台風が来ると登場する珍バイト「海の拾い屋」とは?

昔、読んだ上方落語の本の中に、こんな話があります。

“人の良い男が、何か、いい商売はないか?と、知り合いに尋ねました。

知り合いは、したり顔でしばらく考えたあと、「そうさなあ、今時分は屑金拾いがいいかもしれんなあ。」と、適当に思いついたことを答えました。

その答えをまともに受け止めた男は、愚直にも毎日、人通りの多い往来を下ばかり見て、歩いたそうです。

暑い日も、寒い日も、晴れの日も雨の日も、毎日、毎日、足元ばかりを見て歩きました。

すると、ある日、ふと、道端に大金の入った財布が落ちているのを見つけました。中を開けてみると、果たして、莫大な額の現金と、落とし主の名前が判る証文が入っていました。

男は、その財布を正直に落とし主の元に届けたところ、その実直さが買われて、大店に雇われることになり、ゆくゆくは入り婿に迎えられて、跡取りの座を得ました。“

というオチの話です。

まあ、正直者が最後は得をするという訓話みたいな話ですな。

しかし、現実にもこれに良く似たアルバイトがあるのです。

それは、「海の拾い屋」です。

しかも、台風や大風の後を狙って、誰よりも早く、日本海沿岸の海岸や、紀伊半島の沿岸に早朝から訪れ、そこに落ちている獲物を拾います。

そこでターゲットにしているのは、ずばり、「流木」です。

お茶やお花のお稽古をしている人は、よくご存知かと思いますが、いわゆる花器の演出用に、白くきれいに磨かれた流木が頻繁に用いられています。

また、都会のホームセンターの材料売り場に行けば、こうした「流木」が通常の加工木材よりも、びっくりするような高い金額がつけられています。

最近は、アートや住宅のインテリアにも用られたり、デパートのショーウインドウの装飾用に使われたりするなど、ニーズが拡大する一方で、供給がまったく追いついていない状況なのです。

こうしたバイトは、80年代のDIYブームの頃から登場し、90年代初頭のバブル期には、大勢のバイトを雇った複数の業者が乱立しました。

その結果、一種のゴールドラッシュのような状況が台風後の海岸に押し寄せ、中には金目の流木を狙って、複数のグループが入り乱れて奪い合うような事件まで起こりました。

そんな状況では、個人が趣味で気軽に流木を拾うといった気軽な楽しみ方が出来にくくなり、一時はことごとく流木が消えてしまいました。

しかし、バブル崩壊後は、そうした業者の数も減り、アルバイトの募集もあまり、見かけなくなりました。それとともに、砂浜にも流木が見受けられるようになりました。とはいえ、少数ですが現在もこのバイトは存在しますし、私も経験があります。

これらの流木は、長年、波に揺られて、表皮がはがされ、丸みを帯びた個性的な表情をしており、二つとして同じものがないことから、ヤフオクなどでもそれなりに値段がつきます。

ですが、台風の接近を待ちわび、まだ波浪が高い海岸に早朝からダンプで乗りつけ、雨に打たれて、砂にまみれて重い流木を担ぐ苦労があります。

余談ですが、あるときふと、テレビのニュースを見ていると、福井県の三国沖で起きたナホトカ号の座礁による原油流出事故の映像が流れ、海岸清掃作業を行なっているボランティアの中に、その「流木拾いバイト」の親方がいるのを目にしました。

日頃、海のお世話になっている身としては、こういう事態には矢も盾もたまらずに、ボランティアを買って出たのでしょう。

一応、彼らも「海に生きる男」として、見直してあげたくなったのを覚えています。

皆さんも、アルバイトしなくても、興味があれば「自営」としてもできるのでチャレンジしてみてはいかがでしょうか?

写真データ:「写真AC」

ガジェ通・寄稿ライター:マーヴェリック

出版編集プロダクション法人マーヴェリックの中の人。