『スタンド・バイ・ミー』『恋人たちの予感』など、1980年代から誰もが知る名作を放ち続けるハリウッドの巨匠、ロブ・ライナー監督の最新作『記者たち~衝撃と畏怖の真実~』が全国順次公開中だ。そのタイトルでわかるように本作は本格的な社会派ドラマで、ライナー監督は2003年のイラク戦争開戦時から構想をはじめ、ようやく映画化を実現。監督・製作だけでなくワシントン支局長役を自ら演じるなど本作への想いが強いのだ。
その物語とは、仕組まれたイラク戦争の真相を暴くため、不屈の精神で報道を続けた4人の実在の新聞記者のドラマ。ちょうど来日するトランプ大統領がフェイクニュースなどとメディアをコキ下ろし、何が真実で何がウソかあいまいな現代、本作が問うものとは。ライナー監督に話を聞いた。
●本作は15年という歳月をかけて映画化したそうですね。その間のモチベーションは何だったのでしょうか?
当時、アメリカがイラクに侵攻する過程を心を痛めながら見ていた。ベトナム戦争の時には徴兵の年齢に達していたので、まさか生涯で2度もアメリカが戦争に行くことになるなど思ってもいなかった。ベトナム戦争の時もウソがきっかけで結果的にアメリカは戦争をしてしまい、今回のイラク戦争でもまったく同じことが起きていた。だから、そのことを映画にしなくてはと思ったけれど、どういう物語で伝えるかなかなか見えなかった。
●その後、今回の4人の記者の存在を知ることになるわけですね。
ある時、この4人の記者の存在を知った。彼らが真実を見つけ、一般に届けようとしたけれども、当時の政権のプロパガンダの中では、無理な話だった。それを知った時、作品の入り口になると思った。だから一般市民に真実を届けるためには、自由で独立したメディアが必要で、それなくして民主主義は成立しないということがテーマで、伝えたいことになった。
●その記者の方々は、映画に直接的に関わっているそうですね。
本当に密に関わってくださった。脚本を作っている度に、改稿する度にコメントをいただいて、23日間の撮影も毎日4人で現場に来てくださった。これは正確などと、その場でどんどん言ってくださった。 もしも皆さんが映画を観てすごくリアルだなと思ったとしたら、それは彼らのおかげだ。
●実際の出来事を映画化する場合、どういうことに注意を払いますか?
一番重要なことは、たとえば一般の方々が歴史を知る場合、新聞や本などに比べ、テレビや映画が多いと思う。だから映画の作り手としては、歴史的な事件を描く際、なるべく正確に描く責任を自分ではいつも感じている。たとえば今回で言うと、イラク戦争の前はどういう状態であったのか、映画で描いていることは全部真実だ。以前監督した『ゴースト・オブ・ミシシッピー』(96)も殺人事件にまつわる裁判の物語だったけれど、事件について知りたい人は、あの映画を観れば正確に知ることができる。
●そう言い切れるって、素晴らしいことだと思います。
ただ、映画の作り手としては裁判のシーンがある場合、『ア・フュー・グッドメン』(92)のジャック・ニコルソンとトム・クルーズの白熱した演技合戦を入れたいけれども(笑)、実際には犯人が証言台に立っていないという事実があったので、しなかった。そういうことを大切にしている。
●今日はありがとうございました! 今後撮りたい題材はありますか?
2本のシリーズを考えていて、ひとつはAmazonで「ナイン」という書籍を原作としたアメリカの最高裁を舞台にしたシリーズものになると思う。もうひとつは、あのJFK暗殺を10話で紐解いていくシリーズで、僕自身、ケネディ大統領の暗殺以来、ずっと真実が気になっていたからね。これはパラマウントの企画だけれど、テレビの10話もので作ろうと考えているよ。