8月31日、衆議院外務委員会は、「偽造品の取引の防止に関する協定(ACTA)」を承認した。
ACTA(アクタ)は、模倣品の販売やインターネットでの著作権侵害を取り締まるための、国際条約。
デジタル技術の進展により多様化、深刻化する著作権侵害、それを取り締まっていくための国際的な枠組みを定めるのが、主要な目的である。
これだけ聞くと、けっこうな協定のように思える。
しかし一部で、「ACTAはネット検閲につながる、インターネット上の自由を奪うものだ」として、強い反対意見が出ている。
事実、ヨーロッパでは大規模な反対運動が巻き起こり、欧州議会は7月、反対多数でACTAを否決、批准しないことを決めた。
ACTAは、私たちの自由を脅かす危険な協定なのか。それとも、クリエイターや権利者の権利を保護してくれる、素晴らしい協定なのか。
残念ながら日本では、マスメディアがACTAについてほとんど報じていないため、情報が不足している。
インターネットが重要な情報源となるのだが、真偽の怪しい情報も混じっている。
有益な情報も多いのだが、根拠も示さずにただ不安を煽(あお)るだけのものも散見されるのが、現状だ。
果たしてACTAとは、実際にはどのようなものなのだろうか。
外務省のサイトに、条文の日本語仮訳が掲載されている。
論争の中心である「ネット検閲か否か」に関係してくるのは、主に第23条~第27条だと思われる。
そしてそこには、ネット上の自由を奪い、今までのインターネットを殺す危険性を秘めた、非常に危うい内容が書かれてあった。
まず、第26条。
適当な場合には、自国の権限のある当局が捜査を開始し、又は法的措置をとるために職権により行動することができる
第二十六条 職権による刑事上の執行
この条文が意味するのは、「被害者からの訴え」が無くても、当局が自分たちの判断で捜査や逮捕を行えるようにするということである(これを、非親告罪化という)。
これまで、著作権侵害においては、著作権者が告訴しない限り刑事責任を問うことはできないというのが、大原則であった。逆に言えば、権利者が被害を訴えなければ、刑事責任は発生しない。
第26条は、その原則を根底から揺るがすものである。非親告罪されてしまうと、「被害の声」が存在しなくとも、当局の認識や解釈次第で、法的措置を取れてしまうのだ。
第26条が非親告罪化につながる可能性を、日本政府も否定していない。
結局、職権でやってもよくてやらなくてもいいということなので、日本はまあやらなくていいと、そういうふうに解釈をしているわけです。
玄葉光一郎外務大臣 平成24年07月31日 参議院外交防衛委員会
どちらでも解釈できるけど当面は非親告罪にはしませんよ、ということだ。
協定が正式に効力を発揮してから解釈を変更していく可能性は、十分にある。
それ以外では、第23条の1。
各締約国は、刑事上の手続及び刑罰であって、少なくとも故意により商業的規模で行われる商標の不正使用並びに著作権及び関連する権利を侵害する複製について適用されるものを定める。
第二十三条 刑事犯罪
このように書かれているのだが、ここにある「故意」や「商業的規模」の具体的な定義も、不明である。
全体的に、ACTAには曖昧な部分が多い印象を受ける。
何がアウトなのか厳密に定義されていないということは、解釈次第で何でもアウトに出来るということではないのか。
佐藤公治議員(国民の生活が第一)も、同様の懸念を示している。
私が一番心配をしているのは、やっぱりこの条約とか協定とか法律というのは独り歩きしてしまうんですよ。(中略)これは独り歩きをしてしまったときに環境が変わったということで、法律改正や何か、先ほども、非親告罪の話が出ました。こういうところが、環境が変わったことによって変えてしまうということが今まで何回も起きている。
平成24年07月31日 参議院外交防衛委員会
また、ACTAに関する交渉が秘密裏に行われてきたことに対する不満や不信も、欧州が強く反発した理由の一つだ。
交渉の進捗や結果について小出しにしていくだけで、詳細が公開されることはなかった。
ACTAの第38条の2にも、交渉は秘密であると明記されている。
協議(協議を行う締約国がとる特定の立場を含む。)は、秘密とされ、
第三十八条 協議
このような秘密主義的な態度や、不透明な交渉過程は、様々な疑念を呼ぶ。
もともとACTAは日本が提唱したものなのだが、国内のネット規制を進めるためにACTAを利用するつもりなのではないかとの批判が出ている。
再び、佐藤議員の発言を引用する。
しかし、そこに何か訳の分からない形で潜り込ませて、インターネット社会を余りにも強く規制をする可能性のあるべき形を取ろうとしているように思える。つまり、日本国内でできづらいことを、こういった協定や条約、外からの環境づくりによって日本国内における規制の強化を図っていく、そういう部分にも悪く見ると取るような状況にもあるようにも思える部分があります。
平成24年07月31日 参議院外交防衛委員会
以上、駆け足でACTAについて見てきた。
ACTAは、インターネット上の自由を脅かしかねない。それが私の考えだが、読者の皆さまはどのような感想を抱いただろうか。
ACTAは参議院では既に可決しており、衆議院本会議で可決されれば、批准となる。
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