最近、世間の流行り廃りがやたらと速く感じる。
この夏ネットで話題になった『江口愛実騒動』など、もうかなり昔のことのようだ。
あらためて振り返ってみると、週間プレイボーイにグラビアが載り、名前が出たのが6月13日。そこから様々な憶測や情報が飛び交い、江崎グリコの公式ページで正体が明かされたのが6月20日。引き続き『アイスの実』のCMキャラクターとなってはいるが、“幻”であったのはわずか一週間だった。
では、今回の騒動で、一部に比較した論調の見られたバーチャルアイドル『芳賀ゆい』の場合はどうだったのか。
初めに伊集院光さんのオールナイトニッポンで話題になったのが1989年11月のこと。そこから彼女の活動内容やプロフィールについてリスナーが意見を出し合い、本格的なプロジェクトが動き出した。
翌1990年2月には『芳賀ゆいのオールナイトニッポン』が放送される。その後、テレフォンサービスやシークレットライブを経て、7月1日にCD『星空のパスポート』発売。この日は高田馬場BIGBOX前で即売会が行われ、私もわざわざ地元から出かけて行った。
“芳賀ゆいとのツーショット写真が撮れる”との触れ込みだったが、行ってみると3人の芳賀ゆいがいて、どの子か一人を選んで撮影するというものだった。ちなみに一人はアイドルっぽい可愛い子、一人は普通の子、最後の一人は外国人。このあたりの遊び心も心憎く思ったものだ。
この頃から“幻のアイドル”としてメディアに取り上げられることが多くなり、9月13日には写真集発売、10月に“留学のため”として引退、プロジェクトの幕引きとなった。あらためてひも解いてみると、実に約1年にも渡るプロジェクトだったわけである。
当時から伊集院光さんのヘビーリスナーだった私は、フリートークでたまたま生まれた『芳賀ゆい』というキャラクターがどんどんと大きくなっていくのを実感していたし、著名な人を巻き込んで(『星空のパスポート』の作詞は奥田民生さん、写真集の撮影は、アイドル写真集を数多く手がけている斉藤清貴さんだった)ムーブメントになっていく様を、まるで共犯者のような気持ちで見ていた記憶がある。
こうして2つのプロジェクトを比較してみると、その活動期間だけではなく、アプローチの仕方が全く違っていたことがわかる。
江口愛実の方は、まず『情報』をひとつ提示して、それをファンに謎ときさせる方法、芳賀ゆいは、プロジェクトの芽を発信して、リスナーがそれに嘘を重ねていく方法。
言葉で書くと、江口愛実の方が罪が無いように思えるが、一概にそうとは言えない。
“アイドル”というものが、ファンから見てある意味架空の存在である以上、嘘をひとつずつ暴いていくというのは、そこに存在する矛盾を突きつけることにもなりかねないからだ。
そしてこの架空の存在であった江口にしたのと同じようなことを、実体のある、心も体も実在するアイドルに対して、してしまっている人もいるのではないだろうか。
このところ、アイドルの過去の写真や、プライベートな情報を詮索し、流出させる事例が後を絶たない。それによって休業や引退に追い込まれる人もいるし、そうでないにしても辛い思いをする人も多いだろう。そんな話を耳にすると、一アイドルファンとしてやりきれない気持ちになる。
芳賀ゆいプロジェクトにおいて、一番の武器となったのは、リスナーやファンの想像力であった。
どんな活動をするのが面白いだろうか、どんなバックボーンを持たせれば盛り上がるか、ひとりひとりがそれを想像し、それぞれの中に『芳賀ゆい』像を作り上げていった。
今振り返ってみれば、その一連の作業そのものが、“アイドル”という存在の本質的な楽しさであったように思う。
小さい頃から“嘘はいけない”と教えられてきたけれど、私は必ずしも嘘が悪いことだとは思わない。
愛する人、好きな女の子を守る嘘ならば、その人を傷つける真実よりもずっと価値があると思う。同じ人を愛し、応援するファンであるならば、その人を守るための共犯者にも喜んでなる。
アイドルの過去やプライベートを詮索するだけの想像力があるのなら、もう一歩踏み込んで自分の言動が彼女をどんな気持ちにさせるか、それを考えるために使うべきではないだろうか。
※画像は『グリコアイスの実』公式ページより