作家、氷室冴子といえば集英社コバルト文庫をはじめとする少女向け青春小説でベストセラーを何作も出版した大御所作家。
残念ながら2008年に他界してしまいましたが「なんて素敵にジャパネスク」シリーズやスタジオジブリで映画化された「海がきこえる」等今でも人気は高く、主に若い女性を中心に多くのファンがいます。
その氷室冴子先生の書いていた若者向け青春小説を対象とした「氷室冴子青春文学賞」がウェブ小説サイト「エブリスタ」にて開催され、先日受賞作品が決定しました。
見事大賞に輝いたのは「とりお」さんによる短編小説「へびおとこ」
転校先でいじめに遭い自宅にも帰れない少女ほのかが居場所に選んだのは古い図書館。
「図書館にはへびおとこがいる」という噂通り、その図書館には体の半分が緑色の蛇のような男がいました。
しかし彼は外見とはうらはらにほのかに対して優しく親切で、お勧めの小説を教えてくれます。
ほのかと似た境遇のスタビンズ、美人司書のうつみさん。ほのかは変わった人々と交流をしながら奇妙な日々を送ることに……。
いじめ、異形の人物と陰湿でオカルトっぽい雰囲気がしそうですが読んでみるとまったくそんなことはなく、むしろ爽やかで清々しい内容です。
自分の境遇を不幸だとネガティブと捉えずはっきりした自分の意見を持つ主人公のほのかをはじめ、魅力的なキャラたちばかり。
小学生の時よく読んだ小説のタイトルがいくつも登場してなんともいえずノスタルジックな気分に浸れて、最後は読み終えるのがもったいなく思えるほどいつまでも読み続けたくなる作品です。
受賞作「へびおとこ」作者とりおさんインタビュー
--氷室冴子青春文学賞に投稿した理由は?
とりお(以下、と) 氷室冴子先生のお名前を冠した賞ならば、若い人向けのエンターテインメント作品を目指す、自分の作風に合うのでは、と考えました。
また、審査員の先生方が豪華でしたので、万が一にでも読んでいただけたらいいなと思いました。
――受賞したときのきもちは?
と 最終選考に残ったお知らせを聞いて、それで充分満足していました。小説に限らず、今までの人生で「一等賞」というものを、一度もとったことがなかったので、
どうやって喜んでいいのかわかりませんでした。
今も、いつか夢から覚めるのではないかとかすかに疑っています。
――作品を通じて伝えたかったテーマ等は?
と 前提として、エンターテインメント作品を目指しています。ただ面白いと思っていただければ8割は満足です。
残り2割のスケベ心ですが、全国の図書館が子どもにとって居心地のいい場所であれと願うのがひとつです。
現在の公共図書館は自治体や館によって運営形態が様々で、「図書館の自由」を理解していないところもあるようです。
もうひとつは、見かけによって生きづらさを抱える人がいることを、特に若い人たちに知ってもらいたいと思います。
これは、知ることによって無くせる「障害」だからです。作中の表現によって傷つく当事者がいるかもしれない、という葛藤はありますが、私としては全力を尽くしました。
少年少女にとって居心地がよく新しい本に出合える場所である図書館への深い愛を感じるインタビューでした!
大賞作品の他、準大賞「神絵師」沢村 基さんや「あの、この手はわたしの手」笠井カヤナさんの作品も少年少女にとって愛のある作品です。
かつて氷室冴子を読んでいた方も、良質なジュブナイルを読みたいという方も、是非この機会にエブリスタにて読んでみてはいかがでしょうか?
https://estar.jp/_ofcl_evt_outline?e=153669
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(文責 マツダ草介 協力 エブリスタ)