漫画家・山本英夫さんによる“映像化不可能”とも言われた累計発行部数400万部超えの国民的カルト漫画を、綾野剛さん、成田凌さんなど、旬の実力派キャストで実写映像化した映画『ホムンクルス』が公開中です。その映像化は国内外で活躍する映画監督・清水崇が務め、映画独自の衝撃のサイコ・ミステリーに仕上がっています。
その公開を祝して、清水監督にインタビューを実施しました。実写映画化の企画は何度も持ち上がり、「この見えざるテーマを具体的にどう伝えるのか?など課題が多く、なかなか実現には至らなかったんです」と語る清水監督に、さまざまうかがいました。
■公式サイト:https://homunculus-movie.com/ [リンク]
■ストーリー
一流ホテルとホームレスが溢れる公園の狭間で車上生活を送る名越進。過去の記憶も感情も失い、社会から孤立していた。そこに突然、奇抜なファッションに身を包んだ研修医・伊藤学が目の前に現れる。
「頭蓋骨に穴を空けさせて欲しい」
「あなたじゃなきゃ、ダメなんです」
突然の要求に戸惑う名越だったが、 “生きる理由”を与えるという伊藤の言葉に動かされ第六感が芽生えると言われるその手術<トレパネーション>を受けることに。術後、名越が右目を手で覆い、左目だけで見たのは、人間が異様な姿に変貌した世界だった。その現象を「他人の深層心理が、視覚化されて見えている」と説く伊藤。彼はその異形をホムンクルスと名付けた―。ホムンクルスと化した人々の心の闇と対峙していく中で、名越の過去が徐々に紐解かれ、自らの失った記憶と向き合うことに。果たして名越が見てしまったものは、真実なのか、脳が作り出した虚像の世界なのか?取り戻した記憶に隠された衝撃の結末とは?!
●人間の深層心理であるホムンクルスのリアルな映像化は、他人の苦しみではあるのですが、それを目の当たりにすることを通じて自分までも苦しくなるような、新しい感覚の恐怖さえ覚えました。
そういう怖さも確かにあるとは思います。我がごとのように受け止めてしまい、見透かされているみたいな感じですよね。でも、それは原作者の山本さんも言われていて、過度に説明されていたり、登場人物の感情で表現されているドラマや映画などでなんとなく観たことはあるけれども、視覚化されたビジュアルでガツン!と来られて、そこをグイグイ突っ込んでエグっていく作品はなかなかない。感情も記憶も失くしていた主人公の男が、そこにこそ何かを見出していく様が独特だし、面白味なわけですけど、普通ならそこまで身を捨てて、自分のことも人のことも突っ込んでいくって、大人になればなる程怖くてできないと思いますよね。特に日本人の気質では。
●いろいろな人間のトラウマが見事に映像化されていましたが、映像技術的な意味合いも含めて、映画化するには時間がかかったのではないでしょうか?
もともと原作の実写化・映像化の話は何度か過去にもあったと聞いています。僕自身も何年も前からプロデューサーと企画はしていました。でも、この見えざるテーマを具体的にどう伝えるのか?など課題が多く、なかなか実現には至らなかったんです。実写となると、漫画とは違うものになりますからね。原作者の山本さんも、最初は自分で脚本を書くと言ってくれていた。ただ、15巻くらいあるわけなので、それを1本の映画に集約して、脚本化する作業は、当事者でもあるので難しかったみたいです。
●最初の内野聖陽さん演じる組長の下りの時点で、ガツン!と来て、その先の展開が恐ろしかったです(笑)。
男性が持ちがちな強がりのプライドみたいなものが、たぶん内野さん演じる組長に集約されると思うのですが、彼のみでなく、観てくださった方が、劇中のキャラクターの誰かに、どこかしら引っかかってくれるとうれしいなとは思うんですけどね。それは女子高生の1775も伊藤も謎の女も細かな役どころも皆そうなんですけど。
●演じる石井杏奈さんも素晴らしい演技力でした。
原作を読み髪の毛をバッサリ切って、役に集中してくれました。内野さんの組長だけでなく石井さんの女子高生も原作はもうだいぶ前になるので、原作ではルーズソックスだったりするんですよね。現代の子としては、さすがにそのままは持って来れないので、現代の女子高生が観ても無理なく感じるようにしたつもりです。組長もどこか古風なヤクザになってはいるのですが、丁寧にアレンジしたつもりです。
●原作者の山本さんは、何かリクエストを出されたのでしょうか?
担当編集者通じていろいろ提案はいただきましたが、ご本人からのリクエストは特になかったですね。山本さんとは連載誌上のスピリッツで初めてお会いしたのですが、歳もそれほど離れていないので、昔は飲みに誘いあうこともありました。「もしも映画化されるなら、清水さんできますか?」と、当時は軽口でよく話題にしていたのですが、実現すると感慨深いものはありますよね。
●すでに言葉以上の関係性がベースにあったのですね。
個人を知っていると、どういう性格で何を考え、何が創作の入り口だったのかなど、たぶん作品を読んでるだけよりは見えると思うんです。それがなんてことない入り口だったりもするのですが、始めてしまったがために苦しんでる感じも途中から伝わってきていたので、テーマを変えたり、表面的なエンタメに陥ったり、映画は映画で成立させられるのか苦心はしましたね。
●映画は原作との違いもあり、映画的なエンターテインメントとして娯楽大作になっていましたよね。特にラストがよかったです。
大作なのかどうかは差し置いて、それならよかったです。原作は精神世界に入り込み、その方向で走るので、そこは映画にする時に悩みに悩んだつけたところでした。広く一般のエンタメとして、娯楽要素を最後まで引っ張れるかの課題はありましたし、とはいえ原作の根底にあるテーマは、ブレたくない。そのバランスはは大変でした。
●その課題を解決するかのような綾野剛さん成田凌さんの奮闘も素敵でした。
基本的には男性ふたりのバディものなので、綾野君は中年になりかけている魅力もあるし、そこを観に来てくれる女性ファンの存在などを意識はしましたが、役者の知名度や見てくれに下手に媚びなくても映画ファンは観てくれるはずだという自信を持って臨みました。
成田君も、彼を世間がどう観ているかわからないけれど、彼のファンに対してイケメン、カッコいい、かわいいだけじゃないところにもっていきたいという思いもあったし、売れっ子だし、いろいろな役をやってきているので、こんな成田凌は観たことがない、こんな綾野剛も観たこともないという感想が出るように意識はしました。それは、石井さんも内野さんもそうですけど。
●今日はありがとうございました!最後にメッセージをお願いいたします。
できれば老若男女、様々な方に観ていただきたい。いおそらく誰にでも、個々に自分のホムンクルスやゆがみは何だろうとか、身近な誰かしらに当てはめて捉えられたりと思うはずです。多少、気持ちの痛みを伴うかもしれませんが、それだけエグられるし、劇中の「生きる意味」という台詞同様、「観る意味」を感じていただける映画だと思っています。
観終わった後に自分や横にいる恋人や友だちのホムンクルスが見えるようになるといいですよね(笑)。
出演:綾野 剛 成田 凌 岸井ゆきの 石井杏奈・内野聖陽
監督:清水 崇
原作:山本英夫「ホムンクルス」(小学館「ビッグスピリッツコミックス」刊)
配給:エイベックス・ピクチャーズ
In association with Netflix
(C) 2021 山本英夫・小学館/エイベックス・ピクチャーズ