『タイピスト!』などのフランスの人気俳優ロマン・デュリス最新作、『パパは奮闘中!』が現在全国順次公開中だ。デュリスは仕事一筋だが、心優しい父親役で、愛する妻がある日突然行方不明になり、仕事や育児をひとりでこなさなければならなくなってしまう。往年の映画ファンであれば、名優ダスティン・ホフマン主演の『クレイマー、クレイマー』(79)を真っ先に思い出すに違いないが、はたして本作のクライマックスは……。
第71回カンヌ国際映画祭批評家週間で絶賛され、フランスで2018年の最注目となった本作について、ベルギーの新鋭ギヨーム・セネズ監督にインタビュー。オリジナルのタイトルに込めた意味や、実体験がヒントになっているドラマなど、主人公と子どもたちの奮闘を描く物語について聞いた。
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●ポスターのポップなイメージとは違い、意外にシリアスな内容で驚きました!
日本のポスターやトレーラーへの権限は、僕にはないからね。各国の配給会社に裁量があるから。フランスのそれは、もっと冷たい印象だったよ。でもフランスでは意見くらい聞かれたけれど、最終決定権は映画会社にあるからね。
●タイトルも「わたしたちの闘争」という意味だそうですね。
もともとのタイトルには二種類の意味があって、そこには複数系のSがついていたから、複数の闘いがあることを意味している。仕事場での戦いだけでなく、家庭生活での戦いなど、映画にはいくつもの戦いが出てくるよね。あと「わたしたち」と主語も複数になっているので、オリヴィエだけの闘いではなく、奥さんのローラもそう。登場人物全体の闘いでもあり、映画作家としての僕も入っていて、観客としてのみなさんも含まれている。そういう意味でのわたしたち、複数形だよ。
●なるほど。『クレイマー、クレイマー』(79)は、当時のアメリカのウーマン・リブが社会的な背景にあったと言われていますが、本作も何か社会問題が背景に?
あの映画が70年代を反映していたように、この映画も現代を反映している。ここでは現代の仕事の状況、家族の状況、かつてあったような家の長で家長制のお父さんが働きに行くという一種のモデルを、オリヴィエは自分の家族に再現しようとしていた。でも現代社会では、それは上手くいかないことを示している。
あとヨーロッパでは男女平等は理論の面ではみな意識しているけれど、実践が追い付いていない。それを映画の中で描いてはいるけれど、男女平等って本当の意味で平等が実現する日は、もしかしたら30年後かもしれない。30年後に『クレイマー、クレイマー』や『パパは奮闘中!』みたいな映画が作られるかもしれないが、まだ時間はかかるかもしれないよ。
●実体験も反映しているそうですね?
実体験というより、それが引き金となっている想像が含まれているよ。僕には子どもがいて、妻と交代で面倒をみていた。僕も半分面倒をみていた。それは上手くいっていた。もしも彼女が親権を放棄して、僕に100パーセント、子どもの面倒がのしかかってきたら、どうなるだろうという家庭の不安は生じたと思う。
当時は長編1本目を準備している最中だったので、特にキャリア的にとても重要な時だった。その時に父親としての責務を果たさなければいけないとなったらどうなっただろうと、それが脚本の引き金になったかな。でももちろん、これはフィクションなので、登場人物は関係ないよ。
●日本では働き方改革などと労働に対して見直しが始まってますが、監督はどういう考え方ですか?
父親の状況を象徴するフレーズがあって、それは「できることをやる」だ。本当にそれしかないと思う。僕の場合、情熱を傾けられる仕事についているので、それは贅沢だと思っているし、オリヴィエのように巨大工場で働くわけでもない。でも、子どもと仕事は両方とも必要なもので、子どもが自分の世界の柱であり、子どもがいるおかげで、僕は働くことができている。子どもに誇りに思ってほしくて、よりよい仕事をしようと思える。子どもは自分に活力を与えるもので、必要な存在だよ。
●今日はありがとうございました!