ドキュメンタリー映画『顔さんの仕事』 今関あきよし監督インタビュー 「好きが一番のパワーということ」 台湾国宝級絵師の“仕事”を描く

  by ときたたかし  Tags :  

台湾で映画館の前に飾る絵看板を50年以上描き続けている顔振発(イェン・ヂェンファ)の仕事風景を追ったドキュメンタリー『顔さんの仕事』が現在全国順次公開中。今関あきよし監督の最新作だ。

顔氏は、映画館の手書きの大型看板から、ファッションブランド「グッチ」の巨大アートウォール、英国のロックバンド「コールドプレイ」の宣伝壁画まで手がけ、本年の台北映画祭で貢献賞を受賞した国宝級絵師。

今関監督と親交が深いイラストライターの三留まゆみ氏が、インタビュアーとして本映画をナビゲートする。今関監督に作品への想いを聞いた。

「何本も映画を撮って来て、モノづくりの悩みが重なったところで顔さんのことが思い浮かびました」と、本作制作のきっかけを語る今関監督。「顔さんについて調べると、18歳の頃から50年近くただ看板だけを描いていることが分かりました。その姿を見て自分のことを考えてみたいなというところからドキュメンタリーを撮ろうと決意したのが最初です」。

台湾の国宝級絵師は、とてつもないスピードで描いていく。ドキュメンタリーの場合、人物像を掘り下げ、その葛藤を炙り出す構成が少なくないが、本作は違う。「顔さんがゼロからどうやって絵を描き始め、映画館の看板として設置されるのか、その過程に興味があった」と今関監督。

ただ「それだけでは自分が撮る意味がない」と、盟友の三留氏に出演を打診した。「映画のイラストを描く人が顔さんと会い、描いている過程をどう見てどう想うのか、リアクションも撮りたかった。それがミックスされれば僕らしいのかなと。観察ではなく、交流を撮ることにしました」。

その結果、ひとつの真理にたどり着いたと今関監督は言う。「これは顔さんに会う前から半ば分かっていたことですが(笑)、顔さんは絵が好きなんです。ただただ好き。やっぱり好きが一番のパワーなんだという気がしました。そして描いている姿に迷いがない」。顔さんは右目が見えない状態だが、両目が見えなくなるまで看板を描くと情熱を燃やす。「映画館がなくなれば、顔さんの仕事もなくなります。映画の歴史を背負っている人がここにいるということをこの映画で知ってほしいですね」。公開中。

■公式サイト:https://mikata-ent.com/movie/1858/ [リンク]

■ストーリー

現在の台南市下営区に生まれ、幼い頃から絵を描くのが好きだった顔振発(イェン・ジェンファ)。絵に対する才能を感じた家族は、看板職人の陳峰永の弟子に送り出した。

1970年代は台湾映画界が盛り上がり、顔は1か月に100から200枚もの手描き映画看板を描き、台南の映画館「全美戯院」の看板を制作から設置まで一手に引き受けた。だが生涯にわたる制作は、視力に大きな負担をかけ、医師が何年も前に、彼の網膜がひどく傷ついていることに気付き、右目はほぼ見えない状態に。それでも、顔振発は今も描き続けている。

(C) 映画「顔さんの仕事」製作委員会

ときたたかし

映画とディズニー・パークスが専門のフリーライター。「映画生活(現:ぴあ映画生活)」の初代編集長を経て、現在は年間延べ250人ほどの俳優・監督へのインタビューと、世界のディズニーリゾートを追いかける日々。主な出演作として故・水野晴郎氏がライフワークとしていた反戦娯楽作『シベリア超特急5』(05)(本人役、“大滝功”名義でクレジット)、『トランスフォーマー/リベンジ』(09)(特典映像「ベイさんとの1日」)など。instagram→@takashi.tokita_tokyo