犬は社会的動物であることは、科学界でも一定の合意を得ています。狼を先祖とする犬は、狼の群れの性質を色濃く残しています。なぜ群れを形成するのか。他の肉食動物よりも体の小さい狼は、単独では弱い存在です。狩りの成功率も下がってしまいます。よって、個体群(パック)を形成して皆で力を合わせることで、狩りの成功率を上げ、住処である縄張りを守ることができるのです。
こうして進化した狼は、その後に犬へと更なる進化を遂げました。犬への進化の過程では人の介在によって、この群れの性質は少し弱まっているとの認識もあります。いずれにしても、犬はこの群れの性質を色濃く残しているからこそ、人と協力関係を築けるわけです。もし、犬が単独で生活する動物であれば、犬は人と一緒にいる必要もないでしょうから、私達の愛犬のように人と仲良くなることもしないでしょう。
リーダーの決まり方
ではリーダーはどのようにして決まるのか。この問題について、オランダのヴァーヘニンゲン大学の動物行動学者らが研究・調査を行い論文を2015年に公表しています[1]。
この研究で、犬が服従を示す行動が地位を示す指標となっていることを明らかにしました。研究では16頭の様々な種類の犬(子犬〜成犬で不妊治療はしていない)の個体群の生活を観察して、行動を24種類・ボディーランゲージを7段階に分けて評価しました。
その結果、リーダーは服従を示す者によって作られることが判りました。行動の観察では、攻撃的な仕草と服従的な仕草が比較されます。攻撃的な行動は、群れの上位(優位)・下位(劣位)で双方で行うことが観察され、一方で服従的な仕草は、下位の犬しか見られないことが判りました。
イアン・ダンバー(獣医師・動物行動学者)の指摘する劣位階層性は、まさに的を得ていた結果となりました。
つまり、攻撃的な仕草や振る舞いがリーダーを作っているのではなく、劣位の個体が特定の個体に服従的な仕草をすることで、優位者が決まってくるということです。しかも、その階層は一直線に序列を作るとしています。みんなから慕われる者が優位となり、信頼が集まることでリーダーになるということです。犬の群れはボトムアップで成り立っているということが判ります。このような服従によって成り立つ直線階層は、狼とイタリアの野犬の群れでも見られることが、これまでの研究でわかっているそうです。
我々の社会でも、暴力などの攻撃的な行動でトップを決めるのには抵抗があるはずです。信頼を集めた人がトップになる方が、納得がいくでしょう。人も狼や犬と同じ社会的な動物です。この群れのシステムの根本は同じと言えるでしょう。人間の場合は、悪い意味で事情が複雑になっているかも知れませんが……。
犬が見せる服従行動
私達の愛犬も、日常的に服従的な仕草を行います。飼主が帰宅すれば、犬は耳を下げ、尾をたくさん振りながら、口を舐めて熱烈に歓迎してくれます。犬のこうした行動は、野生の狼でも見られます。親であるリーダーが住処に帰ってくると、子ども狼達も同じ仕草をします。子供達は、親狼に絶大な信頼を寄せているからこそ、帰ってきたことに喜んでいるのです。
この研究から判ることは、犬に信頼されて好かれることが、群れの中でリーダーになるということです。犬から信頼を得るためには、まずは犬に好かれることです。犬を力で抑えたりしては、せっかくの信頼を傷つけてしまいます。愛犬が喜び、楽しめるアクティビティーを行うことで、犬は飼主に対してポジティブな印象を持つでしょう。こうした日々の犬との接し方が、信頼のあるリーダーを作ってくれます。我々は、「飼主がリーダーとなる」と決める必要はないのかも知れません。リーダーは、犬達が自発的に決めてくれます。
誰がリーダーとなるかは、飼主次第といったところでしょうか。
参考文献:
[1]JoanneA.M.van der Borg,Matthijs B.H.Schilder,Claudia M.Vinke,Han de Vries(2015),Dominance in Domestic Dogs:A Quantitative Analysis of Its Behavioural Measures,PLOS ONE
TOP画像は著者が撮影したもの。