ハローワークのブラック企業締め出し しかし、労災・年金・健康保険・雇用保険のかけ逃れはザルのまま

  by 松沢直樹  Tags :  

厚生労働省は、23日、ブラック企業からの求人票を受け付けない報告書をまとめました。
この報告書に基づいて法案を作成し、今期の通常国会に提出することしています。

「ブラック企業対策法」の成立について、国が腰を上げたことになります。果たして本当にブラック企業問題は解決するのでしょうか。

現行法では、最低賃金を下回る給与や、労働基準法等に違反する内容が求人票に記載されていない場合、ハローワークはブラック企業からの求人票であっても、受理しなければならないことになっています。

そのため、労働者の使い捨てを前提にしている企業が、ハローワークの求人制度を悪用していることが、以前から指摘されていました。
今回、厚生労働省がまとめた法案は、一言で言えば、新社会人になる若者が、ブラック企業にひっかからない工夫を盛り込んだものです。

これ自体は、歓迎すべきです。
ですが、ブラック企業に実際に潜入し、取材を重ねてきた立場からすると、残念ながら、今後も法の網をかいくぐるブラック企業は出てくると思います。

なぜなら、ブラック企業からの求人票受付拒否は、強力なペナルティにはありません。
「求人票を受け付けない」というペナルティを課すブラック企業は、残業代不払いなどの違法行為について、労働基準監督署の指導が頻繁に入ったり、ハローワークの命令に従わないブラック企業に対して、課せられるのが基本姿勢のためです。

求人活動に、経済的余力があるブラック企業は、民間の転職サイトに求人を出すでしょう。(そのほうがイメージがいいですから、むしろ、ハローワークに求人票を出すのを控えるかもしれません。)

また、今回の厚生労働省案は、若者の就労安定を支援するものです。
失職が生活の破綻につながりやすい、30代以上の労働者を保護する政策がきちんと盛り込まれているとは思えません。

女性の方の雇用機会均等も同様です。
性別によらず、同じスキルや役職であれば、同じ賃金が支払われるような指導が徹底的に行われるとは考えにくいように思います。
(いわゆる、マタハラや、妊娠されたと同時に、退職勧奨されることも、徹底的な取り締まりが行われるようには感じられません。)

雇用保険・厚生年金、健康保険、労災などのかけ逃れの徹底取り締まり 不正な賃金体系の是正、賃金未払い発生時の労働者保護が必要

私が、今回のブラック企業対策法案が可決しても、ブラック企業にまつわる問題が解決しないと考えるのは、もう一つ理由があります。

法令で定められているはずの年金や健康保険、労災、雇用保険について、手続きをきちんと行っていない企業が、ハローワークをはじめ、監督官庁から、制裁を受けることはまれだからです。
(トップの写真は、ブラック企業に潜入した際に、社会保険完備と求人票に記載していたにもかかわらず、会社が、年金の切り替え・加入手続きを行っていなかったため、国民年金から督促状が怒られてきた時のものです。)

雇用保険にいたっては、失職時のセーフティネットにはなっていませんし、使用者側が意図的に「かけ逃れ」をしている節すらあります。

使用者が雇用保険を意図的にかけていなくても、労働者から申し立てが合った場合、ようやくハローワークの雇用保険適用課の担当者が、使用者問い合わせて、使用者に雇用保険の支払いを求めるケースがほとんどです。

会社都合の解雇の場合、すぐに雇用保険の給付金が支払われことが規定されています。
給付の条件となる、半年以上週40時間以上勤務していたにもかかわらず、雇用保険がかけられていなかったとしたらどうでしょうか。

会社から解雇されて、月々の収入が途絶えているわけです。早急に雇用保険から給付金が支払われなければ、貯金がない方は、文字通り生活が破綻しかねません。

厚生労働省は、平成17年3月30日に、労災保険・雇用保険に加入せずに事業を行う企業について、厳しく取り締まる通達を出しています。

外部リンク 厚生労働省ホームページ 労働保健未手続き事業一層対策の実施について
http://www.mhlw.go.jp/houdou/2005/03/h0330-1.html

10年近く時間が経過しているにもかかわらず、少なくとも労災保険と雇用保険に限っては、「かけ逃れ」を取り締まる対策が、十分に行われているとは言えないといことになります。

現行法においても、会社が賃金や残業代を支払ってくれない場合、労働基準監督署が対応してくれたり、各都道府県の労働委員会の利用や、任意の労働組合に加盟して、交渉することが可能です。

しかしながら、経済が悪化しており、預貯金がない労働者が増えている時代です。
法的手段に訴えれば、その間に、経済的に破綻してしまいかねません。
したがって、雇用保険、労災保険、年金のかけ逃れについては、泣き寝入りしなければならないケースが相当数あると思います。

ブラック企業対策を考えるなら、この問題に対する、救済措置が必要でしょう。

雇用保険、労災保険、健康保険、厚生年金に加入しない企業は数日以内に強制加入させること。
賃金や残業の未払い、会社都合の場合の雇用保険給付金については、国が建て替えて支給するなど、労働者の生活が破綻しない仕組みを考えること。

おそらくまだ、サポートが必要な、問題はあるでしょう。
今回の国会への法案提出は、ブラック企業問題解決の一歩と言えると思います。
ですが、ブラック企業問題を完全に解決するには、今後も、法律の強化が必要なのは、まちがいありません。

松沢直樹

福岡県北九州市出身。主な取材フィールドは、フード、医療、社会保障など。近著に「食費革命」「うちの職場は隠れブラックかも」(三五館)」近年は児童文学作品も上梓。連合ユニオン東京・委託労働者ユニオン執行副委員長