【鵜飼主水×松多壱岱 対談インタビュー】ASSH所属8年の活動に終止符を打つ決心と代表者との思い出

2002年、演出家・松多壱岱(以下、松多)を中心に立ち上げた演劇団体・ACTOR’S TRASH ASSH(以下、ASSH)に2009年から所属した俳優の鵜飼主水(以下、鵜飼)。18歳から小劇場の舞台で役者として活動を開始し、現在は俳優、殺陣振付師、ナレーションなど、1つのカテゴリーにこだわらず、多彩な活躍をする。そんな鵜飼が、12月20日(水)から公演するASSH15周年記念興行・第三弾『雷ヶ丘に雪が降る~The Five God Chronicle・雷神編~』で、8年所属したASSHの卒業を発表した。今回の発表で役者仲間からは驚きの声と同時に、お祝いのコメントが寄せられている。多くの役者たちから慕われている鵜飼が、卒業を決心したキッカケとは何なのか。それを知るべくASSH代表の松多を交えて、対談インタビューを行い、思い出を振り返りながらお互いの心境を語ってもらった。

松多壱岱と共に歩んだ8年のASSH舞台と思い出の数々

――まずは鵜飼さんと松多さんが出会ったキッカケをお聞かせください。

鵜飼:僕が大学生のときにASSHの別腹公演で壱岱さんと共演したことが始まりです。

松多:あったね!? 一緒に戦った!

――同じ舞台に出演していたことがあったんですか!?

鵜飼:そうなんです。最初、僕は殺陣ができるということで呼んでもらったんですけど、実際は全然できなくて(汗)

松多:僕も殺陣はやったことなかったんで、お互いできない者同士だったんで、少し困ってしまいました。

――それを聞くとお互いが同じスタートを切ったという感じがあります。でも、壱岱さんと言えば演出家という印象が強いので、役者として出会ったというのは意外でした。

松多:もう多くの人たちに演出をしているので、自分自身で演技をすることはなくなりました。

鵜飼:役者だったことも機会があれば言う感じですもんね。

――ちなみに、2人ならではの思い出はありますか?

松多:最後に劇団員で手を上げたのは主水だけってことかな。

鵜飼:ありましたね! 吉祥寺駅前で平手打ちをされました。

――知られざる真実が発覚しました!

松多:当時、主水はよく遅刻をしていたんですよ。しかも自転車で来るので危ないと注意していたんです。

――鵜飼さんのことを心配されていたんですね。

松多:ホントに心配でしたよ! でも、また遅刻をしてきて、しかも自転車に乗ってきたから思わず、パチンッ! と、主水のことを叩いてしまって……。

鵜飼:当時、僕は伊達メガネをしていたんですけど、叩かれた瞬間に割れたメガネが宙を舞っていく光景が描かれました(笑)

――ドラマのワンシーンみたいですね(笑) その光景を前にして、松多さんはどんな心境でしたか?

松多:やっちゃった! って思いましたね。主水怒るかな? って思っていたんですけど、次の瞬間「すみませんでした!」って叫んで、駆け出して行っちゃったんです。

鵜飼:あのときの壱岱さんは厳格な父親のように見えていたんですよ。だから何か言われたら「はい!」と言って、自分に受け入れていました。

――壊れた伊達メガネのエピソードを聞くことで、壱岱さんの厳しさが伝わってきます。

鵜飼:でも優しい一面もあるんですよ。翌日、壱岱さんが自分の使っていない伊達メガネをくれたんです。

松多:あげた! さすがに反省したもん!

――良い話ですね。そこからは寝坊も減っていったんでしょうか?

鵜飼:いえ、なかなか直らなくて……(苦笑)

松多:よく土下座してたよね。主水が24,5歳のときの懐かしい昔話です。

下積みの期間を経て役者、殺陣師として活躍の幅を広げる

――これまでのASSHでの活動経歴を振り返ってみて、1番の思い出はありますか?

鵜飼:実は、1番の思い出というのは特にないんです。ただ、現場でいろいろなことを叩き込まれてきたり、壱岱さんから課題を用意していただいたりして、いつもその場を乗り越えてきました。

松多:最初はアンサンブルをやらせていたんです。斬られ役を2,3年ほど続けさせていました。

――長い期間ですね!? 当時は殺陣師ではなく役者での活動をメインにしていたということでしょうか?

松多:そうですね。殺陣師は外部の方にお願いして、主水はアンサンブルで演技に専念させていました。頃合いを見て振り付け指導を任せることにしたんです。

鵜飼:僕にとっては完全に下積みの期間になっていました。その経験を踏まえて、ASSHの舞台でセリフの長いキャラクターを任されたのが『雷ヶ丘に雪が降る』の羅刹役だったんです。

松多:その前に『降臨Fight』という舞台で加藤清正役を演じてたけどね。

鵜飼:役としてはそうかもしれませんね。でも、僕のなかでは『雷ヶ丘に雪が降る』の羅刹役が、舞台上で敵を斬り倒す強いキャラクターを演じた印象でした。

松多:これまで子分の役が多かったのに、羅刹以降からボスを演じることが多くなったよね!

鵜飼:大役を任せていただけるようになりました。その分、老けてるって言われるようになりましたが(笑)

――修練を積み重ねて貫禄が出たと受け取らせていただきます。松多さんから見て、鵜飼さんとの出会いから今に至るまでの過程はいかがでしょうか?

松多:アンサンブルから段階を踏んで成長した姿を見続けられたことは感動でした。主水の成長過程を見ることができただけでなく、僕も演出家として一緒に成長したところがありましたので。

――ASSHにとっても鵜飼さんの存在は大きいものになっていますね。殺陣師としても役者と同じ頻度で任せていたのでしょうか?

松多:最初はそうでもないんです。殺陣付けは繊細な部分なので、なかなか主水に任せることができなかったんです。だから、僕の外部の仕事で経験を積んでもらって、そこから学んでいったことが多いと思います。

――そうなんですね。松多さんから見て、今の鵜飼さんはどのような姿に見えますか?

松多:最近はクリエイター仲間の感覚が強いですね。ASSH自体がスタッフを生み出す環境に力を入れているので。

――成長する環境として、ASSHは恵まれているように感じます。

松多:ただ、他の殺陣付けの場所では上手く指導ができなくて大変な場面もありますよ。主水もこれから外部に殺陣付けをすることになるので、伝えることの難しさを痛感すると思います。

鵜飼:そういう場面に出くわすと、毎回コンディションを整えるのに必死になります。

――ちなみに、鵜飼さんが初めて殺陣振り付けをした作品は何でしょうか?

鵜飼:ガールズ演劇の『戦国降臨GIRL』の1stを殺陣振り付けしました。

松多:『戦国降臨GIRL』ではアニメ的な殺陣をつくってくれたんです。出演キャストが舞台経験の浅い子が多かったので、見栄えの良い殺陣の研究をしていました。

鵜飼:初めて1人で大人数の指導をするという責任を持ったので必死でした。でも、自分が思い描いていた演技をキャストの皆さんと一緒にレスポンスし合って、クオリティを高めていった時間は楽しかったです。

――初めての経験だからこその思い出ですね。今の殺陣指導はいかがでしょうか?

鵜飼:これまで経験してきたことを土台にして、どういった段取りで指導をすれば良いのか構成できるようになったことを実感しています。初期の爆発的な熱量はありませんが、お客様へ届けるための手法は学んできたので、楽しさだけは忘れないで指導ができています。

ASSH卒業の決意と今後の目標について

――先日、Twitterやブログで発表されましたが、あらためて卒業を決心した理由をお聞きしてもよろしいでしょうか?

鵜飼:卒業自体は今年の初めに壱岱さんに相談していたんです。外部で自分がどのポジションにいるのかを確かめたいと思ったんです。

――1つの節目という意味を込めてでしょうか。

鵜飼:そうですね。今年で30歳になって、0の付く年齢になって強く思うところがあったんです。30歳になると仕事の内容が変わるだけでなく、20代との意識の違いが出てくるんです。ちょうど中堅やベテランの仲間入りになる年齢になって、技術や技量が求められて、自分が何をできるのか把握したいと思いました。

――それは役者の面で把握したいということでしょうか?

鵜飼:役者だけでなく、殺陣・振付師としても把握したいと思ったんです。先ほど壱岱さんは僕のことをクリエイター仲間とおっしゃっていましたが、僕にとっては第二の父親だと思っています。その壱岱さんから独り立ちをして、今までのカテゴリー以外でも挑戦してみたい気持ちが生まれたんです。

――新社会人として親元から離れることを決めた気分ですね。

鵜飼:1人でも立派に活躍できる姿を見せたいし、さらに成長して一緒にお仕事をしたい。そうすれば、壱岱さんともっと面白い作品を作って、ファンの方へ届けられれば良いなと思って、卒業することを決めました。

――松多さんが目標になっていますね!

鵜飼:壱岱さんも楽しませることができるエンターテイナーになりたいです! もっと知らないことを学んでスキルを上げて、いつか壱岱さんと共同で何か面白い作品を作りたいと思っています。

――松多さんは鵜飼さんから卒業のお話を聞いたとき驚きましたか?

松多:僕は劇団員に対してこだわりがあんまりないんですよ。これまでもたくさんの人が卒業していったので。

――鵜飼さんの卒業も時期がきたということでしょうか。

松多:寂しい気持ちはありますよ。でも、舞台だけじゃなく、映像でも活躍してほしい気持ちもありますし、演劇をしていればどこかで会うこともあると思います。なので、良い意味でけじめとして前進してほしいです。

――これからのASSHはどのように変化していくのでしょうか?

松多:今後は小栗やヒロヤの活躍も見たいし、僕自身も新作を書いていなかったので、フレッシュな気持ちで新しい作品を生み出してみたいと思っています。

――お互いにとって新たに生まれ変わるタイミングですね。新しく生まれ変わるASSH、そして新たなフィールドで活動する鵜飼さんがエンターテイナーとして活躍する日を楽しみにしています。最後に、鵜飼さんからファンの皆さんへメッセージをお願いします。

鵜飼:僕はASSHを卒業しても役者としての活動は継続していきますし、劇場に足を運んでくださる皆さまに今まで以上の楽しさを届けられるよう精進していきます。これからもどうぞ応援よろしくお願いいたします!

撮影:野島亮佑

野島 亮佑

オンラインライター/ニュース記者。ライブ・イベントレポートをはじめ、映画舞台挨拶、演劇・舞台レポート、アーティストや役者のインタビューを行っています。

Twitter: ryosuke_nojima