ヒトの脳が大きい秘密は腸にあり? 霊長類の腸内細菌叢と脳の特徴の関係性が示唆される!(彩恵りり)

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「ヒト (Homo sapiens) 」の特徴と言えば発達した大きな脳だけど、その大きさと機能の複雑さから、かなり大量のエネルギーを消費する臓器でもあるんだよね。では、ヒトはどのようにしてエネルギーの大量消費に耐えられるように進化してきたんだろうね?

ノースウェスタン大学のElizabeth K. Mallott氏などの研究チームは、カギは栄養吸収器官である腸に生息する「腸内細菌叢(ちょうないさいきんそう)」にあるのではないかと考えたよ。そこで、マウスにヒトと2種類の霊長類の腸内細菌叢を接種させてみたところ、ヒトと脳の特徴が似ている霊長類の腸内細菌叢を持つマウスは、脳へ効率的にエネルギーを送る機能が現れることが分かったよ!

今回はまだ、ヒトを含め3種類の霊長類での比較にはなってしまうけど、それでも身体の遺伝子を調べても見えてこなかった秘密が、本体ではなく共生している腸内細菌叢にあるかもしれない、というのはある程度納得のいく結果なんだよね。

ヒトの脳が大きい秘密は謎が多い

【▲図1: 今回の研究は、ヒトの脳の大きさの秘密は腸内細菌叢にありそうだということを示しているよ。 (Illustration: Annelise Capossela) 】

ヒトを他の動物と比較した時、最も大きな違いは大きな脳を持つことだよね。そしてヒトの脳は、体重の2%ほどの重量の臓器でありながら、全エネルギー消費量の20%を占めているという、かなりエネルギー消費の大きい臓器なんだよね!

では、ヒトを含め、身体全体に対して大きな脳を持つ霊長類は、この大食いな脳のエネルギー消費を支えるよう、どのような進化を遂げてきたんだろうね? 実はこれ、かなり謎が多いよ。身体がエネルギーを消費するには、食べ物から栄養を得て、それを代謝しなければならないけど、ヒトと他の霊長類の代謝の違いを直接比較した研究はかなり少ないんだよね。しかし、身体の大きさに対して脳が大きい霊長類ほど、空腹時の血糖値が高い傾向にあるなど、代謝に何らかの違いがあることは間違いないと思われるよ。

一部の研究では、生物の基本設計図である遺伝子の違いを比較したものもあるけど、脳のエネルギー消費を支えるような代謝の違いを決定するような大きな違いは見つかっていないよ。こんな感じで、ヒトがなぜ大きな脳を支えられるように進化したのかについて、大きな謎を抱えたままだったよ。

脳の特徴が似ていると腸内細菌叢の機能も似ていると判明

ノースウェスタン大学のElizabeth K. Mallott氏などの研究チームは、ヒトや脳の大きな霊長類の代謝の違いは、身体そのものの機能の違いというより、むしろ腸内に生息する多種多様な細菌の集団である「腸内細菌叢」の違いではないか? と予想を立てて研究を行ったよ。

腸内細菌叢の機能というのは、細菌の多様性が複雑すぎるために、これまでほとんど理解することができなかったよ。しかしいざ研究ができるようになると、腸内細菌叢はエネルギー消費に大きな影響を与えることが分かってきたんだよね。腸内細菌叢の働きは、摂取したブドウ糖をエネルギー源として消費するのか、それとも脂肪として蓄えるのかを決定し、腸内細菌叢の違いによって肥満や糖尿病のリスクが変化するなど、決して無視できない存在であることが分かりつつあるよ。そもそもとして、ヒトは腸から吸収する栄養で身体の機能を維持しているわけだから、秘密が腸にあっても何もおかしくないよね?

【▲図2: ボリビア、ホセ・バリビアン郡で撮影されたボリビアリスザル。 (Image Credit: Tim / CC BY 4.0) 】

【▲図3: 中国、広西チワン族自治区の自然保護区で撮影されたアカゲザルの個体。 (Image Credit: / CC BY 2.0) 】

Mallott氏らはこのことを背景に、身体に対する脳の大きさと、腸内細菌叢の種類や機能に関係性があると仮定し、これを証明するための実験を行ったよ。腸内細菌叢を持たないマウスを用意し、「ボリビアリスザル (Saimiri boliviensis) 」、「アカゲザル (Macaca mulatta) 」、そしてヒトの腸内細菌叢をそれぞれ接種させたよ。ボリビアリスザルは、ヒトとはかなり遠縁の霊長類だけど、身体と比べて大きな脳を持ち、幼少期から脳が発達する傾向にあるよ。一方でアカゲザルはよりヒトに近縁な霊長類だけど、身体に対する脳は小さめで、脳の発達は遅い傾向にあるよ。つまり、遺伝的には遠縁だけど脳の大きさと発達は似ているボリビアリスザルと、遺伝的には近縁だけど脳の大きさや発達は似ていないアカゲザルとの間で、ヒトとの違いを比較したわけ。

それぞれ異なる腸内細菌叢を接種させたマウスに同じ食事を与え続けたところ、面白い結果が得られたよ。ヒトやボリビアリスザルの腸内細菌叢を持つマウスは、アカゲザルの腸内細菌叢を持つマウスと比較して、より大量に食べ物を食べる傾向にあったにも関わらず、体重と体脂肪率の増加が抑えられたことが分かったよ。また、空腹時の血糖値、中性脂肪濃度、ブドウ糖を作るのに必要な酵素の量は高い傾向にあり、コレステロール値は低い傾向にあったよ。

これらを総合的に見ると、ヒトやボリビアリスザルの腸内細菌叢を持つマウスは、ブドウ糖を多く作る一方、蓄積せずに消費する傾向にあったよ。反対にアカゲザルの腸内細菌叢を持つマウスは、そもそもブドウ糖をあまり作らず、作ったものも脂肪に変換して蓄える傾向にあることが分かったよ。そして、最もブドウ糖の生産と消費が大きかったのは、ヒトの腸内細菌叢を接種させたマウスであることも分かったよ。

脳の大きさの秘密は腸にあり!?

今回の実験によって、ヒトと腸内細菌叢の機能が近いと分かったのは、脳の特徴が似ているボリビアリスザルだと分かったんだよね。ヒトとボリビアリスザルは、霊長類としては結構縁遠いけど、身体に対する脳の大きさや機能の発達で言えばよく似ている、というのは重要なポイントになるよ。

身体が持つ遺伝子を調べても、ヒトの脳が大きい秘密は中々解き明かせなかったんだよね。ただ、腸内細菌叢という、本体とは別の要素が秘密のカギかもしれない、脳の大きさは身体の遺伝子だけでなく腸内細菌叢でも決定されるかもしれない、という今回の発見は、探索すべき場所が違うんだということを示唆しているよね。

Mallott氏らは今回の研究を背景に、別の霊長類の腸内細菌叢でも実験を重ねることで、今回示した結果が他の霊長類でも見られるかどうかを調べるつもりだよ。

(文/彩恵りり・サムネイル絵/島宮七月)

<参考文献>
Elizabeth K. Mallott, et al. “The primate gut microbiota contributes to interspecific differences in host metabolism”. Microbial Genomics, 2024; 10, 12. DOI: 10.1099/mgen.0.001322
Stephanie Kulke. (Dec 4, 2024) “The secret to our big brains might be in our gut”. Northwestern University.

彩恵りり

彩恵りり (さいえ りり) だよ!!科学系ニュースを解説してるよ。