東京の原宿に並ぶ大阪の若者の街と言えばアメリカ村。どちらも1970年代にアパレルや音楽など若者文化の隆盛ともに自然発生的に形成された街で、東西の双璧として永くその地位を保ってきた。
しかし近年になって、西のアメリカ村の様子がおかしくなっている。通行者数は往時の半分にも満たないとささやかれ、ランドマークのように言われてた大小のショップが次々と閉店。
『日経不動産マーケット情報』によると、リーマンショックの2008年以降、地価が半分以下に下落した例もあるなどその不調ぶりは顕著だ。
関西在住の筆者にとってもここ十年のアメリカ村はひたすら寂れてゆくばかりか、昔は確かに存在した”アメリカ村ならではの過激さ、格好良さ”もほとんど消えうせてしまったような印象がある。
ただ一部で、最後の光明とでも言おうか、この街を再生させ真の魅力を取り戻すことに情熱を燃やす若手グループがいる。8月11日にはそのグループが中心となり、多くの企業やメディア、ショップ、そしていまだこの街を愛するアメ村っ子たちを巻き込んだ街おこしイベント『アメリカ村 盆祭(ぼんさい)』が開催された。
今回、企画者である『FARPLANE』オーナーのロビンさんにお話をうかがうことができた。
ーー今回はイベント前で忙しいにも関わらず、インタビューに応じていただきありがとうございます。
ロビンさんが経営するFARPLANEはセクシーコスチュームからボンテージ、アダルトグッズまで幅広く扱う、アメ村の中でもひときわ奇抜なショップですが、昔ながらのそういう系統のお店が持っていた薄暗さやうしろめたい感じがなく幅広いお客さんの社交場になっていますね。ロビン:ショップのフロアと別にバーのフロアも作りましたからね。
世間の基準からはぶっ飛んだものを扱ってるかもしれないけど、うしろめたい感じって嫌なんですよ。
昔はスケベなお店みたいなイメージで来る人もいたんだけど、少しずつファッション、アート、音楽、タトゥーとかいろんなカルチャーを入り口にして遊びに来てくれる人が増えてきました。
“エロかわいい”みたいなファッションもずいぶん浸透してきたし。ーーFARPLANEはオープンして何年でしたっけ?
ロビン:2005年の夏からだからちょうど8年ですね。
ーー8年間のアメリカ村の変化をどう感じていますか?
ロビン:20年前くらいから遊びに来てて、人が多くて歩けないくらいの時代を知ってるから、うちがオープンした時点ですでにかなり寂れた印象がありましたけどね。
お店の前をあまりに人が通らなくてあせった記憶があります。
そして今はさらに寂れてる。ーーいろいろあると思うけど、そうなってしまった原因はなんだと思いますか?
ロビン:インターネットの普及でアパレル業界の仕組みが大きく変わったのが一番大きいと思いますね。
コアなアイテムにしても古着にしても全部家にいたまま買える時代だし、ユニクロとかH&Mみたいなファストファッションも出てきたし。
でもアメリカ村の個々のお店としても問題はあったんじゃないかなと思います。ーーどんな問題でしょうか?
ロビン:みんながみんなじゃないけど、時代についていけるような新しいことをしなかった人も多かった。
逆に「うちはネットはせえへん」みたいになってしまったり。
もともとアメリカからの輸入衣料で栄えた街だから「海外から仕入れてきたらとりあえず売れる」みたいな発想にこだわりすぎたんじゃないかな。ーー皮肉なことにアメリカ村が衰退していく中で、例外的にFARPLANEはどんどん規模が大きくなって今に至るわけですが、どんな違いがあったと思いますか?
ロビン:独自のカルチャーを発信しようと、他の人がやらないことをやり続けてるからだと思います。
あと、価値観を一方的に押し付けるんじゃなくて、いろんな人や店の個性やアイデアを受け入れながらやってることかな。
そういうのが時代が変わっても変わらない”アメ村の良さ”だと思ってます。ーー2012年に『タイガー コペンハーゲン』がアメリカ村に出店して、久しぶりの景気のいいニュースになってましたが、街に変化は感じますか?
ロビン:それで街全体がにぎわうようなことはないけど、何も無いよりはよっぽどマシですね。
これからも大手のショップが増えてくるのかなぁと思うけど、どんな影響が出てくるか今は想像つかないです。ーー今の時点でアメリカ村に復興のきざしはあると思いますか?
ロビン:はっきり言ってないですね。
大手とかが入るのは何も無いよりはマシだけど、それはアメリカ村の魅力とは少し違うことだし。
この街ならではの新しいものがもっと出来てこないとダメになると思ってます。
ただ一点だけ昔よりマシなのは、これだけ人が減ったことでジャンルの垣根がなくなってきたこと(笑)
どんな業種もそれぞれ危機感を持たざるをえないし、街おこしとかの企画にみんなが参加していこうという空気ができてきています。ーーFARPLANEが街おこしに取り組むきっかけはなんだったんですか?
ロビン:近所のお店の人がアメリカ村の商店会に入ってて「意見があるなら会議に来て話してみて」って誘われたのがきっかけでした。
実際に行ったら想像してたよりいろんな話を聞いてくれて、2007年から夏祭りとかいろんな企画に関わっていったんです。ーー商店会はどんな組織なんですか?
ロビン:FM放送局とかイベント会社、ショップが会員になって運営してるんです。
FARPLANEが参加した頃は住民とショップの摩擦が問題になってたので、ゴミ掃除とか自転車撤去とか目の前の問題を解決することに追われてたんですけど、最近ようやく本腰をいれて街の活性化に取り組むことができるようになってきました。ーーその本腰感が今年の夏祭りにも反映されてくるわけですね。
ロビン:そうですね、『アメリカ村 盆祭(ぼんさい)』。
まだまだ大きくしきれてないんじゃないかって焦りはありますけど、お客さんに楽しんでもらえる参加型のコーナーを作ったり協賛のマスコミをつのったりいろいろ企画しました。
”盆は日本のハロウィン”っていうテーマで、ストリートのカルチャーと昔からの盆っていう慣習を融合させていきたいんです。
日本ならでは、アメリカ村ならではのソウルフルな祭りに成長させていきたいと思ってます。
いいきざしは自分たちで作っていかないといけないんで。
その場限りの動員にこだわるだけではなく、この街がアメリカ村本来の精神を取り戻すきっかけのイベントにしていきたいというロビンさんの強い想いを感じた。
8月11日当日にも取材をおこなったが、三角公園を中心に百鬼夜行ならぬ妖怪ファッションコンテスト、きゅうりとなすびが大好物という実にお盆らしいゆるキャラ『トッピー』の応援、本職の彫師によるボディ―アート、ポールダンス、街頭ビジョンを利用した街頭ライブなど、これでもかこれでもかとくり出されるこの街ならではの個性的な演出は息つく暇もないほど。にぎやかな歓声にさそわれたのか、普段この街で見かけないような家族連れ、中高年の客層が目立ったのも印象的だった。
ひとまずの成功をおさめたアメリカ村盆祭だが、ロビンさんを中心としたアメリカ村再生のこころみはまだ始まったばかり。来年には三角公園周辺だけでなく、街全体にわたって盆祭のエリアを広げていく計画もあるということだ。
アメリカ村が往年の輝きを取り戻す日を期待したい。