伊藤沙莉が三池崇史監督に言われて<覚醒>した一言とは? 映画『小さなバイキング ビッケ』公開記念インタビュー

  by ときたたかし  Tags :  

かつて日本で最高視聴率20.5%を記録、あの尾田栄一郎「ONE PIECE」のモチーフにもなったという名作アニメ『小さなバイキング ビッケ』が、スクリーンに戻ってきました。主人公ビッケ役は、今年8本も出演映画が公開になる女優の伊藤沙莉が務めていて、「本当に幅広い世代に響く作品になったと自分でも思っています!」と自信を持って世の中に作品を送り出しました。その伊藤さん、いい女優になるためには経験に勝るものはないというモットーをお持ちだそうですが、それは以前あの名監督に言われた一言が大きく影響していると明かしてくれました。一体、そのエピソードとは!?

●主人公のビッケは性格が真っすぐで素敵なキャラクターですが、演じてみて何か気づいたことはありますか?

自分を世間に認めてもらったり、相手を納得させたりするには、そうなりたいという気持ちだけでなく、何かを身に着けなくてはいけないと思いました。この作品は知恵と勇気がテーマになっているのですが、バイキングの旅路で一番頼りになった人なんだかんだ言っても知恵があるビッケだったと思うんです。

●想いを実現するスキルみたいなことですよね。

それでみんなを納得させることができて、認めてもらうこともできたわけじゃないですか。みんなに認めてほしい、求められたいという、現代風に言うと承認欲求みたいなものって誰にでもあると思うんです、わたしも含めて(笑)。それってたぶん、そうなりたいって言っているだけでは、結局何も始まらないんですよね。

●夢の実現も頭で念じているだけでなく、「叶える!」というビッケのように能動的でないと始まらないですからね。

夢が叶う系のカテゴリーもそういうことだと思うのですが、それをすればみんなが認めてくれるものというか、何か一個の武器を自分の中で磨いておくことって大事だなと。それ以外がたとえばポンコツだったとしても――ビッケの場合は弓矢もできないですし力も弱い臆病だけれど、それひとつで乗り切れるくらいのすごい武器を一個持っていれば何かが違うのかなと。わたしも自分ならではの武器を一個持ちたいなあと、ビッケに対するあこがれみたいなものはすごく持ちました。

●確かに映画を観ていてビッケのように…と思う瞬間はありました。

ビッケは頭の回転が速いので、もともと持っている素質もあると思うんですよね。そういう自分の優れているところを磨いていければいい。それを見つけることがまず大変なのですが、でもきっと自分には知恵があるとわかっているから、ビッケも強いんだと思います。

●しかし最近のご活躍を拝見していると、すでに自分の<武器>をお持ちだからこそ、仕事ぶりを見ている人たちからのオファーが絶えないのではないでしょうか?

最近人によく言われることは「すごく普通だね」ということですね(笑)。

●ホメ言葉ですよ(笑)。

実はお芝居での普通感というものは、意外と共感材料になるんです。そこで共感していただけると、観ている人が自分を投影しやすいと思うんですよね。そういう立ち位置になれる役柄が多かったということが大きいので、そういう要素を引き出してくれた役柄に出会えたことが、ある意味で強みだったとは思います。でも、いつかそこから離れないといけないとも思うので、わたしがずっと持っていられる武器ではないと思っています。

●アップグレードする必要があるわけですね。

今は、それはそれで一個、持っていていいけれど、ゲームで自分が常に持っているデフォルトの武器があるじゃないですか。それにしてはいけないんです。ずっと持っていてはいけない。いつまでも持っているとたとえばひどい役を演じる時に、ひどいけれど普通、みたいな感じになる。どこかでしまわないといけない時が来る、だからそこに関しては、ひとつだけではない、ビッケとはまた違う戦い方になってくるんです。ビッケとは違って、一個強い武器を持っていても、それを増やしていかなければいけないなと思っています。

●将来はどういう女優になりたいですか?

もうちょっと余裕がある感じがいいですね。

●と、言いますと?(笑)

いざという時に冷静な人間、冷静な女でいたいなと思います。わたしは勢い任せのところがあるので、アドリブも勢いで出ちゃう。もっと確実な表現力と言いますか、慌てているところを見せたくないんです。アニメのキャラみたいに「ええ!」とかやってしまうんですよ。びっくりして(笑)。もうちょっと肝が座った感じで、どっしりとしたいです。

●そのためにはどうしたらよいと思いますか?

いろいろな壁にブチ当たるしかないんじゃないですかね(笑)。もう、慣らしていくしかないんですよ、肝を(笑)。経験をするしかない。樹木希林さんみたいになりたいと昔から言っていて、本当に恐れ多いことに三池崇史監督にオーディションで言ったことがあるんです。樹木希林さんになりたいというよりは、希林さんが背中で泣いているお芝居が好きだったので、「希林さんみたいに背中で泣きたいです!」と言ったんです。そうしたら「君には経験がなさすぎて、背中で泣くなんて到底できない」と。

●マジレスですね(笑)。

『悪の教典』のオーディションの時でしたが、その時は「そんなに?」と思ったけれど、おっしゃるとおりだったんですよね。だから経験だけはたくさん積もうと、以後本当に経験が重要だとつくづく思っています。だからブチ当たりたい。あの一言は大きかったです。最初は「マジレス?」と思ったけれど、優しくも厳しい一言で今でも心に残っています。

●今日はありがとうございました!伊藤さんのビッケが、いろいろな人たちに届くといいですよね。

本当に幅広い世代に響く作品になったと自分でも思っています!子どもたちはビッケと一緒に冒険しているような感覚になって楽しめると思うけれど、仲間との友情などたくさんのメッセージもつまっていますし、大人たちは忘れたものを取り戻す、仮に取り戻せなくても懐かしいと思うだけでも温かい気持ちになったりすると思いますので、劇場で胸を打たれていただけたらいいなと思います。斬新な展開にも注目ですよ!

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ときたたかし

映画とディズニー・パークスが専門のフリーライター。「映画生活(現:ぴあ映画生活)」の初代編集長を経て、現在は年間延べ250人ほどの俳優・監督へのインタビューと、世界のディズニーリゾートを追いかける日々。主な出演作として故・水野晴郎氏がライフワークとしていた反戦娯楽作『シベリア超特急5』(05)(本人役、“大滝功”名義でクレジット)、『トランスフォーマー/リベンジ』(09)(特典映像「ベイさんとの1日」)など。instagram→@takashi.tokita_tokyo