世界中から注目される小津安二郎監督作『東京物語』

  by あおぞら  Tags :  

今世界で注目される日本映画がある。1953年封切の白黒のこの東京物語は言わずと知れた小津安二郎作品である。『言わずと知れた』と書き終えた後、自分に対して『よく言うよ….』と自嘲してしまったのは、私自身小津作品を見たのはアメリカに来てからであったことを思い出した。スポーツジムで仲良くなった映画製作を勉強しているフランスからの女子留学生が小津安二郎を絶賛するものだから、図書館に走り当時図書館を占めていたビデオテープを借りてみたのが小津作品との接点だった。

 

『東京物語』は8月2日付けの英国放送協会(BBC)の記事によると英国映画協会発行の『サイト・アンド・サウンド』誌で批評家等846人が投票した名作映画の第3位に輝いたのだ。(因みに1位はアルフレッド・ヒッチコックの『めまい』2位はオーソン・ウェルズの『市民ケーン』)

 

小津作品はたんたんと取り立て特徴のない家族を映し出す。この『東京物語』もそのひとつなのだが、特徴のないと思われる一般家庭には実は山あり、谷あり、喜びも悲しみもあり、どちらかと言うと谷が多く、悲しみの方が深かったりするのだ。映画を観ながら、自分の家族を思い出し、また親戚、友だちの家族も思い浮かべる。『東京物語』の家庭は他人が決して外側から見ることのできない人生の断片を垣間見ることが出来る。今のような3Dや、大掛かりなセットに莫大な費用を注ぐでなく、小津作品の特徴の下からのカメラアングルで、戦後の昭和の一家族の日常をただ追っているような淡々とした、また坦々とした映画である。奇をてらわないというのはまさに小津作品そのものであり、その良さを欧米人が理解することが嬉しい。

 

主演の原節子の美しさ、原節子は戦争未亡人の役柄である。尾道から義理の父親、母親が東京で暮らす息子、娘夫婦を訪ねるのだが、大事にはされるものの多少厄介扱いされていることを薄々感じている。血のつながっていない戦死した息子の嫁の方が余程自分達に優しくしてくれる。子供達も遠い尾道から上京してきた両親を大事にしたいのは山々だが、なんせ日々の生活に追われて自分達家族のことで精一杯で余裕がないのであった。その中で、狭いアパートに暮らし、暮らし向きも良くなさそうな戦争未亡人の嫁がなけなしのお金を姑に餞別で差し出すところなどは涙が浮かんできた。

 

先月ニューヨークの近代美術館でこの映画は上映された。多くの観客は見終わった後、静かに拍手をしていた。その拍手は大きくなることなく、さざなみのようにはじまり、さざなみのままで消えた。それが小津作品らしかった。

 

大きなスクリーンで観た『東京物語』はフィルムが古いせいか、いくつかのフィルムのダメージが現れてしまったが、DVDの『東京物語』はキチンと補正されていて、白黒作品なれど綺麗な画面で観ることが出来る。

 

なんせ日本語が美しいのだ。あれほどの日本語を今の日本人は話せるだろうか。立ち振る舞いにせよ、言葉にせよ、また精神にしても美しいのだ。

 

世界が認める小津作品は日本人なら観ていたい。そして、きっと心は浄化されるはずだから……

 

画像: from flickr YAHOO!

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