AI 対 AI ディベートバトルロイヤル描く映画『SINGULA』(シンギュラ)堤幸彦監督インタビュー 「これは暴走よりもジャッジメント、良し悪しの話です」

  by ときたたかし  Tags :  

15体の⼈間そっくりのAIアンドロイド同⼠が、<⼈類を破滅するべきかどうか>をテーマに究極のディベートを繰り広げる映画『SINGULA』(シンギュラ)が現在公開中です。

2019年2⽉、舞台で上演されたAI達による討論劇[SINGULA]を原案・原作に、たった1⼈の出演キャスト・spiさんが、全編英語で15体15役のAIキャラクターを演じ分け、ディベートクラブのバトルロワイヤル・デスゲームを展開。堤幸彦監督に制作にまつわるお話をお聞きしました。

■公式サイト:https://singula-movie.com/ [リンク]

●AIという題材は再旬のトピックですが、本作は2019年に上演された同名舞台が原作になるんですよね。

原点は芝居で上演された作品であり、それを拝見して演出家で原作者の一ノ瀬京介さんに映画向きなネタでもあるので映画化を、というお話をしました。最初は15人の俳優さんをキャスティングして、アイスランドで撮りたかったのですが、ほどなくコロナ禍が始まってしまい、作品作りがしばらくできなくなった。でも熱を消したくないので、国内でやりましょうと。

ただ、撮り始めた頃はAIが何かについてはよく分かってなくて、最近になって自分でも理解し始めています。たとえばAIを使って映画を作ることはどういうことなのだろうとちょっとずつ分かり始めてきた。それによって何が失われるのか徐々に像が見えてきていますが、撮影時はAIを記号的に認識していただけなので、だんだん意味を帯びて来た感じです。

●15体のAI役、なぜひとりの俳優で演じることにしたのですか?

ある晩ひとりでいいのでは?と思い立ったのですが、それは夜寝ていて夢を見たこともあるのと、お台場でロボット展をやっていて、大阪大学に自分とそっくりのアンドロイドを作る石黒さんという先生がいたんです。自分とロボットのツーショットを作り、会話をしている。かつて漫画家が夢想していたテクノロジーが、実現していたわけです。そういう世界に偶然なったのかも知れませんが、時代との符合もありひとりがいいだろうと。

●それも比喩的な効果があると思いますが、AIの暴走的な映画はこれまでたくさんあるなか、討論スタイルは面白かったです。

今回は暴走よりもジャッジメント、良し悪しの話なんですね。しかも人の記憶が残っている者たちの判断であり、つまりは人間の論争なんです。元々最初15人バラバラにキャスティングして全部英語でやりたかったので、役によってキャラクターを分けることにしました。ある人はアン・ハサウィで、ある人はモーガン・フリーマン、ある人はマット・デイモンにしようと、演じ手はspiさんだけですが、全部分けているんです。

●意外な裏ネタですね! イメージキャラクターのような。

最初、聞いて分かる範囲でなまりを付けたかったんですね。たとえば今ではカテゴライズがナンセンスですが、英語でも男と女で言い回しは違うでしょうと。それから何人なのかどうなのかなど微妙な違いを作りたいとまず思ったんです。それで撮影の2日目くらいに時間が空いたので、英語の専門家の方などをお呼びして。spiさんも交えてみんなで考えました。

●あくまで分かりやすくするための工夫ということですね。

そうですね。最初は色で分けていて、それをより具体化するためには、有名な俳優さんのイメージに至った感じで、ある意味声真似を目指そうと。声のキーが高いセリフ、低いセリフ、いろいろありますよね。テクノロジーでかなり修正変更できるのですが、sipさんは大変だったと思います。彼は親がアメリカ人であり、かなりの才能がおありですが、これだけの声色を使い分けることも普通はないわけで、泣いていたと思います。

●AIと映画の歴史でいうと、最近では昨年のハリウッドでの大規模なストライキが思い出されますが、常に新規の分野で活躍されてきた監督ご自身としては、どのように時代を捉えていらっしゃいますか?

何がベストなのか、AIが良いか悪いかを語る前に、精査しなといけないでしょうね。AIを使うとなっても人が書いたものときちんと対比して、時間がかかるからAIでやるのではなく、ちゃんと(作品に)感情があるかないかでやらないと、僕らみたいな仕事はきつくなる一方だとは思います。そういうゲーム化された世界への恐怖心はありますよね。

しかし、進化を一方的に拒絶することなく、寄る年波にも勝てないので、恩恵にも預かりたいわけですよね。いろいろなことがあるなかで、僕自身はAIは是々非々で付き合いたいと思っています。純粋な芸術の意思で作り出すことが重要であり、その手段でAIを使うのであればよいと思う。だから、作品に応じて方法論が違うということしか今は言えないでしょう。

●あくまで技術は人間に不随するもので、技術主導という時代ではまだないでしょうと。

AIに条件を与えて脚本を書かせると、もうだいぶ前からいいものができることは分かっているんです。条件をいろいろ時間軸にして入力してアウトプットすると、それなりに面白い本ができるんです。それをハリウッドではNOだと。そりゃそうですよね。僕もそこまで支配されたくはないので、今いる陣地でなんとかしたい。なので決して思考を放棄してはいけないなと思っています。

■ストーリー

集められたのは「先⽣」と呼ばれる⼈間が作り出した15体のAIたち。同
じ顔、同じスタイルの15体のAI。違いは、それぞれに埋め込まれたチッ
プによる性格や記録されている情報のみ。互いの素性を知らないAIたち
によるディベートバトルロイヤルが始まる。

(C) 「SINGULA」film partners 2023

ときたたかし

映画とディズニー・パークスが専門のフリーライター。「映画生活(現:ぴあ映画生活)」の初代編集長を経て、現在は年間延べ250人ほどの俳優・監督へのインタビューと、世界のディズニーリゾートを追いかける日々。主な出演作として故・水野晴郎氏がライフワークとしていた反戦娯楽作『シベリア超特急5』(05)(本人役、“大滝功”名義でクレジット)、『トランスフォーマー/リベンジ』(09)(特典映像「ベイさんとの1日」)など。instagram→@takashi.tokita_tokyo