【無責任なつぶやき笑】インフレで銀行強盗がいなくなる?

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皆さんは心中でこう呟きながら千円札を眺めたことはないだろうか?

「お札のゼロが一個増えればいいのになー」

もちろん僕は――ある。

頭が “一” ならば、ゼロが三個で千円。ゼロが四個で一万円だ。お札というものはゼロが増えるたびに価値が十倍になり、持っていて嬉しくなる。

そんな僕が先日はじめて見た夢のお札が冒頭の写真、『五百億ドル紙幣』だ。

断わっておくが、これは子供のオモチャではない。2009年に発行され、実際に使用されていた通貨だ。僕はこれを居酒屋で見せてもらった。傭兵経験のある営業マンという稀有なる同僚が笑いのネタにと財布から取り出したのだ。彼(仮称Kさん)についての詳しいお話は次の機会にすることとして、今回はこのゼロが十個もあるお札について書きたい。

「これ、どこで使えるんすか?」
僕の問いに、Kさんはさらりと答えた。
「ジンバブエだよ」

ジンバブエ共和国――
アフリカ大陸の南部に位置する共和制の国家で、首都はハラレ。2002年に加盟資格を停止されるまでイギリス連邦の加盟国であったらしいけれど、有名であるのはそれらよりも “世界最高のインフレ率” を叩き出した国だということだろう。

僕は身近でジンバブエに行ったことのある人を彼以外に知らない。さすがは数々の戦場を駆け回ってきたというKさんだ。なぜこうしてサラリーマンやっているのかが甚だ疑問ではあるのだけれど、彼は営業として、僕はIT技術者として、今は同じ会社に勤めている。

先に補足しておくけれど、写真の紙幣は “ドル” は “ドル” でも “ジンバブエドル” だ。加えて今はもう発行されていない。激しいインフレによってほとんど価値を失い、2009年4月12日をもって発行が停止されてしまったのだ。今となっては文字通りただの紙切れになってしまったお札の亡霊だ。

もう少しKさんから話を聞いて見れば、かの国での生活は驚きにつきた。
――タクシーでちょっとそこまで、二十兆円
――ファンタ一缶、四兆円
日本では小銭の支払いで済むところが、当時のジンバブエでは札束を山ほど積まなければいけなかったというのだ。

スーパーなどでは値札シールが長すぎて右側がぺろんと垂れ下がっていたという。それはそうだろう。単純に桁が多すぎる。Kさんの話で僕が何より驚いたのは、タクシーメーターやガソリンスタンドの給油メーターの後ろ側のゼロが “手書き” であったということだ。
さすがの彼もこれには驚いたらしい。
あとでゼロを増やされて “ぼったくられる” かもしれないと警戒し、すぐに運転手に対してストップをかけたそうだ。しかしドライバーは気にせず「これだから外国人は……」っという苦笑を浮かべて走り続けた。Kさんは二秒であがっていくメーターに慌てふためきつつ、何個も並ぶゼロを必死で右端から数えたという。一体、今、いくらなのか? 桁が多すぎて、瞬時にはそれが分からなかったそうだ。二秒で億以上の額が飛んでいったというのだ。日本人なら大半が慌ててしまうだろう。
結局ぼったくられることなく、Kさんが目的地到着後に運転手に聞いたところによると、当時かの国では不定期にデノミネーションが行われていたのだという。 “お札の桁が突如減ってしまう” 、そんなことが何度もあった。ハイパーインフレによってすぐに桁が増えもするし、いちいち対応することが馬鹿らしく、そうして手書きになったらしい。確かに、その都度メーターを交換していては費用だって馬鹿にならない。それこそ一回の交換で何兆もかかってしまうことだろう。

――お札の桁数が変動する? そんなことあるの?

引っかかりを感じた僕が後日調べてみれば、それは確かに事実だった。2008年8月1日には十個ものゼロが切り捨てられ、百億ジンバブエドルを新1ジンバブエドルとしたらしい。さらにその半年後の2009年2月2日には十二個ものゼロが。一兆ジンバブエドルが新一ジンバブエドルになったというから凄まじい。

これは我が身に置き換えれば薄ら寒くなる。

日本政府が突然「一万円を今日から一円にします」と言いだしたら、ただでさえ少ない僕の貯金がひっくり返るほど目減りしてしまう。たとえ価値が同じであったとしても、ゼロが減るのは何やら気分がよくない。じゃあいっそゼロを増やせば景気が良いのかといえば、それはかつて学校で習ったとおり。そんなことをしても、かの国の二の舞になるだけだろう。僕はこれで見直したのだけれど、日本は “紙幣の価値をある程度は安定させておける” くらいには政治が機能している国なのだ。

――さて、ここで視点を変えて考えてみよう。

【ここからが僕の無責任なつぶやき↓↓↓】

このジンバブエにあって、お金に関連したメリットが何か一つくらいないものなのか?
これだけ景気よくゼロがつき、札束を並べて支払える国なのだ。
金持ち気分を味わえること以外で、僕としてはどうにか何かを見つけたいと思うのだ。

そうこう悩んでいるうちにビールと共にKさんの話が進んでいた。
「皆、財布代わりにボストンバックなんだよ。両替したら俺も凄い量の札を持たされてさ」

ボストンバックとは恐れ入る。日本ではそれに紙幣をいれるのは銀行強盗くらいだ。
っと、そこで思いついた。
かの国では “銀行強盗など起こらないのではないか?” っと。

考えても見て欲しい。
缶ジュース一缶に札束を積まなければいけない国だ。
日本でいうところの百円そこそこが、札束の山……
っで、あれば日本でいう一億円を奪うにはトラックでも足りないだろう。

どうだろう、日本の皆さん。
ここ最近はあまり聞かなくなった “銀行強盗” という犯罪。
この際、一気に根絶するために円のゼロをいくつか増やしてみませんか?(笑)

ちなみに先にも出た写真お札、これは2009年1月12日発行された五百億ドルだ。

お気づきだろうか?
上述の内容に照らせば分かるように、発行期間が非常に短いレアものだ。

そんな時期に、そんな場所にいる。そんなKさんにこそ、僕は驚いてやまない。
日本広しといえど、今、家に五百億も置いているのは彼くらいではないだろうか?

作家を志すシステムエンジニアです。小さな文学賞を受賞し、2014年に念願の自身1作目をハードカバー出版。現在2作目の出版 および 新たな賞の獲得へ向け、システム開発の傍らで鋭意執筆中。ミステリ、ファンタジー、SF、ラノベなど、幅広く挑戦しています。好きな作家サンは伊坂幸太郎サン、坂木司サン、隆慶一郎サン、伊藤計劃サンなど、挙げればきりがありません。何よりも文章を書くことが好きで、ライターとしても執筆していきたいです。