みちのく岩手県、花巻温泉郷に私の大好きな温泉宿がある。
『大沢温泉 自炊部』
湯治目的の長期滞在の棟なのだ。質素でありながら、郷愁を誘うそのたたずまいがなんともたまらない。
とりわけ極寒の真冬の雪見露天がたまらなくいいのです。(ちなみに混浴である。)
温泉ソムリエでもある手前、つい「泉質がどうの~」と言わなければいけない気持ちになるけれど、ここはただそのたたずまいを眺めてもらいたい。
言葉のいらない旅というものも、雪景色にはぴったりなものではないだろうか。
雪道を宿へと歩いているとだんだん無表情になってくる。
修行僧のような面持ちで、お湯を目指してただずんずん歩く。
そしてふと思うのです。
人生は仄暗い雪道をひとり歩くようなものだ。
先の見えない不安と容赦ない冷たい外気にさらされながら、ひとり孤独に歩くようなもの、と。
胸の芯が渇いていれば渇いているほど、木のぬくもりに気づき、
冷えていれば冷えているほど、湯と他人のあたたかさに気づく。
一人旅はけしてさびしいものではなく、自分とそして同時に自分以外の世界と対峙できる不可欠な時間。
どこかに同じように、この景色を恋しいと思う人がいればそれでいいのです。
大沢温泉・自炊部
岩手県花巻市湯口字大沢181