【360度VR動画】『ゲンティンドリーム』マラッカ海峡航海日誌!海外発のクルーズ船という選択(前編)

  by 古川 智規  Tags :  

海外旅行のスタイルでクルーズ船による船旅という選択肢を検討されたことはあるだろうか。
クルーズ船というと高級な旅の部類に入るというのが日本での一般的な認識だろう。もちろん、それは正解でもあるが答えのすべてではない。比較的リーズナブルなクルーズ船もあるのだが、知られていないこともあり良し悪しひっくるめてイメージが先行しがちである。
そこでシンガポール発着のクルーズ船『ゲンティンドリーム』で3泊4日の船旅を取材したのでレポートする。

前編は日本を出発してシンガポールを出港するまでの行程である。

海外発着クルーズ船という選択

ゲンティンクルーズラインのクルーズ船は複数あり、以前は日本から乗船できる航路もあったのだが記事執筆日現在では日本から乗船できる同社のクルーズ航路はない。約2年前に横浜から乗船した「スパースターヴァーゴ」での船旅を経験してるので慣れているつもりではあったが、同社のクルーズ船はハードもソフトも常にアップデートされているので旅客にとって有利に改善された点もあわせて紹介する。なおスーパースターヴァーゴはいったん退役して改修を施され、現在は「エクスプローラー・ドリーム」として再就航を果たしてる。

※参考記事
【動画多数】航海日誌・前編『スーパースター ヴァーゴ』破格なクルーズ客船とその魅力
https://rensai.jp/230725 [リンク]
(中編・後編は記事内にリンクあり)

クルーズ船での船旅を選択する理由はいくつかあると考えられる。記者は残念ながら乗船したことはないが、1航海あたり何十万、何百万も必要な高級クルーズ船は当然それなりのサービスを享受することができるし、運賃に見合う満足を得ることができるだろう。一方、リーズナブルなクルーズ船はすべてにおいてチープなのかというとそうでもない。もちろん超巨大船で多くの旅客を一度に乗せて運航コストを下げることに伴う不都合がないとは言わない。しかしそれを補って余りあるソフト面での充実にも着目すべきだろう。
また、国境を越えた移動、宿泊、食事、アクティビティのすべてが船上に備わっているので、旅行代金次第では結果的にコストパフォーマンスの高い旅行ができるかもしれないし、航空機で目的地に直行し弾丸観光になりがちな海外旅行とは違うスタイルを提供してくれるかもしれないし、シンガポールや香港といったディスティネーションがそこを発着するクルーズ船に乗船することにより経由地に変わってしまう面白さもあるのかもしれない。個々の旅のスタイルにより船内での過ごし方が変われば、同じ船に乗船していても全く違った旅になると考えられる。今回乗船したゲンティンドリームは超巨大船なので、すべてを紹介しきることはできないが読者のインスピレーションに引っかかる「何か」を見つけていただければと考える。

さて、今回の旅行はシンガポール発着のクルーズ船に乗船するので、まずはシンガポールまで行かなければならない。大まかな旅程は次の通りだ。地上での宿泊はせず、船内3泊、機内2泊の3泊6日の旅である。

1日目 深夜に羽田空港に到着して全日本空輸の深夜便にチェックイン、出国
2日目 早朝にシンガポール着、観光後、夕方に乗船、出港
3日目 午後にマレーシアのペナンに寄港、ペナン寄港地観光後、夜出港
4日目 朝にタイのプーケットに錨泊、上陸、寄港地観光後、午後出航
5日目 夕方にシンガポール入港、空港移動後に全日本空輸の深夜便に搭乗
6日目 早朝に羽田空港に到着、帰国

日本人が日本から出発する同社のクルーズ船はほとんどが旅行会社から発売されているツアー形式での参加であることがほとんどだろう。よって、その組み込み方やオプションにより旅行代金は大きく異なる。今回記者がたどった旅程と似たようなツアーは別途紹介するので参考にしていただきたい。
日本の空港で航空機のチェックインをする際には旅行会社からあらかじめ配布されたタグを預託手荷物につける。これを付けた手荷物はシンガポールのチャンギ国際空港のバゲッジクレームでピックアップする必要がなく、そのまま船会社により通関され本船に積み込まれる。そして自身のキャビンに運び込まれる仕組みになっている。いわば荷物は航空機と船舶の間をスルーチェックインすることができるのである。航空会社のカウンターでは特に手続きをする必要はなくチャンギ空港側でタグを認識して本船に運ばれるので、どの航空会社を利用してシンガポール入りしても構わない。これはシンガポール政府と船会社がタイアップしないとできない芸当だ。なぜならば、単なる宅配とは違い国際線での入国を伴うので、旅客の手荷物は必ず通関手続きが必要であり、仮に国際線乗り継ぎと定義したとしても保税扱いでシンガポール国内を空港から港まで移動させなければならないので、税関での通関手続きを旅客の手によらずに特別な扱いにしなくてはならないからである。それだけシンガポール政府がクルーズ船の発着地としてのハブ化に力を入れてるのがわかる事例である。
ここで本船へのスルーチェックインした預託手荷物に次に会うのは乗船後、自分のキャビンなのでシンガポールで半日間必要なものは入れないように注意しなければならない。

こうして羽田空港をボーイング787-9型機はシンガポールに向けて離陸した。

チャンギ空港のJEWEL(ジュエル)だけでも半日は過ごせる

早朝にチャンギ国際空港に到着して、そのままシンガポール観光に向かってももよいのだが、ジュエルという複合施設に立ち寄りたい。
できたばかりの同施設には航空会社のアーリーチェックインカウンターやショップ、レストラン、アトラクション施設がそろっている。

ここにはシンガポールで最大の人口の滝がある。落差40メートルなのだが、なんと屋内の滝で空中(吹き抜けのガラス張り屋根部分)から地上に向けて何もないところに落ちてくるのは圧巻だ。

記者が見た感じとしては、宇宙空間からブラックホールに落ちるようなイメージを得た非常に幻想的な空間である。多くの観光客が集まり夜は滝がライトアップされるのでまずはここを見ておきたい。

空港公式のギフトアイテムを扱うショップもある。

絵葉書から工芸品、食品に至るまでチャンギ国際空港公式のアイテムが並ぶので、記念品やちょっとしたお土産を購入するのには最適の場所だ。

チャンギラウンジ

ジュエルには有料のラウンジが備えられている。日本からのツアーによってはこのラウンジの利用が組み込まれているものもある。組み込まれていなくても有料ではあるが乗船者のメリットが多いので利用したい。

無料の軽食や飲み物、アイスクリーム等が常時あり、早朝到着時の休息や朝食に利用することができる。、

ラウンジ内には自由に使用することができるパソコンが置いてあり、公共のPCとしては珍しいアップル製である。

このラウンジを利用する最大のメリットはゲンティンドリームのチェックインができることであろう。後述するが4000名もの旅客を乗せることができる本船は乗船手続きも時間がかかることは容易に察しが付くだろう。このラウンジでチェックインをしてしまえば港では最も時間のかかる手続きをスルーすることができるのである。
手続き方法は簡単で、旅券を読み取り機にかざせば予約記録を照会してアクセスカードが自動発行される。このカードはICカードになっており、キャビンのキー、船内でのカジノ以外のあらゆる支払い、寄港地下船の際の身分証明書になる非常に重要なものだ。

発行されたアクセスカードと識別のためのシールが貼られた旅券をラウンジのスタッフが専用のケースに入れてくれるので、なくさないように注意しなけれあならない。ケースが割と大きめでカードが落ちやすいので、カードの穴にフックを掛けておくといいだろう。
なお、旅券は乗船の際に本船に預けるので、その後は下船時まで紛失の心配はない。

またジュエルの前からおおむね1時間ごとに港へのシャトルバスが出ているので、ここで半日を過ごしても港までちゃんと送ってくれる。

シンガポールの観光時間は半日

早朝にシンガポールに到着した場合は半日の観光時間があるので、市内を見て回ったり、昼食を楽しんだり、買い物をすることもできる。もちろん、ジュエルで過ごしても構わない。シンガポールはご存知の通り小さな都市国家なので主要な観光地を回っても十分な時間だが、渋滞等を考慮して早めに港には着いておきたい。

ゲンティンドリーム乗船

ゲンティンドリームは総トン数150695トンの超巨大船だ。遠くからでも認識できるその巨大な船体は、ターミナルに近づくほどどんどん大きくなり、目の中で信じられない大きさにまで巨大化する。
商船の大きさを表すのに使用される総トン数とは重さの単位ではなく容積の単位なので、総トン数15万トンだから本船の重さが15万トンというわけではない。一方、艦船(軍用の船艇)は排水量を用いるので、こちらは重さの単位だ。したがって空母や客船やタンカーをトン数だけで単純に比較することはできないのだが、日本で見ることができる商船や艦船で全長と全幅を比較してみた。

ゲンティンドリーム 全長335メートル 全幅40.0メートル
飛鳥II        全長241メートル 全幅29.6メートル
いずも型護衛艦   全長248メートル 全幅38.0メートル

全長は東海道新幹線のN700系電車1号車から13号車までとほぼ等しい。いかに巨大な船であるかがお分かりいただけるだろう。

ターミナル1階の車寄せには手荷物専用のチェックインスペースがあり混雑しているが、羽田空港で航空会社に預けた荷物は通関を終え、すでに本船に積み込まれているだろうからスルーする。

出発ロビーは空港のそれと大きな違いはなく、チェックインカウンターや自動チェックイン機、セキュリティチェックがあり出国審査へと進む構造。すでにチャンギ空港で本船のチェックインを終えているのでここもスルーしてセキュリティチェックに進んでかまわない。

本船には様々なカテゴリーのキャビンがあるが、パレスと名付けられた上級船室(日本のフェリーでいえば特等船室にあたる)利用者は、ターミナル内のラウンジを利用することができる。

記者は上級船室利用ではないが、取材目的で特別に撮影を許された。ここでもソファや軽食が並び、乗船までの時間を使いゆっくりとくつろぐことができる。

上級船室利用者はすべてにおいて優先権が付与される。プライオリティレーンの利用による優先乗船はもちろんのこと、混雑する下船時にも優先下船の措置が取られる。またシアターでの観覧は上級船室旅客のための優先シートが最前列付近に設けられる。航空機においてもファーストクラスやビジネスクラス、またはフリークエントフライヤープログラムのエリート会員は優先搭乗ができるが、総ダブルデッキのエアバスA380でも600席前後での優先搭乗だ。一方、本船は4000名程度の旅客数に対しての優先乗船なので優先の度合いが桁外れだ。
パレスキャビンについては別に紹介する。

ゲンティンドリームのキャビン

シンガポールの出国審査を終えてアクセスカードをスキャンして乗船する際に旅券は下船時まで本船において一時預かりとなる。これは、各寄港地でのパスポートコントロールを本船が旅客に代わり行ってくれるためだ。よってマレーシアやタイで入国審査を旅客が個別に受ける必要はなく、アクセスカードのスキャンのみで旅客の在船と下船が把握できるようになっている。下船した旅客についてもアクセスカードが身分証明書として機能し、旅券を持たなくても本船の旅客で寄港地上陸したことが担保される仕組みになっている。

記者のキャビンはバルコニー付きの船室で10デッキ後方のスターボードサイド(右舷側)。日本の一般的なビジネスホテルよりも少し広い程度の部屋に洗面所、トイレ、シャワールームがまとめて配置され、バルコニーが付いている。

洗面所の区画は過不足ない広さで、シャワールームはガラス戸で仕切られている。

アメニティは使用すれば毎日ハウスキーピングにより補充され、オリジナルのブランド品が提供される。

大型の液晶テレビにはそのキャビンの旅客氏名が表示されており、ウェルカムボードの役割を果たしていた。テレビプログラムは船内案内やブリッジからの前方映像の他に衛星放送を視聴することができる。NHKワールドも視聴可能で、多くの番組が英語ではあるものの航海中でも日本のニュースを見ることができる。

シンガポール出港

出港時刻が近くなると、本船にタグボートが横付けされ、出港準備となる。
本船のような近代的な最新鋭船では、サイドスラスター(船体の横向きに付いている推進装置)やディーゼルエンジンで発電した電力を使ってモーターを回し、舵板を操作するのではなくモーターにつながったプロペラケース自体が方向を変えるポッド型電気推進器を装備しているので、タグボートなしでも小型のモーターボートと同様に自力で離岸、回頭することができる。しかし上部構造物が大きい巨大船には違いなく風の影響を大きく受けるので安全のためにタグボートが待機しているものと思われる。

本船はシンガポールにおいては陸に対して船首から突っ込んでいる形で停泊しているために、出港後は港内で回頭(ターン)しなければならない。キャビンにいても回頭する際にシンガポールの市街地を見ることができるが、より良い景色を見ながら旅立ちのテンションを上げるためには上部甲板に出た方がよい。

19デッキの絶景

最も高い位置にあり自由に景色を眺めることができる上部甲板は19デッキである。
ここからは16デッキにあるメインプールやウォータスライダー等とともに、出港の際には本船の回頭に伴って移りゆくシンガポールの街が見える絶景ポイントだ。ここに直通するエレベーターは2基しかないので、乗り換えが必要な場合もある。
では、シンガポール出港の際にゲンティンクルーズライン広報担当の荒深真純さんにお話を聞いたので360度VR動画でご覧いただこう。VRゴーグルがあればVRモードでスマホをセットすると顔を向けた方向を見ることができる。また空間音声収録をしているので、イヤホンを使用すれば映像の移動とともに音声の方向も移動する。通常モードではマウスや指で回転させることにより好みの方向を見ることができるので試していただきたい。

■ゲンティンドリーム乗船レポート1 シンガポール出港
https://youtu.be/1W5Agqq_x74

シーフードグリル&プライムステーキハウスbyマーク・ベスト(8デッキ)

船内には運賃に含まれる無料レストランと有料レストランとがある。乗船後最初の食事である夕食は有料レストランである「シーフードグリル&プライムステーキハウスbyマーク・ベスト」でシーフードとステーキを堪能した。オーストラリアのマスターシェフであるマーク・ベスト氏が監修した料理を味わうことができる一流レストランである。

ワインは絶対的に自信があるとおススメされたハウスワインを注文。
ソムリエの目の前に座っていた男性が記者だったために、ホストテイスティングをする羽目になってしまった。ワインの作法を知らない記者はそれらしいことをして無難に乗り越えたが、このような「非常事態」に備えるために最低限のテーブルマナーは知っておきたい。

見たこともないような本格的すぎるデカンタにデカンタージュ。開いた香りと少し甘みのある日本人好みのおいしいワインだった。ちなみにソムリエは「これで美味しくなかったらワインを頭からかぶる」と言い放ち、一同の笑いを誘った。こうした振る舞いは陸の一流レストランではまず見られない光景なのかもしれないが、クルーズ船という非日常的な空間でお堅い職種の人から出てくる強烈なジョークを含めて本船のホスピタリティーでありエンターテイメントであるのかもしれない。
もちろん、ワインは美味しかったので彼がワインを頭からかぶるような事態には至らなかった。

ゾディアックシアター(7デッキ)

乗船初日の締めくくりは劇場でのエンターテインメント観覧だ。
「ゾディアックシアター」は船内にある劇場ながら2階層分を使用した本格的なものだ。航海中はさまざまなエンターテインメントが催され、そのほとんどが無料で観覧することができる。この航路での使用言語は主に英語と中国語だが、言葉がわからなくても十分に楽しむことができるようなプログラム構成になっている。航海中に一度は観覧しておきたい。

次回は上級船室であるパレスの中でも最も上級の部屋、最初の寄港地であるマレーシアのペナンでの寄港地観光を中心に紹介する。

※参考記事
【360度VR動画】『ゲンティンドリーム』マラッカ海峡航海日誌!海外発のクルーズ船という選択(中編)
https://rensai.jp/280030 [リンク]

【360度VR動画】『ゲンティンドリーム』マラッカ海峡航海日誌!海外発のクルーズ船という選択(後編)
https://rensai.jp/280077 [リンク]

※写真および動画はすべて記者撮影・収録
 取材協力:ゲンティンクルーズライン・ゲンティンドリーム

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