マジで死ぬ! 『ベテランスタントマンが話す危険マル秘裏話!』

  by 丸野裕行  Tags :  

どうもどうも特殊犯罪アナリスト&裏社会ライターの丸野裕行です!

《蒲田行進曲》で一躍世間に知られたスタントマンの世界。スタントマンとは、危険なアクションシーンなど要求される特殊なシーンを俳優の代わりに演じる職業。例えば、危険なカーアクションシーンや海に飛び込むシーン、火に包まれるシーンなど、秀でた反射神経と運動能力、高い運転技術などを必要とする仕事です。

では、珍重され、大切に扱われるか? 答えはNO。内情は実にヒドいもので、現場では汁男優並みのエキストラ扱い。待遇も悪く、監督のひと声でさらに危険なシーンに挑むこともしばしばです。死と隣あわせで体を酷使する彼らですが、その努力が評価されることは極々まれです。今回は彼らを代表して、ひとりのスタントアクターにお話をお聞きしました。

養成所で修業を重ねる

<告白者/永田久博 29才 京都府 スタントアクター>

平成10年、高校を卒業したオレは無類のジャッキーチェンマニアだった。彼に会いたいという一心でハリウッドのアクションスターを夢見て、アクション俳優の養成所に入った。

募集は13歳から25歳までの男女。資格や学歴などは不問で年に2度のオーディション(審査料金1万円)を通過すれば、研修生になれる。50万弱の入所費用とレッスン料は、親に頭を下げて出してもらった。

カリキュラムとスタントマンとしての訓練は、股割りからはじまり、マット運動やアクション演技、ジャズダンス、カンフー武術、少林寺拳法、時代劇の殺陣、乗馬、スキー、スノーボードまで幅広く勉強する。

鬼のような教官に毎日、体力の限界までしごかれるのだ。
レッスン料を稼ぐためにバイトしながら養成所に通う日々。3年後、やっとの思いで卒業した後は、スタントマン専門のプロダクションに所属し仕事をこなす。

各大手プロダクションが行っている採用試験を受けて、採用されれば入ることができるのだが、中々の難関。もちろん他にも、スタントマンになる手はある。活躍しているプロスタントマンに弟子入りしたり、スタントマン専門のプロダクションのスタッフからスタントマンになったり、とプロの世界へのパイプ作りは様々だ。

オレが所属したのは『Z』。日本のハリウッドと言われる地元の東映太秦映画村などの仕事が多く、通勤にも便利だからだ。

そこから、能力に応じて仕事が与えられ、スタントマンとして活躍できる……と思っていた。しかし、現場はそう甘くはなかった。

とりあえず馬車に轢かれろ

初仕事は、時代劇スペシャルの斬られ役。馬が引く車に撥ねられるという役柄だ。
夏なのにクーラーひとつなく大部屋の控え室に入れられて、経費削減を叫ぶ助監督に嫌味を言われながら300円のマズい弁当を食う。着物はすぐに汗でびっしょりと濡れた。日雇い労働者の飯場よりもヒドい扱いだ。

「よ~い! アクション!!」

カチンコの音が撮影現場に鳴り響き、カメラが回る。
時速50キロほどで砂を蹴りながら激走してくる馬車。

危険を伴う職業であるためにスタントマンの保険への加入は基本的に拒否される。なんの保証もないのだ。
オレは中に全身にプロテクターを装着したサムライ姿で定位置に立ち、ギリギリで躱(かわ)してはじき飛ばされる演技をしようと待った。ヘタをすれば、マジで死ぬ。こ、怖ぁ~!!

【ドドドッ、ドドドッ!!】

そばを走り抜けるデカイ馬。同時に横へ飛ぶ。地べたに這いつくばるオレ。なんとか無傷でいい演技ができた。

「オイ~!! なにやってんだ!! てめぇ轢かれろよ!!

カメラを通すとリアルじゃないと言う理由で、打ち合わせとは違うことを怒鳴る監督。話が違うということで、オレが助監督と話し合っていたとき、1人の女が手をあげた。2年先輩のスタントウーマンだ。引きの場面なので、女でもバレないサムライ役。意気揚々と馬車の前に立ちふさがる彼女。

だが、彼女は10分後に馬に轢かれて病院に運ばれた。奇跡的に鎖骨骨折だけで済んだそうだが、そのギャラは4万円。夜の海に飛び込んで3万円、階段を転げ落ちて5万円、火ダルマになって100万円。危険度と経験×回数によって収入が決まる。何とかスターになりたいという弱い立場を利用されるときもある。そんなメチャクチャな世界なのだ。

次々と犠牲になるスタントマンたち

それから、オレはプロスタントマンとして、乱闘シーンや橋からのダイブ、車にひかれる役などスタントの素人であるスターの代わりに危険なアクションを精力的に行った。

依頼が入れば風邪を引いていてもムリに現場に向かう。
それもこれもスタントシーンは定期的にあるものではないため、数少ない収入源を人に渡したくないのだ。

それに、トレーニングは毎日欠かせない。人並み外れた体力と集中力と精神力を維持するためにだ。脱臼16回、骨折12回、傷を縫ったのは100針ではきかない。

死と隣あわせと言ったが、先輩スタントマンが到底ムリなスタントを強要されて、後遺症を負ったり、死んだりするケースも後を絶たない。

また、撮影中の事故に関して言えば、有名なものもある。
重量9キロの鎧を着て滝つぼに落ちた俳優が死んだ『T』という映画真剣で殺陣師が死亡した『Z』などがそうだ。
オレがスタントマンをはじめて4年近くが経った頃、事件は起こった。

大物俳優の一言でスタントマンが半身不随に

アクション大作映画『X』の撮影に参加していたオレと先輩スタントマン・金田(仮名、31才)は、主人公とテロリストの役を任された。
2人とも、求められたとおり、俳優と大差のない体作りをして体調も万全で望んだが、出演者のYが脚本にケチをつけ、アクションシーンが追加された。

「もうちょっと、格闘シーン増やした方がオモシロいんじゃない?」
「でも、準備ができてないから危険ですよ。Yさんにケガでもあったら……」
「オレがやるわけないじゃない。スタントマンにやらせろよ!」

スタッフは、機嫌を損ねないようにアクションシーンを追加。
明らかに危険とわかる雪に覆われたダム脇の山肌で、オレと金田は格闘シーンに臨んだ。

「気をつけてやりましょう。 こんなトコでケガなんてバカバカしいじゃないですか!」
「足元気をつけろよ、永田!」

2人で取っ組み合いを演じていると、金田が気を抜いたと、わかった瞬間。

「アッ!!」

【ズルズルズルズル…】

「金田さ~ん!!」

30度ほどの斜面を転げ落ちる金田。手足がおかしな方向に折れ曲がって、明らかに全身骨折してる。30メートル下までずり落ちた金田へスタッフが吹雪の中を駆けつけてきたが、ときすでに遅し。脚の指は凍傷で欠損、頚椎骨折で彼は半身不随になってしまった。

大作映画を製作しているテレビ局と映画会社は、スキャンダルをもみ消すために金田に3千万の慰謝料を払い、無事に公開にこぎつけた。
だが、半身不随になった金田は酒に溺れ、今では何をしているか不明だ。

オレはスタントマンに対してこんな待遇の日本映画から抜け出そうと、諦めずにハリウッドを目指している。
アメリカでは日本とは比べものにならないほど高額なギャラがもらえるからだ。スタントマンのスターだっている。

普段、映画の中で当たり前のように目にしているアクションシーン、少しオレたちのことを意識して観てやってほしい。

※使用されている写真はイメージです
(C)写真AC

丸野裕行

丸野裕行(まるのひろゆき) 1976年京都生まれ。 小説家、脚本家、フリーライター、映画プロデューサー、株式会社オトコノアジト代表取締役。 作家として様々な書籍や雑誌に寄稿。発禁処分の著書『木屋町DARUMA』を遠藤憲一主演で映画化。 『アサヒ芸能』『実話ナックルズ』や『AsageiPlus』『日刊SPA』その他有名週刊誌、Web媒体で執筆。 『丸野裕行の裏ネタJournal』の公式ポータルサイト編集長。 文化人タレントとして、BSスカパー『ダラケseason14』、TBS『サンジャポ』、テレビ朝日『EXD44』『ワイドスクランブル』、テレビ東京『じっくり聞いタロウ』、AbemaTV『スピードワゴンのThe Night』、東京MX『5時に夢中!』などのテレビなどで活動。地元京都のコラム掲載誌『京都夜本』配布中! 執筆・テレビ出演・お仕事のご依頼は、丸野裕行公式サイト『裏ネタJournal』から↓ ↓ ↓

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