かつては旅行といえば、あの分厚い時刻表がつきものだった。現在ではデジタル時刻表や乗り換え案内系のアプリが充実し、スマホやタブレット一つあれば時刻表は不要になりつつある。
しかし、鉄ヲタはそうもいかない。旅行する先々で旅程を変更したり、思わぬ臨時列車が走っていてそちらにスイッチしたりと、とにかく計画通りにいかないのが鉄ヲタの旅である。今でも大きな時刻表を片手に旅行する姿は多くみられる。
また、乗り換え案内系のアプリがどんなに優れていても、自分独自のルートというものは何となくあるもので、それから外れたルートが表示されると不安で仕方がない。
さらに、スマホに従って移動中であっても乗り遅れや、事故で旅程のリカバリーを強いられることがある。そんな場合にアプリで違う経路を出されても困るので、前後の列車の関係が一目でわかる本形式の時刻表でないとあまり意味がない場合もある。
そんな需要に応えようと、JR時刻表を出版している株式会社交通新聞社が「デジタルJR時刻表」を開発、5月28日からサービスを開始するのに先立って、報道関係者向けの商品説明会を開催したので取材した。
本来は広く一般向けにリリースするアプリなのだが、その点はよくできているのでさほど心配はない。カスタマイズの自由度がかなり高いので、使用する人によって時刻表を骨までしゃぶりつくすことができる。
データの更新は概ね月1回だが、臨時更新の際にはその旨アプリ上に表示される。1回のデータダウンロードにかかる時間は通信環境にもよるが、40秒から1分とのこと。
同社の伊藤保洋執行役員・時刻情報事業部長がアプリの説明をしてくれた。乗り換え案内系は発着駅の他に経由地3駅まで指定可能。
前述のように一般的なデジタル時刻表系アプリや、乗り換え案内系アプリの機能はひと通り備えているので、使い勝手や購入の是非は試用してから個々で判断してほしい。大雑把にいうと同社発売のJR時刻表とMY LINE 東京時刻表の合計約2000ページをデジタル化して検索機能等の付加価値を付けたものと考えてよい。
記者は鉄ヲタ目線から「JRデジタル時刻表」を眺めてみたので、予めご承知おき頂きたい。
一般的な使用方法による使い勝手は、説明するよりも実際に使った方が早いと思う。
これがそのアプリのトップページ。
5月28日からサービス開始となるこのアプリは夏の臨時列車を含むJR時刻表6月号が収録されている。
ダウンロード自体は無料で、14日間は制限なく試用できる。対応端末はiOS7.0以降のiPadとmini、Andoroid4.2-4.4 解像度1200×1920以上のタブレットで、残念ながらスマホには対応していないので注意が必要だ。
料金は利用開始日からの連続日数によって決まる。30日、180日、365日となっており、7月31日まではキャンペーン価格で30日480円、180日2800円、365日4800円になる。毎月時刻表を購入する鉄ヲタにはお得といえるだろう。
乗り換え案内の機能はもちろんあるが、なんといっても本形式の時刻表がウリなのでこれだけはオフラインでも使える。田舎のローカル線でたとえ端末が圏外であっても、内部にデータを持っているので時刻表をめくることはできる。
車掌が到着時に乗り換え列車の案内をしているが、このアプリはそれもやってのける。任意の列車の任意の駅の時刻をタップすると、そこから乗り換えできるすべての方面の列車が一覧表示される。目的の乗り換え列車の線区をタップすると、その先の本形式の時刻表が現れる。まさに時刻表をめくる必要がなくなるわけだ。
それでも、青春18きっぷのシーズンになると、複数の線区のページをめくって次の列車を選択する18キッパーをよく目にする。そんな時には、複数の線区を自由に数段に分割して表示できるこの機能。各段は自由に動かすことができるので、乗車列車が決まれば次の線区、その次の線区の表示を都合のいいように動かせばよい。
特急列車に乗るときには、海側?山側?、車両の前の方?後ろの方?と、いつも迷ってしまうあなた。ほぼすべての定期優等列車の全編成、全車両の座席表が収録されている。紙の時刻表には主要な車両しか掲載されてないが、東海道新幹線ならそれこそ1号車から16号車までの全座席表が掲載されている。マニアな座席表はあとで紹介するので、我慢してこのまま読み進めてほしい。
オンラインならではの機能がこれ。見ている線区の運行情報があれば災害による不通はもちろん、遅延から運転見合わせまでアラートが出る。
特急列車の時刻を見ていて、おおよそいくら位なんだろうかと思ったら、すぐにタップ。いわゆるピンクのページの三角運賃・料金早見表が出るので、概算がすぐにわかる。
JRバスや会社線、船舶や航空は紙の時刻表がそのまま電子ファイル化されている。
MY LINE東京時刻表も収録されているので、山手線や地下鉄の始発から最終までの全列車が列車番号とともに検索可能。「2分-5分毎」というような曖昧な表記では満足できない鉄ヲタには最適だ。
これが編成表・座席表のメニューだ。鉄ヲタでないと理解不能なページだが、時刻表の列車をタップすると当該編成がちゃんと表示されるので大丈夫。
ピンクのページも全収録。旅行中はここを読みながら旅客営業規則を再勉強するのが正しい鉄ヲタの読書スタイルだ。
ここまで来ると、どれくらいの一般の利用者がこのページを読むんだろうと疑問だが、そこが紙の時刻表をすべて収録するというこだわりだ。駅で聞く前にアプリに聞け!というわけではないだろうが、調べるのも旅の楽しみだろう。
時刻表の欄外注記まで収録されているのは驚きだ。列車番号など鉄ヲタしか興味ないのだろうが、記者は知っていればものすごく便利なのも理解している鉄ヲタなので、これはうれしい表記だ。
たいへん長らくお待たせをして申し訳ないが、これがマニアな座席表。5秒でわかれば合格。
正解は札幌と青森を結ぶ、急行はまなすのドリームカー連結編成の座席表。マニアすぎる。
東海道・山陽新幹線だけを見てもこの始末。もはや編成記号を併記しないと分類不能なのでこういう表記になったのだろうが、自称新幹線ヲタのSKE48メンバーには理解できるだろうか。
N700系解説のページ。セミアクティブサスペンションに番台区分による編成記号の解説までしてある。作り込んだ人は鉄ヲタに違いないと勘繰りたくなる気合の入れようだ。あくまでもマニア向けのアプリではないので誤解のないように。
ちびっこに大人気の500系V編成の編成・座席表の一部。どの座席を選べば何が見えるのかまで書いてある。きっと寝る暇がなくなる。
極めつけは記念発売の案内。もはや記念きっぷを発売する会社そのものが少なくなってきたが、マニアも多い。記念きっぷを買いに出かける旅程はこのアプリで決まりだ。
同社によると、サービス開始はまだだが、すでに反響は多いそうで、マニアックな要望もあるとか。
モノはついでなので、マニアな要望とその回答をまとめてみた。
・これだけマニアックな機能がそろっていると、ダイヤグラムを収録してほしいという声はありませんか?
「ありました。ただ、一般の方がダイヤグラムを読めるというものではないですし、読み間違えると意味がありませんので、このアプリに収録することは考えていませんが、全く否定的というわけではなく、今後の課題として別アプリという方向で考えていくという意見もあります。」
・貨物列車や回送列車のダイヤの収録はいかがでしょう?
「それも要望がありました。しかし、乗ることのできない列車をこのアプリに収録すると混乱しますので、これも別な方法でコンテンツを増やす方法を考えなければいけません。」
と、意外にも乗り気だったので、いつになるかはわからないが、期待はしていて良さそうだ。
一般的な使い方では必要十分。忙しいビジネスマンの使用にも耐え、交通機関にさほど明るくない層の利用も見込まれ、さらにマニアックなカスタマイズで鉄ヲタの要求にもある程度は満足させられるこのアプリ。
紙の時刻表が神アプリになれるのか。とりあえず14日間の試用で使い倒してみてはいかがだろうか。
※写真はすべて記者撮影、端末のスクリーンショットは株式会社交通新聞社提供