※1/28の記事に、様々な修正を加えた改訂版です。
昨年末に、『ニコニコ動画』・『ニコニコ静画』・『ニコニ・コモンズ』への新サービスの1つとして”クリエイター奨励プログラム”が加わりました。これは、人気の出た投稿作品の制作者に対して、ニコニコポイントまたは現金で奨励金が払われるというものです。
端的に言えば、動画やイラストなどの創作活動に、「人気が出ればニワンゴがお金を払いますよ」という話です。これはなかなか画期的なサービスだと思います。YouTube に動画を投稿してある程度再生されると、Google から「広告を載せて収益を上げませんか?」というパートナーズプログラムへのお誘いがきますが、ニワンゴのこのサービスはそれを更に一歩進めたものと言えるでしょう。
「クリエイターにお金が入る道を新しく創ろう」という理念は素晴らしいと思います。ただ、現状の制度やシステムには様々な問題点が見つかっており、“創作者の支援”と”二次創作文化の推進”を目的とするサービスが、逆に創作者を萎縮させ二次創作文化を崩壊させかねないという危惧を抱かせてしまうような状況になっています。
まず大前提として一般的に、権利者の許諾を得ていない二次創作物は、著作権侵害となる可能性があります。また、転載や引用は、条件付きで認められている行為です。ただし、日本の法律では著作権侵害は親告罪なので、権利者が問題としなければ許容されます。そして、二次創作の文化は権利者の”黙認”によって育まれてきた歴史があります。
わかりやすい事例は、二次創作同人誌の頒布です。過去には、ドラえもん最終回同人誌に対し、権利者である小学館・藤子プロは当初黙認していたものの、あまりに広まってしまったために著作権侵害を通告し、二次創作の著者は頒布停止・利益返還して和解したという話があります。東方プロジェクトや初音ミクが同人活動なら基本的に無許可でOKにしていたり、ニコニコ動画で人気のアニメMAD動画が削除されないのも”黙認”です。
そして、どこまでなら許容するかというのは、権利者によって異なります。二次創作や二次利用は一切認めないという権利者もいれば、MAD程度なら宣伝になるから問題としないという権利者もいます。
さてこれらを前提とした上で、『ニコニ・コモンズ』や”クリエイター奨励プログラム”にどのような問題点が指摘されているかを挙げ、その解決策を提示させていただきます。
1.クリエイター奨励プログラムの問題点
現状の仕組みでは、無断転載や権利者の許諾を得ていない二次創作物などがクリエイター奨励プログラムに登録され、権利者ではない人が不当に奨励スコア(つまりお金)を受け取ってしまう可能性があります。また、『コンテツツリー』という親子関係によって、権利者が望まない形の二次利用をされてしまう可能性もあります。
クリエイター奨励プログラムに登録するにはまず、『オリジナル作品表明』が必要です。が、登録時に権利者であることを証明する必要ありません。それゆえ、本来の権利者ではない人が無断転載し、『オリジナル作品表明』をしているような事例もあるようです。
人気作品には奨励スコアが配分されますが、受け取りには3ヶ月の猶予があります。著作権侵害ではないかどうかを審査するためです。しかし、その期間内に権利者が気付かない可能性は充分考えられます。また、本来ならば著作権侵害は嫌だけど、勝手に登録されてしまったなら仕方がないと、泣き寝入りするケースも考えられます。
また、クリエイター奨励プログラムに登録すると『コンテツツリー』の親作品として、他の人が二次利用した”子作品”を作ることができるようになります。子作品に人気が出れば『子ども手当』という形で親作品に奨励スコアが還元されます。子作品の作成には猶予期間などありませんので、本来はオリジナルではない作品に対し、勝手に子作品がどんどん作られてしまう可能性があります。
規約上、クリエイター奨励プログラムに登録できるのは第三者の権利を侵害していないオリジナル作品に限定されています。また、一定額以上を受け取る見込みのユーザーについては、規約違反についてのチェックを厳重にするそうです。
ただ、運営の方々の目にも限りがありますし、世の中の著作物を有名無名含め全てを把握することは不可能なので、昨年夏に起きた『スクエニマンガ大賞』盗作事件のようにチェックの目をくぐり抜けるモノが必ず出てくると思います。また、たとえ違反者に奨励スコアが配分されなかったとしても、無断での二次利用そのものが許せないという権利者もいます。
この問題のポイントになるのは、現状のシステムではクリエイター奨励プログラムへの登録が簡単すぎることと、『ニコニコ動画』・『ニコニコ静画』・『ニコニ・コモンズ』に載っている作品がクリエイター奨励プログラムに登録しているかどうかが第三者には判別できない点にあると思います。
権利者が、誰かに無断でアップロードされていないか、自分で毎日チェックするというのは非現実的な話です。しかし現状ではなんと、運営に削除申告ができるのは権利者だけという仕組みになっています。「親告罪だから」という理由だと思いますが、第三者からの違反通報は受け付けていません。
削除申告時には、権利者であることを証明するためのURLなどが必要です。『オリジナル作品表明』は簡単にできてしまうのに、権利者が名乗り出ても簡単には削除されないというのは非常に不合理に感じます。
また、現状は権利者に黙認されているMADや二次利用が、クリエイター奨励プログラムでお金が配分されるなら許されなくなる可能性もあります。昨年12月には、100万円以上を受け取れることになった人が4人いるそうです。もし権利侵害作品がこの額を受け取るのであれば、さすがに許さないという判断をする権利者は多そうです。
さて、ボクがこの問題の解決策として考えたのは、以下の5点です。
- 『オリジナル作品表明』をする際に、権利者であることを証明するURLの添付などを義務付ける
- 『オリジナル作品表明』された作品は、運営がチェックした後に子作品が作れるようにする
- 公開されている状態でクリエイター奨励プログラム登録作品か否かを判別できるようにし、 第三者が運営に違反通報を行えるようにする
- 誰がどの作品で奨励金をいくら稼いでいるかを”見える化”する
- 権利者が任意で[権利者公認]マークを付けられるようにする
優先度は上ほど高いです。まずサービス提供者である運営が、責任を持って著作権侵害かどうかのチェックを行うのが筋です。そのためには、登録時のハードルを高くしておく必要があると思います。ただし、運営のチェックをくぐり抜ける可能性も高いため、第三者による通報は有効的です。でも、通報が届いたら全て自動で削除といったことをやってしまうと、イタズラで正当な作品まで消されてしまうことを心配しなければなりません。
その作品を権利侵害として削除するかどうかの判断は権利者が下すものであり、運営や第三者が決めることではありません。そもそもお金が絡んでなければ問題としない権利者もいれば、稼いだ額次第では許さないという権利者もいるでしょう。クリエイター奨励プログラム登録作品であれば、第三者の目も厳しくなるでしょう。そういった客観的に判断するための材料を見える化すれば、周囲の不信感も払拭できると思います。
逆に、権利者が黙認した作品に対しいつまでも著作権侵害の連絡が届くのが煩わしかったり、逆に「いいぞもっとやれ」という権利者もいると思います。そこで、権利者が任意で[権利者公認]マークを付けられるようにしてはどうでしょうか。
2.『素材ライブラリ』の問題点
『ニコニ・コモンズ』の『素材ライブラリ』へ登録する際には、以下のような利用条件の設定を行います。
・営利目的で利用しても良いですか
├ 無償で自由に利用して構いません。
├ 非営利目的でのみ利用して下さい。
└ 営利目的で利用する場合には別途許可を取って下さい。
・この作品の利用許可範囲を選んでください
├ ニコニ・コモンズ対応サイトに許可
└ インターネット全体に許可http://help.nicovideo.jp/niconicommons/2008/08/post_7.html
無断転載による二次利用などの問題はクリエイター奨励プログラムとよく似ていますが、さらに問題を大きくする可能性があるのが「無償で自由に利用して構いません(営利利用可)」です。
『素材ライブラリ』に登録されている作品を調べると、二次創作の著作者が権利関係の意識が低いために勝手に営利利用可として登録してしまっているケースや、無断転載で「拾い物です」とコメントに入っているのに営利利用可というケースもあります。
登録されたまま権利者が気づかなければ、その素材を利用する人が、知らないうちに著作権侵害をしてしまう可能性があるのです。例えば営利利用可だからとダウンロードし、その絵柄をプリントしたTシャツを作って販売し始めたら、権利侵害が発覚した!という恐ろしいことが起こりうる仕組みになっています。
悪質なケースとしては、知っていても知らないフリをするとか、第三者を装い勝手に登録するような”仁義なき二次利用者”の可能性も考えられます。
また、オリジナル作品であっても、安易に”営利利用可”にすると、そのデータを利用した二次創作物でめっちゃくちゃ利益が出ても、自分には還元されず悔しい思いをするという可能性もあります。
この問題の解決策は以下の4点です。
- 『素材ライブラリ』へ登録したら、運営によるチェック後に公開する
- 第三者が運営へ違反通報を行えるようにする
- 利用条件設定時のデフォルトを、一番制限の強い「非営利目的でのみ利用して下さい。」にしておく
- 利用者の権利意識を高められるよう、【宣誓】の4項目をもっと目立つように大きくして色付けし注意を喚起する
3番目についてですが、利用条件設定時デフォルト設定のが”営利利用可”と最も制限の緩い状態になっています。これは危険です。何も考えずにそのまま設定してしまうことで大きな問題を発生させてしまう可能性があります。
他にも、親素材は”営利利用不可”なのに、子素材が”営利利用可”に設定できてしまうという、親子逆転が可能な仕組みになっているようです。親より子の方が自由度が高いというのはおかしな話ですが、システム上制限を加えれば簡単に防げることなので、早急な対処をお願いしたいところです。
3.その他の問題
『素材ライブラリ』の”営利目的”の定義は、規約上以下のようになっています。
・登録作品またはその派生作品を利用することによって、利用者またはその他の第三者が直接的に金銭その他の経済的利益を得る場合(例えば派生作品を有料でダウンロードさせることによって提供する場合など)、または得る可能性のある場合
なお、株式会社ニワンゴが提供するサービスによって利用者が直接的に金銭その他の経済的利益を得る場合については、作品登録者が相当な期間内に異議の申立てを行わない限り、営利目的での利用とはみなさないものとします。
・特定の商品・サービス・商店・団体の宣伝広告のために、登録作品またはその派生作品を利用する場合
・専らウェブサイトのアクセス数を増やすことのみの目的や、ウェブサイトのアクセスを増やすことでサイト運営者がアフェリエイト等の収入を得るための目的で、登録作品を集合的に一つのウェブサイトに掲載する行為
・上記行為に準じる行為http://help.nicovideo.jp/niconicommons/2008/08/post_70.html
ここで問題になるのは、”同人誌の頒布”の扱いです。同人誌は販売ではなく頒布だというのが建前になっており、だからこそ「同人活動の範疇なら許容します」というのが文化になっていました。しかしこの規約文言を字義通りに受け止めると、”同人誌の頒布”も”営利目的”になってしまいます。これは東方プロジェクトや初音ミク同様に、運営が「同人活動は”営利目的”ではありません」という宣言をすれば、とくに問題はありません。そうでない場合は、大問題になる可能性があります。
また、『素材ライブラリ』の利用規約違反報告画面には、著作権侵害以外の法令違反(中傷など)を報告する手段がありません。『ニコニコ動画』や『ニコニコ静画』にはあるのに、『素材ライブラリ』には無い理由が判りません。
あとは、”のまネコ”のような匿名掲示板から生まれた”誰のものでもない”キャラクターが勝手に登録された場合にどうするか、という問題があります。ちょっとこれに関しては、良い解決策が思いつきません。
※ 参考記事 「のまネコ」は「モナー」? ネットで騒動にhttp://www.itmedia.co.jp/news/articles/0509/09/news088.htm
『ニコニ・コモンズ』の”クリエイター奨励プログラム”や『素材ライブラリ』は、”創作者の支援”と”二次創作文化の推進”という素晴らしい目的のために作られた仕組みです。ただ残念ながら、現状のままでは今まで挙げてきたような様々な問題点があります。ボクが提示させて頂いた解決策は、あくまで1つの提案であり、当然ベストではないと思います。この記事をきっかけとして、どうすればみんながハッピーになれるかという議論が深まっていき、誰もが安心して利用できる場になることを期待します。
※ 参考
ニコニ・コモンズに関する情報まとめ http://togetter.com/li/245277