筆者の留学に伴い、本日よりクウェートからのお届けとなる。
本記事ではクウェートで実際に生のアラビア語と接してみた実感も含めて、「アラビア語の全体像」をお伝えしたい。
近所のモスクから聞こえるアザーン(イスラームの礼拝を呼びかける音)を聞きながらこの記事を執筆する。
◆たくさんのアラビア語
アラビア語は話されている地域が非常に広い。
東はイラクやサウジアラビア、湾岸諸国から、レバノン、シリア、ヨルダン、イスラエル・パレスチナ、エジプト、チュニジア、そして最西端ではモロッコでも話されている。
想像いただけるだろうか。
と言うことは、地域によってかなり違った方言が話されることになる。
日本語でもまず東京の言葉をもとにした標準語があり、関西、九州、東北……と地域によって方言があるだろう。
それと同じで、アラビア語も国や地域によって違ったアラビア語が日常的に話されている。
ただ、その違いはかなり大きなもので、東北の言葉と九州の言葉ほど違うこともしばしば。
◆統一するアラビア語
そんなアラビア語を統一するアラビア語がある。
それが書き言葉であり、フスハーと呼ばれる。
フスハーはクルアーン(コーラン)のアラビア語をもとに作られた。
フスハーは日常生活で使われる言葉というよりも、公式な場所で使われる言葉だ。
例えば、新聞はフスハーで書かれる。
ニュースや演説はフスハーで行われる。
アラブ人は先程述べた話し言葉を母語として習得する。
この話し言葉をアーンミーヤと呼ぶ。
そして、彼らは学校でフスハーを学ぶので、フスハーを母語とする人はいない。
ちなみに筆者はフスハーを中心に学んできた。
クウェートにて、フスハーで「アラビア語が少しだけ話せます」と言ってみたところ、クウェート人に「ハハハ、それはフスハーだね」と笑われた。
買い物や家族との会話で各々のアーンミーヤを使い、学校での勉強や新聞を読むときにはフスハーを使う。
このように2つの言語変種を使い分ける言語現象を、社会言語学の用語で「ダイグロシア」と呼ぶ。
中世のヨーロッパで、日常会話はフランス語やイタリア語など、学術的な場や公式な場ではラテン語が使われていたのと同じ現象だ。
ダイグロシアが見られる言語の例として、他にギリシャ語が挙げられる。
◆アラビア語学習の難しさ
アラビア語はたくさんある。それでは、外国人のアラビア語学習者はどうすればよいのだろう。
はっきり言うと、私はまさにそれが問題だと考えている。
アーンミーヤのみを学べば新聞や本を読んだりすることはできないが、
フスハーのみを学べば私たちはアラブ人に「どうしてこの人は日常会話でフスハーを使っているのだろう」と不思議に思われることなくアラブ人と会話を楽しむことはできない。
アラビア語を趣味として学び、旅行で少し話してみたいという方には、ぜひ行きたい地域のアーンミーヤを学ぶことをお勧めする。
フスハーに比べてアーンミーヤは文法が簡単だからだ。
フスハーは動詞の人称変化が非常に複雑だが、アーンミーヤはフスハーに比べればやや単純で学習しやすい。
また、日本では「アラビア語の需要」があると言われるが、「どんなアラビア語の需要があるのか」が今ひとつ見えてきづらいのも問題である。
フスハーとエジプトのアーンミーヤ(エジプト方言はアラビア語における関西弁のような立ち位置で、理解できる人が多い)の両方が使いこなせる人材がたくさんあるに越したことはない。
しかし、エジプト方言を学んだ人にしてみれば、モロッコ方言を話す人の通訳は非常に厳しいものがある。
アラビア語の多彩さは学習者を苦しめるものだが、魅力の一つであることも忘れずにいよう