将棋の加藤一二三(かとう ひふみ)九段(73歳)が、史上初の通算1100敗を記録した。歴代2位となる通算1309勝を達成したことに続き、またも記録の更新だ。
「将棋の加藤一二三九段が公式戦通算1309勝で歴代2位に」(ガジェット通信)
http://getnews.jp/archives/298350
3月12日に行われた第71期名人戦・順位戦C級1組10回戦で阿部健治郎五段(24歳)に負け、公式通算成績1100敗となった加藤一二三九段。午前10時にはじまった対局は、翌13日午前0時40分に千日手となり、指し直し局で同3時45分に投了した。これを受けて日本将棋連盟でもこの“新記録”を“お知らせ”として発表している。負け数更新というと一見残念に思われるが、実は大変なニュースなのである。
「加藤一二三九段、史上初の通算1100敗に」(日本将棋連盟公式HP)
http://www.shogi.or.jp/topics/2013/03/1100-1.html
加藤一二三九段は1940年生まれの73歳、現役最年長のプロ棋士である。ファンの間では“ひふみん”の愛称で親しまれている。ネクタイが畳に着きそうなほど長かったり、対局中に板チョコをパリパリ食べたり、秒読みに入っても「あと何分?」と聞きまくって記録係にキレられたり、テレビ解説時には妙に早口であったりボディランゲージを多用したり解説なのにひゃーひゃー感嘆したり……などなど、数多くの個性的なエピソードがある。
こうした独特の言動は“加藤一二三伝説”としてファンにはおなじみである。カトリック教徒であり1986年に聖シルベストロ騎士勲章を受章したり、2000年には紫綬褒章を受章したり、野良猫に餌付けをして近隣住民から訴訟を起こされたりと、盤外でも何かと注目を集めている。
しかしこの加藤一二三九段、もちろん盤上でも生きる伝説だ。1954年に史上最年少棋士、史上初の中学生プロとなり(ちなみに当時は“加藤一二三四段”であった)、“神武以来の天才”と呼ばれた。18歳で将棋界のトップ10が集まるA級にまでのぼりつめ、20歳で名人のタイトルに挑戦するなど、数々の史上最年少記録を持っている。
近年の将棋は苦戦が続き、結果今回の史上最多負け数更新ということになるのだが、73歳にしてプロ棋士として現役を続けられる棋力・体力・精神力には大変驚かされる。今回の対局も、孫ともいえる年齢の若い棋士を相手に日付を越えての長い長い戦いである。そういった戦いをこの老棋士はもう何十年もずっと続けているのだ。
公式通算対局数は歴代1位の2410局、先にも述べた通り公式通算勝数でも歴代2位の記録を持っている。負け数も多いが勝ち数も多い、何より注目したいのは対局数の多さだ。将棋はトーナメント戦が多いため、勝てば勝つほど対局数が増えていく。つまり、強くなければ対局数も負け数もここまで増えていかないのである。公式通算対局数第1位、公式通算勝数第2位、そして公式通算敗数第1位という大記録は、加藤一二三九段の戦い続けた強さの証明でもあるのだ。
再三にわたって年齢を挙げるのは失礼かもしれないが、73歳である。73歳の今もなお現役プロ棋士として対局を続け、数々の記録を更新している加藤一二三九段、これからも長い活躍を期待したい。
(加藤一二三九段の成績は持将棋1を含む)
画像は『フォトマテリアル』(http://photomaterial.net)より