8月28日、東京都と埼玉県は、渡航歴のない3人がデング熱に感染したと発表した。日本国内での発生は、69年ぶりのことになる。感染が発生したとみられている東京の代々木公園は、立ち入りを禁止し、28日にデング熱の原因となるデングウイルスを媒介する蚊の駆除するため、殺虫剤の散布を行った。(29日午前に、立ち入り禁止解除)
デング熱は、デングウイルスに感染した人の血を吸った蚊によって、媒介される疾病である。まれに出血症状を発症することがあり、その場合は適切な治療がなされないと、致死性の病気になりうるとされるが、大多数の場合、体内からウイルスが消失すると症状が消失する、予後は比較的良好な感染症である。ただし、予防のためのワクチンは存在しない。また、デングウイルスに対する特別な医薬品も開発されておらず、対症療法による経過観察を行い、治癒を図る治療法が一般的に行われる。
したがって、もっとも有効な疾病の予防法は、蚊に刺されないことと、殺虫などの防疫である。
そのためか、代々木公園でのデング熱発生の際には、殺虫剤メーカーの株価がストップ高になるなど、一部で過剰に反応する動きがみられた。
たしかに、デングウイルスを媒介するヒトスジシマカとネッタイシマカのうち、ヒトスジシマカは東北以南に見られるため、広域にわたってデング熱が発生する可能性は理論上否定できない。とはいえ、これらの蚊が、デングウイルスに感染した人の血を吸う機会は極めて少ないはずなので、少なくとも爆発的な感染拡大は発生しにくいはずである。
また、デングウイルスを媒介する蚊は、10月頃に大多数が死ぬといわれる。産卵によって新たに発生した蚊にデングウイルスが受け継がれることもないとされているため、防疫さえきちんとしていれば、国内での爆発的な感染拡大は考えにくいというのが、大多数の医療者の見解だ。
海外渡航による2013年の感染例は112例
国立感染症研究所によると、2013年にデング熱に感染した例は112例が報告されている。2014年8月26日現在の感染報告例は40例。
いずれも海外での感染ばかりだが、海外への渡航の際は、長袖を着用するなど、蚊に刺されない工夫をすることが好ましい。また、発熱や発疹などの症状が現れた場合は、可能なかぎり現地で医療機関にかかり、帰国の際は空港内の検疫所に設置されている健康相談所に症状を申告することが、適切なケアを受ける近道といえる。
気温上昇による国内での感染増加の可能性
蚊によって媒介される病気は、デング熱だけではない。かつては南西諸島でも猛威をふるったマラリアをはじめ、チクングニア熱、ウエストナイルウイルスによるウエストナイル熱の感染が懸念されている。
日本においては、感染を拡大する蚊を国内に入れないための「水際防疫」が徹底している。輸入のためのタンカーや、航空機内などの殺虫剤散布などをはじめ、様々な防疫処理が行われているが、国内に紛れ込むのを防げるかどうかは厳しいといわざるを得ない。
国内に大量にウイルスを保有した蚊が入り込めば、気温が上昇した都市部で感染が広がることは容易に考えられる。現に、デング熱自体、人が多い都市部で発生が増える。
人口300万人を要する神奈川県横浜市は、輸入港も擁している。そのため、海外から日本に持ち込まれる感染症については、敏感だ。横浜市保健所は、平成15年度から蚊および死亡したカラスを調べているが、現時点ではウエストナイルウイルスは見つかっていないとしている。
ただし、デング熱感染者は年間5人程度、マラリアは年間5人程度、海外で感染した患者を確認しており、警戒を強めている。
日本では、1942年から1945年にかけて、神戸・大阪・広島・呉・佐世保・長崎などで約20万人にのぼるデング熱流行が発生した。このことを考えれば、都市部の気温上昇と、蚊などの病原体を媒介する昆虫類に対する防疫を考えなおす必要があるのかもしれない。