舛添要一東京都知事の解職請求(リコール)運動が就任後1年を経過する2月12日に解禁されることを受け、ネット上の右派系ブログや『ニコニコ動画』を中心に署名活動への参加を呼び掛ける動きが活発になっています。
リコール運動への参加を呼び掛けている意見の多くは、舛添知事が「都市外交」を掲げて2か月に1回の割合で外遊を実施しており、特に姉妹都市であるソウル市長との会談で打ち出された道路陥没対策のノウハウ提供を始めとして中央レベルでの関係が冷え込んでいる韓国との関係改善に積極的な姿勢が攻撃対象とされています。
リコール成立に必要な署名数は約150万筆
地方自治法では、首長(都道府県知事・市区町村長)のリコールに必要な署名数を原則として「全有権者数の3分の1以上」と定めていますが、人口が多い自治体の場合は「40万を超えるときは、40万を超える数の6分の1と40万の3分の1を合計した数以上、80万を超えるときは、80万を超える数の8分の1と40万の6分の1と40万の3分の1を合計した数以上」と定められています。東京都の場合、選挙管理委員会発表の総有権者数はは昨年12月1日現在「1087万2065人」とされているため「80万を超えるとき」が適用され、リコール成立に必要な署名数は「145万9008筆」となります。また、署名を集められる期間は代表者が選挙管理委員会に届け出た当日から2か月以内と定められていますが、4月上旬に統一地方選挙(東京都内では主に区長選や区議・市町村議選)が行われるためその間は運動期間から除外されます。
しかし、市町村長のリコールは成立事例が複数あるのに対して、都道府県知事の成立事例は過去にありません。直近では、2013年(平成25年)に伊藤祐一郎鹿児島県知事の予算執行方針に対する批判からリコールを求めて署名活動が実施されましたが、この際は集まった署名数が成立ラインの約27万5000筆を下回る約15万筆に留まり不成立となりました。東京都の場合は成立ラインがさらに高く、この点だけを見ても知事のリコール成立が容易ではないことがうかがえます。
「都市外交」批判は幅広い支持を得られるか
冒頭で述べたように、今回のリコール運動は右派系のブログ主宰者などのいわゆる「ネット右翼」系の人物が中心になっています。そのため、リコールを請求する理由も舛添知事が掲げる「都市外交」に対する反発が前面に打ち出されたものになっていますが、こうした主張が幅広い支持を集められるかには疑問が残ります。1年前の知事選挙で今回のリコール請求理由と政策的に最も近い公約を掲げていたのは田母神俊雄候補だと思われますが、田母神候補への投票者が全員署名したとしても成立ラインには遠く及びません。成立ラインを視野に入れるならば2位の宇都宮健児・3位の細川護熙両候補に投票した層からも支持を集められるような請求理由を掲げるのが現実的だと思われますが、リコール運動の中にそうした「呉越同舟」を模索する動きはほぼ見られない状態です。
今回の運動とよく似た形でネットから立ち上がって成功を収めたものには、2005年(平成17年)に各方面からの猛反対を押し切って成立するも施行に至らないまま凍結・廃止された鳥取県人権侵害救済条例への反対運動があります。この際に反対運動の中心を担っていたのは右派・保守系のグループでしたが「条例に問題がある」と言う認識で一致する左派・革新系のグループと「呉越同舟」の協力関係を築くことに成功したのが大きな勝因の一つでした。
リコールの要件を満たした場合はどうなるか
仮に必要な署名数が2か月の期間内に集まり、選挙管理委員会に提出されてもただちに知事が失職するわけではありません。その次の段階として知事解職の是非を問う住民投票が行われ、ここで「解職賛成」票が過半数になったところでリコール成立・失職となりますが、当然ながら住民投票で「解職反対」が過半数となればリコールは不成立となります。成立した場合でも、対立候補が乱立してリコールされた前知事が出直し知事選で当選して結果的に運動が失敗となる可能性も考えられます。
リコール運動では当初から明確に出直し選挙での「対抗馬」を想定して署名が行われる場合とそうでなく「とにかく現職に不満があるので引きずり下ろしたい」という場合がありますが、今回の舛添知事に対するリコール運動では出直し選挙が行われた場合の有力な「対抗馬」となり得る人物は絞られておらず、後者の傾向が強い状況にあります。そうした状況や、リコール運動の主宰者に幅広い政治的立場からの支持を集める努力を行う形跡が見られないこともあり『Twitter』に投稿されたコメントでは「賛否はともかく、今回のリコール請求が成立する可能性は低いのではないか」「どうせ署名するのはネトウヨだけ」と言う懐疑的な見方も出ています。
画像‥東京都庁(フリー写真素材・Photockより)