カードビルダーはなぜ消滅したのか?

  by やすおか  Tags :  

ゲームセンターには様々なゲームが存在する。 景品を取るクレーンゲーム、音楽に合わせてプレイする音楽ゲーム、銃型のコントローラーを持つガンシューティング、本物を運転しているかのようなレースゲーム、そしてビデオゲーム……。多少の流行廃りはあれど、どれもゲームセンターに無くてはならないゲームである。

さて、そんなアーケードゲーム業界であるが、少し前に異様な盛り上がりを見せたジャンルがある。それは”アーケードカードゲーム(以下ACG)”。トレーディングカードとアーケードゲームの要素を取り入れた新しいジャンルのゲームである。

ACGの誕生

このジャンルの始祖として挙げられるのは、『WORLD CLUB Champion Football』、通称WCCFだろう。セガが開発したこのゲームは、実際のサッカーをモチーフとしたACGである。2002年に稼働を開始して以来、年に一度のバージョンアップが必ず行われており、今も多くのプレイヤーが楽しんでいる。

このゲームの特徴として、ゲームプレイ後に新しいカードが手に入ることが挙げられる。WCCFでは実在のサッカー選手がカードに描かれており、それを使用してゲームを遊ぶのである。つまり、『遊戯王』などのトレーディングカードゲームで言うところの「ブースターパックを買ってデッキを強化」の流れである。

もちろん、手に入りにくいレアカードも存在する。ACGでは一回のプレイ料金が割高(300円~)だったり、一度に手に入るカードの枚数が少ないことからこういったレアカードが高騰しやすい。手近なネットオークションで検索しても2万円台のレアカードがごろごろしているのがわかる。

WCCFが成功した要因は様々であるが、ネットワーク対戦の「対戦相手が必ずいる」というオンラインゲームと同じ強みと「手に入りにくいカードがある」という射幸心を煽るシステムが上手く合致したのだろう。このWCCFの成功以後、様々なACGが二匹目の泥鰌を狙いに参戦してくることになる。

ACG群雄割拠時代

まず参戦したのが同じくセガの『三国志大戦』。広く親しまれる三国志を題材にしたことや、深い戦略性が好まれ、当時ほどの勢いは無いが現在でもよくプレイされている。

この次に登場したのが、今回タイトルにもなっている『機動戦士ガンダム0079 カードビルダー』である。ガンダムという強力なブランドを引っ提げて登場したカードビルダーは、連日順番待ちの人が絶えないほど多くの人々がプレイしていた。前述の二作品と比べると”通信対戦ができない””一回のプレイ時間が短い””初心者狩りが容易”など問題点も多かったが、カードビルダーの最も大きな特徴はそれをカバーし得るものだった。

それは自由度の高さである。私もガンダムのゲームはいろいろプレイしているが、カードビルダーのようにモビルスーツ・キャラクター・武装を全て自由に組むことができるアクションゲームはカードビルダー以外に無いだろう。また、MSVなどこれまでコアなユーザーしか知らなかった機体・キャラクターを使用できる点も評価が高い。これなら、未見のユーザーは「こんなキャラもいるんだ」と興味を持つし、既に知っているユーザーも痒いところに手が届くラインナップで満足度が高い。ゲーマーとしても多種多様な組み合わせを楽しむことができるというわけだ。

それが功を奏してか、稼働当初の人気は凄まじいものだった。各人がプレイできる回数が少ないものだから、レアカードの相場もうなぎ上り。最も高かったのはアムロ・レイとシャア・アズナブルのパイロットスーツverで、最盛期には2万円近い高値だったと記憶している。

これ以外に、スクウェア・エニックスの『LORD of VERMILION』やタイトーの『アクエリアンエイジ オルタナティブ』、『悠久の車輪』、コナミの『BASEBALL HEROES』、『HORSERIDERS』など正にACG群雄割拠の時代といっても過言ではなかった。実際、当時のゲームセンターはこれらのACGの筐体で埋まっていた記憶がある。どのゲーセンにもトレード用の掲示板が設置されたり、コミュニティノートが用意されていたりとゲームセンター側もこの流行に乗り遅れまいと様々なサポートを行っていた。事実、WCCFには及ばないもののそれぞれ多くのプレイヤーが定着し、順番待ちも日常茶飯事であった。

しかし、泥鰌掬いが多すぎるコンテンツは衰退も早い。泥鰌を取りつくしてしまうからだ。

ACGの衰退

 これほどまでに流行したACG業界だが、その数が増えるにつれその欠点が明らかになっていく。

まず第一に筐体の互換性が無いこと。どのゲームも独特のシステムを持っており、それが個性に繋がっているのは確かだ。しかし、それはゲーム機自体の単価を上げることになってしまっていた。これが格闘ゲーム等のビデオゲームであれば、中身の基盤(家庭用ゲームでいうところのソフト)を変えれば済む。要するに、新しいACGが出るたびに本体ごと買わなくてはいけないのである。当然、ゲームセンターの負担は大きい。

また、その筐体の大きさも問題になってくる。ゲームセンター側としてはいろんな種類のゲームを設置して客のニーズに応えたい。新作が出るとなれば、なおさらだ。ところがACGの筐体は「そんなの関係ねえ!」と言わんばかりのデカブツばかり。それがぽんぽんリリースされるのだからゲームセンター側としてはたまらない。当時は”機動戦士ガンダム 戦場の絆”も稼働したばかりで、ゲームセンターの密度が異常に濃かったのである。

そして何よりその種類の多さ。乱雑な作品が増えたからかどうかはわからないが、選択肢が増えれば増えるほど、ゲーム一つあたりにつぎ込む金額は減ってゆく。特にACGは1ゲームの価格設定が高価であるため、他の種類のゲームと比べて掛け持ちがしづらい。

全体的な収益が変わらないのに、高い筐体は買わされるわ、その筐体は場所を取るわで、さらに継続的にメーカーにお金を落とさなければならない(カード代やネットワーク代)。そこにゲームが増えすぎて食傷気味のユーザーが追い打ちをかける。こうしてゲームセンターからは次第にACGが姿を消していった。

カードビルダーの失敗

その衰退はカードビルダーも例外ではなった。0079時代に1回、0083時代に2回の大規模なアップデートを経て、稼働当初の欠点はある程度改善された(ネット対戦の導入、階級別のマッチング、再出撃システム等)。しかし新しいシステムも時が過ぎれば風化してゆく。事実上最後のアップデートでは既存のカードのイラストを変更したものを”新カード”と称し、公式の情報がストップ。もちろん焼き直し程度のアップデートで引退者を食い止めることができるはずもなく、正式終了の告知が無いまま、各店舗で撤去が進んでいった。

末期のコミュニティサイトでは「Zガンダムまでは展開すると株主総会で言っていた」など、ソースの無い情報に一縷の望みをかけたプレイヤー達が細々と会話していたのが記憶に残っている。当時は私も仲間内で「変形は機動ボタン長押しだろ」「ティターンズのICカードはどうなるんだ?」と儚い妄想話をしたものだ。

では、なぜカードビルダーは衰退してしまったのだろうか?

1.大きな筐体

先にも述べたが、数あるACGの中でもカードビルダーの筐体はかなり大きかった。プレイ台×8に加え、センターモニターと呼ばれる大きなスクリーン、さらにその両脇のガンダムとシャアザクの胸像。小さなゲームセンターであれば1セット入荷するだけで他の多くのゲームが入荷できなくなってしまう。これでは売上が落ちたとなれば真っ先に撤去の対象となるのが普通である。

2.拭えないマンネリ感

いくらバージョンアップがされたとはいえ、やっていることは変わらないのだ。後期ではヒルドルブやガンキャリーといった面白い機体も増えたが、負け続けると降格というシステムがある以上、負けたくないプレイヤーが決まった組み合わせしか使わない(いわゆるガチ編成)のも頷ける。この傾向は階級が高くなる(=プレイ回数が増える)につれて高くなっていく。プレイヤーのモチベーションが維持できなくなってしまうのである。

3.カード価値の下落

プレイヤーが減っていけば、需要が減る。しかし反対に一人当たりのプレイ回数は増えていくわけだから、供給はどんどん増えていく。これは当然、かつて高かったカード価値の下落を招くことになる。価値が下がれば、カード目当てでプレイしていた人たちのモチベーションも低くなっていく。シングルカードを取り扱うカードショップも、ゲーム自体が撤去されれば沢山の紙屑を背負ってしまうわけで、それを恐れるショップがどんどん相場を下落させていったのだ。

4.メーカーの不和

カードビルダーはバンプレストとセガの共同開発である。しかし現在ではバンダイはナムコと提携しており、セガとは商売敵の関係にある。明確なソースがあるわけではないため、噂レベルの話ではあるが、このような裏の事情がカードビルダーの売り逃げに繋がったのではないか、という説があることも確かである。

ACGのこれから

現在、ゲームセンターでまともに稼働いているといえるのはWCCF、三国志大戦、LOV程度だろうか。最近、『戦国大戦』という三国志大戦の戦国時代バージョンが稼働したが、振るわずに閑古鳥が鳴いている。

恐らく、これからも当時のような盛り上がりを見せることはないだろう。ユーザーもそうだが、ゲームセンターも、カードショップもこの経験がトラウマのように残ってしまっているからだ。この三者のうち、いずれが欠けても流行は発生しない。全てが持ちつ持たれつの、非常に繊細なブームだったのだ。

さて、タイトルにもなっているカードビルダーだが、現在は撤去が進みプレイできる店舗がかなり希少になっている。しかし公式が全ての管理を放置しているため、現在でも筐体さえあれば全国のプレイヤーとネット対戦することができる。有志によって稼働店舗のまとめサイトも作られている。一から始めるのは流石に厳しいだろうが、当時を知るプレイヤー達は近くの稼働店舗に足を運んでみてはどうだろうか。あの頃の熱気が蘇るかもしれない。

 

東京の大学に通うモラトリアム人間。 スーツ姿は就活のコスプレ。 様々な物事を学生の視点から見ていきます。