吉田元所長は放射線の影響を受けていないのか?

  by 戸田健太郎  Tags :  

東京電力福島第1原発の事故の際、現場で陣頭指揮を執った吉田昌郎元所長が、9日午前、食道がんのため、東京都内の病院で死去したことがわかった。58歳だった。東京電力によると、吉田元所長は都内の病院で病気療養中だったが、9日午前11時32分、食道がんのため亡くなったという。吉田元所長は、原発事故が起きた際に所長として対応していたが、食道がんが見つかったため、2011年12月に所長を退任し、2012年2月に手術を受けた。自宅療養中の7月には、脳出血で再び入院し、手術を受けて療養生活を続けていた。東京電力は病気の原因について、吉田元所長の事故後の被ばく線量は、およそ70ミリシーベルト(mSv)であり、また、被ばくによる食道がんの発症は、最低でも5年程度かかるため、事故後の放射線被ばくが食道がんの原因とは考えにくいと説明している。東京電力の広瀬直己社長は、「所員を束ね、文字通り決死の覚悟で事故対応にあたっていただきました。社員を代表して、心より感謝いたします」とコメントを発表している。また安倍首相は、「大変な努力をされた。ご冥福をお祈りしたい」と述べた。
フジテレビ系(FNN)

7月9日(火)21時49分配信
http://headlines.yahoo.co.jp/videonews/fnn?a=20130709-00000572-fnn-soci
※ 画像は動画からの引用です

福島第1原発の吉田元所長が癌で亡くなった。58歳という若さだった。原発が爆発してメルトダウンしたような事故の陣頭指揮をとっていて癌で急死と聞くと、一般人の感覚としてはさもありなんという印象しか受けないが、真相は永遠にわからないかもしれない。現代医学で発癌のメカニズムは完全に解明されていない。発癌の原因についても複合的なものがあり特定するのはほとんど不可能だ。喫煙による発癌の因果関係の証明ですら難しいのだから、放射線による影響を証明しろというのはもっと困難な仕事だ。

しかしである。だからといって東京電力の「事故後の放射線被ばくが食道がんの原因とは考えにくい」という言い分を、そのまま鵜呑みにして良いのだろうか。少し考えただけでも、医学上の専門知識を抜きにしておかしなところがいくつかある。検証というほど大げさなものではないがこの問題を考えてみたい。

まず被ばく線量70ミリシーベルトという指摘。これは緊急時の被ばく上限である100ミリシーベルトに比較して、それを上回っていない(であるから東電および政府の落ち度は無い)ということを言いたいのだろうが、被ばく量としてははっきりと多い。なにしろ平常時の年間被ばく線量の上限が1ミリシーベルトである。それの70倍を被ばくしているのだから、健康に問題が生じなければ幸運に感謝すべきなのが本来であり、健康に問題が生じたとしても何ら不思議がない数字だ。法律上の建前としては責任を問えないとしても「全く原因にならない」などといった言い方に問題があるのは明白である。健康に影響しないのであれば、平常時の制限に意味が無かったということになる。年間被ばく量1ミリシーベルトといういのは、ICRP(国際放射線防護委員会)が規定する平常時における国際基準である。この基準自体も緩いという専門家による指摘がある。吉田元所長の被ばく量が「科学的および医学的に問題になるレベルではなかった」という認識は、完全に東電によるミスリードである。正確には「法律で問題になるレベルではなかった」ということだ。

次に食道がんの発症に最低でも5年という主張。あるレベルの放射線被ばくを受けながら、5年というのは統計が出ているのであろうが、吉田元所長の被ばくキャリアが何年前から始まったかという点について明らかにされていない。5年に満たないという主張をそのまま真に受けるなら、2011年3月の事故直後からいきなり原発関係の仕事に就いたような言い草である。これはありえないし、そのような事実もない。事故以前には、原発からの放射線被ばくの影響を、一切シャットアウトしつつ、原発の責任業務をこなしていたというならばそうかもしれない。そんな離れ業が可能かどうかはさておいて、食道がん発症の最後のひと押しが、原発事故後の70ミリシーベルトという高い被ばく量にあった可能性は十分に考慮されるべきだ。その可能性を全くないと言い張るのは、やはり法律上の責任逃れでしか無い。

科学物質と健康上の問題の因果関係というのは証明が難しいものだ。だからこそ法律で適切な線引きをしないと、責任の所在がいつまでも棚上げにされてしまう。排気ガスにしろ、アスベスト問題にしろ、喫煙問題にしろ、すべてそうだ。だから法律の問題と、健康の問題を、混同して考えてしまうと、おかしなところもおかしいと言えなくなってしまう。今回のような責任逃れの態度を許して良いのだろうか。吉田元所長の事だけではなくて、他の原発事故復旧作業員や、住民への被ばく量の基準も、平常時より遥かに高い基準に設定されている。

政府と東電は基準値が守られている限りは健康に問題は無いと言う。しかしその強気の背景にあるものは、医学的に証明が難しいという1点に尽きる。福島県の年間被ばく量の上限に設定されている20ミリシーベルトは、平常時の原発作業員の20倍にあたる。これだけでも相当に異常な自体であるとは言えないか。単に暮らしているだけで強制的に原発作業に狩りだされているようなものだ。それも緊急災害時の基準で。東電の言い分である「食堂がんの発症は5年」というのを参考にするならば、2016年には何らかの影響の出る人がいるかもしれないということになる。不必要に脅かしたいわけではない。誰かの言葉ではないが、よほど高い放射線でないと人体へは「直ちに影響しない」。これが恐ろしいのだ。

自民党HP公約より引用
https://special.jimin.jp/

このような事態を引き起こしても、まだ原発再稼働を掲げる政党がある。しかも多数の国民の支持を得ているというのだから理解が難しい。われわれ日本国民は、政府機関や企業の言い分を、あまりにも真に受けすぎたのではないか。これが「日本を、取り戻す。」ということなのだろうか。甚だ疑問である。

大阪よりインターネットラジオ[email protected]もてもてラジ袋を毎週配信。 http://www.moteradi.com/ 市民生活の専門家。易者。自由律俳句を詠む。 旅と読書と麺類(特にうどん)とファストフードとアルコールをこよなく愛している。 日本各地の大衆居酒屋や立ち飲み屋めぐりも趣味。 JR天満駅周辺の格安飲み屋に常駐している。

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