前回は存命の可能性がある原著作者の消息、また故人である場合は没年不明の人物に関する情報が掲載された文献を探す方法について解説しましたが、今回は調査開始の時点で名前や大まかな活動時期しかわかっていない人物を特定する際のポイントについて解説します。
身近にある権利状態不明著作物 – ガジェット通信
(1) 校歌や市町村歌の「権利状態不明」
http://getnews.jp/archives/507560 [リンク]
(2) まずはネットで基礎情報を集める
http://getnews.jp/archives/508255 [リンク]
(3) 文献で手がかりを探す
http://getnews.jp/archives/508883 [リンク]
名前の表記や読み、ペンネームの可能性
第2回で例に挙げた横浜市歌の場合、作詞者の「森林太郎」が本名でペンネームの「森鴎外」名義の方が有名ですが、これはかなり例外的なケース。作品を公表した際の氏名が本名でなくペンネームである可能性を常に考慮しておく必要があります。
例えば、1965年に制定された『岩手県民の歌』の作詞者は「田原耕二」氏であるとされていますが、公募により集まった歌詞の審査結果を報じた1964年10月15日付『岩手日報』11面に掲載された田原氏の略歴には「本名 小野寺公二」とあり、この記述をもとに改めて「小野寺公二」を検索してみると『岩手県民の歌』の入選以降に『算術武士道』や『南部一揆の旗』などの歴史小説で有名になった人物であることがわかります。
同じく『岩手日報』の1998年10月9日付29面には小野寺氏が10月8日に68歳で亡くなった旨の訃報が掲載されており、生前の業績として「岩手県民の歌を作詞」と記載されているので、間違いなく「作詞者の田原耕二=歴史小説家の小野寺公二」であると言うことが確定します。
当然ながら生前に本名を公表しない人物もいるので、その場合は訃報がニュースソースとなり得る顕著な業績のある人物や遺族・知人の証言が後から出て来る場合でもなければ追跡が困難になります。
また、追跡が困難になるパターンとして意外に多いのが「氏名の表記が違っている」ケースです。第2回で説明した新旧字体の違いの他「一郎」でなく「一朗」が正しいと言うような「転記を繰り返す内によく似た別の字と間違われて訂正されないまま広まってしまう」と言うことは意外によくあるので、おかしいと思った場合は発表当時の資料を精査する必要があります。
当時の年齢、居住地域
公募作品の場合、新聞や広報紙で結果発表を報じる記事中に、採用者の氏名・年齢・居住地が掲載されることが多いので、その時点の年齢が人物特定に際して重要な手掛かりとなります。
年齢表記において注意すべき点は、1949年(昭和24年)以前の文献では「数え年」で、翌1950年(昭和25年)以降は「年齢のとなえ方に関する法律」の施行により「満年齢」で表記されていると言うことです。
数え年の場合は生まれた年を1歳として毎年1月1日に年を取る(12月31日生まれの場合は翌日に2歳となるが、1月1日生まれの場合は翌年まで2歳とならない)ので、逆算によって生年を特定可能であるのに対し、満年齢の場合は生まれた時点では0歳で翌年の誕生日に1歳となるので文献にある時点での年齢が書いてあっても月日がわからなければ逆算では正確な生年が割り出せません。
例えば、1950年6月1日付の新聞記事に「30歳」と書いてあっても「1920年か21年頃に生まれた」としかわからないのです。ただし、1955年3月15日付の記事に同じ人物が出て来て「34歳」となっていれば両方の記事を比較して「1920年3月16日~5月31日の間に生まれた」と言う結論から生年の特定が可能になる場合があります。
作品が発表された当時その人物が住んでいた場所は年齢と同様に、文献の調査範囲を特定する際に有益な情報となります。「○○郡××町」のような自治体名からその人物の活動範囲を絞り込めれば郷土史や地方紙を効果的に調べられるからです。その場所に居住していたのが一時的であったとしても、他の所で同姓同名の人物が出て来た際に「○○年から3年ほど××市に住んでいた」という居住歴が一致すれば同一人物であるかどうかを判断する材料になります。
職業、所属組織
校歌の作詞・作曲者はプロに依頼していない場合は公立学校の教員が作成に当たる場合が多いことを第1回で解説しましたが、余りに古い作品の場合は学校へ直接問い合わせても当時の事情を知っている人がいない可能性があります。その人物が教員である場合は都道府県立図書館で教職員名簿を確認し、いつ頃まで在職していたかを調べるのが正攻法でしょう。
その人物が企業の社員であった場合は、退職者が組織する社友会へ問い合わせるなどの方法があります。また、作詞を行っている人物で多いのは短歌や俳句の同人活動に参加しているケースで、それらの同人組織が刊行している機関誌が刊行する遺稿集が図書館に所蔵されていて没年が判明するという事例もあります。
個人情報の取り扱いに注意
ここまで人物を特定するポイントを解説しましたが、著作権の保護期間を確定する際に必要な情報は没年、つまりその人物が亡くなった年の情報だけです。それ以外の情報は飽くまでも「原著作者の消息を確認するための手段」でしかありません。
特に個人情報という概念が確立されていなかった時期の古い新聞記事では、住所が番地単位まで掲載されていることも珍しくありません。最終的に存命である場合の本人や、故人である場合の家族に確認を取る際にそれらの個人情報が必要となる場合もありますが、得られた情報をみだりに公開すべきではありませんし、目的外使用はもってのほかです。
次回はまとめとして、どうしても情報が見つからない場合の公開調査と没年に関する情報が得られた場合の提供先について解説します。
※画像はイメージです。本文の内容とは関係ありません(収録元:写真素材 足成)