日系人はアメリカ社会ではマイノリティーであり、ましてや白人優位のメディアで地位を確立するのは至難の技である。アジア女性の場合はガッツを示すより、周りからの後押しでポジションが上がるのが理想で、日本的な言い方をすれば「お陰さまで」を前置きして「…….させて頂く」の姿勢が成功への早道かも知れない。
写真の女性は名前のENDOから見てもご承知のように日系人のサンドラ・エンドウである。カリフォルニア出身で大学はニューヨーク大学に進学し政治・ジャーナリズムを専攻し、NBC局でインターンを経験した後に、CNNの子会社でニューヨークのローカルニュース専門局のNY1でキャリアをスタートさせた。
NY1は数多いケーブルチャンネルのいの一番の1チャンネルで、テレビを見ていなくてもこのチャンネルをつけていれば大体のニュースは耳に入り、また10分毎に天気予報を流すので生活に密着したチャンネルなのである。
サンドラ・エンドウは政治担当で、大統領選挙戦をレポートしたり、またニューヨーク市長の定例会見の取材もしていた。マイケル・ブルームバーグ市長は前回のアメリカ大統領選挙にも出馬するのではないかと取りざたされた大物政治家で、またブルームバーグ社を一代で築き上げた実業家でもある。定例会見後もカメラはまわっていて、ブルームバーグ市長がサンドラ・エンドウに親しみを込めて話しかけていた姿を映していたが、その映像にサンドラ・エンドウは人から好印象をもたれる人物であることが伺えた。
NY1のアンカーではないため、画面で見られるのはレポートをしている時であったが、時にアンカーが休みを取るときに、急遽ピンチヒッターでアンカー席に座ったが、カメラ映りもよく見ている側に安心感を与えた。そのあたりから『きっとどこかの局から引き抜かれるだろう….』と予想できたが、まさかそれがNY1の親会社のCNNで政治の中心ワシントンDC勤務になることを知ったときには予想以上の栄転に驚いた。
サンドラ・エンドウは日系2世である。NY1はニューヨークのローカル局なのでカリフォルニアのご家族には映像は届かないが、CNNは言わずと知れた全米を網羅するテレビ局である。全米どころか世界各国に支局を置いている報道局のジャイアントである。アジア人、そのアジアの括りでも日系人は極少数であり、その極少数の中から地位を向上するのは難しいと思われがちだが、意外や意外メディアにはアジア系が少ないから逆にチャンスがまわってきやすいとも言える。
例えばミスコンテストで白人ばかりが入賞していると、時にアジア人がグランプリに輝くこともあるが、これも人種の均等性を考慮しての結果だと推察する。アメリカの広告を注意深く見ていると、白人、黒人、アジア人などを”満遍なく”キャスティングしている。そうしないと人種差別で企業イメージが悪くなるからなのだ。
人種差別と言うより、世の中のしくみは主流が幅を利かすものなのだ。アメリカでは圧倒的に白人が多いから白人中心なのは致し方ない。しかし、それだからこそアジア系であることが優位に働くことがある。サンドラ・エンドウはおそらく一世の日本人のご両親の日本の美徳を身につけているのだと思う。そういう凜とした姿は画面からも伺えるし、積極的に日本人社会に参加している。
ニューヨークで毎年初夏にセントラル・パークで行われるJapan Dayのステージでは司会者を務める。NY1勤務の時なら課外活動でも身軽に出かけられたろうが、CNNのワシントンDC勤務になってもこの日本人主催のイベントにはワシントンDCから駆けつけて着物を着こなしステージに立つ。こういう姿に好感がもてる。
アメリカは異人種が集まって国家を形成する。そして日々変化する。異人種間の結婚で更に複雑になってゆく。その中で流れに流されるのでなく、自分達のアイデンティティーの確立こそが異人種で成り立つアメリカ市民としての尊厳であるような気がする。サンドラ・エンドウにはベイビーフェイスの笑顔から、その尊厳が感じられるのだ。
……..そんなことを書きながら、日本は女性アナウンサーがタレントまがいの仕事をして、またそれを好んでしているようにも見え、独立を虎視眈々と狙っている姿などを見ると、そんな似非アナウンサーを人気者に仕立てる風潮に疑問を呈したくなる。アメリカでCNNのレポーターのサンドラ・エンドウの活躍もあまり取り上げられていないのではないだろうか。アイドル風の姿かたちで可愛らしい声を出すのであれば日本のマスコミは飛びつくであろうが、アメリカのメディアはそんなニセモノは画面に登場する余地などはないのである。
最近目に余る日本の女子アナの勘違いを思うにつけ、CNNのサンドラ・エンドウよ、アメリカで大輪の花を咲かせよ!と応援したくなる。
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