資本論を解説した池上彰の本を読まないか

  by フリーター薫  Tags :  

いまこの書評を書いている僕は、就職氷河期の、ロストジェネレーションなどとも呼ばれている、ごく一般的な中年の男の子。強いて違うところをあげるとすれば、うつ病になって失業したから、会社などでは働けていなくて、ときどきライターとしてなんとか小金を稼いで暮らしているということかナ。名前はフリーター薫。
最近そんなどこにでもいる普通の男の子である僕は、自分の将来に不安を感じているのだけど、どうしていいのかがよくわからない。
この書評を書く前に、日雇い労働にでも行けばいいのかもしれないけど、いったいどうしてこんな状態に自分はなったのだろう、世の中はなっているのだろう、と考えてしまうことがよくあって、そして同じことを考える人が多いのか、何だかマルクスの『資本論』が最近また読まれているという話を聞いた。
そんなわけで、あるとき僕は近くの本屋に『資本論』をくださいと探しに行ったのだ。なんと『資本論』は平積みにまでされて置いてあった。
「読まないか」と言われているような気がして、ホイホイと僕はマルクスの『資本論』を買って帰ったのだけど、読んでいる途中、何度も窓からマルクスの本を投げ捨ててしまいそうになった。
む、難しい。僕には難しすぎるのだ。
資本制生産様式が君臨する社会では、社会の富は「巨大な商品の集合体」の姿をとって現われ、ひとつひとつの商品はその富の要素形態として現われる。
だいたいすべてがこんな感じで書かれていて、読み続けていると、頭がパンパンになってくる。こちらのことはおかまいなしに、わざと知識や教養をひけらかすように小難しく書いているようにも思えるマルクスの文章を読んでいると、嫌になってきて、結局最後まで読み通すことができなかった。
それ以来『資本論』は僕の部屋の本棚に、ただ箔をつけるためだけに置いてあったのだけど、なんとあの池上彰が『資本論』を解説した本を出していると耳にして、また僕は近所の本屋に向かったのだった。
果たして『池上彰の講義の時間 高校生からわかる「資本論」』という黄色い表紙の本があって、2009年に発売されているので、知らなかったのは僕だけらしい。
池上彰の本はまだ一度も読んだことがないが、そんな僕でも彼の噂はよく聞いている。
「おいおい、いいのかい、俺は政治や思想にかぶれてないノンケの奴をもまるっとわからせちゃうジャーナリストなんだぜ」
とお茶の間に登場して以来、世界情勢や経済など、難しいことがらを子供から大人にまでなんでもわかりやすく解説し、その面においては当代随一の能力を持っていることは間違いない、といわれるいい男だ。
その池上彰の本を、やっぱり僕はホイホイと買って家に持ち帰った。
読んでみると、評判どおり、彼はすばらしいテクニシャンだった。マルクスのような、どこからが髭でどこからが髪の毛かもわからないような、毛に囲われた顔をしているガチムチの男が書くような、いかつい上から目線の小難しい文章ではなく、こちらの状態を知りつくして、まるでいまそこを撫でて欲しいという気持ちにこたえるかのように、わかりやすく、ソフトな語り口で彼は解説してくれるのだった。
こんなこと初めてだ、と思ってページをめくると、うれしいこと言ってくれるじゃないの、それじゃあとことんわからせてやるからな、という感じで、どんどんと彼、池上さんはマルクスの『資本論』読みといて解説してくれる。えっ『資本論』ってこんなに簡単だったの、と思う程だ。この本は、まさに僕のような人間にはうってつけの本だった。
ちなみに、マルクスが資本論を発表したのはなんと1867年。今から150年近くも前で、日本では「大政奉還」があった年。江戸幕府が滅ぶかどうかというときに、こんな現代の預言書みたいなものをマルクスは書いていたなんて。
どこからが髭でどこからが髪の毛かもわからないような人だけど、やっぱりマルクスさんもスゴイ人で、なんとか池上さんの本をきっかけとして、『資本論』は読み通して理解したい。

とくに資本主義の最終段階というところは、現代をノストラダムス以上に的確に予言しつくしているみたいだ。

一人の資本家が存在するためには多くの資本家が虐殺されるのである。この集中、もしくは少数の資本家による多数の資本家の財産収奪が行われる。科学が意識的に技術へと応用されるようになり、地下資源が計画的に掘り出される。すべての民族が世界市場のネットワークに組み込まれ、それとともに資本制の国際的性格が発展する。巨大資本家はこうしてその数を減らしながら、いっさいの利益を奪い取り独占していく。それともに巨大な貧困が、抑圧が、そして隷従と堕落と搾取が激しくなる。

なんてことが書いてあったりもして、やっぱりマルクスの『資本論』自体もおすすめなのでした。僕のように頭がパンパンにならない人は直接読んでみるのもいいんじゃないかな。

何も上手く行かなかったおやじのプロ、薫です。 それで飯を食っております。 疲れたらすぐ休む、うんこの製造機です。 『どうしてボクには仕事がないんだろう』という、冗談のような名前の著作がございます。

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