7月20日(土)に2人のアニメ監督の巨匠による作品が公開された。
5年ぶりの新作となる宮﨑駿監督の『風立ちぬ』と、9年ぶり新作となる大友克洋監督の『SHORT PEACE』
これまで宮﨑作品は『紅の豚』など一部の作品を除き、大半は子供向けでファンタジー要素が含まれる作品が多かった。今回も手書きにこだわり、何気ない景色の描写でも映画を観ている人が引き込まれるようにデフォルメされている。
『風立ちぬ』では飛行機のエンジンやプロペラ音など、効果音に人間の声が使われ、さらにかつての愛弟子『エヴァンゲリオン』の庵野秀明監督を主役に抜擢したことで話題を集めていた。プロの声優さんを使わない意固地な姿勢はこの先も変わりそうもない。世間の評判どおり庵野氏の声優ぶりは棒読みの部分もあったが、観ているほうが慣れてきたのか、後半にいくほど違和感がなくなってきた。
CGを使わず、プロの声優を使わず、人間の声だけで効果音は十分。それでも客は映画館に足を運んでくれるという自信を感じる。
今回の人間力にこだわったチャレンジは、お金をかけなくても良いアニメ映画は作れるという力を若いクリエーター達に見せつけたのでないだろうか。若いクリエーターの中には、息子さんも含まれるだろう。
息子の宮﨑吾朗さんが初めて監督した『ゲド戦記』を制作中、父である宮﨑駿監督は苛々しているにもかかわらず、とうとう一言もアドバイスしなかった様子をTVで見たことがある。映画がヒットする秘訣など、教えてくれそうもない。宮﨑作品が好かれる理由のひとつに、このブレない頑固さがあるのではないだろうか。自分で考え、理解して生み出さなければいけないと無言で教鞭をとってくれているように思える。
大友監督の『SHORT PEACE』は1995年に公開された『MEMORIES』と同じオムニバス形式。上映時間は68分と短い。オープニングと4つの短編作品の構成で、大友監督は2話目の『火要鎮』の脚本・監督と4話目の『武器よさらば』の原作を手掛けている。
『風立ちぬ』とは対照的にCGとセル画を組み合わせた映像美が目を引く。『AKIRA』は日本のアニメを世界に知らしめた作品だった。宮﨑監督とは質の違ったすごみが大友作品にはある。短編作品4つのうち、3つが時代劇モノなのもこだわりを感じた。
1話目の『九十九』の主役を山寺宏一さんが担当しているのだが、安定感のある演技に違和感なく観られる反面、「また、この声か」と思う人もいるかもしれない。プロの声優を使うのか、それとも意外な人物を起用して周りを驚かせるのか、一長一短である。
人間力の限界を許さない宮﨑作品と、技術を追求する大友作品。この二人の作品を観られる世代は幸運なのかもしれない。
今回の両監督の作品は観る人によって好き嫌いが分かれ、感想も賛否両論になるだろう。
どちらの作品も大人向きなので、2週間前に公開された『劇場版銀魂完結編 万事屋よ永遠なれ』と『モンスターズ・ユニバーシティ』の方に劇場では子供達の姿が目立っていた。
この夏は興味深い作品が目白押しで、映画ファンは選択に悩むことだろう。
上部画像:『風立ちぬ』 公式サイト (http://kazetachinu.jp/)
下部画像:『SHORT PEACE』公式サイト (http://shortpeace-movie.com/jp/)