題とは、北朝鮮が核兵器を手放さず、「並進路線」という元来た道のりへと帰結しないかどうかである。しかるにイランの交渉はイランという国家が核兵器を建造する方向へと動すよう決断はしない。前者はずっと困難な挑戦であり、イランの核合意にも、働きかけていくべきだ。北朝鮮が具体的な写真をいかにイランの状況がずっと悪化し得るか示して見せたとしてもだ。
歴史的には北朝鮮は米国を朝鮮半島での不慮の出来事に巻き込まれることから後退させ、非核国の韓国に対して精力的な軍事アプローチの勢いを増していくというのが従来の南北対決の構図を作り上げる形だった。その判断を米国が平壌のリスクとして長らく受け止め続けていた。北朝鮮が去年6月12日の米朝首脳会談以降、ハノイ会談、板門店会談の3度に及ぶ「非核化の対話」路線に一応の転換を試みてから外交政策やその対応は変わったわけだ。
だが、日本が仮想敵国としてきた中国との二国間関係がそうであったように、韓国も日本と同様、自国で核兵器を持つという「核武装論」のオプションは予てから両政府関係者の間で共有され国防上の脅威が浮上すると、その保有に駆り立てられてきた。それは国連安保理で同盟国北朝鮮に対してでさえ、反対に回った裏切りの歴史を繰り返してきた中国であっても同じだ。しかし、根本的にはどの政府関係者の核への追求とは裏腹に、現在のように日韓同盟の関係が悪化しただけではなく、本格的な危機が訪れる以上の何物も生まなかったのであろう。
原爆投下から74年を迎えた今年、広島市長の松井一実氏は「かつて核競争が激化し緊張状態が高まった際に米ソの両核大国の間で『理性』の発露と対話によって核軍縮に舵を切った勇気ある先輩がいたということを思い起こしていただきたい」と訴えた。
1987年INF条約調印時に米国のロナルド・レーガン大統領(当時)や旧ソ連のミハイル・ゴルバチョフ共産党書記長(当時)が米ソ暫定案では「中距離ミサイル」を「欧州」では「全廃」アジアでは「半減」の方向で取りまとめる草稿だったところを当時の日本の中曽根康弘首相(当時)が米国を説き伏せて「世界で全廃」を実現させた。その中曽根氏こそ「勇気ある(日本の首相としての)先輩」だったと暗に安倍晋三首相に教示し、「ヒバクシャを裏切るな!」という強い暗黙のメッセージを託したとしか思えない。
それこそ中東情勢に視座を移せばイランは今、正念場を迎えている。
イラン国民は教育をあまり受けられず、貧困層で田舎に暮らす人々の方が米国との関係改善にあまり興味がないために比較的「核開発支持派」であり、高位な教育を受け、富裕層で都市近郊に暮らす人々の方が米国との関係改善を目指すが故に「核開発反対派」である。このことは核兵器開発に関して、イラン政治の保守派とリベラル間に亀裂を生んでいることを示唆している。
イランではどちらかと言えば、年配者よりも若者の方が核開発支持に熱心だ。イランにおける核開発とは本物で、単にその核の交渉者らの協議のポイントについて話し合うわけではない。イランにおいて常に闘う者はロウハニ政権に反旗を翻す若い抗議者などで、王族ではない。彼らがレジームチェンジを望めば、トランプ氏のディールの利に叶うという地元メディアの報道も目にする。
北朝鮮はロシアから原発を売り込まれているが、従来避け続けてきた傾向にあった。無論、ロシアは北朝鮮に核燃サイクルの技術は渡していない。だが、イランは民間の原子力発電所開発計画に協力する議論の余地を生み出している。
北朝鮮とイランは共通して強すぎる「違法な核への野心」の結果として国際社会から孤立化に直面することに警鐘を鳴らされてきた。両国は国際秩序において実は独特な「棲み分け」をしているのだが、イスラエルやインド、パキスタンは未だにNPTに加盟も批准もしていないアウトサイダーだ。特にイスラエルは1995年から突き上げを喰らい続けても今なお固辞している。今年、中東非大量破壊兵器地帯と共にその署名と実現を迫られる渦中にある。
被爆者も怒り 安保法制がなければ日本はイラン危機に巻き込まれる理由がなかった
第1期目の米大統領選時にも「イラク戦争は間違った戦争だった」とツイートしたトランプ氏。だが現政権内には国際法を平然と破ってイラク戦争を開戦し、INF条約離脱、そして今般のホルムズ海峡有事を謀る中心には常に「ジョン・ボルトン氏」がいる。「大量破壊兵器」保有疑惑をイラクにかけた米英両国はイラクが湾岸戦争の停戦条件を定めた国連安保理決議687に重大な違反を犯したとして、湾岸戦争の際に下した武力行使授権決議678を復活させ米英両国はイラク戦争開戦を正当化して開戦に踏み切った。
「イラク戦争の検証を求めるネットワーク」主催の「イラク戦争第一回検証公聴会」において、2016年3月末に安保法制が施行されたことで「自衛隊が戦場で武器を撃つ側に回る当事者になるリスクを負った。殺していけばいくほど、復讐心を煽り、際限のない暴力が続く戦争。そうしたことに手を出せるようにしてしまったのが安保法制だ。戦場で(敵兵を)殺して帰ってきた自衛隊員は『正義の戦い』をしてきたのだと平気で日本に迎えられるのだろうか?」と元防衛官僚の柳澤協二氏は胸中を吐露していた。「IWJ」(2016年5月31日生中継)本公聴会は、小泉純一郎元首相の日米同盟を重視したイラク支援復興特措法を成立させ、米国がイラクに敷いた連合国暫定当局(CPA)のもとに自衛隊を派遣した戦争の後始末を担った日本の戦争加担責任を問うものだった。
トランプ氏はオバマのレガシーを個人的な感情で破棄したり離脱してきた。CTBTも危ないかもしれない。
これまで筆者がイラク、シリア、中国、パリ同時多発テロ事件、シャルリー・エブドー事件、北朝鮮、南スーダン。そしてイランなどと海外の戦争リスクから「違憲性」に強く警鐘を鳴らして書き闘い続けてきた「安保法制」の「存立危機事態」ないしは「国際平和支援法」に該当する事態が起こり、実際に集団的自衛権行使の適法発議がなされ得るなど、この今世紀最大の悪法によって尊い人命が危険に晒されることは決してあってはならない。
2017年、安倍政権は国民保護法の下に住民避難訓練を全国各地で行っていた。確かに最悪の事態を想定して有事に備えることは必要だ。だが、筆者の取材に応じた三重短大の藤枝律子教授は「国民保護法は欠陥法どころか、戦前戦中と同様、恐怖心を煽らせて国民を戦争に駆り立てる法律だ。先の戦争において、原爆の被爆者や空襲の被災者に対して未だ十分な損害賠償や補償がなされていないことを忘れてはならない」と国の責務を問うていた。
あの米朝核危機が苛烈を極めた頃、前統合幕僚長の河野克敏氏が「米軍を後方支援できる『重要影響事態』や『集団的自衛権』を行使して米軍への攻撃に自衛隊が反撃できる『存立危機事態』を想定した」と「朝日新聞」(2019年5月17日)の独占インタビューに応じ徐々に当時の事態が明らかになりつつある。
「安保法制違憲訴訟の会」では集団訴訟を7月29日時点で全国計25件起こされており、原告総数は7704人に上る。
日本被団協の田中熙巳代表委員は自身が13歳の時に経験した壮絶な被爆体験から、この集団的自衛権行使差止め国賠違憲訴訟にも名を連ねている。「被爆時、一面に広がる死体から獣の肉を焼く時の臭いが町中に漂っていた。叔母の遺体を焼いたが、ほとんど無感動でそれをやっていた。その思いを今でも思い出す」という。今でも当時の話をすると「その情景が浮かんできて声が出ない、涙が出てきて声が出ない」と原告の田中さんは癒えない重いトラウマを抱えながら原水爆禁止運動を先頭で率い、この法廷にも立っていることが分かる。
「安保法制により軍事大国を復活させようとしている政治の動きに対して非常に危険を感じている。これからの戦争は皆殺しになる戦争だと思う。司法権で間違った行為を差し止めて欲しい」と訴えた。
その田中さんにイラン核危機について筆者が伺うと「イランの濃縮が90%の兵器級まで高められ核兵器が作られイランと米国との戦争がもし起こるなら、安保法制があることによって日本が集団的自衛権行使を適用される恐れがあるということだ」と強く危惧していた。
本会の違憲差止訴訟とは一線を画すが、1993年に入隊し主に施設科の部隊に所属する茨城県の「現役自衛官」が、2016年3月に提訴した訴訟に注目が集まっている。2017年3月23日の東京地裁判決では訴えは不適格と却下されていた。しかし男性が控訴した東京高裁では2018年1月31日に「自衛官の防衛出動命令に従う義務のないことの確認の利益」を認めていた。「司法は生きていた」とその良心を垣間見た。ところが、存立危機事態問題が持ち上がっている今般の2019年7月22日、東京最高裁はこの命令服従義務不存在確認請求事件の無名抗告訴訟の原告判決を破棄、高裁に差し戻した。安倍政権への忖度を彷彿とさせる決定が下された瞬間だった。
日本の司法では2017年、札幌地裁を相手取って争われた「南スーダン自衛隊派遣差止訴訟事件」がある。2011年民主党・野田佳彦政権下でPKO派遣5原則を根拠に1次隊〜11次隊まで派遣し続けて自衛隊員がほぼ恒久的に帰国できない状態になりかけていた。最高裁に前例がないことからイラク訴訟名古屋高裁判決を判例として参照し、原告側代理弁護団は「平和的生存権の具体的権利性」を主張していた。「憲法9条に違反する戦争の遂行等への加担・協力が強制されるような場合には、平和的生存権の主として自由権的な態様の表れとして、裁判所に対し当該違憲行為の差止請求や損害賠償請求等の方法により救済を求めることができる場合があると解することができ、その限りでは平和的生存権は具体的権利である」と「南スーダンPKO派遣差止訴訟弁護団」は主訴としていた。
このように暴走する国策に対し、憲法9条が自衛官の命と日本の市民の安全を守る上でストッパーとなっていることは明らかであろう。
「安保法制違憲差止め訴訟原告団」代理人弁護士の杉浦ひとみ氏は「安保法制違憲差止め訴訟では集団的自衛権行使が違憲だとして闘っている。判断が難しいが、少なくとも存立危機事態は集団的自衛権行使を認めるものなので、その点で同じだ。イラン核危機も安保法制がなければ(日本が)巻き込まれる理由がなかったという論法になるだろう」と指摘した。