「It’s a small world. こどもの世界」
私はディズニーランドにはじめて行った時に、「イッツアスモールワールド」にとても感動したことがある。ただの人形の間をボートが流れていくだけだ。しかし、私はとても懐かしい思いがした。とっくに失っていた正義感やピュアな心がよみがえった気がしたからだ。
小学生の頃、世界は冷戦の時代だった。「アメリカとソ連が協力して科学技術を進められたらいいのに」と、こども心に思ったものだ。
ところが、大きくなると事情が分かってきた。人間は、協力するより競争した方が真剣に働く。平等よりも、格差を好むらしいのだ。「そんなことはない」と言われそうだが、受験指導をしていると分かる。
点数をつけて、順位をつけて、学歴に差が生まれるからこそ、生徒たちは血眼で勉強する。もし、文科省や教育委員会の言うように「絶対評価」で統一したら、生徒たちは怠け始めるだろう。すでに、私立高校では絶対評価の内申書など合否の参考にしていない。
歴史をふりかえると、人間の技術が長足に進歩するのは戦争の時代と言えなくもない。文字通り、命がけで開発を急ぐからだ。
そういう人生を送ってきて、還暦をむかえた。世俗にまみれて、資本主義の申し子のようになって、ディズニーランドに行くと、無くしたものに気づかされる。
若い頃は胸をときめかせていた美しい女性を見ても、バツイチになってから「どうせ中身は醜い」と、ちっともドキドキしなくなってしまった。「お金が全てじゃない」と言われても、結婚や融資のときに知名度がない塾のために惨めな断られ方をしたトラウマが襲う。
受験指導をしていても、「学歴など、どうでもいい」と言う人がいたら「きっと、学歴がないためにつらい思いをしたんだろうな」と哀れに思うようになってしまった。
「鉄腕アトム」や「エイトマン」を見て、「自分は正しく生きていきたい」と思ったピュアな心など、どこかに置き忘れてきたようだ。
塾で欠席した子に、補習をしていたことがある。すると、故意に欠席して集団指導の授業料で個人指導を受けようとする子が増えて中止にしたことがある。名古屋の大規模塾で、家庭学習中の質問をメールで受け付けたら「エロ講師」のレッテルを貼られたそうだ。
ヘタな好意は、自殺行為になりかねないご時勢。何もしないのが賢い。「あっしにゃ、関わりのないこって」という紋次郎に共感する人が多いのではないだろうか。眠狂四郎のようなニヒルな生き方でないと、生き残れない。
「日教組」が戦後ずっと衰退を続けているのは、左翼教師の言う「みんな助け合おう」などという指導を信じたら、騙されてヒドイ目にあうのがオチだとみんな知っているからだ。中学生でも、この世は、弱っている者の足を引っ張る世界だと知っている。
桝添さんのことをよく知らない人たちが、叩きまくって辞任させてしまった。彼が才能豊かで、東大を出て、東大の教授をして、マスコミでもてはやされて、大金持ちで、何回も結婚して。「こんなヤツは許せない!」。そういうことだと思う。
そこには、正義に名を借りた嫉妬や妬みがある。こどもの世界なら、賢い子は一目置かれる。受験生なら、東大合格者はヒーローだ。そういう子は、たいてい収入も多い。傲慢でないと政治家などできるものではない。
しかし、大人になると、ずる賢く立ち回って金品をせしめると立ち直れないほど叩く。違法な犯罪者ならいざ知らず、全て適法な人は社会の中ではマシな方。もっとヒドイ人はたくさんいる。
誰だって、極貧など過酷な経験をして誰も手を貸してくれないことが分かったら「違法ではないが不適切」くらいのことはやるに決まっている。家族がいたら、よけいにそうだ。
こどもの世界と違い、大人の世界は助け合いなど存在しないのだから。それを知る最初の経験は、受験だと思う。